20話 ボォォォォォ
宰相さんはまるでスキップでもしそうな勢いですぐさまやって来た。それと共に隊長さんとミーツさんも来て、珍しそうに見ている。念の為にと乗る前に色々と説明をし、人工水晶のくだりでは興味深い目をした。あの、錬金術師の練習用にしか需要の無い物の利用方法に付いて、こういう乗り物に使用する利点に付いて頭が働いたのだろう。なので40個搭載している事を告げ、それによって数日動かせる事と、馬と違って休ませる必要もなく、魔物に脅える事もなく、本体さえ守ればすぐに動かす事が出来、また魔物に狙われる存在も居ないと。確かに馬車の本体を食う魔物など聞いた事も無く、馬なら食われてもこれを食う魔物は居ないと誰もが思ったようだ。そして更に各部の説明を経て、どうやって動いているのかを皆が理解するまでに至る。知ってみれば造れそうな代物であり、王宮でも研究が進むかも知れない。宰相さんもこれはうちでも作らせてみようかと呟き、今日の乗り心地次第では本当にそうなりそうな感じだった。そしていよいよ試乗となる。隊長さんとミーツさんには後のドアを開き、乗り込んでもらって左右の椅子に座ってもらう。小窓は通常では風が入るようになっていて、寒い時にはこれを押してくれと、【シールド】の魔導具の発動ボタンを見せると共に、何が発動するのかを説明した。説明するたびに宰相さんが妙に感心しているのが印象に残ったが、この劣化版の設備は全て公開するつもりでいたので、献上しても構わないつもりで造ってある。後は天井の光魔法の【ライト】の存在。これの起動ボタンの説明もやり、暗いと思ったら使ってくれと説明した。そうやって出発前の色々な説明により、未知の乗り物という感じが薄れ、魔法によって動く乗り物という理解の元に、いよいよ駆動を開始した。
この劣化版は馬力は小さいものの、それを補う前4速、後ろ1速になっており、
羽根車を工夫する事により、トルクは高いが速度は遅い1速から、トルクは低いものの、速度は速めの4速にまで切り替える事で何とか走るようになった。後は、制動に付いても普通の制動は後ろだけ、急制動で前後の軸に制動をかける方式になっており、事故対策になっている。劣化版とは言うものの、そういう必要な措置は行っており、だからこそ誤魔化せると思っている。後1つ、警笛の音が情けなかったので、重低音のラッパを採用した。以前はプップーって玩具の車みたいな音だったんだけど、これにはボーって汽笛みたいな音が出るようにしてある。昔、向こうで見たトラック映画のあの音を参考にしてあるんだけど、知らない人達だから意味が無かったかも・・
「宰相様、これを引っ張ってもらえますか」
「これは何だ」
「引くと音が出ます。前に進むのに人にぶつかると大変なので、音で避けてもらうんです」
「ほお、成程な」
「今の馬車にもこういうのがあると良いかと」
「うむ、確かにそうだな。よし、では引いてみるぞ」
「はい」
『ボォォォォォ』
「おおお、これは凄いな。前に居た者達が慌てて避けたな」
「では行きます」
「うむ、前に人が来れば引けば良いのだな」
「はい、お願いします」
「任せるがいい」
そうして宰相さんは、妙に楽しそうに人が前に来るたびに紐を引く。王都の道をあちこち移動しながら、時々ボォォォ・・と、そんな音をさせている。そのうちに外に出てみたいと言うので、門を潜って外に出る。今まではのんびりだったが、これからは少し速度を上げるとしようか。
「おお、まだ速くなるのか、意外と速いな」
「馬の場合は急に止まる事は無理ですよね」
「うむ、だからこそ事故になるのだ。この音の出る物は実に良い」
「ちょっと前に手を着いて居てくれますか」
「どうするのだ」
「後の人達も、横にある棒を掴んでいてください」
「何かやるんだな」
「良いですよ」
「馬ではやれない事をやります。例えば目の前にいきなり人が飛び出て来たと想定して。いきますよ」
「うむ」
『急制動』
「おおおお、これは」
「うっく、これは凄いな」
「身体が前に・・」
「どうです、すぐに止まったでしょ」
「これは素晴らしいな。こんなに急に止まれれば轢かれる者も居なくなろう」
「馬でも棹立ちにさせれば可能だとは思いますが、これは何度やっても問題ありません。馬に何度も棹立ちをさせては疲れるだけですけどね」
「確かにな。だからそのような事はさせられんが、これなら容易くやれるか」
「これ、献上しましょうか」
「うむむ、本当に良いのか」
「便利になったほうが良いですし」
「確かにありがたいが、本当に構わぬのか」
「はい」
「だが、人工とは言え、40個となれば最低でも白金貨200枚は掛かっておろう」
「それは例の盗賊の件で」
「あれは正当なる物だ。うむ、なればの、王宮で買い取ろうの」
「それで宜しいんですか」
「構わぬよ。このような画期的な代物など、望んでもそう簡単には得られはせぬ。特に貴族連中が持っておれば、莫大な価格での押し売りのような真似を平気でしおる。それから比べれば何程の事もあるまい」
「では材料費だけで」
「心配するでない。ちゃんと調べるでな」
「はい」
それから水晶の交換方法も教え、充填しての交換なら城で充填して貯めておけば、必要で連続で何日でも使えると伝えておく。そして近隣を巡りながら王都に戻って王宮前に着く。宰相さんは早速、役人を呼んであれこれと指示を出していて、隊長さんとミーツさんは珍しい体験が出来たと嬉しそうだった。なので、今後は王宮でも研究が進めば、こんな乗り物が多くなるかも知れないですねと・・
ふうっ、何とか誤魔化せたようだな。こんな劣化版でも画期的って言うぐらいだ。魔導エンジンなど見せれば大変な事になるな。とりあえずその日は劣化版を渡して終わりとなり、徒歩で工房まで戻る。その途中、色々と構想を練っていたのだが、ふと洒落で魔導戦車とか、魔導航空機とかを作って山の中で駆動させて遊んでみようかと思い付く。そうなると早速、開発するのは戦車用と航空機用魔導エンジン。トルクを重視した戦車用と、高速回転を重視した航空機用の開発に進み、試算では戦車に2基、航空機に4基で何とかなりそうな感じになった。こういうのを考えてると寝食を忘れると言うか、倉庫の中のメシで済ませると言うか、食いながら開発をすると言うか。設計事務所に勤めていた頃を思い出すな。あの頃もおにぎり片手に資料を読んで、設計しては試行錯誤してと・・オレってこういうのが向いているのかも知れんな。
(ほお、そのような者がの・・ははっ、なので高価にて買い取り、あやつの研究費の足しにしてやりとう思いまして・・サイオン、おぬしは知っておるか・・ははっ、彼の妻子が学院に通っておりますれば・・妻子?・・あやつは親を例の盗賊討伐で喪っておりますれば、残されし者達での縁結びと養子女であろうかと・・成程の・・ははっ、妻は20、子は18と12の双子なれば・・確かに養子女だの・・後、養子女は獣人でございます・・何と、そのような者が魔術学院で何をすると言うのじゃ・・それが珍しき事に魔法が使えるのでございます・・何とっ、それはまた珍しいの・・なればこそ、彼はその才を伸ばさんと思い、学院にて学ばせようと思うたのでは無いかと推察致しまする・・ほんに善き心根の者じゃの・・ははっ、なればこそ・・そやつを名誉男爵にしてはどうじゃ・・これはまた・・何、考えあっての事よ。分かるか、サイオン・・保護、でござりましょう・・うむ、いかにもじゃ・・成程、確かにいかに獣人とは言え、男爵の養子女なればそう容易く手を出す訳には・・先日の件もある。王都民なればこその法外なる訴えも、相手が同じ貴族となればそうはゆかぬ・・確かに、双方の言い分を聞く事になりますれば、あのような訴えなど身を滅ぼすようなもの・・うむ、ではそれで良いの・・ははっ・・後の、それは献上という事にしての、様々な考案に対しての褒章とすれば良かろう・・ははっ、畏まりましてござります)
後日、あれは献上になったと言われ、その功績で名誉男爵になったと告げられた。何かの裏取引があったらしい。もしかしたらフェンリル達の件かな。王都民の養子女でも少し違うが、名誉でも男爵の養子女となれば、そこらの平民どころか王都民でも手は出せない。それが格上の伯爵だとしても、同じ貴族になるから一方的な訴えはやれなくなる。うん、それでこういう事にしたんだな。かなり好意的に受け取られているようだが、盗賊の討伐の件が元になっているんたけど、何処の田舎にすればいい。ううむ、放浪の一族みたいにして、遭遇しての殲滅戦で双方共に大ダメージと。そこであらかた討伐されて怪我人続出での夜にでも夜襲をかけて討伐に成功したって事にするか。魔法が使える獣人が居ればこそって事にすれば、更にあいつらに箔が付く。男爵の養子女だけでなく、盗賊の討伐にも関われば、そう簡単に手は出せないぞ。なんせ国軍討伐一歩手前ぐらいの大物盗賊団の討伐に関わった獣人達って事になるからな。よし、ミカに【思考通信】して話を合わせるように伝えておこう。それはそれとして、襲名式とかがあるらしいんだけど。あれ、襲名式だったっけ?それって○暴さんの代替わりの式だったような。さり気なく隣のローさんに聞いたら授爵だった。生まれも育ちも一般市民だから、そういうの聞き覚えの無い言葉は覚えられなかったみたいだ。さて、そうと決まれば服を借りないと。
またミーツさんに借りようとしたら、作れと言われてしまった。名誉とは言え、貴族になるのなら服の1着や2着は持っていて当たり前なのだと。後、苗字を何とかしろと言われてもな。元々全て偽名だし。まさか今から青山を出す訳にもいかんし、かと言って・・ううむ、弱ったな、どうしよう。待てよ、青山だよな。おおお、これが良い、決まりだ。よし、今日からオレは、セガール=ブルマンだ。ううう、なんか珈琲が飲みたくなってきたな。どっかに無いかな。珈琲としては使われてなくて、開発して独占して、ブランドとしてブルマンって、クククッ。文句があるなら異世界まで文句を言いに来いってなもんだ。よしっ、またひとつ、未来への構想が出来たな。探そう珈琲豆ってか。
「ええええ、ちょっとマジ?」
「なんだ、゜男爵夫人」
「うわわわわ、凄い凄い」
「そういう訳で、不相応だった屋敷も相応になりそうな勢いだ」
「え、屋敷とか作ってたの?」
「確かに王都民の区域だけど名誉男爵だから、特に領地とかある訳でもないから構わないそうだ。てか、上の土地に争って住みたい者達が多いぐらいで、下に住むのは自由らしいな」
「卒業が楽しみになってきたわ」
「研究の目処は付いたのか」
「うん、お陰様で」
「あれ、ヤバい代物だから、研究が終わったら返却を求めろよ」
「やっぱりそうなのね」
「お前でもMPが5万超えてるだろうが」
「うん、極秘にしてるけど、バレないって変よね」
「そこはファミリー特約でのチート偽装だ」
「あははは、それは凄いわ」
「どうやらシステム外のスキルらしい」
「とんでもない恩恵もあったものね」
「なのに、ちょっとした、とか言うんだぜ」
「うはぁぁ、なんか雲の上に存在って感じよね」
「オレ達には所詮、窺い知れない存在なんだろうな」
「そうみたいね」
「ああそれでな、苗字が付いたから」
「え、まさか、アンタが考えたの?」
「そうだけど」
「うえええええ、ねねね、修正は効かないよね、まさか」
「もう登録されたから無理だぞ」
「はぁぁぁ、付ける前に聞きなさいよ」
「少し考えてたけど、いきなり閃いてな、即座に決定して申請したんだ」
「それで、どんな珍妙な苗字になったの?」
「信用無いなぁ」
「ある訳無いじゃない。ミーとクーにミケとタマって付けようとしたの、まだ覚えてるんだからね」
「あれで鍛えられたろ。だからな、かなり気に入ってんだ、今の苗字」
「それでどんな苗字よ」
「その前にオレのあっちでの本名を教えてやる」
「え、何か関係あるの?」
「青山祐二だ」
「うえっ、まさか、付けた苗字って・・」
「世界で探そう珈琲豆」
「あははははは、やっぱり」
「独占してブランドにしようぜ」
「本場に文句言われそうね」
「言えは良いさ、異世界まで来てよ」
「出た、必殺、開き直り」
「てな訳で、ブルマンな」
「あ、そっちのほうね。なら良いかも」
「誰がブルーマウンテンなんて変な苗字にするよ」
「あはは、ごめんごめん」
珈琲好きには無い世界は辛そうです。




