表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改訂版 異世界ツアー  作者: 黒田明人
3章 異世界・王都編
20/45

19話 スイッチオン


ちょっとしたトラブルもあったが、ローさんの話し合いも終わり、また別の荷物を積んで王都に戻る事になる。領主さんはそのまま水びたしになったらしく、着替えている間に門を抜けた。


オレには無理だったな。さすがに基礎知識の無い奴に、噛み砕いて説明する事は。あれがもし、車の専門家ならやれたかも知れんが、オレには無理だった。ただでさえ試行錯誤でやってんのに、それの説明とかいちいちやってられるかよ。


そもそも、あいつに説明する義務とかあるのかよ、本当に。まあ、文句があるなら王都の工房まで来いってなもんだ。お、天候悪化か、きたきた。周囲が薄暗くなり、ぽつりぽつりと雨が降り出す。レバーを倒すと水管に対して圧力が掛かり、後方から屋根が前に進んでくる。中々調子が良いような水魔法【メルト】わざわざ補助の為に開発しただけの事はある。屋根が前面まで覆い、雨避けになる。次は下から雨避けのガラスのせり出しテストだな。次のレバーでまた【メルト】発動。左右のレールに導かれ、ミスリルの針金で強化したガラスが斜めにせり出してくる。目一杯上がったらストッパーで止めて、雨が強くなるのを待つ。


「これは凄いね。雨が降り出してどうしようかと思ったけど、こんな仕組みも作ってあるんだね」

「試作品だから色々組み込んであるんだ。本当はもっと洗練させたいんだけど、今はこれが精一杯だよ」

「いやいや、充分に凄いよ。でも、前が見え難いね。雨がくっ付いてしまうんだね」

「雨対策その3・・スイッチオン」

「これは・・水を押し流し?いや、吹き飛ばしているのかい」

「正解。風の魔法で吹き飛ばしているんだ」

「本当に色々な事を想定しているんだね」

「ただ、道が悪いから雨が降るとぬかるみになるのが辛いな」

「さすがにそれはきつそうだね。でも、妙に安定してるって言うか」

「そりゃ車輪が大きいからさ。小さいと泥で身動きが出来なくなるけど、こいつは人間の背丈ぐらいあるだろ」

「その為なのかい。やけに大きな車輪だとは思ったけど」

「しかもその車輪の幅が10センチもあるからね、そう簡単には潜らないよ」

「ボクもこういう乗り物が欲しいね。これなら何があっても困る事が無さそうだ」

「将来的にはそうなるかも知れないけど、まだまだ時間が掛かりそうだよ」

「うん、何時の日にかそうなればそれで良いよ」

「ちょっと前が暗いな。よし、前照灯、スイッチオン」

「くすくす、明かりまで付いているのかい、呆れたね」


これだけ負荷を掛けたら、良いテストになりそうだ。この結果を踏まえて進化させていかないと・・


その頃、遥か後方で領主率いる騎士団の一行が、追いかけようとして突然の雨に往生してぬかるみに嵌まり、落馬して大騒動になっている事など知る由もなかった。


彼らは領主の命令でこの魔導馬車を追いかけており、普通の馬車のつもりですぐに追い付くと思っていたらしい。ところが速度の違いから追い付くどころか離されているなどとは思いもよらず、中々見えない事に焦り、雨が降るのに無理をして早駆けをした結果、馬が足を滑らせてつまづく感じになり、その勢いで領主が投げ出されて馬に踏まれて重傷になり、慌てて制動しようとして騎士団の一行が揉みくちゃになり、次々と落馬する羽目になった事など一切知る事はなかった。


そんな自業自得のような事故を、オレのせいにされて王宮に訴えられるなど、全く知る由も無かったのである。オレは工房に戻って彼の荷物を降ろし、中に引き入れてあちこちのダメージの確認や、使用MP量の調査、部品の磨耗度など、色々な検分を数日かけてやっており、その最中に王宮からの呼び出しがあり、衛兵に連れられて王宮に出頭して初めて、その事故の事を知らされる事になった。


今回の件はオレを捕縛しようとしてオレが仕掛けた罠に嵌まって領主が重傷になったと訴えられており、いかに王都民と言えども貴族相手の策謀と言う事での呼び出しと言うか捕縛のつもりでいたらしい。ところが宰相がオレの事を知っており、それはおかしいのではないかと言う話になり、事件の調査の為に本人を呼び出して詳しい話を聞くという事になったらしい。


宰相と言えば以前、土地購入の時に何故か役人の代わりに相対していた人であり、それが偶然か気まぐれかは知らないが、それで捕縛が止まった事はありがたいと思い、ありのままに話す事になった。領主を投げた件は少々問題があるとしたものの、専門的な知識を噛み砕いて丁寧に話すも通じずのくだりでは苦笑いとなり、挙句の果てに理解が出来ないのを何かのイタズラか何かのように思い込んでの暴言など、領主としてあるまじき言動の数々。


大体、王都の民の所有物の説明など、彼の範疇を超えており、そんな義務など無いものを、まるであるかのように思わせての今回の事件。更には勝手な思い込みで勝手に追いかけて、勝手に転んで勝手に怪我をした事を、あたかもこちらが何かをしてそうなったかのように訴えるなど、言語道断だと宰相さんは言い、そう言う事なら悪いのは相手だ。お前さんは気にする事はないと、擁護してくれたのである。


ただ、話がそれで終わっていれば万々歳だったのだが、そこから先は妙なことになった。


馬で追い付けない乗り物について興味を持たれ、それを是非見てみたいと言われたのである。試作品なので現在、色々な修理などをしており、まだまだ動かせる状態に無いと言ったものの、動かせるようになったら教えよと言われては嫌だとは言えず、仕方なく宰相さんに披露する羽目になったのである・・


まさか乗せてくれとは言わないだろうな。まあ、乗せるのは良いけど、献上しろとは言わないだろうな。さすがにまだまだ研究段階なのに、これを献上したら研究が止まっちまう。しかも門外不出の超高純度人工水晶の存在が明るみに出るのは拙い。


確かにミカにはあげたけど、入手先秘匿の約束をしてある。しかもあそこは研究の学び舎であり、外部には簡単に漏れる事もあるまい。だけど王宮で調査でもされてそれが見つかれば、不特定多数がそれを知る事になる。そんな事になったらその製法を教えろとかいう事になり、教えたらオレの偽装MP量が表に出る可能性もある。更にはそんなスキルの存在が知られる事になれば、折角の王都民の立場すら捨てて山に篭らなくてはならなくなる。


オレはなるべく表に出ずに動きたいのに、そんなのがバレたらそれこそ、魔王扱いされかねない。んで、あの水晶でミカの研究結果が応用されたら、望んでも無い他の世界の人間を拉致する企みに利用される事になりかねない。


しかもそれでその気になられ、攻撃なんかされたらウザくて仕方が無いし、研究とかしている暇も無くなれば、オレは本気で魔王になるぞ。頼むからそんな事にならないでくれよ。オレは世界を嫌いたくないんだからよ。


散々考えた挙句、劣化版を造る事にした。すなわち、通常の人工水晶を多数使った魔導馬車であり、魔導エンジンではなく、主軸に羽根車を付けて、それを風の魔法で回すという、かなり原始的な駆動方法でお茶を濁そうという計画を思い付いた。


最低限の必要量を計算してみると、何とか40個ぐらい積み込めば動かせると分かり、早速、軽量化をして大量に積み込む為のゲージなどを作成し、荷物はまともに積めないが、とりあえず数人ぐらいは乗せて走れそうな乗り物の製作に取り掛かった。試作品が大型バス半分強の大きさとすれば、今回の劣化版はミニバンクラスの小さなもの。


しかもそれにボーリングの玉クラスの水晶球を40個も積み込む事でかなり場所を取る事になり、搭乗人員は相当少ない事になりそうだった。ざっくりと組んでみたところ、運転手とその助手の場所は確保出来たものの、後部は雑魚寝で2人、椅子を置いても4人が精々で、荷物などは殆ど積めないという情けない有様になっていた。それでもそれを小型軽量化と誤魔化す気満々なので、何とか通じてくれれば良いと思っている。


試作品からの進化版を造りながら劣化版を造るという、相反する作業を平行してやっており、その関係で新たな発案なども出て来て、進化版のほうはかなりの改良が加えられた。特にガラス製品の重量と脆さを鑑み、それをいかに減らすかという問題をクリアした事が大きかった。


ガラスという、振動や破損に弱い物質を使用する事による弊害もあり、代替品の開発を考えていた矢先、一般的風魔法の【シールド】を活用すれば問題が無くなると気付き、それを発生させる魔導具の開発をして組み込んだところ、水魔法の【ミニウォーター】でホースからの放水のような水流にも見事耐え、充分に実用的であるとの結果を得た。


しかも魔法による雨対策なので、水がくっ付くという弊害もなく、視界のクリアさも同時に得る事になる。同様に後部座席の横の小窓もそれを活用し、天井の明り取りの小窓にも活用し、超高純度人工水晶を2個に増やす事になりはしたものの、ガラスという重くて脆い物質を除外する事に成功し、かえって重量は軽減されたのである。これらの結果を踏まえ、劣化版のほうにもその技術を組み込み、前面のガードは【シールド】を活用する事に決めた。それと共に、運転席の屋根もそれを使う事にして、可動屋根すら撤廃に成功する。


確かに使用MPは多いが、さすがに2個備え付ければ容量は足りる。しかも、予備に更に2個積み込めば長期の運用にも耐えられそうな勢いとなり、ますますの進化が予測されたところでその研究は停止させ、劣化版に主力を注ぐ事になる。


あれから数ヶ月、さすがにそろそろ持って行かないと、相手も焦れる頃だろうと思ったのだ。そしていよいよ今日、劣化版魔導馬車で王宮方面へ向けて移動を開始する。中央広場前で停車して、傍の衛兵に言伝をして宰相さんに伝えてもらう事になる。衛兵に言えば伝わるから、動かせるようになったら教えよと、そう言われているからである。


「おい、ここに止めたらいかん」

「宰相様に言伝をお願いします」

「何だと、そんな事が出来るか」

「でも、本人がそうしろと・・」

「お前、いい加減な事を・・バシッ・・あいた、何するんですか、隊長」

「お、やっと直ったのか。宰相様は首を長くして待っておられたぞ」

「はい、何とか乗せられるようになりまして」

「おお、それでな、何人ぐらい乗れるんだ」

「私と宰相様と、後数人です」

「よし、オレも乗るからな。後、そうだな、こいつはダメだ。お前に偉そうにしたからな。よし、ミーツの奴を呼んでやろう。ほら、お前に礼服を貸した奴だ」

「そうですね、2人ならいけると思います」

「よーし、決まりだ。宰相様とミーツを呼んで来るからな、少し待ってろよ」

「はい」

「こんなものの何処が良いんすか、隊長」

「お前もバカだな。何処に馬が居るんだよ」

「あれ、そういや、何で動くんだ、これ」

「ふっふっふっ、こいつは画期的な馬要らずの馬車だ。そんな物に乗れるチャンスなど、滅多にあると思うなよ」

「そんなぁ・・」


いよいよ劣化版での誤魔化しスタートです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ