27話 御託はいい
「よし、アルバイトだ。佐代子達の案内はうちの子にやらせよう」
「やったわ」
「佐代子、お前、うちの子に手を出したら瞬殺されるぞ」
「おいおい、そんなのオレが許す訳がねぇだろ」
「ほお、どうやって防ぐんだ。お前なんかあいつに指1本で殺されるぞ」
「オレはこれでも身体を鍛えてんだからよ」
「こっちの奴らはレベル1だと言ったろ。あいつはレベル84でしかも戦闘の講義を5年間も受けた猛者だぞ。しかもミカよりもレベルが高いし、そもそもミカは後衛職、あいつは前衛だ。更に言うなら殺人童貞すら捨てている。そんな相手にどうやって勝つつもりだ」
「レベルだけじゃねぇって事か。しかもそのレベルの違いでそこまで変わるって言うのかよ」
「佐代子、レベル1で84に勝てると思うか」
「無理ね、どうやっても勝てないわ」
「けどよ、この世界には近代兵器だってあるんだぞ」
「あっちの世界には万能身体保護膜があるさ。それに拳銃やライフル程度の攻撃力であいつの身体を壊せると思うなよ。ちなみにオレに怪我をさせたいなら対戦車ミサイルとかエアゾール爆弾持ってこい」
「けどお前、さっき肩掴んだ時、痛そうなツラしてただろ」
「なら、腕相撲してみるか」
「普通はそんなガキに負けるはずはねぇがな」
「ほれ、そこのテーブルでやるぞ」
「オレが負けたら向こうでレベル上げをするが、勝ったら無しだ」
「これから観光やってれば、どうしてもレベルを上げる奴も出て来る。そんな奴とトラブルになったら、お前とかあっさりだぞ。オレはな、オレと関わった奴らに簡単に消えて欲しくねぇんだよ」
「御託はいい、おら、やるぞ」
「さっさとしろよ」
「なん・・だよ・・全然・・動か・・ねぇぞ」
「早くしろ、力をもっと入れようぜ」
「どうなって・・ぐぅぅぅぅ・・くそぅ、これが・・レベルの・・差・・・かよっ」
「まあまあ、ちょっと面白いもの、見せようか。このテーブルだけどよ、こうやって指をつんと」
「んな・・なんで穴が」
「この力ってのは面白い事になっててな、普段は一般人くらいの力なんだが、こうやって意識させると本来の力が出るんだよ」
「そうなのよね、アタシ最初は何か壊すんじゃないかと冷や冷やしてたけど、そんな事も無かったし」
「もういいだろ、終わりにするぞ」
「くそ、そんな涼しいツラして」
「最低でもレベル50、理想は100だな。まあそん時はミカ達にも上げてもらうけどよ」
「アタシが出産するまでに81を超える事ね」
「最初・・そうだな、10か20ぐらいまではパワーしてやるよ。その後は技量を磨きながら50ぐらいを目指し、そっからは場所を変えてひたすらだ」
「序盤にパワーしてくれるならかなり違うかも」
「そうなのか、佐代子」
「私でもやれそうなプランで助かったわ」
「何言ってんのよ、佐代子には弓があるでしょ」
「和弓とか役に立たないでしょ」
「おいおい、いくら中世ヨーロッパ風とは言え、アーチェリーとかより和弓のほうが近いぞ」
「へぇぇ、そうなんだ」
「初期からでもそれなりの武器を揃えてやるが、最終的にはオレが作ってやるよ、お前専用の弓をな」
「そんなに凄いの?」
「アタシの杖もこの人のよ。なんかさ、無くても使えるけどあると凄く楽なのよ」
「そうそう、その杖だけどよ、もうちょいと進化させられるようになったんでな、近いうちに改造すんぞ」
「うえっ、まだ上がるの?」
「その代わり、ちょっと禍々しい雰囲気を纏うかも知れんが、纏うだけで何も無いから心配するな」
「なにそれ、ちょっと怖いんだけど」
「邪神の杖にしてやる」
「このままで良いよ、そんな怪しげなのにしなくて良いって」
「よし、オレが冗談で作った邪神の像を見せてやる・・ほれ」
「うわぁぁぁ、これは怪しいわ・・今にも邪神が出て来そうな雰囲気ね」
「【ゲートオープン】【ゲートクリア】くそ、効かないか」
「それを寄こせ・・ワシに寄こすのだ」
「くそ、【ウィンドカッター】何でだ、くそ」
「ワンパワーなどではどうにもならぬよ、こちらはフルパワー、力の元が全然違うのでな」
《緊急通信だ、キツネさん、変なの出た、勝てない・・おやおや、早速ですか。うん、把握した、ありがとね・・消えた、殺したのか・・いえいえ、ちょっと
こっちに来てもらいました。うん、今の調子で良いから、また何かあったらよろしくね・・ああ、分かったぜ》
「おい、今の奴、どうなったんだ」
「神様みたいな奴に連絡して引き取ってもらった」
「んな、あっさりとかよ」
「言ったろ、人の生死とか自由だと」
「お前でも勝てない相手をあっさり消すのかよ」
「アリと人間と言ったろうが」
「比喩じゃなかったとはな」
「あれはまた別格だ。オレ達とは基本すら違うんだろうな。お前は三輪車、オレは自転車だ。んであいつらは戦闘機か宇宙ロケットだ」
「同じ乗り物でも雲泥って事か」
「少なくとも敵にはならんよ、何故か気に入ってくれてるようだしな」
《何故かって事はないでしょ、これでも君を買ってるんだ。こうやって意識を向けるぐらいにはね》
「今の声はなんだ、頭に響いたぞ」
《僕はこの子の保護者って感じかな。まあ、手助けしてもらってるけど、何かあったら全力で助けるつもりだよ》
「良いのか、違反じゃないのか」
《くすくす、優しいね。うん、本当はダメだけど、内緒だよ》
「ああ、分かったから無理すんな」
《ありがとね。まあ、そういう訳だから。じゃあ》
「とにかく良いな、得意客とか言ってねぇで、あっちでレベルあげろ」
「ああ、上には上ってのがよく分かったぜ」
「さっきの魔法、凄かったね。あいつには通用しなかったけど、ほら、あれが真っ二つ」
「うわ、ヤバいわ、アンタ」
「逃げるぞ」
「おいおい、あれ、県の重要・・」
「行くぞ」
「お、おう・・」
無我夢中で威力も制限せずに思いっきり撃っちまったけど、どうやらヤバい物を斬ったらしい。慌てて逃げ出して、それからエビスの事務所にしけこんだけど、聞けば最近指定された県の重要文化財で、とりあえず県が指定してるけど、そのうち国宝になる予定だったとか言われてもな。もうゴミになっちまったとか、国に絶対言えないだろうし、必死で修復すると共に、犯人の割り出しにどんだけの人員が投入されるか、エビスにも見当が付かないらしい。さすがに金で買えない物の弁償は無理だし、こうなったらとぼけるしかない。どのみち、魔法とか法律外の常識外だから、目の前で見てても関連は付けられないだろうけどな。
「どうやら彼はとんでもないものを斬ってしまったようです」
「何をどっかの跡継ぎ泥棒みたいな事を言ってんのよ」
「ふっ、またつまらぬ・・あいたっ」
「人の事は言う癖に、そう言う事を言わないの」
「染めた奴に言われたくないぞ」
「アンタが勝手に染まったんでしょ、アタシのせいにしないでよ」
「ごめん、悪かったから捨てないで」
「あはは、急にそんな態度、卑怯よ」
「なんだかんだ言っても夫婦なんだな、本当に」
「ミカ、敷いてんのね」
「こういう時だけよ、普段はとっても頼りになる旦那様なのよね」
「いかん、砂糖吐きそうだ」
「うん、胸焼けがするわ」
ちょっとしたハプニングもあったが、何とか旧交を温めて後、それぞれは動き出した。エビスは体外受精の第一人者へのパイプを探りに出かけ、佐代子はミカと今後の事について色々なレクチャーを受けている。かく言うオレもそろそろ動こうと思い、2人を置いて事務所を出た。とりあえずはエビスに住まい関連を任せるとして、こっちでの足場を確立しなきゃならん。エビス達を踏み台に、本格的な観光ツアーを立ち上げるつもりなのだ。永住の条件を限りなく甘くし、その手の趣味持ちをガンガン誘致する。そして人が増えたら土地ももっと買って増築しまくるつもりだ。理想を言うなら領地でももらって日本人の町にしたいと思うが、そんな実績も無いのにそれは無理だ。確かに色々な発明品みたいなのを出してるけど、そんな事で領地とかになるはずもなし、何か事が起こらないと無理だろうけど、そんなの待つような不謹慎な国民のつもりじゃない。これでも国の民の為になるような品も開発してるんだからよ。
とりあえずホテルに陣取って、かつてのブログを一新し、異世界観光ツアーに変えて草案をそっくり載せた。もちろん、チェックの入った箇所は直してある。これで反応を見れば良いとして、後はデモンストレーションかな。染まって知った展示会、もうじきのはずだ。春と夏とかだったし・・ミカのチェックもあるからモノマネはやめて、なるべくオリジナリティを出す事にした。とは言うものの、今までどんだけ出ているか。ありとあらゆる登場人物が居る中で、それとは全く別の新しい存在の構築に、散々頭を悩ませる事になる。結果、どんな格好をしても何かの真似になっていると言われそうで、開き直って素の姿で吸血鬼の格好でお茶を濁す事にした。とは言っても裏地の赤い、黒いマントだけなんだけど。それでも杖とか持ってうろうろすれば、銀髪と赤目でそれっぽく見えそうで・・けど、ワガハイとか言いたくねぇぞ。
「やっておるかね、諸君」
「うわ、何やってんのよ、アンタ」
「うむ、これはな、展示会に行く格好なのだよ」
「あ、そういや、もうじき・・アタシも行くわ」
「私も行くわ、楽しみにしてたのよ」
「ならばそれぞれ、オリジナリティ溢れる格好をしたまえ。真似は禁止だ」
「はぁぁぁ、アンタに言った手前、やれないか」
「私は真似ないほうが気楽だけどさ」
「コスプレにも興味あったんだけど、今回は止めとくわ」
「君はドレスを着るのだ」
「えー何でよ」
「息子の結婚パーティに、慣れない格好で出たくはあるまい」
「あ、そうだったわ、着慣れないと笑われるだけね」
「私はこうして仮装のようでも、ちゃんと正装風にしておるのでな、恐らく問題あるまい」
「反論出来ないわ」
「君もだ、佐代子。なに、ドレスぐらいいくらでも作ればいい。エビスが金をくれるらしいからな」
「そうなの?佐代子」
「うん、お金預かっているらしくてね、合計で15億近くあるはずよ」
「アタシ達からせしめたお金なのね」
「君は身体を提供したのだろう?」
「まあそうだけどさ・・それにしても、妙に言葉遣いが慣れてるわね」
「これでも私は宰相様とも付き合いがあるのだよ。王宮でぞんざいな言葉遣いなど、やれるはずもなかろう」
「それでなのね」
「男爵ともなれば、こういう話し方のほうがかえって目立たないのだよ。こちら風な丁寧語など、仕える側のものだ。命令慣れている口調など、普段から慣れねばやれぬ事。これでも苦労したのだよ」
「ねぇ、佐代子、上流階級の話し方とか分かる?」
「あれで良いんじゃない?ほら、手の甲を口に当てて、おほほほほって」
「それはもしや、大蛇の魔物の名前か」
「アンタも言い方に苦労してるみたいね」
「うむ、私の言動で迷惑を掛ける訳にはいかぬからな」
「え、誰によ」
「手伝いはするが、余りにあちらの事を知られる訳にはいかぬのだ。特に私がキーマンと知られるのは拙い。彼とのコネクトの事など秘匿事項なのでな、本来ならこういう話も拙いのだが、恐らく意識を向けていてくれるはず。危険な言動はガードしてくれていると思われるな」
「お互い気を付けようね」
「という訳で、まずは買い物だ。最初は既製品でも構わぬが、後には仕立ててもらうぞ」
「うん、頑張って着慣れるわ」
「ではさらばだ・・【チェンジ】」
「うわ、コウモリの幻術って器用ね」
「え、幻なの?」
「そうよ、ほらほら」
「くすぐったいぞ」
「あはは、ごめんね」
「科学的に言えば光学迷彩になるのかも知れぬな」
「なんかそんな感じよね」
「勾玉ではなく、銅鏡でもない物のコスプレは禁止だ」
「うぷぷっ、何とかの剣ね、はいはい」
「光学迷彩で連想したのね」
という訳で6月に皆で遊びに行く事になりました。
どうにも井戸端会議が止まらないようです。




