第18話
リングの上には黒いスーツを着た僕と、やる気十分の赤井が向かい合っている。
他の研究員たちはリングを囲むように立ち、あちらのセコンドの位置に村井が立っている。
こちらのセコンドには頼りなさそうな研究員が紙とペンを持って立っていた。
「前田君、そろそろ始めるよ! 彼に審判してもらうから」
一人の研究員がリングに上がる。
「医療班も準備してるから本気出して頑張ってね。遠慮してるとキミが怪我することになるよ!」
「イイーッ!」
それを貸せというジェスチャーをして紙とペンを要求する。
サラサラッ。
『わかりましたよ! 赤井さんも怪我しても怒らないでくださいね!』
「ああ、全力でやらないと意味無いからな。よろしく」
赤井は数歩前に出て、右手を出してくる。
僕もそれに応え両手で握り赤井も左手を足して、お互い両手でがっしりと握手をする。
握手を解くと、お互い数歩下がる。
「じゃあ始めてください」
赤井は一息つくと両腕を顔の前で構え、ジリッと一歩踏み出してきた。
僕もとりあえず見様見真似のファイティングポーズをとる。
徐々に間合いが詰まるにつれ呼吸が荒くなる。
ある程度間合いが詰まり、お互いの両足が止まる。
ここからどうすれば――
思ったのも束の間、赤井は上体を低くし両腕を広げ大きく踏み込んできた。
タックルに来た!
とは分かったものの回避のやり方など分からないので、あっけなく食らってしまう。
そのまま押し倒され、あっという間にマウントポジションを取られてしまった。
流れるような動きで左右の連打を僕の顔に叩き込む。顔が左右に弾かれる。
ヤバい!!
痛みを感じないので今は大丈夫だが、後からどうなるか分からないので激しく殴られると恐怖が湧き上がってくる。
ガードしようと必死に顔の前に腕を持っていくが、隙間を縫って顔面が殴られ続ける。
頭がクラクラしてきた……
ガードしても無駄と判断して赤井のわき腹に手の平を持っていく。そして力の限りわき腹を握り指を食い込ます。
「ぐおおっ!!」
メリメリと食い込んでいく指を必死に両手で外そうとしている隙を突いて、空いた左手で足を持ち投げ飛ばす。
わき腹を押さえて喚きながら立ち上がる赤井を尻目に、殴られすぎて足にきている僕は四つんばいのままコーナーまで逃げ帰る。
「イーッ!! イーッ!!」
コーナーの下にいた研究員に「それを貸せ」のジェスチャーでペンと紙を出させる。
差し出した研究員から奪い取ると急いで書き込む。
『組むの無し!! 無理!!』
書き込んだ紙をバンバン叩き、必死に訴える。
「ハハハッ。そうだね。赤井さん、立ち技だけでいいですか?」
「ああ、いいよ」
まだよろける足に鞭打ち、僕は再び赤井と向かい合った。