21話 邪神の卵
先日、あの劣化版での、色々な発案に対する報奨金というのを受け取った。別に良かったのに金をくれるらしい。妙に立派な入れ物に入れてくれたのだが、工房で開けてみると黒金貨が100枚入っていた。おいおい、やけに多くないか。白金貨換算1万枚だぞ。オレはてっきり白金貨200枚だとばかり・・多分あのミスリルの車軸と車輪の換算で増えたんだろうけど、あれは進化版でも採用している大型のやつだ。錬金術でたくさん作ったその中の4枚だったんだけど、まとめて作ればお得ってんで、あれはおまけみたいなものなのに。まあいいや、貰った物は有効に活用させてもらおうか。とは言っても黒金貨は今、1900枚あるからな。これでちょうど2000枚ってか。材料費は魔物の素材で賄っているから、金が減らないんだよな。白金貨も8万枚のままだし。減るのは金貨だけど、それも少しずつだ。
たまには動こうと散歩した時に、食い物を色々買っては偽装カバンを経て倉庫に入れているだけ。だから白と黒は増えるばかりと。さて、魔導バイクの開発もするか。燃料タンクの場所に超高純度水晶を設置すれば、モトクロがやれるはずだ。あの道の悪さもモトクロならいけそうだしな。そうと決まれば早速バイク用の魔導エンジンの開発に入る。とは言ってもギア無し無段階になりそうなんだが。マナの量の調節でトルクを変えて、擬似ギアを確立させる方式。これは戦車用の開発で思い付いた方式なんだけど、とりあえずバイクでデータ取りしよう。エンジン特性もかなり分かってきたけど、魔法とのコラボはまだまだ奥が深そうだ。待てよ、オレぐらいのマナがあれば、燃料要らなくないか?・・まあ、水晶を予備にするって手もあるけど、単に走るだけなら不要っぽいな。となると前照灯に使うのと、警笛に使うぐらいか。魔物に対しては【ウィンドカッター】で終了だし。そういうタイプも考えておくとして、ひとまずはノーマル水晶でも使える劣化版も同時進行でやらないと、また献上って話になると拙いからな。
ノーマル水晶でやる場合、羽根車は無理があった。なので劣化版式の新しい駆動方法の確立が急務となり、水魔法の【メルト】を活用しての水圧駆動式という変な方法を確立した。だけどこれは表に出せないな。試しに組んでみたけど、これがまたやけに高トルク。これって戦車用のサブ動力に使えないか?初期駆動を水圧式でやれたら、後は魔導エンジンで取り回せる。そうなるとそこまでのトルクは必要が無くなるって事だから、もっと長時間の駆動もやれそうな・・そうやってひとつの問題から別の問題への解答が導き出され、狩りの事なんてすっかり忘れて、日々工房の主になるのであった。そうなると暇なのが警備とメイド。年棒は確かに確実に支払われているけど、警備はともかくメイドの仕事が無い。最初は部屋の掃除とか庭の掃除とかをやって時間を潰していたのだが、それも終わればやる事が無い。そんな暇なメイド達は相談の上、工房に仕事伺いに来る事になった。
「え、仕事?」
「はい、何か無いと暇で暇で」
「別に良いよ、買い物とか適当に遊んでいなよ」
「いえ、さすがにそういう訳にも」
「ならさ、勉強をするとかさ」
「勉強・・ですか」
「うん、言葉の判らない人に教える練習とか、ちょっと難しい計算をやれるようになるとか、そのうち忙しくなると思うからさ、今の内に色々と技能を身に付けておくって手もあるよ」
「本当にそんな事をしていて良いのですか」
「メイドが賢くなるってお得だよね」
「分かりました。皆で色々とやってみます」
「何か欲しい物があったら言ってくれれば金は出すから、書物とか何か遠慮は無用だよ」
「はい、ありがとうございます」
「まあこれ、当座の資金って事で。余ったら貯めておいて、何かあった時に使いなよ」
「はい、ではお預かりします」
「うん、じゃあ頑張って」
「はい」
えと、何処まで進んだかな。ああ、これだった。よしよし、ここをこうして・・
(どうだった、何か仕事くれた?・・そのうち忙しくなるから今の内に色々と技能を勉強しておけって・・本当に変わった雇い主よねぇ。そんな事、普通はやってくれないよ・・それに、何か書物とか欲しいならって、お金を預かってきたわ・・いくらよ・・えっと、うわわわ・・どうしたの・・く、くろ、い・・うえっ、まさか、あの幻の・・初めて見たわ、こんなお金・・うわぁ、本当に黒いんだね・・てかこれ何枚入っているのよ・・凄い数よ、これ・・100枚って金貨だと何枚になるんだろ・・早速計算ね・・それ良いかも・・ええと・・)
ああ、報奨金の袋、そのまま渡しちまったな。まあ良いけど・・よし、これでこいつを・・(金貨にして100万枚って、とんでもないわ・・本気で私達を信用してくれてるのね・・裏切れないわね・・もちろんよ。さあ、手分けして勉強しましょ・・うん、忙しくなっても困らないように、何でも出来るメイドを目指すのよ・・おおおっ)
ミカ達が卒業するまで後1年。現在、魔導戦車の進捗率80%、魔導航空機の進捗率75%、魔導バイクはもうじき完成で、魔導馬車の進化版が90%なんだけど、水晶の数をもっと増やしたほうが良いような気がしている。確かに現行の2個でも余るぐらいなんだけど、現在のマナ量が76万余りになっちまって、1個充填するのに5日で済むようになってきた。ただし、錬金術もやっているから1週間ぐらいは掛かる。それでも以前よりは早くなっている。なので年間充填数は52個から53個ってぐらいになり、在庫の数も158個になっている。そんな事もあり、数搭載を考えている訳だ。ちなみに10個搭載すれば連続運行時間は5倍に延びる。当初最大出力で7時間だったが、低燃費を目指して10時間ぐらいに延びている。だがこれで5倍の搭載にすれば連続50時間になる訳だ。最大出力で2日なら、巡航運転ではその倍はいける。となると4日だ。ううむ、足りないかな。そんなこんなで行き詰まりを見せていた頃、何の気無しに充填済みの水晶を弄んでいて、充填したまま粉砕したらどうなるのかと気になりはじめた。恐らくマナが飛散するだろうと、ダメ元で壊してみたところ、妙に力を感じる粉になっちまった。これを再度錬金したらどうなるのかと、こうなったらやってみるしかない。そう考えて錬金しようと思ったが、滅茶苦茶激しい消費を覚え、思わず他の充填済みの水晶から抜く羽目になる。抜きながら錬金、尽きてまた別の水晶と、やり始めたら止められない恐怖の錬金となり、完成した頃には7つの充填済みが空になってしまっていた。そして・・完成した物体なのだが、どうにも水晶らしくない。通常の人工水晶は白色半透明て、純度を高めていくに従い、その透明度は高くなっていく。そして充填すると妙に艶やかな透明度となり、充填してあるかどうかの区別は付くようになっている。それなのにこの粉末にして再錬金した物体は、ちょっと金属質なのだ。まるで元素変換したかのような・・もしこれが金属と言うなら、全く未知の金属って事になる。
これは一体、どんな物質なのか。更にはその大きさも小さいのだ。ボーリング球クラスの大きさのはずが、今では一回り小さいのだ。限界まで純度を上げたはずの物体が、こんな事になって減るとは普通、考えられない。バスケットボールの球がハンドボールの球になった感じだ。黒い物質の正体を調べようと思い、色々と考えていてハッと気付く。これって黒金貨の材料とそっくりじゃないかって。あの黒金貨ってどうやって作っているんだろう。白金貨にしてもプラチナなんだし、そう簡単に溶ける金属じゃない。しかもその上のクラスの金属とか、魔法でも相当に強力なものを使わないと無理なはずだ。興味は止まらず、思い余って宰相さんに聞いてみる事になる。
「あれはな、神の造りし硬貨と言われておってな、どのような金属なのか判らぬのだよ」
「じゃあどうやって数を揃えてるんですか」
「いにしえの伝承になるがの、国造りし時、神より黒き貨幣を賜れり。恭しくも白き貨幣の上位に位置すべきと、宝として蔵に収めるべしと言うのが残っておってな、当時は宝物庫に大量にあったそうなのだ」
「建国のお祝いに神様にもらったって事なんですかね」
「うむ、恐らくはそうなのだろうが、その数もかなり減っていてな、まだまだありはするが、おいそれと出す訳にもいかん。だからあれは国庫として交換によって出す事に決まったのだ」
「じゃあ今の宝物庫には白金貨がわんさかに」
「それもまた金貨によって交換する事になっていてな、その金貨も宝物と交換と。すなわち、宝物庫には宝物が大量に収まる事になるのだ」
「お手数かけました」
「納得したかな」
「はい、ありがとうございます」
「うむうむ、また困った事があれば、何時でも来るが良い」
「はい」
結局、まともには分からなかったな。ううむ、こいつをこのまま錬金して、黒金貨にしてみようか。偽金造りみたいだけど、誰にも作れないのなら贋作とは思われないはず。よし、物は試しと・・再構築してみたら、なんと2万枚も作れた。50日分の充填分は無駄になったけど、こんな贋作造りな結果になっちまうとは。比べてみるのに区別が付かない。これヤバい、メチャヤバい。うん、そのまま倉庫に死蔵しとこう。ポッポナイナイ。無かった事にして死蔵する事に決め、改めて再度粉にするのであった。いや、別に味をしめた訳じゃないよ。うっかり贋作に走っちまったけど、あれはあくまでも充填して使う物。あれの含有量を調べる前に錬金しちまったから、再度検証用に造ろうと思っただけだ。そしてまた7個の充填済みを空にして同じ黒い球が完成する。改めて見ると禍々しい程の含有量を感じるうえに、まだ入りそうな感じなのだ。仮定として、使用したマナが全て内蔵されたとして、2660万のマナを使い、380万の球の粉砕を錬金した訳だ。なのでそれを足した数値は、3040万となる。これにどれだけ更に入るのかを調べようと、またしても充填済みの水晶球から抜きながらステータスで確かめながら充填していく。禍々しさは更に強くなり、妙に鈍い輝きを帯びてくる。もうこれ以上は無理ってぐらいに詰めた時の、総魔力量は実に7600万という膨大な量となる。妙につやつやとして不気味に鈍く光る球になったが、これもポッポナイナイ・・邪神の卵と言っても皆信じそうな球になっちまった。やれやれ・・どうにも表に出したら魔王扱いされそうな研究結果になっちまったな。これは封印だな・・一応名前だけ付けておこう。うん、そのまま邪神の卵だ。それ以外に形容のしようがない。
新展開じゃなくて済みません。




