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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
前略、叶山様へ
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掘り返される記録

 彩萌がいつもよりも早く起きると、シェリエちゃんがもう準備をしていました。

 シェリエちゃんは彩萌が起きたことに気付くと、ちょっぴり気まずそうな顔をしていました。

 彩萌が「おはよう」というと、シェリエちゃんは「……おはよ」って返してくれました。


「シェリエちゃん、彩萌とシェリエちゃんは友達です」

「……うん」

「悩み事があって言いたいことがあったら言ってほしいのです、でも言いたくないなら言わなくても良いの。彩萌はちゃんと心の準備ができるまで待つから、シェリエちゃんが待ってくれたみたいに……待つ」


「でも言わないこととか待たせることをシェリエちゃんが気にする必要はないからね」って彩萌が言うと、シェリエちゃんは机の上の作りかけの時計を見たのです。

 時計を触りながら、シェリエちゃんは黙っていたのです。

 彩萌がベッドから出ると、シェリエちゃんが少し動いたのです。


「情けないなって」

「情けない、ですか?」

「あの時、エニールとちゃんと話して過去とは区切りをつけた積もりなのに……お爺さんの話をしたせいかな。教室で皆に囲まれてる彩萌を見て……思い出して」


「彩萌の姿がエニールの姿と被るから、顔をあわせづらくって」ってシェリエちゃんが言ったのです。

 そっか……エニールちゃんのことを思い出してたんだね。

 うん、でも……やっぱり過去と区切りをつけても、思い出で残ってるもん。思い出しちゃうよね。それに思い出すのはシェリエちゃんにとって悪いことばかりじゃないと思う、たまに思い出すことが故人への供養だって昔聞いたことがあります。だから少しだけでも明るくとらえられたらいいのにね……どうしたらいいのかな?

 彩萌を見て、思い出しちゃうんだよね……。それは同じ友達だからってことなのかな……?


「シェリエちゃん、もし嫌じゃなかったら……エニールちゃんのことを教えてほしいです」

「エニールのこと……? でも彩萌は私の記憶を見たから、知ってるよね」

「シェリエちゃんの口から聞きたいのです」


 彩萌がそう言うと、シェリエちゃんは少し考えてたけど少し話してくれたのです。

 好きなものとか苦手な教科とか、好きな遊びとかいろいろ教えてくれたのです。思い出も少し語ってくれました。

 彩萌はそれを知っていたけど、やっぱりシェリエちゃんの口から聞くと違います。温かさを感じます、彩萌が知っているのは記憶というか……シェリエちゃんの記録だからね。

 彩萌はエニールちゃんの温もりを知りませんから、やっぱり彩萌はエニールちゃんを知らないのです。

 シェリエちゃんは少し泣いていました。そういえば……彩萌ははっきりとシェリエちゃんが泣いている姿を見たことがなかったです。

 背中をさすってあげたのです、拒絶はされませんでした。


「シェリエちゃん、彩萌ちょっと考えたのですが……」

「……なに?」

「彩萌はエニールちゃんの幽霊に会ったけど、ちゃんとエニールちゃんに挨拶してなかったです」


「だからシェリエちゃんが嫌じゃなかったら、お墓参りに行きませんか」と言ったら、シェリエちゃんは彩萌の顔をじーっと見つめていたのです。

 ……彩萌は間違ったことを言ってしまったのでしょうか。少し心配に思っていると、シェリエちゃんは彩萌の鼻をつまんだのです。


「そんなことを言うのは彩萌くらいだね」

「うっ……ごめんね、嫌だったかな?」

「嫌じゃないけど、友達に墓参りに誘われるなんて考えたこともなかった」


「やっぱり生と死を司っていた精霊は違うね」ってシェリエちゃんは少しあきれたような顔で笑ったのです。

 さっきとはちょっぴり雰囲気が違います、ちょっと軽くなったように思います……!

 シェリエちゃんは彩萌の鼻から手を放すと、目じりの涙を拭ったのです。


「エニールと一緒にしたらエニールに失礼だね」

「そうですよ、エニールちゃんに失礼ですよ」


 彩萌が同意をすると、シェリエちゃんはちょっと笑いながら「彩萌はそれで良いの?」って聞いてきたのです。

 エニールちゃんは立派な人だからね、彩萌は足元にも及びませんよ!

 これからもいろいろ思い出して鬱になるかもしれないけど、その時は気にせずに避けるね、ってシェリエちゃんは宣言してくれたのです!


「でも……彩萌は勉強が遅れてるから、墓参りには行かない方が良いよ。フレネージェ遠いから、精霊の力を借りても最低一日は学校休むことになるよ」

「あっ……そうでした、フレネージェ遠い……」


「ハロウィーンが終わったら、行こうか」ってシェリエちゃんは言ったのです。そうだね、ハロウィーン終わったら一緒に行こうね!

 シェリエちゃんは「その時は帰りにミアーティスでアイスでも食べようか」って少し笑ったのです、やっぱりちょっと寂しそうだったけど……でもちょっと元気になってくれてよかった。

 忘れられることじゃないから、忘れたいことでもないだろうし……一緒に思い出せたら良いのかな。シェリエちゃんの大事な記憶だからね、悲しいこともいっぱいあったけど……エニールちゃんはシェリエちゃんの一番の友達だからね。思い出せなくなることは辛いことだって幽霊のお兄さんも言ってたもん。

 無理に思い出さないように意識するのも辛いからね、少しずつ整理をしていこう。彩萌が百年でも、まだシェリエちゃんにとってはついこの間の出来事だもんね。

 今日はシェリエちゃんとクーリーちゃんと一緒にご飯を食べたりできたのです、やっぱりちょっと暗かったけど……この前よりは辛くなさそう。

 クーリーちゃんは深くは聞きませんでした。「まあ、そういうこともあるよね」って言ったのです。


 ――勉強は順調です、ハイペースな進み具合らしい。ジェジア先生の特別レッスンは凄いです。彩萌の幻想文字の上達率も高いです。

 ミギー君は、勉強を疎かにしていた部分もあるからやってもやっても追いついた気がしない、と言っていました。

 カルヴィン先生はミギー君をすごい褒めてたけど、ミギー君的には満足できてないらしい。

 というか、ミギー君はかなり頭が良かったようです。頑張れば飛び級もできそうだなってカルヴィン先生に言われてた。

 でもミギー君はじっくりしっかり勉強したいらしく、飛び級はしないって言ってました。

「自分の性格は分かってるから、そんな事したら絶対に怠ける」って言ってました。傲慢になっちゃうらしい。

 そんなミギー君はカルヴィン先生に「無理はするなよ」って言われていました。

 そしてお昼休みにシェリエちゃんたちとお昼を食べようと思い、教室に向かおうとしたところでカルヴィン先生に止められたのです。


「叶山、ちょっと良いか。大事な話なんだが……」

「どうしたんですか?」

「ミギーのことなんだけどな……スピリット系の魔物だからと言って休まずに活動し続けると魔力の消耗が激しくて体調を崩すことがあるから、気に掛けてやってくれないか?」


「頑張るのは良い事だけど、今は少し頑張り過ぎだな」って言ったのです……。ミギー君、頑張り過ぎてるのかぁ。

 そういえば、イクシィール先生も魔力の消耗が激しかったから屋上でお昼寝したら耳の石を食べられてたもんね。

 体調を崩して、魔力が足りないと最悪の場合は消滅しちゃうこともあるらしい……それは大変です! ミギー君が死んじゃったら悲しい、ちゃんと見ておきます!

 彩萌が了解すると、カルヴィン先生は職員室に向かったのです……。

 ちょっぴり気になって指導室に戻ると、ミギー君は勉強をしていました。

 彩萌と同じ姿をしているんだけど、今のミギー君の髪の色が少しだけ青紫色です。これって……もしかしてヤバいのか?

 だって、元の姿の色に似てる……安定してないと元の姿に戻っちゃうんでしょ?


「ミギー君、髪の毛の色が元の色に戻ってきてるよ。ちょっと休んだ方が良いんじゃない?」

「……えっ、マジでー。それはちょっと困る」


 声もちょっとだけ彩萌の声とは違ったのです。いつもは声も完璧に同じなのに……ミギー君も気づいたらしく喉の辺りを触っていました。

 ミギー君は少し考えた後に「ちょっと寝たりするわ」って言って、その場から姿を消したのです。

 やっぱり魔力が消耗した時は寝るんだね……他の機能を停止して、魔力の補充を優先させるのかな。

 そんなことを彩萌が考えていると、ちょっぴり体が重くなったのです。


「……う、ミギー君に魔力吸い取られた」


 確実にそうだと思います、なんか疲労感が……でもしょうがないよね。

 そういえば、幽霊さんもスピリット系と同じ感じなのかな? 安らかに眠れないって言ってたけど、大丈夫なのかな。

 まあ、眠るの意味が違うと思うけど……。

 彩萌が教室に戻ると、シェリエちゃんが待っていてくれました。

 シェリエちゃんは彩萌を見ると、少し不思議そうな顔をしたのです。


「あれ……彩萌ってお面以外に角になんかつけてた?」

「今日はお面しかつけてないですよ」


 そう言って彩萌が角を触ると、お面とは反対の角にモフモフした何かが付いていたのです。

 外してみると青紫色のフワフワしたシュシュみたいな……これ、もしかしてミギー君か。ミギー君なのか。

 彩萌は何も見なかったことにして、また角につけたのです。そうするとちょっぴり体が重くなった。

 シェリエちゃんはジーっとシュシュを見ていたのです、気にしているみたいなので彩萌が「ミギー君が休憩してるんだよ」って教えてあげたのです。

 シェリエちゃんは納得したようで、それ以上は何も聞かなかったのです。

 今日はお昼も一緒に食べられるみたいで、一緒にお昼を買ったのです。校庭でご飯を食べていると、校庭の隅っこに人を見たのです。

 一瞬だったから彩萌は誰だか分らなかったけど、なんだか服装が学生さんっぽくありませんでした。


「さっきの……フレンジアだったね」

「えっ、フレンジアさんでしたか? 彩萌にはわかんなかったよ」


「たぶん」ってシェリエちゃんは言ったのです。なんでフレンジアさんがこんなとこにいるんだろ……。

 というかお休みじゃなかったの? もうお休み終わったのかな?

 彩萌が不思議に思ってると、シェリエちゃんが大学のある方を見ていたのです。

 彩萌もそっちに視線を移したのです、そしたら黒一色の羽が生えた人が歩いてきたのです。アタリアンです。

 フレンジアさんらしき人はフレンジアさんじゃなかったのかな……?


「よお、お友達とは仲直りできたのか」

「仲直りは正しくない言い方ですよ。シェリエちゃん、この人は李白さんの弟さんです」

「ああ……アレの弟ね、よろしく」

「アイツと同類にされるのはお断り、ところで……お前らジェリと知り合いだよな。イズマとも」


 二人で「うん」って答えると、アタリアンは彩萌の隣に座ったのです。

 なんか……調査中? ついにイズマさんが犯罪者になっちゃったのかな、イズマさん良い人だけど怪しい人だし……。

 ジェリさんも悪い人じゃないけど、かなり抜けてる人だし……。うっかり犯罪者になっちゃいそう。


「彩萌は知ってたと思うが、ジェリがフィルオリーネだって判明してなぁ……」

「えっ、ついにジェリさんお家に帰っちゃうの?」

「その辺は話し合い中らしいから分かんねぇけど、記憶もだいぶ消失してたから詳しくは分かってねーけど……どうも子供を狙った連中に誘拐されてああなったっぽいんだわ」


「それ、私たちに話して良い内容なの?」ってシェリエちゃんが聞いたけど、アタリアンは「彩萌に話すとご利益がありそうだろ?」って言ったのです。

 そんな理由で彩萌に話して良いの? もし彩萌がうっかり誰かに言っちゃって調査が迷宮入りしたらどうするの?

 というか……ミギー君に聞かれてもいいのかな、でもミギー君は今は寝てる状態だから聞こえないのかな?

 アタリアンは気にしてないみたいだから、大丈夫なんだろうけど……。


「最近は綺麗な女児とか健康そうな男児よりも物珍しい子供を売買するのが流行ってるっぽいんだわ、だから特に彩萌は気をつけろよ」

「えぇー……なんか、そういうの聞くと怖いです! 山吹君の家に行けなくなっちゃう!」

「だからさっきフレンジアっぽい人が居たんですか?」

「あぁ……まあ、休みって事になってるから」


「幻だってことにしとけ」ってアタリアンは言ったのです……本当にフレンジアさんだったんだね。

 アタリアンはそういう理由で学校に来てたんだね、調査なのかな? それとも警備とか、そういう感じ?

 それにしても怖いね……こうやって警備とかしなきゃいけないってことはまだその人たちは活動してるんだよね?

 彩萌は学校や大聖堂の敷地内にある孤児院に住んでるからいいけど、シェミューナちゃんとかケレンさんは街中に住んでるから余計危ないね……。


「でも彩萌は精霊に監視されてるから大丈夫だと思うよ、もし彼女を攫ったら人攫いたちは全滅すると思う」

「あぁ、たしかにな」

「待ってください……仮にそうだとしても、むーちゃん……ムールレーニャ・ミストが人攫いを全滅させただけで満足するとは彩萌は思えません!」


 アタリアンは遠くを見つめながら「ああ……たしかにな」って呟いたのです。

 たぶんむーちゃんならいろんな難癖をつけて学校側や聖職者たちにいちゃもんをつける。それどころか、こうやって学校まで来て頑張ってお仕事をしているアタリアンやフレンジアさんにまで危害が及ぶのではないかなって彩萌は心配ですよ! フレアマリーさんも危険です、最近はグラーノさんも結構過激思考ですよ!


「まあ精霊達はそうだけど、最近はドラゴンも学校周辺をウロウロしてるし」

「えっ……学校周辺でドラゴンですか?」

「彩萌の飼ってるシーシープドラゴンとテュポーンな、リーディアも困ってたぞ」


 やっぱりか! やっぱりしーちゃんは学校の周りをウロウロしてたんだね!

 アタリアンは彩萌たちに「それでも気をつけろよ」って言って去って行ったのです……ドラゴンはイクシィール先生の石を食べる以外の被害は出してないよね?

 というか、ジェーフィクくんはいつまでクレメニスにいるのかな。お家にちゃんと帰ってますか?

 お昼を食べ終わって、シェリエちゃんと別れて指導室に戻ったのです。

 ミギー君はまだちょっとお休みしているみたいで、ジェジア先生が来ても姿を現さなかったのです。

 彩萌はちゃんとジェジア先生に説明をしました。同じスピリット系の魔物だからか、ジェジア先生はとっても心配していました。

 そんなに、ひどい状態だったのかな……?





 ――あやめとアヤメの交換日記、九十二頁

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