29話 何か用か
からりとした大気が徐々に湿り気を帯びてくる頃、オレ達は揃って遊びに行く事になる。妙に人目を引く一行になってしまったが、それがどうしたと開き直る面々。佐代子は当たり前の服装なのだが、ミカは思いっきり叔母さん風だ。なので佐代子と姉妹のような、従姉妹のような雰囲気を見せており、そこにオレが混ざるとまるで親戚の集まりみたいになっている。しかもオレの仮装が仮装だから、妙に・・余計に子供っぽく見えるようで、ミカの目論見は成功しそうな感じになっている。佐代子の立ち位置としては、オレ達の遊びを横から見て楽しんだり、会場の催し物を当たり前に楽しむ方向でいくらしい。佐代子の旦那候補は今頃、医者に伝を作るべく色々動いて暇が無いようで・・中に入ると物凄い人の群れだ。しかも妙に蒸し暑い。確かに梅雨入宣言が成されたようだが、今日はまだ降ってはいない。昨日、少し降ったせいなのか、空気が湿っている感じで余計に蒸し暑い感じがする。
「これは暑いな」
「化粧が汗で流れそうだわ」
「ふむ、ならばこれでどうだ」
杖を掲げて【ウィンド】と、まるで宣言するかのように魔法を使う。周囲にそよそよと風が吹き、いくらか涼しくなる。ミカは笑いを堪えているし、佐代子は涼しそうな顔をしている。だが、周囲の奴らはそうはいかない。偶然と呟く者、何かのトリックだと言う者、携帯用扇風機だと変な発想を口にする者と様々で、魔法と口に出す者は居ない。さすがに思ってもおいそれとは口に出せない、空想の技能だけの事はある。ふむ、ならば・・
「発汗の様子はどうだ」
「ちょっと身体が気持ち悪いわ」
「うん、シャワー浴びたい感じ」
「ならばこれでどうだ」
今度は【クリーン】の魔法をワイドで使う。ノーマルは単体効果魔法だが、ワイドにすると周囲の存在に対する複数効果となり、エリアとなるとそこら中一帯に効果を及ぼす魔法になる。なので、ワイドの恩恵でオレ達以外に数人がスッキリした感覚を味わう事になり、妙にどよめいている。結局、どんなに魔法を使っても、現代社会では立証不可な技能。科学により過ぎた文明の弊害か、人は安易には信じないのだ。特にここにはその手の夢を信じたい者達が集うが、それでもこの程度の反応しか示さない。ならば表など知れたものだ。オレを捕らえる前に立証してみろと、開き直ればそれで終わりそうな感じがする。頭大丈夫かと言ってやれば、自分の目を疑うかも知れない。実写で様々な魔法が使われ、仮想現実にも手が届く。そこまでの科学技術の中の、魔法の位置取りは果てしなく軽いと思われる。なので思いっきり騒がせてやれば良いと、オレも開き直ったのだ。なんなら魔法と言う名称を、超能力と言い換えてやっても良い。火の魔法は発火現象だし、風の魔法は空気を動かす念力だ。水の魔法は物質転移と言えば良いし、土の魔法は物質操作と言えば良い。転移とかも超能力のクチになるだろうし、大抵の事がそっちで説明出来る。それでもインチキとかトリックと思っているのが殆どの世の中、それなら自由に遊べると思ったのだ。そして、もしかしてと思う者が増えていく中、異世界観光ツアーの存在はどう映るだろう。行けば自分も使えるかも知れないと、そう思う者が出ないとは誰にも言えない。そう、これは一種の宣伝なのだ。
「生ぬるい風を動かしても意味は無いか」
「そうね、出来たら涼しい風がありがたいわ」
「うん、涼しい風、ちょうだい」
「うむ、良いだろう・・【ワイド・クールダウン】」
「ああ、これこれ」
「生き返るわ」
「効果は1時間、まあ、充分に涼しめ」
「ありがと」
「おい、言うだけか、態度で示せ」
「くすくす、はいはい」
そこで例のあれですよ。オレが背伸びしてミカとキスをすると、周囲からショタだショタだと囁き声が聞こえる。ミカの目論みは成功という訳だ。折角だから濃厚なのをかましてやろうと【思考通信】で即座に計画は締結し、納得のままに抱き合って始める2人。佐代子も楽しんで見ていたが、妙に羨ましそうな雰囲気となる。そして唾液の橋を架けた後、恋人繋ぎで手を繋ぎ、移動を開始しようと思った矢先、警備の人間がこちらに・・何か事件かと傍観していると、オレに用があるらしい。
「何か用か」
「変な行為は困るんだよ」
「変な?どんな行為だ」
「妙なトリックで人心を惑わすような行為だ」
「よく分からんな、分かるように説明しろ」
「お前、ガキの癖にその言葉遣いは何だ」
「我を子供と申すか、中々に面白い事を言う」
「そういう年頃なのは分かるがな、大人相手にはいい加減にしろよ」
「こやつ、魔物の餌にしても良いかな」
「可哀想よ」
「ふむ、人間はどうにも煩くていかん。特に用が無いなら我は行くぞ」
「だから、変な行為をするなと言ってるんだ」
「例えば何だ」
「トリックで魔法みたいな効果を出して、何か企むのは止めろと言ってるんだ」
「人間社会でそういう疑いは確か、立証出来なければ意味が無かったはずだが、我の魔法を科学的に立証してみせよ。やれるようなら我は消えようぞ」
警備員相手に遊んでいると、野次馬が妙に煽ってくる。オレもなまじ王宮とかで偉そうな話し方をやってたせいか、妙に乗っちまって・・でも、別に嘘を言ってる訳じゃない。『人間』の言葉の前に、『この世界の』という言葉が入るだけであり、ただそれを省略して対話しているだけなのだ。特に最近では、近所の奴らが無反応になっちまって、こんな格好でも当たり前に見てくるだろう。なので新鮮な反応が面白く、ついつい悪乗りして・・けどそろそろ潮時かな。
「ちょっと来てもらうぞ」
「拉致監禁は感心せんぞ」
「のやろ、いい加減にしろよっ・あぐっ」
「痛くはないが、殴られるのは好きではない。ただ、その手、大丈夫か?」
「くそ、石頭かよ、ぐぅぅぅ」
「人如きの攻撃でどうにかなる我ではないが、余りに感心せん行為だ。ま、自業自得と諦めよ」
「のやろっ・・ぐあぁぁぁぁ、足が、足がぁぁぁ」
「無駄だと言うたであろ、人如きの攻撃では何もやれぬと。骨にひびでも入ったか、脆いな、人間は」
《ノリノリじゃない・・興がのった・・あはははっ》
「そやつを連れて行け、自業自得でも怪我人は怪我人、早く連れてってやるがよい」
「怪我は無いか、坊主」
「あのような触れただけの攻撃で、どうにかなる我ではないわ」
「なんかその気になってんな、どうだ、うちのブースに遊びに来ねぇか」
「招待を受けて断る筋合いも無かろう。どうする、妻達よ」
「そうね、お邪魔しようかしら」
「妻・・」
《今、佐代子の反応がヤバかったな・・よろめいたかしら・・エビスに殴られるな・・あははっ・・それはそうと、漏れてるなら聞いておけ。今の奴、ちょっと雰囲気が人間とは違っていた。敵意は無いが気になった・・ああ、彼は良いんですよ・・そうか・・くすくす、仲良くしてあげてくださいね・・分かった》
つまり、この前の奴の同類で敵意の無いタイプか。しかし、世界の中にそういうのを混ぜる理由は何だ。まさかとは思うが、流刑のようなものなのか。何かの罪を得た奴を世界の中に放って、更正を促すとかなら分からんでもない。しかしな、元が違う存在なら、違う存在の中での更正など意味があるまい。例えば手かせ足かせを付けて社会で更正させるように、同じ種族の中で何かのハンデを付けての生活を通して、導くと言うのが普通に考えられる事。つまり、彼らも元は人間であり、それが進化した存在だと。これが結論になる。しかしこれ、真実なのか?ちょっと信じられんがな。彼らの認識では肉体の死はどうやら人の死とは違うらしいが、となると肉体が無くても生存が可能と言う事になる。つまり、彼らに肉体は無いが、生存を可能にし、その結果、進化したという事になるのだろうか。まあいい、考えても仕方の無い事だろうしな。
「これは何だ」
「見ての通り、魔法の杖だ」
「こんな玩具ではマナの通りが悪かろう。どれ、魔法陣を見せてみよ」
「そういうのはねぇよ」
「2重構造にして内側に魔法陣を描いた羊皮紙を巻かねば、まともな杖にはなるまい。誰に習ったのだ、そのような方法を」
「こいつ、どうなってんのさ、マサさん」
「ははは、面白ぇだろ」
「成り切りっすか」
「いかにもってな雰囲気が面白くてよ、つい誘っちまってな」
「いいですけど、オレの作品を玩具扱いはちょっと」
「どうせなら、これぐらいの杖を作ってみるのだな」
「おい、それ、ちょっと見せてくれ」
「あんまり派手な魔法は使うなよ」
「おま、これ、どうやって作った」
「くっくっくっ、人に感じぬマナを感じるそなたは何者だ」
「いや、なんかこう、変な、波動って言うか」
「お前は感じるか」
「先に水晶みたいなのが付いただたの棒にしか見えねぇぞ」
「だそうだが?」
「気のせいだった、悪かったな」
「構わんさ、誰にでも間違いというものはある」
「ああ・・悪かった」
(どっから来たんだこいつ・・あんな本物を持っているとか・・まさか、あっちからの侵入者か・・けどおかしいな、そんな話があれば連絡のひとつぐらいは来てしかるべきだが・・ならどうしてだ・・まさか同類?・・いや、そんな波じゃない・・こいつは人間に間違いは無い・・無いが、何かがおかしい・・これは・・何ちゅうマナの量だよ、とんでもねぇぞ・・こりゃ要注意だな)
ノリノリな彼です。




