五話
~ハクト~
見つけた。あれは絶対にきょーやだ。ぼくが見間違うはずない。
ぼくは衝動のままに人垣をかき分けきょーやに近づく。するとこっちを見たきょーや。
「きょーや!やっぱりきょーやもやってたんだー!」
「……なんで此処にいるんだ?」
きょーやは訳が分からなそうにそう聞いてきたけどぼくはそれを無視する。
だって流石に家に盗聴器を仕掛けてました、なんて言えるわけない。
それと訓練させた鳥に小型カメラを埋め込んで随一を観察してるなんて、流石に引くでしょ?
きょーやは獣以上に鋭い所為で何度もぼくのSPを撒いちゃうけど畜生には優しい。ぼくはそれが少し不満だったりする。
だってぼくはきょーやのモノなのにそれに知らんぷりするし。ぼくはきょーやのモノ。けどきょーやはきょーやのモノ。
ぼくは苦労してやっとの事で優しくされるようになったのに畜生にはもともと優しい。
だけどぼくは何も言えない言いたくない。もし言ったとして捨てられたらどうする?それがぼくは怖い。
あ、想像するだけでやばい、泣きそう。
「落ち着け、白兎。」
「…あ、きょーや!大丈夫なの?きょーやが負けるはずないの知ってるけどさ。」
丁度その時にきょーやが声をかけてくれたおかげでぼくは正常に戻った。
マイナス思考は駄目だよね!むしろきょーやが目の前にいるんだしたっぷり堪能しないと!
「大丈夫だ。俺が負けるはずないだろ?」
「うんうん!そうだよねー!なんせ清々しいくらいにおかしいし!…いたっ!なにするのきょーや!」
笑顔で言い切ったらきょーやは無表情になってデコピンをしてきた。手加減されてても痛いんだよ!?
ぼく知ってるんだよ!?デコピンしただけで熊が吹っ飛んだの!!ありえなくてまた失神しそうになったんだから!!
きょーやは誤魔化せたと思ってるみたいだけど…。
「それよりもやったねきょーや!」
「何がだ?」
訳が分からないと言った様子でそう言うきょーやにぼくは説明する。
きょーやにぼくの知ってることを教えると愛しいって感情が溢れだしてくる。なんでだろうね?
「だってお金貰えるし、馬鹿共にはきょーやがチートしてないってわかるだろうし!」
それでも無反応のきょーやにぼくはもしかして…となると同時に内心笑みを浮かべる。
きょーやって基本的に説明書とか読まないもんね。そりゃ知らないよね。
ぼくが教えるよ。だからそれ以外の人から教えてもらわないでね?
そう思いつつぼくは不思議そうな顔をして首を傾げる。
「知らないの?」
それにきょーやは頷いて視線で詳しく教えて欲しいって言ってくれたのにぼくは嬉しくなる。
だって、視線だけでその意味が分かるほどぼくたちは通じ合ってるんだよ?嬉しくないわけないじゃん。
「あのね、SURVIVAL WORLDではチートは許可されて無いんだけど、もしかしたらチート出来た人が出る可能性があるんだ。
だから決闘とかの場合、絶対にチートが出来ないように設定されたんだ。
それでもしチートが発見されたら本来警察のお縄に着くようになってたみたい。」
「…?チートが出来ないのか?」
「詳しくは書かれて無かったから分からないんだけど、そうみたい。」
それにふーんとだけ返事をするきょーや。ぼくはそんな反応でも嬉しく思う。
だって、きょーやの家族とぼく以外にはそんな反応すらしやしないでしょ?
それに、この世界にはきょーやの家族はいない。いるのはぼくだけ。
この世界できょーやの〝特別〟と作らないようにすれば、あわよくばぼくがきょーやの〝特別〟になれれば…。
そこまで考えてふときょーやの綺麗な手が目に入り、ぼくは「撫でて撫でて!」と駄々を捏ねる。
そしたらきょーやは仕方ないなぁって感じでぼくを屈ませて頭を撫でてくれた。嬉しい。
「おい、そろそろ時間だ。お前のママにお別れはすんだか?ギャハハ!」
「チッ…。きょーや!一応あの時出た熊みたいにはしないでね!ぼく生きたまま少しずつ…にされていくのは見たくないからー!」
つい舌打ちしたのは仕方ないよね。ゴミ屑なんかにきょーやとのお喋りを邪魔されたんだから。
気を取り直してぼくはわざと一部を伏せて大きな声で周りに聞こえるように言う。
そうしたらよほどの馬鹿じゃないと本当だってわかってくれるだろう。
……まあ、もしきょーやに手を出したらこっそり殺しちゃうけどね!
「じゃあ一人ずつ相手にしろ!それで勝ったら三分後に次の相手だ!わかったな?」
きょーやとゴミ屑の周りは野次馬で埋め尽くされてる。きょーやは無表情だけどあれ絶対にうずうずしてるよ。
ゴミ屑はきょーやに対して偉そうな態度で言う。…一瞬キレそうになったけど我慢我慢。
「いや、十人ずつでいい。それと休憩は必要ない。」
「ギャハハハハハハッ!!ほ、本物のバカだこいつ…!!ち、チート使えないのに虚勢張りやがって…!!
よしみんな、フルボッコに出来た奴は他より少しだけ報酬貰えるぞ!」
ゴミ屑の言葉に馬鹿な奴らはきょーやに襲いかかるけど一定人数以上は入れないみたいだった。
それに馬鹿な奴らは悔しそうな顔をしてる。多分、あのきょーやが負けると思ったんだろう。
一番初めに攻撃したのは女剣士風の奴だった。
「貰ったぁ!!――ッ!?ギヒィイイ!?痛い痛いいだいいだいぃぃい゛い゛い゛!!」
あーあ、かわいそう。きょーやは一瞬にして振り下ろしてきた腕を掴んで引き千切った。
まるで人形の腕を子供が面白半分に引き千切るかのように。
ヤジを飛ばしてた人、賭けをしていた人たちがが静かになった。
その隙をついたきょーやは無様に泣き喚いてる女のもう片方の腕も引き千切ったのが見えた。
あそこまで嬉しそうに、楽しそうに笑うきょーやは初めて見たかもしれない。
それが嬉しくてぼくもいつの間にかくすくす笑ってた。笑ってるぼくを周りは異常者を見るような目で見てるけどなんでだろうね?
「おい、まだまだこれからだぜ?」
「ぐぇ!?ッおぇええ゛え゛!!」
きょーやが蹴り飛ばしたら女の装備の鳩尾あたりが壊れた。
それはいいとしてあと少しできょーやにゲロが付きそうになった。最悪だ!!何あいつ!!殺したい!!
きょーやも「汚ねぇ。」って呟いた。
きょーやは何を思ったのか女が装備してた剣を持った。ああ、そんな汚い物持ったらダメだよきょーや。
でもそういえばきょーやは女たちには少しだけ優しかったよね。
ああ、あの女が憎い。恨めしい呪い殺したい。…もう死んでるか。
でもきょーやの手で殺されるなんて幸せじゃん。羨ましい。
「…次は誰だ?」
「ひっ!ひ、人殺し…!!」
きょーやは訳が分からないとでも言うように笑ったまま首を傾げる。その可愛さにぼくは頬が緩む。
人を殺したことの罪悪感なんて、そんなものきょーやには存在しない。むしろ快感とか感じてるんじゃないのかな?
「人殺し?それがどうした?先程お前たちが俺にしようとしたことじゃないか。自業自得だろ?
人を殺すのは殺される覚悟のる奴だけだって言葉知らないのか?
じゃあ今から俺が殺してやるよ。なんせ人を殺そうとしたんだもんな。」
きょーやは笑ったままそう言う。そしたら野次馬たちは顔を青ざめさせて震えだした。
そしたらきょーやは無表情になった。あ、つまらなそうな顔してる。
次の瞬間、結界の中でまだ生きてた九人が死んだ。グロいなぁ。けど羨ましい。
「ほら、次こいよ。」
「い…嫌だぁぁあああ!!死にたくない!!死にたく…!!」
馬鹿みたいに喚いた男の首が落ちた。きょーやって、早くこんなくだらない事を終わらせたいみたいだった。
少しして首だけ無くなった体が倒れる。逃げ出そうとしていた対戦者たちを結界が呑み込んだ。
そして逃げられないように結界で包囲してその中の十人を放り込んでいるようだった。
…きょーやは興奮してるからちゃんと理解できてるかどうか怪しいけど。
気が付けば残る一人はあの決闘を申し込んできた男のみになってた。きょーやは作業速いなぁ。
「ば、化け物…!!なんで…何でチート使えるんだよォ!!」
「…だからこれは元々の力だ。じゃあな」
ゴキリと音がしてゴミ屑の首が回転した。あはは、気持ち悪い顔してる!!
…でも、気に入らないなぁ。だって、あんなゴミ屑が、汚い蛆虫なんかがきょーやに触れられたんだ。
ああ、羨ましい恨めしい。後で手を洗わせないとね。
そう思っていたらパリンッと音がして見てみたら結界が割れたらしかった。
そしてアナウンスのようなものが流れる。
≪以上をもちまして決闘を終了させていただきます。勝者はキョウ様。おめでとうございます。
では戦利品をアイテムボックスの中に入れておきます。≫
きょーやはどうやらアイテムボックスを確認してるみたいだった。
周りから見ると空中に視線を走らせてるような感じだけど、多分合ってると思う。
さっきのアナウンスで戦利品をアイテムボックスの中に入れておくって言ってたし。
ぼくはきょーやに向かって走り出す。それでもきょーやは気が付かない。
きょーやは凄いんだ。だって気を許した人以外の気配は全て感じ取れてるみたいだから。
ぼくは勢いよくきょーやに抱きつく。
「きょーや凄かったよー!」
「そうか。」
ぼくの抱擁にも最初は凄く嫌がってたけど今は慣れたように頭を撫でてくれている。…多分無意識で。
それのぼくはデレッとしてしまう。こういう事をしてくれるのは、ぼくだけ。ぼく以外になんかさせない。
それよりも、周りは怯えきってる。きょーやは優しく殺してあげたのになんでだろう?
内心首を傾げたけど、ぼくは良い事を思いついてすぐにどうでもよくなる。
「ねぇねぇきょーや。ぼくとPT組もうよ!」
「……まあいいか。」
少し悩んだ様子だったけどすぐにOKもらえてぼくは嬉しくてついはしゃいじゃうけど仕方ないよね!
そんなぼくをすぐに落ち着かせる事が出来るきょーやはやっぱり凄い!!
ぼくはどうせだったら他の人にもいちゃいちゃしてる所を見せたいって思った。
「とりあえず武器屋で売ろうよ!」
そう言ったらきょーやはついてきてくれた。その様子がなんだか微笑ましい。
けど何故かきょーやは立ち止まって遠い目をし出した。ぼくはぼくだけを見て欲しくて手を掴む。ちゃっかり恋人繋ぎだ。
「速く速く。きょーや遅いよ!」
「あー、はいはい。」




