片目
その女には片目がなかった。
名をユウカ、と言う。
長い髪を高いところで一つに結び、ない左目は眼帯で隠してあった。
その眼帯の下には、見るも無惨な、とても醜い傷が残っている。
目を、くり抜かれた、そんな引きつった痛々しい傷が。
ユウカ自身は特に気にはしていないのだが、ユウカの仲間であり、戦友は、その傷を初めて見たときクシャリと顔を歪ませた。
お前のそういうところが戦士に向いていないなと叱責しながらも、ユウカはその仲間に甘かった。
これは同期のヒカルも同様である。
ユウカが眼帯をつけるようになったのは仲間のためであり、決して自分のためではなかった。
その"盗られた"左目はある者の激情によるもののために出来た傷。
ユウカはそのものを探している。
いつもの飄々とした態度とは裏腹に、ユウカは情報を自ら集め、探し、そして見つからず苛ついていた。
もうとうの昔に傷は塞がったのに、時折、その傷は痛いくらいに熱くなる。
きっとそれは自分自身の興奮による錯覚であろうとユウカは半ば人事のように考えていた。
「………………どこに、」
小さく呟いた言葉は開いた扉の音にかき消される。
「よお、ユウカ。まぁたそんな顔して。お前の探しもんは一体いつ見つかるんだい?」
「ーーーゼオン、」
ゼオン・アルフレイド。
へらへらとした笑みは、いつもユウカの前に立ち、そして苛立たせる。
ニヤリと弧を描いた唇。視線はユウカに固定され、そして動かぬまま。
ユウカははっきり言ってこいつーーーゼオンが苦手であった。
この国のお偉いさん、レイモンドと同種。何を考えているのか分からない目。笑うそいつは尻尾を掴ませてはくれない。
そんな彼は言うのだ。
ーーーお前が俺のモノになってくれるなら、俺の全てをアゲル。
ユウカは顔を歪ませ、その申し出を突っぱねる。
誰がお前なんかに、私は、お前なんかに飼われるほど易しくない。
ゼオンは今日も笑った。