34話 冗談よね
数日後、彼の死が報道特別番組になると共に、告別式の様子が写し出され、大勢のファンが別れを惜しんでいた。彼の死因は一酸化炭素中毒死。スタッフに命じて、宿の部屋の中で炭火で干物を散々焼いて食べて、そのまま眠るように死んだという見解。部屋の中は壁も天井も煤けていて、発見者の女将は気分が悪くなって空気の悪さを知り、窓を開けてみたが既に死んでいたという、よく出来たお芝居のような光景。
彼はその日の夜、事務所の手の者達によって宿の部屋で細工を施され、そのまま殺されてしまった。オレはその様子を克明に映し、そのうちアップしてやろうと企んでいたりする。まあ、何かの切り札にしても良いけどな。その実行犯は今でも事務所で活動をしている、俳優だったのには驚いた。いわゆる裏の顔というやつだ。特に人気も無いのに切られない俳優として、事務所のお荷物扱いをされて平然としたその顔の裏は中々に面白いものだった。懇願するあいつをあっさりと殺す潔さの裏には、若さへの嫉妬があるのかも知れない。つまりあの事務所と事を構えると、あいつが出て来ると言う訳だ。オレをターゲットにしたら、さぞかしその嗜虐心が揺れ動く事になろうな。なんせ鼻をつまんで口に一酸化炭素ガスのホースを銜えさせ、そのまま死ぬまでニヤニヤ笑って見ていたのだから。社長はあいつの裏の顔は知らないものの、そういう存在の事は掴んでいて、怒らせるとヤバいとだけ言っていた。なので彼の死でうやむやとなり、ワイヤー切断事件は闇に葬られたのである。゜
「残念だわ、追求の機会だったのに」
「別に良いさ、あれぐらい」
「あれで事故でもあったら、どうなっていたと思うのよ」
「事故?あんな簡単な事で?あり得ないだろ」
「本当に強気だけど、期待して良いのかしら」
「スタント無しでこなす行動派俳優ってか、中々面白そうだな」
「本当にやれるのね、それならそういう路線で行くけど」
「スタント顔負け、この人本当に俳優?スタントのプロも真っ青な新人登場、うん、良い響きだ」
「知らないわよ。スタントのプロはそれこそ、人間止めてんじゃないかって、凄い人達も中には居るんだからね」
「それは旅客機のドアからパラシュート無しで飛び降りて、生還するぐらいの奴か」
「そうなるともう化け物でしょ。さすがにそこまでは言わないわ」
「オレならやれるぞ」
「ちょ、冗談よね」
「誰も飛んでいる旅客機とは言ってないし」
「もう、びっくりしたじゃない」
【フライング】や【浮遊】を駆使すると化け物か、肝に銘じておこう。てか何だよな。あっちで鍛えた奴らが増えたら、映画の撮影とかやってみたいな。魔法を駆使してあり得ない映像をさ、クククッ。さぞかし最新の映像技術とか、思ってくれそうな科学の発展具合だし。そうだよ、そうすりゃ良いんじゃないか。今回の経験を生かして、その手の路線も考えてみるか。獣人達の特別出演になるかも知れんが、さぞかし佐代子の同類が・・それで人員を集めたらますます実現の確率が・・それも構想に含めておこう。やるぞケモミミモシティ・・とか言うとオレもケモナーみたいだよな。草案は既に出来てんだ。
『来たれケモナー・我が領地ではケモナーを募集しています。今度新たに作られる、ケモミミシティ(仮名)では、ケモミミの守護と防衛担当の人員を募集しており、永住希望の方は無料での送致をするうえに、ケモミミシティの中のある、愛で隊(仮名)の専用宿舎の個室を進呈。他にも3年間の税金の免除や、言語学習の無料習得機会など、様々な特典をご用意しております。君も守ってみないか?ケモミミを』
後は本家ケモナーの佐代子に検分してもらってサイトに掲載すれば良いと。その為には領地を賜らなければならないんだが、それが問題だよな。
「着いたわよ」
「ほお、ここが化け物の巣窟か」
「いい、強気発言はここでは駄目よ。洒落にならないんだから」
「オレを凌駕する奴にはそうするさ。だが三下に媚びる必要はあるまい」
「頼むわよ、ここは本当にヤバいんだから」
「それは楽しみだ」
「その子かい、スタントを舐めてる生意気な新人君ってのは」
「そうじゃないのよ、知らないだけなの、だからお手柔らかにお願いね」
「アンタがこの中でトップなのか?」
「まあそうなるかな」
「つまり、オレにやれる事は全てやれると思うんだな」
「当然でしょ、こっちはプロなんだから」
「それは面白いな。是非、勝負してみたいね」
「駄目よ、裕也」
「心配性だよね、そう思うだろ、アンタ」
「宅間だ。着いて来い、その勝負、受けてやるからよ」
「待って、宅間さん、それは・・」
「ごめん、無理。それに、この子が勝てば良いだけ、違う?」
「そんな・・」
「勝てば良いだけか、クククッ、その通りだな。んじゃ、軽く勝ってくるさ」
「無理なのよ、あいつは桁が違うのよ。本当の化け物なんだから」
「行けば分かるさ・・じゃ、また後で」
化け物ね。そりゃ下の人間にはそう見えるんだろうけど、オレにはネタが分かっている。だから下手な芝居を見ている感じに見えるんだけど、あんまり派手な活動は禁止じゃなかったのか?堕とされし者さんよ・・あれからその手の名称なんかもこっそり教わったんだけど、その代わりにとオレの【毛利】の使用許可をくれとか言いやがって。あ、【毛利】と言うのは3つの力を糸にして縒り合わせて行使する例の手法な。そんなの黙って使えば良いってのに、律儀な奴だよな・・でまぁ、後々オレは上に登りそうだからって、今の内に知っておいたほうが良いとかさ。
禁止事項も何のそのとばかりに、色々教えてくれたっけ。あいつ、知らないぞ。オレは庇えないんだぞ、あいつの協力者だから。その好意はありがたく受け取ったけど、返せないからちょいとな。まあ、最悪、消滅だけは何とか阻止してやるから、それで我慢してくれよな。何とか?・・オレが代わりに消えれば良いだけだろ。なんせ元凶なんだし、クククッ・・おっと、いきなりそう来るか。ならば助っ人だ、クククッ・・
《へるぷみー、穴開けるから飛び込め・・おっしゃ》
「お前か、前にも言われたのにまたなのか」
「貴様、どうやってここに。枯渇してたんじゃないのか」
「生憎と、今は9割ってところかな」
「どうやって補給した、答えろ」
「お前な、目の前に宝箱があるのに、見えてないのか」
「何だと・・うっ・・この・・量・・は」
「おっと、それは止めておいたほうが良いぞ」
「余計な事は漏らすなよ。お前も利用してんだろ、こいつをよ」
「【毛利】」
「早速、やる気か。見せてもらうぞ」
「まずはこいつだ、解いてみろ」
「ふん、こんなもの・・こんな・・も・・の・・くそ、何で・・切れ・・ねぇぇ」
「やれやれ、あっさり捕縛だ」
「呆れたもんだぜ、よくあの短時間にそこまで熟成させられるな」
《つーかまえた、キツネさん・・え、いつの間にそんなスキルを・・上のスキル使って化け物呼ばわりさせて君臨・・いけませんね、またですか・・彼は保険ね・・くすくす、本当に仲良くしてますね・・だからお目こぼしよろしく・・はい、分かってますよ・・頼むよ、オレの消滅に誓っちまったんだ・・そんな事まで教えてるんですか、ハモンさん・・めんぼくねぇ・・仕方の無い人ですねぇ・・責めてやんなよ、オレの為なんだからよ・・はいはい》
「お前、あれを1本ずつだと思ってねぇか?」
「違うのかよ」
「二重螺旋の遺伝子の構造図で思い付いてな、縒った糸を更に3本、それで更に縒り合わせるんだ。それによって1本の糸はより細く微細に出来るから、より短時間で熟度の高い糸になるって寸法さ」
「はぁぁぁ・・言わんとするところは分かるけどよ、よくそんな事が思い付くな」
「お前が言ったんだろ、少ないほうが熟度を上げ易いって」
「そりゃ言ったけどよ、まさかそんな解答を導くとは思わねぇだろ」
「それを応用したらでかいロープすら熟度の高いのが一瞬で組めると思わんか」
「確かに・・やれそうだな」
「【毛利】のおまけだ、受け取れ」
「済まんな」
「別に特許とかそんなの無いだろうに」
「発案者のスキルを勝手に盗用するのは禁忌とは言わんが嫌がられる行為でな、一言断るのが慣例になってんだ」
「嫌と言ったら使えんのか」
「いや、そういうのは相互開発だから、嫌と言う奴は滅多に出ないけどな、やっぱり有用なスキルの発案者ってのは噂にもなるしな」
「人間社会と何も変わらんのだな」
「ああ、変わらんさ」
それは進化か、それとも融合か・・彼が変わっていきます。




