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改訂版 異世界ツアー  作者: 黒田明人
1章 元世界・登場編
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2話 染まりし者


落ち葉の季節は過ぎ、小雪ちらつく年の瀬も押し迫った頃、優先客の準備が整ったとの連絡が入った。彼はこの町の裏組織の幹部。オレからすれば充分に恵まれた立場だとは思うが、彼はそれすら不満に思っているらしい。だからこそ異世界なんてものに執着してしまったのかも知れない。彼もまたツアーで人が消えるのを目撃した1人だ。


相談を受けたのはまだ、残暑厳しい夏の終わりの頃だった。居酒屋の個室でビールを飲みながら、彼はその目的を熱く語った。そして計画の骨子を決め、手付けとして500万。後はオレが望む武器の供給など、色々な便宜を図ってくれた。行きつけのパーでの飲み放題もそのひとつだ。なので彼の理想に合致する穴が見つかるまで、こんなに遅くなってしまったのだ。そうして先日、やっと見つかったと連絡を入れ、その数日後に準備が整ったと連絡が入ったという訳だ。


「こいつが残金の2000万だ」

「済みませんね、色々と物入りなもので」

「なに、構わんさ。オレはもうじき異世界人になるのだからな」

「こちらが地図になりまして、この写真が現場のもの、そしてこのマジックで囲んだ辺りに穴があります」

「お前以外には見えないんだったな」

「ええ、ですから信じてもらうしか無いのですが」

「実際に消えたのを見たからな、そいつは信じているさ」

「後ですね、穴は道から少し離れてます。速度は多めにしてください」

「成程な、遅いと引っ掛かるのか」

「後輪が引っ掛かると、横転の可能性もありますので」

「うむ、ならば全力で突っ込むか」

「男は度胸ですか」

「はっはっはっ、そうだな」

「武器も大量ですか」

「銃の無い世界なら、持てる者が天下を取る。オレは持てる武器で裏を統べる」

「今まで、貴方程の準備をした者はおりません。なので同じ日本人相手にしても負ける事は無いでしょう」

「そうか、それは楽しみだな。はっはっはっ」


彼の自慢はドイツ製の防弾車両。豪邸が買える程の改良を施したそれは、至近距離からのマシンガンの掃射すら防ぐと言っていた。それに武器弾薬、貴金属に生活物資など、考えられる限りの物を詰め込み、車ごと異世界の旅に出るというとんでもない計画を持ち掛けられた。だからそれに見合う大きな穴、それも道に隣接している穴という滅多に無い条件。大抵は山中の登山道から少し入った場所とか、廃ビルの屋上から軽く跳んだ先とか、断崖絶壁の直下とかばかりだった。そうして数ヶ月は普通の客を送り込みながら、目当ての穴を待ち続けた。そして遂にこの前、田舎の旧道のカーブの先にそれを発見したのだ。


オレは何故か穴の方向が分かって穴が見える。新しい穴が出来るとその方向に『ある』という不思議な感覚を覚え、近付くにつれてその感覚が強くなる。もちろん、写真を撮っても写る訳じゃない。彼に渡した写真には、オレに見える穴をマジックで記しただけの代物だ。彼には念の為に、ガードレールのナットを緩める為のモンキーレンチを渡してあるが、既に少し緩めてある。そして邪魔な中央の支柱は既に、バンドソーで切断して白いテープを巻いてある。なんせ手付け500万、後に2000万という大儲け。多少の出費や手間は惜しまないさ。


その事も彼に告げてあり、彼はすぐさま行きそうになる。なので、天候を考えたほうが良いと諌めておいた。なんせここからだと山を1つ越える事になる。今日は夜半から雪になるっていう天気予報もある。途中でトラブったら台無しだからな。そう言えば彼は、数日様子を見るかと少し残念そうだった。


初めてあの穴を発見してからかれこれ数年、幾人もの人間を穴の先に送り込んで来たが、彼らは当初、意味不明の事を言い合って興奮していた。なのでサイトで色々と調べてその意味を知ったり、どうしてそんな気になるのかを考えたりしていた。そうしているうちにどうやらオレも染まったしい。


裏社会は危険がいっぱいだ。いかにセーフハウスを作っていても限界というものがある。だがもし、万が一、穴の先が別の世界に通じているなら?・・それは安全地帯にならないかという考えだ。なのでよく使うセーフハウスに色々な物資を集め、現地での生活の方法から金稼ぎの方法までと、様々な物資を厳選して集め、それが少しずつ増えていった。だが、それはあくまでも保険であり、本気で信じている訳では無かった。でもそんな事は客には言えない。異世界案内人、相良圭介本人が異世界の存在を信じていないなどと、決して言える話ではなかったからだ。

 

年が明けて年始の挨拶をしようと彼に連絡をするが、電源が入っていないか電波の届かない場所に居ると言われた。どうやら既に行ったらしいな。このご時勢、どんな田舎でも電波は確実に届く。そして彼は予備電地をいつも持ち歩く用心深さだった。となればもうこの世界には居ないという事だ。となればもう、あのバーにも行かないほうがいいか。どんな引継ぎをしたのかは知らんが、オレが行方不明の引き金を引いたようなものだ。うっかり組織の人間に知られたら、どんな言い掛かりを付けて来るか分かったもんじゃない。危うきに近寄らずだ。


ケータイを弄んでいると、メールが来ていた事を知る。今朝のメールチェックでは無かったのに、いつ来たんだろう。まあいい、相手は誰だ・・ほお、そう来たか。送り主は『ファイヤーボール』つまり火の車の連想で金が出来なかったと。ただの『ファイヤー』ならそれで諦めるって話だが、そこに『ボール』が付いている。この『ボール』と言うのは男特有の股座にあるアレだ。つまり金が作れなくて、身体で支払うって事だ。


次に題名だが、『桃色のとんがり帽子』と来たか。これが『銀色の羽根付き帽子』なら、郊外にあるラブホテルを指すが、この場合は駅裏のホテルを指す。以前、相談と言って合計12回抱いた女と相談したあのホテルだ。あの時は金貨を3枚と生理用品を入れてやったっけ・・それはともかく駅裏かぁ、目立つんだよな。何時かな・・『夜景を見ながらお食事をしませんか?』と、そう来たか。これは最初の文字が時刻を表している。朝のキーワードは『珈琲』昼は『ランチ』夕方は『会社帰り』夜は『夜景』深夜は『眠れない』んでこれらを入れてメールを送る事になっている。当然発覚防止だ。後は『食事』これは駅裏のラブホテル前の喫茶店を表し、中でじゃなくて喫茶店での待ち合わせを指す。なので解読すると『駅裏のラブホテルの前の喫茶店で、18時に待ち合わせをしましょう』って事になる。せめて『眠れないの、何か良い方法無い?』とかであって欲しかったよ。18時に若い女と待ち合わせ、しかも駅裏とか拙いな、どうしようかな。散々考えた後、いいよって送った。はぁぁ、女日照りに負けたかオレ・・


そしてそそくさと喫茶店に行き、そのままホテルにしけこんだ。初めてと言う事でじっくり馴染ませた。以前の時、痛がった女の反省もあり、十二分に馴染ませて行為をした。なのでそれなりにいけたようだった。どうせ1回限りって事も無いんだし、送るまでに具合が良くなればそれでいいさ。


んで今日、またメールが来た訳だ。今度はもっとストレートだ。『桃の山帽子は夜に燃える』なんちゅうメールだよ。昨日のが良かったからまたしたいか。燃えるって事は延長込みでやりたいか。昨日、初めてだった癖に、もうこんなメールを寄こすのかよ。どうすっかな・・返信『帽子屋さん始めました』そんなにやりたいなら家にご招待ってメールだ。一応実家だが1人住まい。表向きの住所はここになっているが、普段はセーフハウスに住んでいる。だからここなら別に何かあっても逃げられる。あいつの親に怒鳴り込まられても問題無いと。おっと返信か『帽子屋さんの場所は何処ですか』返信『駅からタクシーで三浦酒店』こいつは実家の裏の酒屋だ。家の横の路地を通ればすぐなので、発覚したらヤバいんだけど、まあいいか。そんな訳で実家にご案内。表向きの家は、外見はぼろくて中も質素。シングルベッドは頑丈だが型が古い。家具も相当に古い代物だ。


「うわぁ、質素って言うかボロいね」

「お前、学生なのか」

「今は休みだよ」

「何日までだ」

「8日まで」

「後1週間か」

「うん、だから最終日にお願い」

「それで良いんだな」

「たっぷりで良いからね」

「知らんぞ、オレは飢えてるんだからよ」

「あははっ、任せて」


高校1年でこんなスキモノになっちまって、親が知ったら嘆くぞ。まあその親も振り切って穴に消えるんだから関係無いか。そんな感じで始めた期間限定同棲。穴は少しずつその数を増やしているが、8日まで正月休みだ。言われても送らないぞ・・それはいいが参ったな、朝から晩までずっとかよ。朝はカップ麺、昼は出前、夜はピザの繰り返し。確かにひたすらの行為だからカロリー過多の心配は無い。だけどこいつを送ったら少し節制しないとな。それにしても妙に馴染むと言うか、こいつ行くの止めないかな。このままオレが養ってやっても良いと思うぐらいに馴染む身体を持っている。今までかれこれ稼いだから、こいつと山奥でずっとって・・いかんいかん。そのうちまた子供の話になるとギクシャクするに決まってる。タネナシと言われて離婚になったのを忘れるな。それで女に幻滅したんじゃなかったのか、オレは。人間は利用するもの、食い物にするもの、そう結論を出して裏社会の住人になった事を忘れるな。


そして約束の最終日、色々な品を買いながら移動して、最後に握手をしてお別れになった。妙な喪失感があったが、気の迷いだろう。それからまたいつも通りの生活が始まると信じていた。なのにそれは叶わなかった。ツアーどころじゃなくなったからだ。まさかこんな事になるとは思いもよらず、原因を探る為に調査を依頼した。その結果・・


いよいよ、彼のロリコン疑惑が出て参りました。彼29才、お相手16才、確定ですかね。

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