第七より
彩萌たちはお邪魔にならないように静かに帰ろうとすると、アタリアンとディーテさんがこっちに来たのです。
ソニアの人になんか教えなくていいの? って聞いたら、「それは李白が教えてればいーんだよ」ってアタリアンは答えたのです。
よく見ると、アタリアンの第三の目に絆創膏は張られていません。でも、第三の目を閉じているようでよく見ないとわからない感じになってます。
うーん、なんか違和感です。第三の目が変な感じです。
「アタリアン、第三の目がなんか変だよ?」
「あーアリシエがな、なんか目立たないようにしてくれたんだよ。目が三つあると怖がる生徒がいるかもしれないからって、第一印象が大事だっつってな」
「ほれ」って言いながら、ベリッとなんか肌色のシールみたいなのを剥がしたのです。
ちゃんと第三の目はありました。他の目とは違って、緑色にピカピカしている綺麗な目をしています。
ちなみに第三の目にビビる学生はいました、クーリーちゃんとケレンさんです。二人は一応人間さんだからなのか、結構ビックリしてた。
クーリーちゃんは「天使じゃないの……!?」って言って、ケレンさんは「魔眼ですか……!?」ってビックリしてた。シェミューナちゃんとミギー君と白仮君は天使じゃないって直感的に分かってたらしい。
魔物と人間の違いが表れてますね、なんだか興味深いですね!
ちなみに幻想世界での分類上では天使は、ノルマル系で純スピリット系ではなくて悪魔でもなくて羽以外は魔人とほぼ同じ生物を天使というらしい。
そして悪魔は生まれつき感情によって肉体を変化させることができる魔物のことを言うらしいです。レニ様みたいにテンションが上がると勝手に犬とかに変身しちゃう生き物が悪魔です。
なので一部のスピリット系の魔物さんも悪魔っていうのです、でもだいたい悪魔はノルマル系です。そもそも、スピリットは肉体を持っている訳ではなく魔力の塊だから、肉体を変化させているとは言い辛いから悪魔ではないらしい。なんか……スピリット系の悪魔さんはウミウシとかウミウサギとか、そんな感じのニュアンスで名前が付けられてるんですね。
そして咫兄弟は悪魔じゃないらしいです、スピリット系の魔物だから違うらしい。分類的には不死鳥に近いらしいです。
「というか、彩萌この赤いのになんか言ってやってくれよ。俺は弟子取ってねーんだよって、李白も今回は仕事で来てるからしょうがなく指導してるけど……女子しか面倒見ないクソ野郎なんだよって」
「赤いの呼ばわりになってる……ディーテさんアタリアンに迷惑かけちゃダメですよ」
彩萌に注意されたディーテさんは拗ねたような顔をして「えー、ケチ。じゃあここで教えてよ」って言っていました。
アタリアンはそれに対して「ケチじゃねぇ、それに俺は李白と違って忙しいんだ」って言ったのです。
普段のアタリアンはギルドを作れる場所を調査したり傭兵を派遣できそうな場所を探したり現地住民と交渉したりするお仕事をしてるらしいからね、適当に受付してる李白さんと違って忙しいからね。
そして……その話を聞いたケレンさんがちょっと戸惑っていました、そういえば弟子入りしたかったんだよね。
李白さんなら多分大丈夫だよ、女性が相手ならちゃんとしてくれるから……たぶん。
あれ……でも、アタリアンはじゃあなんでここに来たの? アタリアンって仕事サボるタイプじゃないよね?
彩萌がチラッとアタリアンの顔をうかがうとね、アタリアンは第三の目を細めたのです! おぉ、なんか……なんかアタリアンは別の仕事で学校に来てる!
なんかよく分かんないけど感動した。アイコンタクトってこういう感じなんだね、すごい。
彩萌がアイコンタクトに感動していると、シェミューナちゃんがピョコピョコして存在を主張したのです。
「ねえねえ関係ないこと聞くけど、李暗さんと魔王様は彼女とか奥さんとか居るの!?」
「んー居ないよ? たぶんアタリアンも居ないんじゃない?」
「なんでお前までアタリアンって、まあ良いか。つーか……おチビ、マセてんなぁ」
アタリアンは笑いながら「悪い大人に騙されんなよ」って言って、シェミューナちゃんの頭をポンポンしてました。
ポンポンされたシェミューナちゃんはキャーキャー言ってた、アタリアンはまんざらでもないって顔をしています……!
シェミューナちゃんは「やばーいやばいー!」って言いながらすごくピョンピョンしていました!
「でも、シェミューナちゃん正気に戻って! シェミューナちゃんはディーテさんが良いんじゃなかったの!?」
「あっ、そう! そうだった……! 私が素敵だなって思うのは魔王様だから、魔王様だから……!」
「シェミューナ浮気はダメよ! そういうのとっても良くない!」
「ちょっとクーリーには言われたくないかなー?」
彩萌とシェミューナちゃんとクーリーちゃんがちょっとだけふざけていると、ミギー君と白仮君とケレンさんが太歌流夢剣術について質問していました。
とっても真剣な話をしています……ケレンさんはソニアに入るんでしょうか、それとも李白さんに弟子入りするんでしょうか?
そしてクーリーちゃん達から目を離した隙に何かあったのか、何故かシェミューナちゃんはクーリーちゃんに抱き着いて、クーリーちゃんのお腹をバシバシ叩いていました。
でも「ヤバいよね!」とか「ヤバいね!」って言い合っていたので、なんとなーく予想はできますけどね。
アタリアンに頭ポンポンされたのがそんなに嬉しかったんだね、キュンキュンしたってやつですか?
彩萌も山吹君に頭ポンポンされたい、というか山吹君に会いたい。
二人から離れてアタリアン達に近づくと、ケレンさんがソニアに入りたいって話になっていました。
その話を聞いたアタリアンは「ちょっと待ってな」って言って、王子や李白さんたちの方に戻っていったのです。
アタリアンの後姿を見ながら、ケレンさんはそわそわしていました。なんだか可愛いです。
「体験入学とか見学とか……できるのかな、僕もちょっと気になる」
「えーお前がソニアに入るのかよ、そういうガラじゃないってー」
「うわ今結構イラッとした、かなりイラッとした。殺意が沸いたんだけど、かなりね」
ミギー君にニヤニヤしながら言われた白仮君は「やっぱり殴っていい?」って手を握りしめながら聞いていました。
そんな白仮君に対して、ミギー君は挑発的な態度をとっていました。まあケレンさんに止められてたけどね。
白仮君とミギー君はなんか、喧嘩するほど仲が良いってやつなのかな? ライバル的な感じなの?
「ミギー君は本当に興味ないの?」
「前に言った通り勉強するから……それにスピリット系だから、体鍛えてもあんま変わんないんだよねー」
「魔力を食べないと強くならないんだね……白仮君は亜人だから、体鍛えたら強くなるの?」
「そう、ほぼ人間と同じだからね。ちょっと丈夫なだけだし」
「というか、ユヴェリア王子が鍛えてるのが不思議なんだけど……あの人ほぼスピリットだよね」って白仮君は言ったのです。
たぶんそれはヴァージハルト人の宿命だと彩萌は思います、あと……王子はお母様とかフレンジアさんに憧れてるからね、二人とも強い。
それに王子は体を鍛えるというよりも、勉強と同じ感覚で武術を覚えてるんじゃないかな。
彩萌が、ケレンさんも鍛えてるの? って聞いたら、ケレンさんはかなりどきまぎしながら「へっ!? あ、はい!」って答えたのです。緊張してるのかな?
ちなみにディーテさんは凄いニコニコしながら彩萌の様子を静かに見ていました、保護者の気分を味わっているようです。
落ち着いたっぽいクーリーちゃんとシェミューナちゃんが戻ってきたころ、アタリアンも戻ってきたのです。ユヴェリア王子も一緒でした。
というかこのサークルを作った人は王子で、このサークルの主導権も王子にあるらしいです。
「えーっと、ケレンさんでしたよね。貴女はスポーツか武術……もしくは武器等を使用した経験はありますか?」
「あります。時々ですが、自警団の活動に参加をしたり知人に護身術を教えてもらったりしていました」
言い辛そうな雰囲気でしたが、ケレンさんは「大通りから離れた、治安の悪い地区に住んでおりますので……」と言ったのです。
そうなの? 大通りから離れた場所に住んでたら、帰るのが大変だね……。
今日は引き止めちゃったから、帰るの遅くなっちゃうよね? 大丈夫なのかな……彩萌ちょっと心配だよ。
ちなみにクレメニスは第一地区とか第二地区とかで分類されています、全部で第八地区まであるらしい。島の中心にある聖樹の根元の農村はフェーニシアの里って名前で、地区には含まれてません。クレメニスから離れてるからね。
山吹君が住んでるのは第三地区、学校から遠いです。大聖堂と学校は第一地区だから、でも第三地区はそんなに治安悪くないし(むしろドルガー家所有の畑とか従業員宿舎とかそういうのしかない)そして第四地区と第五地区は第一と第二のように栄えてはいないけど大聖堂の裏通りにあるから、大通りから離れてるって言うほどでもないです。第四と第五は大聖堂が近いから、治安は良いです。
関係ないけど、第四地区と第五地区はフェーニシアの里でとれた新鮮なお野菜が売ってるよ。第三地区から第二地区では魚とか、塩に強いお野菜とかフルーツが売ってるよ。ドルガーブランドです。
そして第六地区にはギルドとお酒を提供する店がいっぱいあるので、第六は荒々しいです。
でもそこで犯罪行為をするのはだいぶ命知らずな奴ぐらいですよ、ギルドの人たちは荒っぽいけど良い人が多いらしいからね。
なので、おそらくケレンさんが住んでいるのは第八か第七地区です。子供が自警団の活動に参加できて、なおかつ大通りから離れているのはその二つしか考えられません。
そして自警団が機能しているようなので、第七地区だと思います。第八地区は無法地帯っぽい場所だから近寄っちゃだめだよって、前に山吹君が言ってました。
第七地区と第八地区は隣接していて、二つとも治安は悪いです。第八地区にはファンタジーマフィアがいるんだよって山吹君言ってた。
でもケレンさんはそのことを誰かに知られたくないようです、とっても言い辛そうだったからね。
「なるほど、では実力の程は申し分ないと考えても良さそうですね」
「あの……横から口を出すようで申し訳ないんだけど、ソニアは体験入学とかある、のですか?」
「白仮君も興味があるのですね、李暗さんは二人の事をどう思われますか?」
ユヴェリア王子がアタリアンに聞くと、アタリアンは第三の目で二人をギョロッと見たのです。ケレンさんと白仮君はビビってました。
第三の目はキラキラというより、ギラギラと光っています。二人をジッと見つめて、アタリアンはちょっと考え込んでいました。
そしてアタリアンは彩萌たちの方をチラッと見て、ケレンさんに視線をやったのです。
「そろそろ時間的な問題もあるし、とりあえず彩萌とその友達は帰した方が良いだろ。白仮とケレンは残れるか?」
おそらくアタリアンの気遣いですね、シェミューナちゃんは残念そうな声をあげてたけど……。
白仮君とケレンさんにお別れをして、体育館を出るのです。出る時に、アタリアンに「ケレンさん送ってってあげてね」って言ったら、アタリアンは「おお」って返事してくれたのです。
でも、ソニアに入ったら帰りが遅くなっちゃうよね……? その辺は大丈夫なのかな?
シェミューナちゃんはディーテさんが送って行ってくれるっぽいです、彩萌たちは三人で帰りました。めっちゃ近いからね。
凄かったねーとか、ミギーが勉強ってどういうことよーとか、いろいろ話しながら帰ったのです。
シェリエも見に来ればよかったのにねって、クーリーちゃんもミギー君も言っていました。
そして帰った彩萌とクーリーちゃんは急いでご飯を食べてお風呂に入ったのです。
シェリエちゃんは部屋で勉強をしていました、控えめに話しかけたら集中したいからってやんわりと拒絶されちゃいました。
なので今日は一旦あきらめて、彩萌も勉強に集中することにしました。
ついでに交換日記でお母さんと夕闇の巫さんにお手紙を書いたのです。お母さんには彩萌の住んでるとこの話とか、夕闇の巫さんにはディーテさんの話とか。
そういえばフレンジアさんはお休みしてるらしいけど、今何やってるんだろう……?
――あやめとアヤメの交換日記、九十一頁




