33話 イケナイ子ね
周囲のショタだショタだの囁き声をバックコーラスにして、オレ達は充分に堪能した。これだけ若い格好をしても言われると言う事は、これから先はもっと言われる事になるのだろう。老いない身体は他から見れば確かに理想かも知れないが、当事者にとってはそれは決して福音などではない。親しい者達の老いを間近で見るなど、どんな拷問かと思うぐらいだ。共に老いていけないオレは、近くに居ながら遠い存在なのかも知れない。だからこそ・・やれやれ、今度は何だ。警備かと思えばちょいと毛色が違うようだが、眼前の女の周囲には数人のただならぬ者達の気配がある。確かに制圧は簡単だが、公衆の面前で披露していいタイプの話ではない。敵意は無いように見えるが、そんなの簡単に繕えるもの。ミカは不思議とその女に敵意を持ってないが、油断は拙いぞ・・
《何を呆けている。こいつの目的が分かるまで、決して油断をするな・・うえっ、アンタ、知らないの?・・何がだ・・はぁぁ、少しは世間の情報も得なさいよ・・得ているぞ・・芸能関係よ・・何だ?・・有名な芸能事務所のヤリ手の社長さんよ・・そんなのがお前に、スカウトか。おお、良いな、嫁さんがスターとか楽しそうだ・・何を言ってんのよ。アンタよアンタ・・ほえっ・・アンタ今、瞳を緑にしてるじゃない・・そりゃこんな集まりで厨二病みたいな格好は嫌だからな・・そのせいで派手にイケメン、いえ違うわね、美少年になってんのよ・・目の色ぐらいで何でだ・・元々、顔の造りが良いんだけど、瞳の色で危険な雰囲気と言うのかしら、ちょっと引かせる効果みたいなのがあったんだけど、緑にしたらそれが消えちゃって。だからこうなる事は予想してたのよね・・逃げるぞ・・まあ待ちなさいよ。こういうのも面白そうじゃない・・お前は面白いかも知れんが、人前でどうのこうのは嫌だぞ・・それはあれよ、成り切りよ。ほら、昨日のあの口調みたいにさ、やってごらんよ・・お前そんなオレを見てどう思うんだ・・面白そうだから見てみたい・・分かった》
奥さんの斡旋じゃ断れんか。浮世の事など興味も無いが、奥さんが見て楽しいと思うのなら、身を投じてみるのも一驚。良いだろう、精々楽しませてやるさ。それに、昨日のあれは中々に興味深かった。あれを成り切りと言うのだな。よしよし、ならばその成り切りの修練開始だ。ああいう技能も有効そうだし、習得しておくのも将来の糧になると思われる。為政者の成り切りとか・・うん、使えそうなスキルだな・・
「お2人はどんな関係かしら」
「役者志望とそれに付き合う従弟だ。オレは無理だと思うが、こいつはその気になっててな、困ったもんだよ」
「あらそうだったの、てっきり恋人同士かと思ったわ」
「冗談は止めてくれ。オレはまだ若いんだ、そういうのは成人してからにしたい。そう思わないか?」
「そうね、そのほうが良いと思うわ」
「気が合うな、どっかで何か飲まないか」
「良いわね、じゃあこちらへいらして」
「行ってくるぞ、姉貴。芝居の練習はここまでだ」
「はーい、でもまたお願いね」
「バイト料はずんでくれたらな。子供は金欠なのさ」
「はいはい、お任せあれ」
「じゃあな・・行こうか」
(早速、始まったわね。表は嫌いと言いつつも、やらせてみるとノリノリでこなしちゃうのよね。これからはテレビ越しに楽しませてもらうわよ。何かあったら通信もあるし、アタシはこれから病院通いか入院になるんだし、娯楽として鑑賞したいからさ、楽しませてよ、旦那様、くすくす・・先日の検査ではバッチリ妊娠と分かったし、これから養生してアタシ達の子供を産むからね・・待っててね、あ・な・た)
黒塗りの車が湿気の高い大気を切り裂いて進む。ここは都心に向かう高速の上。車中の身となったオレは、彼女からスカウトを受けていた。生まれも育ちも現住所も、それに本名すら明かせないと言ったにも関わらず、彼女は諦める事はしなかった。なので芸名はオレに付けさせろと言ってみたのだが、それすら許容された。そこまでのものがオレにあると信じるのは自由だが、これは修練の一環に過ぎない。それでも良いのなら一時の間、その手の平で踊ってやっても良いさ。そうして名乗るオレの芸名を、本名って事にしときなさいと一蹴しやがった。くそぅ、まだネーミングセンスが治ってなかったか・・不覚・・
かくして本名、伊勢海人、芸名、浅見裕也としてオレの芸能人生は始まったのである。明かせない戸籍や国籍すらも、隠蔽偽装する組織があるようで、道理で隣の国からいくらでも来るはずだ。オレは仮初の国籍と本籍地を手に入れ、彼女の秘蔵っ子としてデビューする事になる。さすがにどんなに過酷と言われるレッスンでも、レベル158の敵じゃない。なんなくこなして才能を思わせ、早々にクリアして表舞台に躍り出る。初の芝居は端役だったが、主役を食っていたという評価。オレは人食いじゃないと思ったが、そういう表現もこれから知らなければならないようだ。一般的に食うとは抱く事だが、それは禁止されている。もとよりミカ以外を抱くつもりはないが、不満を見せておくのも何かの布石になるかも知れないと、軽くそれを漏らしておいた。アンタでも良いんだよと、クククッ・・少し揺れたが、そんな願望でもあるのか?それってショタとか言うよな。まあ、望むなら抱いてやっても良いさ。オレは仕事なら誰だって抱いてやる。それは作業に他ならないのだから。相変わらず心と身体のアンバランスは治らず、だからこそ相手を慈しむ心が無いと、ただの作業に成り果てる。それこそトイレで流す小便のように、ただただ排泄行為としてしか認識出来ないのだから。
「これから群馬に向かってもらうわよ」
「ああ良いよ」
「2時間しか眠れないけど、やれるかしら」
「ふっ、若さを舐めるなよ」
「頼もしいわね」
「そっちは疲れてるんじゃないのか」
「少しね」
「着くまで2時間か、癒してやろう。窓を染めろよ、なあ」
「相手に拘らないぐらい欲しいのかしら」
「まあそう言うなよ。いい女に年は関係ない、そう思わないか」
「本当に貴方15なの?まるで年上みたいよ」
「粋がりたい年頃だと、思ってはくれないのか」
「そういうところがよ、ホントにどんな育ちをしたのかしら」
「ミステリアスで良いだろ」
「はいはい・・佐藤、閉めなさい」
「はっ、社長」
「さあ、楽しませてくれよ、くすくす」
「イケナイ子ね、おしおきが必要だわ」
「ああ、たっぷりと受けようか、くっくっくっ」
たっぷり蹂躙し、彼女は今深い眠りの中にある。男日照りのせいで乾いていた局部も、今はしっとりと濡れている。見た目は冷徹な感じだけど、本当はもっと弱い女だ。年のせいで男と疎遠になり、男を求めて金を使う勇気も無く、ますます疎遠になっている現状。その心の隙間を埋めてやったら一途になりやがった。手の平に載せるつもりが載せられていると、分かっているのだろうか?まだまだ時間はあるから、それまで淡い夢を見ているといい。どうせオレは異世界人、この世界の存在では無くなった存在。だから消えるその時までの夢ぐらい見せてやるさ、望みのままに。
ミカの経過も順調なようだけど、実に慌しかったな。いきなりエビスからの連絡が入り、夜中だと言うのに病院に駆け込み、慌しく施術してさようならって・・なんでも表沙汰になっては困るらしく、裏で密かにやって他言無用。それならという条件で、それにプラスして裏金2億でやっと首を縦に振ってくれたらしい。その代わり腕はピカイチで、ほぼ間違いないとの話。数日後、それこそ何食わぬ顔をして診察に行ったミカを、初めて見るような顔をして診察に及び、陽性・・つまり妊娠を確認したらしい。大病院の婿と言うのは、そこまで肩身の狭いものなのかねぇ。腕が良いのに独立は考えてないようで、よく分からん医者だ。
「おい、起きろ、もうじきみたいだぞ」
「あ・・はぁぁん・・もっと、ねぇ・・」
「おいおい、そんなの表に見せるなよ、お姫様」
「え・・あれ、ああ、そうだったわ」
「元気になったか?くっくっくっ」
「ふうっ・・そうね、うん、問題ないわ」
「じゃあ行こうか」
「そうね」
専属運転手の佐藤だけが知る、社長の密かな行為。口の堅いこの男は、それを誰にも漏らす事なく一途に勤めている。報われない恋心を深く深く沈め、それでも一途に慕っているようだ。ツバメなオレを恨むでもなく、ただ見返りを求めない恋・・か。さて、今回の仕事だが、ちょいと危険を伴う仕事らしい。そのせいで他の事務所の奴が軽い怪我を負ったらしく、降りると駄々をこねて実現したおいしい仕事。てな訳で、新人ではあり得ない好待遇だと、わざわざ東京から車を飛ばして来たのだ。見ればその駄々をこねた相手が腕に包帯を巻き、足に添え木を当てて椅子に座っている。どんな仕事かは知らんが、軟弱な事だ。オレのツラを見て、妙に敵愾心を抱くが、何かあるのか?どうでも良いが。
「ふん、新人にやれると思うなよ。このオレですらこんな怪我をしたんだ。お前なんか死んでしまうかも知れないんだぞ。それでも良いんだな」
「さて、オレが死ぬか。中々面白い事を言うな、アンタ。そんなに危険な仕事がこの世にあるとは、寡聞にして知らなかったよ。これでもオレはスタント経験もあるんでな、なまじな仕事では物足りんぞ」
「吹かすな。その年でスタント?ハッタリもいい加減にしろ。オレは親切で言ってやってんのに、怪我して泣いても知らんからな」
聞けば確かに危険そうだが、それがどうしたと言うしかない。崖のあちこちにある足場を用い、飛び跳ねながら崖を下るという簡単な仕事。そんなの狩りでいつもやってたぞ。山1つ潰すのにどんだけ跳ね回ったと思ってんだ。もっと派手な移動もこなしたオレにとって、こんなのは児戯にも等しいさ。それでもあんまり人間を外れるのは拙いから、それなりにやるのがきつそうだけどな。背中のワイヤーなど本当は不要だが、安全装置無しには社長も許さまい。まあ、オレの動きの邪魔だけはせんでくれよ。そう思ったのだが、誰の陰謀だか知らんが、腰の辺りからワイヤーがぷっつりと切れてくれた。邪魔な物が消えて、意気揚々と1発クリアする。そうして社長が真っ青になるのだが・・
「良いじゃねぇか、成功したんだから」
「寿命が縮まったわ」
「犯人の目星は付いているのか」
「決定的な証拠はまだだけど、あの子の差し金ね」
「でかい事務所のきつねか」
「困ったものだわね。本人はまだまだ現役と思ってるようだけど、あらちさんは潮時だと思っているみたい。ちょっと強気に出たらあっさりよ」
「切られるか干されるか」
「消されるという可能性もあるわね」
「そうか、まあどうでも良い事だが」
「本当に淡白ね。普通なら何か思うものでしょうに」
「思うぞ、ご愁傷様ってな、くっくっくっ」
「まるで小悪魔みたいね、貴方って」
「みたいは余計だ、くくくっ」
「じゃあおしおきしないとね」
「今夜、泊まれるんだろうな」
「ええ、だから覚悟してよね」
「くっくっくっ、それはどちらかな」
「くすくす、そうかしら」
その後・・・描写は無しです、ごめんなさい。




