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改訂版 異世界ツアー  作者: 黒田明人
2章 異世界・辺境編
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7話 開けてぇ


やっと見つけた宿屋。よくよく探して見つけたのは、冒険者ギルド真向かいだった。あん時は金貨を売る事だけ考えてたから、目に入らなかったらしい。立地が良いのか料金も少し高目になっているようだ。これ以下はスラムに近いところに数件と、貴族の住む辺りの高級宿しか無いらしい。ギルドの前に宿屋が連なっていて、冒険者御用達になっているようだ。1階部分は酒場になっている宿が多く、2階部分が宿屋になっている。1軒だけ3階建ての宿があり、3階は団体様用の広いルームになっているとか。どんな時に使うのかと聞いたら、宴会とか宴会とか宴会とか・・団体の客が居ないんだろ、設計ミスだろそれ。


端からつらつらと宿代を聞いてみたが、銀貨5枚が一番安かった。宿の場合は人件費は安いが、奴隷はおもに裏方に限られるのと、冒険者は荒いので調度品の損耗が激しいとかで比較的高目の換算率っぽい。魔導具屋と同じ10円相当と思われる。素泊まりで銀貨5枚。5千円相当って事だし。都会ならもっと高いと思うけど、地方都市の宿ならそんなもんでしょ。酒場で別料金のメシを食い、銅貨50枚で朝食の札をもらう。これを出せば朝食も食えるのが宿泊特約って感じらしい。1ヶ月契約にしたので少し割引があり、金貨14枚だった。それは良いんだけど、色々買い込みすぎて資金がヤバい。明日また換金してもらうとするか。もうマシンガン、使わなくて良ければ助かるが・・さてどうかな。あふぅぅ、疲れたなぁ・・おやすみぃ・・


そしてやって来ました昨日の換金屋。行くのは当然、左のお店。さあ、今日も張り切ってサービスしてくれよ。


「おいおい、昨日の今日でまたかよ」

「今度は50枚な」

「何でそんなにあるんだ」

「未発見の遺跡を見つけてな、隠し部屋みたいなところに宝箱があってよ」

「中には金貨がザクザクかよ」

「おうよ、大量の金貨でみんな大喜びでさ、分配でも125枚だったんだぜ」

「けど、太古の金貨って割りには妙に新しくないか」

「どうやら布に状態を保存する特別な魔法が掛かっていたみたいでな、宝箱から出したら布がボロボロ朽ちちまってな」

「何処の遺跡だそれは」

「そんなの言えるかよ。まだまだ奥は未探索なんだ。魔物が強くてな、今は力を溜めてるところだ」

「景気の良い話だな」

「装備も新しくしないといけないし、もっと腕も磨かないといけないし、やる事はたくさんあるんだ」

「昨日の額は無理だぞ。あれじゃオレの儲けがねぇんでな」

「おいおい、よく考えろよ。太古の通貨だぞ。競売にすりゃ何倍にもなるだろうが」

「そうか、競売って手があったな」

「金の含有率も派手に高そうだし、貴族辺りが高く買いそうだろ」

「確かにそうだな」

「昨日は15枚で妥協したけどよ、王都に行った奴はもっと高く売れたって手紙が来てたぞ」

「そうは言うがよ」

「ならオレが競売で売るか。恐らく20枚ぐらいにはなるはずだ」

「うっ、ならな、18枚、これが限界だぞ」

「あれ、無理しなくても良いんだぞ」

「待て待て、お前、競売の店に顔が効かんだろ。こういうのは伝とか色々あるんだよ」

「仕方が無いな、18枚で売ってやるよ」

「決まりだな。よし、金を持って来るから待ってろ」

「早くしないと」

「急ぐから逃げ、いや、じっとしてろ、良いな」

「はいはい」


実に欲の皮の突っ張った奴だな。アンティークの価値とかありゃ良いけどな。さて、口八丁で高く売れたし、奴隷でも買って専属の夜のお相手にしますかね。出来れば字が書ける奴が良いが、そういうのは別にしたほうが良いかも知れん。学が無いご主人とか、舐められそうだし。となると安い女にしとこうか。あの女みたいに馴染む奴が居れば良いんだけどな。あーあ、けどあいつのせいで・・けど憎めないって言うか。はっきり言ってあいつが悪い訳じゃないからな。このご時勢に政略とかやる親が悪いんだろ。まあ、そのうち会ったら誘ってみるか。今度はもう、そんな親も居ないし。まあいいか、今は奴隷でも。


平民達の住まいから少し北に歩いたその先、ちょうどスラムとの境目辺りに奴隷商館がある。聞くところによると、近隣から奴隷を集めているらしく、この界隈で獲得した者達はこの奴隷商館に送られるらしい。なので、失敗組が居る可能性もある訳で、見覚えのある奴が居たら助けてやらんでもない。もっとも、奴隷の身分はそう簡単には解かないぞ。まずは金を稼いでからの話だ。送るだけの送致費用なんだ、現地での助けの分は入ってない。そりゃ、あの幹部の彼ぐらい払ったのなら少しぐらい助けても良いが。


奴隷商館の前でサクさんと出会う。う、拙いな・・どうしたのかと聞くので、町を歩いて覚えていると誤魔化した。それで納得してくれたが、その場所を動こうとしない。さり気なく聞いてみると、やはり身分証明の無い者の事で、照会の結果、盗賊と分かったらしい。なので仲間と取り押さえて今、仲間が換金しているとの事。こりゃ今日は買うようにならないな。狩りにでも行くかと、サクさんにその旨を告げて別れた。頑張って稼げと言われたけど、もうあるとはどうしても言えなかった。


残り9日なので、しばらく初心者冒険者御用達の依頼をやってみる事にした。町と人への馴染みとレイアウト確保。すなわち、店の手伝い、荷物運びや配達、倉庫の掃除や整理、などなど。そうして6日目に初めて外の依頼を受ける。と言うのも、ガキの手伝いみたいな仕事でも初級の2に上がったからだ。最下級は町の外の依頼は受けられない決まりになっていると言われて、すぐに狩りがやれなかったのだ。でもこれからは問題無い。さて、薬草の採集か・・それは良いが、どこに生えている。


「お、アンタそれ受けんのか」

「ああ、けど場所がな」

「そうだよな、近場はみんな先に取られちまう」

「ああそうなんだよ」

「そこでオレ様の極秘情報、どうだ、銅貨10枚で買わないか」

「確実なんだろうな」

「おお、間違いねぇさ」


どうにもチンピラなこいつ。ガセネタの匂いがぷんぷんするけど、そん時ゃオタノシミが・・げふんげふん。いや、そうじゃなくて。冒険者同士は信じないといけないよな。うんうん・・よし。言われた場所に行ってみるか。門番のサクさんにチラ見せして、いってきまーすって、どうにもノリが最近軽いような。マジに身体に精神が引っ張られているようで・・とてもアラサーの言動じゃない。てかそのアラサーの意識すら最近、思い出す事も少なくなって・・オレ、このまま行くと15才の精神になっちまうんじゃないだろうか。それが悪いとは言わんが、このままで良いんだろうか?


向こうでは新春って感じで寒かったけど、こっちは肌寒いぐらいで雪とか全然だ。国自体が南のほうにあるのかも知れん。折角、飛行魔法もあるし、ここはひとつ・・全体マップの作成をやってみたいものだな。やり方はそう難しくもない。なるべく高度をとって【索敵】をすればいい。んでその結果を紙に書き写せば良いだけだ。【マジックシールド】を使えば風を防ぐから、上空で浮遊したままでも問題あるまいし。そうしておいてこの国だけは詳細マップを作ればいい。まあ、何なら隣国もやっても良いが、あんまり他国の詳細マップを作れば変なほうに気が向くかも知れん。つまり戦争とかに。だからそれには気を付けないとな。後はドラゴンの谷までのルートの確保なんかも面白そうだ。どれぐらいで売れるかねぇ、クククッ。うん、やる事は色々あって退屈する事は無さそうだ。


言われしままに街道を伝い、目印を発見して茂みに入る。この先に川が流れていて、その近くに群生地があるらしい。けどいくら水場の近くと言っても、河原に普通は生えないよな。あれ、何だ、細長い岩がある。何だあれ・・うおっ、魔物かよ。岩かと思ったらワニ・・いや、リザードマンか?けど四足で移動してるし・・うわっ、こいつ、素早いぞ。ととと、足場が悪いぜ。こうなったら幹部さんからもらったこれでし止めてやる。ピンを抜いて、でかい口をガバッと開けたところに放り込んで避ける。お、食い物と思ったか、固いから噛めないだろ。歯と歯の間に挟まった状態で炸裂すれば・・くぐもった音。動きが止まったな。お、何か身体に変化が・・レベルアップか、死んだんだな、よしよし。ありゃショック死だろ。ううむ、近代兵器恐るべし。手榴弾恐るべし。


それは良いんだけど、こいつの討伐証明部位って何だろう。尻尾の先に色の違う場所がある。そこだけ妙につやつやしていると言うか・・まあ仕方が無いな。その色違いを切り取って、後は皮を剥いて、魔石を抜いて、牙と言うかこりゃ全部が牙って感じだな。よし、頭蓋骨で取るか。あああ、歯が砕けてるぞ。手榴弾効果だな。参ったな、奥歯がボロボロになってて、頭蓋骨に破片が・・これが死因だな。脳みそバーンか。後この肉、食えるのかな?木の枝に刺して塩コショウをパラパラ、そしてコンロのイメージで【ミニファイヤー】よしよし、良い感じ。クルクル回しながら肉を焼いていく・・のだが、妙に臭いぞ。どうにもヤバそうな肉の予感が・・お、何か・・ゴブリンか、よし、食わせてやるぞ。焼いた肉を少し冷まし、近付くゴブリンに投げてやる。攻撃かと思ったようだけど、肉の匂いに興味が沸いたのか手に取ってくんくんと・・お、食ったな、旨いか、どうだ。


肉は捨てよう、どうにも毒らしいな。偉大なるゴブ体実験の犠牲者に黙祷を・・うん、君のお陰で貴重な情報を得た、ありがとう。とか言いつつも解体は進み、中身をそっくり抜いた四足リザードマンの皮だけを獲得する。肉が毒って事は、内蔵の何処かに毒生成のナニカがあって、それが高く売れたりってテンプレが・・まあいいや、ひとまず倉庫に入れとけば。あ、倉庫ってのは【マジックボックス】の事な。確かに口では【マジックボックスオープン】とかやってるが、イメージ的には倉庫の戸を開く感じなんだよな。だから意識で戸を開く、閉めるで調子良く使えたからもうそれで統一してもいいやって。これはスキルが進化したと言う事なのか?まあどうでも良いけどな。


そんな事よりガセネタだったようで、群生地など欠片もない。上空に浮かんで薬草を意識したままで【索敵】うおおお、あちこちに赤点が・・その中でも赤の濃い場所、これが本当の群生地だろ。ちょっと遠いが、このまま、うっ、浮かべはしたが、こりゃまた派手に・・ううう、飛行が安定しねぇ。おっかしいな、飛行魔法は知識に入っているのに、何でこんなに難しい。う、冷風が前から【マジックシールド】はぁぁ、寒かった。これ必須だな。確かにその知識ももらってたが、合ってたみたいだ。こりゃ熟練の必要があるな。移動はなるべくこれを使うか。てかこれシールドって言うより、身体を覆う膜みたいな感じだよな。使えば断熱効果って言うのか、それと風も防ぐみたいだし。万能身体保護膜って感じか。これ、常時使用しても良いぐらいの効果だよな。後ろからナイフとか投げられても勝手に防いでくれます、って感じだろ。うんうん、良いかも。


おっとこの辺りのはずだが。あれかな、色の違う塊が・・うおお、これ全部薬草かよ。よしよし、伐採開始だぁぁ・・まるで土嚢袋ぐらいの大きさの麻袋に入れていく。あんまり入れると潰れそうなのでさっくりとだけど。それでも広大な群生地を殲滅する勢いで、ひたすら刈り取って行く。200枚買ったはずの袋が無くなってハッと気付くと、広大だったはずの群生地の面積が半分以下になってて・・ううむ、さすがに刈りすぎたか。1ヶ月放置でライセンスの有効が切れるって聞いたから、25日ごとに10束持って更新ってやれると思って大量に欲しいと思ったんだけど、さすがに多過ぎた予感。まあ、腐るもんじゃないし・・倉庫の中に入れると腐らない。時間停止ってテンプレだよな、よしよし。ああ、すっかり日が暮れてら。早く帰らないと・・何か暗くてもよく見えると言うか、月が何故か2つあるから明るくて、こりゃ良いな。


「おーい、開けてくれぇ。誰か居ないの?開けてぇぇ」

「煩いぞ、明日まで待て」

「野宿すんの?こんな所で」

「夜は閉める決まりだ、諦めろ」


仕方が無い、飛んで入ろう。どうにも融通の利かない奴だな。少し離れて浮遊の後に上空から裏路地目掛けて急降下・・着地。なんだ、簡単じゃないか。これだとライセンス要らなかったね。しかし何だね、門は夜閉まるのにギルドは夜も開いている。門にギルド作ったらどうなんだ。それなら門はギルドが管理してくれるだろうし、魔物が来たら冒険者がすぐ退治するだろうし。うんうん、良い思い付き。でも教えないよ。きっと領主とか頭が固いからさ、そんな事やれるか、とか、ワシの方針が気に入らぬか、とか言うに決まってんだ。そのくせ、会議で発案して賛成受けたら、いかにも自分が考えたかのように実施する、まあこんなとこだろ。昔の会社勤めの時の上司が、まさにこんな感じだったからな。いくつアイディア盗られたか。おっと薬草だったんだ。ゴソゴソとカバンから出す。全部倉庫じゃヤバいからな。


「はい、間違いなく10束ですね、報酬の銅貨20枚です」

「ありがと、それでさ、オレに群生地教えてた奴、覚えてない?」

「ええと、確か・・」

「ほら、皮の鎧でさ、ここんとこ破れてて」

「ああ、思い出しました。ノイツさんですね。彼はどうにも情報がおかしいと言いますか、当てにならないと言う評判がありましてね」

「これ、何だか分かる?」

「これは・・もしかして・・リザートテイルの尾の先では」

「四足リザードマンじゃ無かったのね」

「ええ、リザードマンは2本足ですが、これは変異種と言いますか、体内に毒を持ってまして、危険な魔物です」

「教えられた先にこれが居たのよ」

「これは由々しき問題です」

「この尾っぽ、証拠になる?」

「明日にでもギルドマスターに報告しますので、これは預かって良いですか」

「預り証は?」

「それはもちろん発行します」

「ならいいよ、お任せだ」

「恐らく彼は奴隷落ちになると思います。新人を危険に誘致する行為は、かなり罪が重いですから」


リンチにしようかと思ったけど、ギルドにお任せにした。奴隷に落とせば売値の8割くれるって言うし、殺せば金にならないうえに、犯罪が確定じゃない奴を殺したらステータスに殺人が付くらしいし。でも不思議な事に穴に落とせば付かないんだよな。きっとあのスキル、システム外のチートスキルなんだろうな。必要でキツネさんから力供給とか言ってたし、まず間違いないところだろ。ステータスと言えば偽装スキルなんだけど、やたら優秀なのな。こいつもシステム外なんじゃないかってぐらい強力で、あのギルドの探りを掻い潜るとかさ。だから普通の偽装スキルとは違うと言うか、普通は隠蔽スキルって名前のはずだ。何か知らんがシステム外のスキルが多いようで、これが本当のチートだという決定版っぽい。でも、サイトでよく見るアレはやらないよ。目立つの嫌いだし。登録最短での昇格とか、前代未聞の魔法とか、ドラゴンを狩って目立つとか、知名度が上がればそれだけ自由が減っちまうからな。こういう点は10代の若者とは違う感性って言うか、アラサーだしな。


ハイテンションな彼はどう見ても、10代の感性だと思うのですが。

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