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ニート生活へようこそ。

作者: らすく

 突然だがっ!! 君は仕事が好きか?

 私は嫌いだっ!! 出来ればゲームやマンガ、ラノベを読みながらグータラして生きたいっ!


 ……だが、生きるにも、ゲームを買うにも、マンガやラノベを買うにも金がいる。その為には金を稼ぐ必要があるわけであり、仕事をしなければ金を稼ぐことが出来ない。


 仕事→給料→散財→仕事→給料→散財

 一般的に、このループから抜け出すことは一生出来ない。

 もちろん私もその1人だった。

 大学卒業に合わせて家を追い出され、OLとして5年。せっせこせっせこ働いたが、預金残高が7桁を超えることはない。あ、年を数えるんじゃないぞ? 数えたらグーで殴るからな。


 そうそう、名乗りもまだだったな。私の名前は羽入(はにゅう) 讃良(ささら)、生物学上は女だ。身長158cm体重51……いや一応女の身、伏せておこう。年齢は……肌の曲がり角と言えば分かるだろう?……こら、画面を上にスクロールして計算するんじゃない。

 趣味はゲームとマンガとラノベ、典型的なオタクだ。好きな物は可愛い物。嫌いな事は働く事。何とか働かないで生活出来ないか考えてうん十年。まあ、要約すればどこにでもいる普通のOLだ。


 ん? そんなに働くのが嫌なら、親の脛をかじってニートや結婚して専業主婦があるだろう?

 ……そんなもん……出来るならとうにしてるわっ!!


 親の脛は……昔かじろうとしたが殴られた。信じられるか? 18の娘が甘えた声で

「父さん、私ずーっと父さんのそばに居たい。だから、ずーっと養ってね♪」

 とハートマークまで飛ばしておねだりしたら殴られた。しかもグーで!

 そこは「しょうがないなぁ。」とデレて養ってくれるべきだろう? そう思わないか?


 結婚は……無理だな。

 まず相手が居ない。次に出会いが無い。最後に今時専業主婦は無理。の三拍子。はなっから諦めてる。


 庶民だから仕方ない。私もそう思い、諦めかけて居た……諦めていたっ!!

 っだが!! 神は私を見捨てなかった! 私は庶民を脱したのだ!!


 凄いだろう? 羨ましいだろう? さぁ、嫉妬するが良い!! 羨望の眼差しで讃えるが良いっ!!

 ……言い過ぎた。スマン。


 早い話、大金が手に入った……いや、入る予定だ。


 始まりはコンビニでの出会い……赤い筐体の憎いやつ。

 いつものようにダブルクリームエクレアを買いに行った際、ふと目に入った6億円の文字。神の啓示に誘われるまま、6つの数字を入力したさ……


 まさかそれが当たると思うかい? 普通なら当たらないと答えるだろう? だが! 私は当たった!! 当たったのだ!!


 たかが紙に6つの数字を書いただけで最高金額6億円があたったのだっっっっっ!! くぅわせtvdjrなam'gふじこ

 ……失敬、ちょっとトリップしてたわ。


 まぁ、私も小市民。最初は信じられなかった。

 だが、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も確認したが、間違いなかった。


 確認の為、丸一日部屋に篭ったが間違いなかった。

 狂喜して何度も叫び声を上げたらしく、警察を呼ばれてしまったが間違いなかった。

 夢では無い、夢では無いのだよ明智君。フハハハハ。


 後はこれを換金するだけっ。換金するだけで私は大金持ちなのさっ!! ヒャッホー!!


 一般庶民からジョブチェンジし、ブルジョアジーになれるのだ!

 さようなら庶民!! こんにちはセレブ!!


 今日!! 私は大金持ちになるっ!!


 俺……帰ったらマンション買ってニートになるんだっ!! マンガとゲームとラノベに囲まれて退廃的な生活を手に入れるんだっ!!

 なんてねっ! なんてねっ! なんてねっ! なぁんてねー。


 ……ふっ、つい嬉しすぎて死亡フラグ立てちまったよ。


 さてと、早速換金に……

 ……いや、待てよ?

 確か当選がバレると急に親戚が増えたり、友達が増えるんだったな……


 よし、変装して行こう。


 これは私が稼いだ金だ。何人たりとて1円も渡さん!!

 まず帽子。

 何時もの可愛らしい帽子だと私とバレるよな? ここは去年買った福袋に入っていたシルクハットを被ろう。

 これなら髪を帽子の中に入れられるから、特徴的な長髪も隠せるな。


 ん~、変装ならサングラスも定番だよな?

 サングラス……サングラス……持ってたっけか? ……ああ、あったあった。これも福袋で手に入れてたっけ。

 レンズ部分がハートの形だがサングラスに変わりはない。これをつけてっと。


 あとはマスクか……いつものマスクだと私ってバレるよな?

 確かガーゼタイプのマスクがこの辺に……っと、あったあった。


 っ!?


 そうだ、服!! 服も変えないと!

 何から足が付くか分からない……服も私が普段着ないようなのにしないとっ!!

 ……取り敢えず明るい色合いの服はNGだ。いつものスカートルックもやめた方が良い。

 ……確か、福袋の中に燕尾服が入って居たな? よし、それを採用。

 色合いが黒でパンツルック。これなら誰も私とは分からない。それに大金を受け取るのだ。正装に越したことはない。私ってばあったまいー。


 あとは口調だな。いつもの女性らしい話し方は辞め、本来の口調を使おう。

 素で話すと女らしくないと言われつづけてうん十年。最近は女の子♪な口調を使えるようになったが、今の私は変装中。

 そうっ!! 羽入 讃良ではなく、燕尾仮面なのだっ!!


 いざっ!! 出陣っ!!


 ガチャッ




 NO……

 部屋を出た一歩目……いや、部屋を出る前に野望は潰えたよママン……

 目の前に居るのは、とても良く世話になっている人……そう、母さんが立っていた。


「母さんっ!?」


 なぜ……ここに!? はっ!? まさか大金の匂いを感じ取って!?

 いやっ、まてまてまてまて。母に限り、そんな心配はいらない。

 これが父なら全力で殴り倒し、布団でくるんで地面に放置しなければならないところだが、母は違う。


「讃良ちゃん、お出かけだった?」


 小首をかしげて、聞いて来る。さすが母さん。変装してもすぐに見破られる……

 いや、これは母さんだからだろう。親は子をよく見ると聞いたことがある。そう! 母が特別なだけで他人ならバレないはずだっ!


 しかしながら……

 ……くそぅ、我が母ながら可愛いじゃねぇか。50過ぎのくせに30台後半に見える若々しい姿。一応親娘の筈なんだが、なぜ私にはその可愛らしさが遺伝しなかったのか……自虐してしちまうじゃねぇか……


「あぁ、うん。

 ちょっと銀行に行こうと思って。」

 ……しまったぁぁぉぁぁぁぁぁぁ!!

 つい言っちまった!! こんな格好で銀行に行くなんて怪しさ満点じゃないか。


「あら、そうなの?

 久しぶりに讃良ちゃんの部屋を掃除してあげようと思ったのだけれど……タイミングが悪かったわね。」


 助かった……どうやらスルーされた。……我が母ながら天然で良かった。


 しかし掃除か……私の部屋は実家から一駅しか離れていない為、時々掃除に来てくれる。

 大金をもったからか、変な事を勘ぐってしまった。反省しなければ。


 部屋の中はを確認してみる……うむ、座る場所だけはあるな。


「いや、まだ綺麗だから大丈夫。」

「そう? なら良かった。てっきり座る場所だけあるから大丈夫とか言うと思ったわ。

 いつまで経ってもお片づけ出来ないようじゃ、お嫁の貰い手も無いものね。」

「あ……あぁ。」

「それと、口調。戻ってるわよ?」

「あ……うん。すまない……じゃなかった。ごめんなさい。」

「うん、よろしい。

それじゃこれ、夕飯に煮物と混ぜご飯。あなた好きでしょ?

お仕事頑張ってるみたいだから差し入れ♪」


 2つとも好物だ。若干頬が緩んでしまう。


「喜んでくれたみたいで良かった♪

それじゃ、また来るわね。」


 相変わらずふらっと来てふらっと帰る母だ。まぁ、良い。この二つは冷蔵庫にしまって銀行に行こう。


「あ、そうだ。」


 母は少し行ったところで振り返った。何だろうか?

 やはりばれたか!? 母さんなら1割ぐらいあげても良いが、父さんに伝わるとまずい!!

「自堕落に生きては人間、ダメになる。

多少裕福な暮らしは構わんが、仕事を辞めるとは言語道断。」

 とか言って金の管理をされてしまう。

 マズイ……それだけはまずい……


「その服も可愛いけど、マスクよりちょび髭の方が可愛いわよ。」


 ……違った。助かった……か?


「分かった。そうしてみるよ。」

「うん♪ じゃ、またね~」


 それだけ言うと母さんは去って行った。


 どうやらこの変装は、オシャレで母さんも認めるほどだった。ファッションに疎い私ではあるが、褒められればやはり嬉しい。

 アドバイス通りマスクを外し、ちょび髭を……

 って、あれ? そんな物あったか? ……ないよ……な。でも母さんは普通に言ってた。

 世間一般では常備するものなのだろうか?

 って、ちょっと待てよ……あぁ、あったあった。福袋に入っていた。両端がピンと上を向く髭。カイゼル髭っていったか? これを化粧用ノリで貼り付けて……っと。

 今度こそバッチリだ。では行こう!!



 街に出た。通りを歩くと道ゆく人が私に道を譲ってくれる。


 オシャレすげー!!


 いつもは私が人に道を譲る立場だったが、今日は誰もが道を譲ってくれる。

 すげーすげー! 気分いいなぁ!

 あまりにも気分がいいから肩で風を切って歩いちまうぜ。


 おぉ、更に人が避けてくれる。モーゼの十戒のようだ!

 者ども道を開けよーっ! ってか?

 うっわー、すっげー言いてぇ~。


「ものどもっ……」

 うわっ、ヤベェ。つい言いそうになった。誰も聞いてないだろうな?


 慌てて周りを見るが、誰もが下を向いて居る。下……自分の服装を見て居るのか?

 あぁ、なるほど。私の服と自分の服を見比べて居るんだな? やっぱオシャレすげー!


 だが、失言をしたと言う事実は恥ずかしいな……気持ち早足で銀行に向かおう。

 後5分もあれば着くし……



 やって来ました銀行に!! 後はここで当選の報告をするだけだ……

 よし!!


 ガーー


「手を上げろ!!」


 自動ドアをあけると、そこには異世界が広がっていた。


 突きつけられる銃口。青い顔で1箇所に集められた人達。震えながらカバンに現金を詰め込む行員。

 何処かで見た光景……

 そうそう、昔の刑事ドラマとかでよく見た!


 確かこういう時外から……

「……ァンファンファンファンファン」

 そうそう、遠くからサイレンが聞こえて来るんだよな。


「早く手を上げろっ!! チャカが見えねぇのか!!

 死にたくねぇなら手ぇ上げてそっちの奥に座るんだよっ!!」


 あらま、声が震えてる? こういう時、テレビだとパニックになるもんだが、以外と落ち着いて見えるもんだな?


 強盗は2人。1人は今私に拳銃を突きつけている男。もう1人はカウンターで女性行員に拳銃を突きつけて早くしろと叫んでいる男だ。

服装は2人共黒のスウェット。顔はこれまたテレビでよく見た目だし帽。

 怪しさ満点だなぁおい……


 ふむ? 強盗は2人ともせわしなく辺りを見回し、拳銃を持つ手も震えてる。

 マンガや小説だと、エアガンで脅しているだけ。と相場が決まっているんだよな。よく見たら拳銃もチャチに見えてきた。あれ、ほんとにエアガンじゃないか?

 HAHAHAHAHA、危うく騙される所だったよ。

 だがこれでも女の身、腕力に訴えられれば勝てる要素などない! ここは大人しく人質に混ざろうじゃないか。


「まぁまぁ、今行く"パァンッ"……よ?」


 げえっ、関羽!? ……じゃ無いっ!! げえっ、本物の銃!?


「手ぇ上げろって言ってるじゃねぇか!! 今のは外れちまったが、次は当てるぞ!!」


 強盗の指示に従い、慌てて両手をあげる。


「ゆうじぃっ!! 勝手に撃つんじゃねぇって言ってるだろ!!

シミュレーション通りにしねぇか!!」

「だけど兄ちゃん!! この奇妙な英国紳士がっ!!」


 奇妙とは失敬なっ。母さんが褒めてくれたし、街ではあまりものオシャレさに人垣が割れたんだぞ。

 ……とは思うものの、また発砲されたら怖いので言わない。


「いいか、手早くしねぇとサツが来ちまうんだ。合理的に動くんだよ、合理的に。」


 うん、その考えに間違いは無い。

 無いだろうが……さっきからパトカーらしいサイレンが鳴り響いてると思うんだ?


「そうだったな兄ちゃん。……ごめん。俺が間違ってたよ。」

「いいんだゆうじ。佐藤家再興の為、兄弟手を取り合って頑張ろうな。」

「兄ちゃんっ!!」

「ゆうじっ!!」


 2人は硬く抱擁している。うむ。兄弟仲の良いことは素晴らしい。


 だが、お前たちは強盗で、恐らく警察に包囲網を敷かれている。

 それに思いっきり本名をバラしてる。ついでに周囲への警戒を怠っているが、それで良いのか?


 誰か勇気ある若者がいれば取り押さえられるぞ?

 ……ほら、そこで青い顔してる若者。行けって! なに期待に満ちた顔で私を見ている?行けって!

 こら! 他の奴等も一緒になって私を見ない!! 言っちゃなんだが、私はひ弱だぞ?

 腕立て伏せは1回、腹筋は5回しか出来ないほどにひ弱なんだからな?


「さぁ! ゆうじっ!! さっさと金を奪ってトンズラするぞ!!」

「分かった兄ちゃん!! おら、さっさと金を寄越せっ!!

 俺と兄ちゃんの未来の為、邪魔するやつはブチ殺すっ!!」


 あ……いかん、目がイっちゃってるわ。

 そして人質、お前らは白い目で見るな。お前らだって何もしなかっただろう?

 っつか若者、床にツバを吐くなっ! ここはお前の家じゃ無いっ!! 公共の施設なんだぞっ。


 取り敢えず、今は近づきたく無いが安全が第一だ……人質の所にでも潜り込もう。


「あーっ、あーっ、犯人に告ぐ、貴様等は完全に包囲されている。」


 外から聞こえてくる拡声器を通した声……タイミングわるっ!!

 めっちゃタイミング悪いっスよ?国家警察っ!? おかげで人質にこっそりまぎれ込めなくなったじゃないかっ!!


「ちっ、サツめっ! もう嗅ぎつけやがったか!!」


 あー……ほら。兄貴の方が警戒しちまった……


「兄ちゃんっ!! ヤル? 見せしめに誰か殺っちゃうっ!? 取り敢えず、この英国紳士でイイよねっ?」


 弟も完全にイってるなぁ、おい。ってか、何言った!?

 見せしめに殺されるのか? 私。しかも!! こんな色々と残念な人達に!

 よせ! ここは遠慮しておこう!! ここはさっきの若者に譲るべきだ!


「や、わた「バカヤロウ!!」……」


 食い気味で兄貴が弟を怒鳴る。助かったか?


「殺したら血が出るじゃねぇか!!」


 ……はぁ?


「おまっ……弟の癖に忘れたのか? 俺が血ぃダメで見るだけで失神しちまうの!!」


 そうなのか? ……って、それこの場で言ったらダメだろっ!!

 ほらっ、今まで震えていた人質がぬるい目になった。


「ごめん兄ちゃん!! すっかり忘れてたよ。

じゃ、血が出ないように撃てば良いんだね?」


 出来るのか!? っていうかお前は撃ちたいだけじゃ無いのか? トリガーハッピーって奴か? マジで命の危機!?


「いや、それむりだから。

そいつが気にいらねぇのは同意だが辞めとけ。

金は手に入ったし、そいつは人質にして逃げることにしよう。」


 ……NO

 ここは辞退するしかっ!!


「や、わた「兄ちゃんはああ言ったが、全部テメエの所為だ。逃げられなかったらブッ殺してやるからな?」……何すれば良いでしょうか?」


 こっえぇぇぇぇぇ! 目が本気と書いてマジだっ!!


「ゆうじ、お前はそいつを人質に先に外に出ろ。俺はその後ろについてゆく。」

「分かった兄ちゃん。……おらっ! 行くぞ!!」


 弟が頷き、私の手を引いて自動ドアから外に出る。

 はっきり言おう。死にたくない!

 今、私のポケットには6億が入っているんだ!6おく!!大事なことなのでもう一回言おう!ろ・く・お・く!!

 夢に見たニート生活が待っている。今っ! 死ぬ訳には行かないっ!!


「おらっ!! 行くぞっ!!」

「ひゃいっ!!」


 喜んでついて行くに決まっているだろう!!



 うっわー……すげえ。

 テレビではよく見たが、現実でもこれだけの数のパトカーとかが来るんだな。……というか、これだけ来てたのに気づかなかったこいつらって……いやっ、今は生き残る事だけを考えるんだっ!!


「おらぁっ!! この人質が見えねぇかっ!

少しでも動けばこいつを撃つっ!!」


 痛い痛い……こめかみに銃口ゴリゴリと押し付けて来て、メッチャ痛いッス!


「あー、そんな事をすれば罪は重くなるだけだ。大人しく投降しなさい。」

「っうるせぇっ!! 俺は本気だっ!! 本気で撃つからなっ!!」


 こら、そこのオッサン! 変なこと言うなっ!

 ただでさえイっちゃってる弟がやばい事になったらどうするっ!!


「っく……要求は何だ?」

「そのパトカーを寄越せっ!

それとついてくんなよっ!! 少しでも変な事したら遠慮無くぶっ放すからなっ!!」


 要請を受け、素直にパトカーの1台を目の前に置いて去って行く警察官。

 いいぞー。私の為にも素直に逃がすんだぞ?

 いいな? に・が・す・ん・だ・ぞ?


 うんうん、このままこいつらが逃げてくれれば解放されるはずだ。

 なんてったって兄ちゃん、血に弱いからなっ!!


「そいつ等は血に弱いっ!! 人質が撃たれる心配はないっ!!」


 そうそう。私が撃たれる心配は……って、ええっ!? おいっ!! ツバを吐いてた若者っ!! 何ゆーとんねんっ!!

 銀行の隅っこで青い顔してたのに、優位に立ったらイケイケかいっ!!


「うるせぇっ!!」

"パンッ"


 ……え?


「うわぁぁぁっ!? いでえっ? いでえよっ!!

かーちゃんいでえよっ!! 血がドバドバ出てるうっ!!」


 ツバ男が足を押さえてゴロゴロ地面を転がっている。右足太ももには赤いシミ……血だ。


「ダメなのは兄ちゃんだけだ。

兄ちゃんに見えねぇ様にやりゃ良いんだよっ!!

オラ来いやぁ!!」


 撃たれた……

 血? ……

 え? ……私も撃たれる?


「あ……う……」

「けっ、やっと怯えやがったか。

だがテメェは許さねぇ!!来いや!!」


 弟が動けない私に向かって手を伸ばし、その手が私の胸ぐらに……胸……ぐ……ら?


 ぐにょん♪


 胸を思いっきり鷲掴み……誰にも触らせたことの無い胸……

 それを思いっきり揉みしだかれたっ!?


「なぁにすんのよっ!! このヘンタイぃぃぃぃぃ!!」


 ヘンタイには制裁をっ!! 頭の中に浮かぶ最恐の攻撃方法……股間にひざぁっ!!

 潰すつもりでカチ上げろっ!!


 昔偉い人が言った。

 右の頬を打たれたら、左の頬を差し出しなさいと。

 だからっ!! 両方潰すぅっっっっっ!!!!!


「っぐっ!?……げぴゃっ!?……ubjdatvjvsetxjjふじこっ……・」


 ふっ!! (ヘンタイ)に生きる価値ナシッ!!


「へ? ……あっ……そっ、総員かかれっ!!」


 さっきのオッサンが指示すると、周りの警察官が一気になだれ込んで来た。

 弟がヤられ、呆然としていた兄は抵抗らしい抵抗も出来ず、簡単に捕まった。




「ご協力感謝しますっ!!」


 一通り落ち着いた後、オッサンが頭を下げて来た。統括していたし、偉い人だったのか?


「いや、私も偶然足が出てしまっただけなので。」


 そう、偶然。あれは偶然だったのだ。

 決してゲームや小説の影響を受け、効率的な位置取りや角度を何度も何度も何度も何度も何度も父さんに練習した成果では無い。

 だからきちんと両方潰れ、再起不能になっていても全くの落ち度はないっ!!


「そうですか、それにしては……同じ男として尻の穴がすぼまる光景をよくもまぁ出せたものかと……」


 あー、あれってやっぱ相当苦しいんだ? 女の私でもやり返されたときは1時間ほど悶絶したからなぁ。


「いや、ですがまぁ、お陰で無事、犯人は取り押さえることができました。つきましては……」

「って、今何時っ!?」


 オッサンが長々と喋ろうとするが知ったこっちゃない!! 6億を換金しなければっ!!


「えっ!? あ、はぁ、今は14時50分になります。」


 マズイッ!! 後10分で窓口が終わってしまう!!


「急いで銀行に用事があるのでこれにてっ!!」


 片手を上げて銀行へ向かおうとする。……が?


「少々お待ちください!

そもそも、何故そのような妙な格好で銀行へ?」


 妙とはなんだっ!! 母さんはカッコ良いと言ったぞっ!!だが、オッサンはどう見ても50後半。

 このハイセンスが判らないに違いない!

 まぁ、元々知り合いにバレないよう変装したのが始まりだが……


 そうだ!! 今は変装しているのだっ!!

 警察に嘘を付くのは偽証罪と言うんだったな。なら素直に答えておこう。


「宝クジの換金です」


 証拠として胸ポケットからクジを取り出す。


「宝クジの換金にそんな格好で……? 失礼ですが、付き添ってもよろしいでしょうか?」


 えっ!? 勘弁して欲しいんだけど?


「いや、そんなお手を煩わせるような「職務ですので。」……」


 ぐぁ、きっぱりと否定された。……この目はあれだ、さっきの強盗を見る目だ。

 何故か疑われてる!?


 ……そうだっ!! 換金は後日にすればっ!!

 そうだよ。何も引き換え期限があるわけじゃ無いんだ。明日か明後日か、そうすれば「では行きましょうか。」…………




 はい、オッサンにクジを持った手を引かれ、受付窓口に来ることになりました。


 さっきの事後処理か、忙しそうに駆け回っている。

 これなら忙しそうって理由で後日にまわ「忙しそうな所申し訳無い。このクジの換金をお願いしたい。」……おっさぁぁぁぁぁぁぁん!!


「いや、忙しそうだか「はい、勿論優先で換金させていただきます。助けていただいたんです。その程度、すぐに行わせて頂きます。あ、私支店長の折笠と申します。」……」


 してんちょぉぉぉぉぉ!? 警察官が悪いのか? 支店長が悪いのか? スムーズに事が運んで行きやがるっ!!


「これなんだが。」


 おっさぁぁぁん!? 何勝手に人のクジを渡してんの?


「はい、これですね……えっと……」


 支店長はクジを機械に通してる。

 ……あ、動きが止まった。

 錆びた鉄のようにグギギッと音を立ててこっちを向く支店長。

 大丈夫だ、支店長よ。私もそれはやった。


「失礼ですが……身分証をお持ちでしょうか?」


 その辺は問題ない、必要だと思っていたからな。

 取得してから身分証以外の使い方をしたことがない運転免許証を取り出す。


「はい。」


 ……失敬だな。

 恐る恐る免許を手に取ったかと思えば、支店長はマジマジと免許と私の顔を何度も見比べる。

 母ほどの美貌はないが、十人並はあるだろうが? そんなに直視に耐えられないのか?


「失礼ですが……羽入 讃良さんです……か? 確認が取れないのですが……」


 あっ……そうだった。変装してたんだっけ。付け髭取って、サングラス取って、シルクハット取ってっと。


「これで良い?」


「あぁ、ありがとうございます。間違いなくご本人ですね。

少々……お待ちください。」


 支店長は大事そうにクジをトレイに乗せると、奥の部屋に引っ込んで……あ、こけた……行った。

 なんか後ろがざわめいてる。どうしたんだ?


「美人だ……」

「なんであの格好であの美貌……勿体無い……」

「天は二物を与えないって事か……」


 なんだ、残念な美人でも後ろにいるのか? ちょっと見て見たいな……少し見て見る……か?

 ……ってヤベェ!! 正体隠す為の変装なのに解いてどうするんだよっ!!

 このまま振り向いて知り合いでもいたらばぁれるだろぅがぁー!!

 慌ててサングラスとシルクハットをつけ、後ろを見る。

 ……ちっ、いねえ。まごまごしてる間にどっか行ったか、残念。

 諦めて正面に姿勢を戻すと、支店長が慌てて出てき……あ、またこけた。


 支店長はトレイにクジでは無く、紙を載せている。なんだ?


 "6億円当選おめでとうございます。詳しいお話は奥でお伺いします。"か。

 流石銀行。対応がしっかりしてる。


「ろっ……ろっ……ろくおくーーーー!!??」


 頷いて奥に行こうと考えた時、隣から叫び声が響く。

 おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!国家のいぬぅぅぅぅっっっっ!!

 すっっっかり忘れてたが、隣にオッサンが居たんだった……ヤベェッ!!


 パシャッ


 うおっ!? 眩しいっ!! ってあれは強盗の報道に来てたテレビ局!?

 ヤベェッ、これは絶対にっ!?


「おめでとうございますっ!!

見事強盗を撃退し、更に宝で6億円を当てた感想をお願いしますっ!!」


 間違いないっ!! ……ばぁーれぇーたぁー!!


 次々と集まってくる報道関係者。

 薄れゆく意識の中、私の頭には"さようなら、ニート生活"の文字だけが浮かんだのだった。

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