好敵手……?
遅れて教室に行けば、山吹君はすっごくすっごく不機嫌そうだった。
言い訳したら一応は認めてくれたけど、やっぱり不機嫌そうでした。
山吹君の不機嫌そうなオーラも痛いけど、冷ややかなケレンさんの視線も痛かったです。
白仮くんはどんまいって言ってくれた、ありがとう……。
魔法薬の授業は、勉強というよりも魔法薬に興味を持ってもらうためのものであってくわしいことを勉強するわけでは無いらしい。
くわしく勉強したいなら高等クラスからの選択授業で選択してください、らしい。
やっぱり今日は着色剤のお勉強みたいです、今から配る木製人形以外に着色しないでねって言ってたけど……このクラスにはたぶん机をデコレーションする人は居ないよ。以前の反省を生かしたのか、先に配っちゃうみたいです。
人形を配り終わって、山吹君が取り出したのは透明な液体が入ったなんか透明な細長い入れ物でした。
揺らしてくるくる中身を回すと、なんか紫色になってた。
「商家の生まれの子は聞いたことがあるかもしれないけど、これは魔力に反応して色が出る薬……最近は呪いが掛けられてない証明として口に入れない商品に掛けたりして使用されてるよ。名前はマクナクディル……飲み込んでも大丈夫だけどアルコールに耐性が無い人は酔うから要注意ね、大量に飲み込むと髪の色が変わったり皮膚が変色したりするからね、まあ……緑色の肌とか青色の肌になりたかったら飲めば良いよ」
そう説明して、山吹君は教卓にそのお薬が入った入れ物を置きました。
もう一個なんか取り出したけど、なんかこっちは粉っぽい。
「これは粘性率を上げる粉ね、入れすぎると硬くなるから入れすぎ注意。マクナクディルは魔力の供給によって色付いてるから、持続的に与え続けないと色を保てないけど」
教卓に置いておいたそのお薬は確かに透明に戻ってた、もう一回山吹君はその液体をくるくるするの。今度は紺色でした。
紺色に変わったマクナクディルに、山吹君は粉を一つまみくらい入れてまたくるくるしてた。
しばらくすると、なんかペンキみたいになってて……ぺっとぺとになってた!
それを教卓の上に置いたんです、しばらく黙ってそれを見てたけど……色は紺色のままでした。
「こうすれば魔力の供給が無くても色が保てるようになる、実はこの粉には魔力を拒絶する性質があって、マクナクディルは魔力との融和性が高い。なんか二つの作用がなんか上手いことなって中に魔力が閉じ込められちゃってこうなってるってわけ」
あ……なんかちょっと最後の方面倒臭くなっちゃったみたい。
でもなんとなく分かったよ、山吹君なんかすごい。クールでかっこいいよ!
なんかごそごそいっぱいマクナクディルという薬を取り出したの、マクナクディルって安価で生産できるのかな?
「と言う訳で、一人に三つ配るから一つは自分の魔力で作って……あとの二つは友達の魔力で着色剤作ってね。全員、自分が保有してる魔力の色は分かってるよね?」
分からない、と言う人は居なかったのでマクナクディルは全員に配られました!
あと粉も紙の袋に入れられて三つ配られたよ、きっと入れすぎて硬くなっちゃった子がいたんだね。それと専用の筆ね!
これで着色剤を作るんだね! わーい、彩萌は真っ黒しか作れなーい。
とりあえず白仮くんにの魔力を貸してもらおう、シーシープドラゴンと言えば白っぽい色だもんね!
「白仮くん、白色ちょうだい」
「じゃあ物々交換ね」
魔力の供給とかいうののやりかたがよく分からなかったけど、山吹君がヘルプに来てくれて何とかできた。
なんとかできたけど、けっきょくよく分からない。
きっと彩萌は一人では魔法が使えない体なんだね……、そういう約束だもんね。
あとシェリエちゃんの魔力が欲しいな……、だってしーちゃんなんかクリーム色っぽいから黄色っぽいんだもん。
でもシェリエちゃんモテモテだね、シェリエちゃんはすっごい嫌そうな顔してたけど。
んーどうしようかなぁ、って考えてたら後ろの子に声を掛けられた。
「叶山さんは……黒色なの? 私、黒好きなの……良かったら私にもちょうだい?」
「良いですよ! えーっと、貴女は何色なの?」
「私は黄色寄りのオレンジなんだけど……良いかな?」
うーん、まあいっか! ちょっと赤っぽくっても可愛ければ良いよね!
その女の子は赤茶色の髪の毛で大きい眼鏡をかけてるの、そばかすがなんかポイントっぽい。
髪の毛はふわふわしたボブだったよ、良い人そうなオーラが出てます。
やっぱり魔力の供給が上手く出来ないので、今度は白仮くんに助けてもらった。
ありがとう白仮くん、すごいよ白仮くん。
ちなみに白仮くんは誰かから貰いに行くのが面倒臭かったのか、あと一個は自分で緑色を作ってた。
白仮くんは席から一度も立ってないね、そう言えばコタツから出ないで何でもやっちゃう人をコタツムリって言うってお姉ちゃん言ってたから……白仮くんはイスツムリですかね?
「ありがとう叶山さん、私ももう一個誰かから貰ってくるね……本当にありがとう」
穏やかそうなかわいい子です、笑顔がふにゃって感じでステキ……。
はわーっと和んでたら白仮くんに「顔が変態みたいな感じになってるよ」って言われた。
うぅ……変態じゃないです、彩萌は絶対に変態じゃないです。
というか変態みたいな顔って、どんな顔なのかな。
シェリエちゃんのほうをちらっと見たら残念そうな顔してた、ごめんね……忙しそうだったから。
彩萌が着色したシーシープドラゴンは顔の部分とかが薄橙色で毛が白色の羽が真っ黒です!
ドラゴンらしさを演出した、という白仮くんのシーシープドラゴンは顔の部分とかが緑色で、毛が白くて羽が真っ黒だったよ。たしかに、緑色だとドラゴンっぽいって言えなくもないかな……。
後ろの席の子……名前はフィルリアちゃんというらしい。
フィルリアちゃんのシーシープドラゴンは黒羊仕様になってたよ。
それで羽がピンク色なの、可愛い。
「ねぇ、フィルリアちゃん……降誕祭ってなに?」
「え、知らないの? 聖女様の誕生日を祝う日だよ。リイムを使ったお菓子とか料理を食べたりしてね、このシーシープドラゴンの人形を友達とか大切な人と交換してずっと縁が続きますよーにーってお願いしたりするんだよ」
「……それって、もしかして九月二十日?」
そう聞いたら、うんってフィルリアちゃんはうなずいた。
えー、どうしよう……彩萌の誕生日とかぶってる!
これは言い出しにくい雰囲気になっちゃうね……、彩萌の誕生日を祝って欲しかったのにぃ。
……あれ? でも聖女の正体って彩萌だから、一応彩萌祝われてるのかな。
えーでも彩萌はもう卒業したから、やっぱりちょっと違うよね……。
降誕祭忙しいのかな、忙しかったらなんか……悪いよね。
ぶー、何で聖女は彩萌と同じ誕生日なんだよー。
まあ彩萌だったからしょうがないけどさー、なんだよー。
幻想世界に来てから誰にも生年月日言ってないのになんでバレてんだよー。
ぶーぶー、山吹君には聖女じゃなくて彩萌を祝ってほしーよー。
「か、叶山さん? ……どうしたの?」
「落ち込んでるみたいだから放って置いたら」
机にべったりしてたら、フィルリアちゃんに心配された。
シェリエちゃんとかエミリちゃんとかはしょうがないとして……、山吹君には祝ってもらいたいのです。
山吹君彩萌の誕生日覚えてるかなぁ……、でも四年たってるし……忘れちゃったかなぁ。
生徒に出来上がったシーシープドラゴンを見せられてた山吹君をちらっと見てみたら、目が合ったんだよ。
でもすぐにそらされちゃったけどね……、覚えててくれてたら嬉しいなぁ。
五時間目はそんな感じで終わり、特に山吹君との接触はありません。残念です。
帰りの会やってー、教室のお掃除してー帰るー。
帰りの会ではちょっと反省会みたいなことやってた、あと宿題が出たよ。
降誕祭にちなんで、聖女とかシーシープドラゴンとか精霊とか降誕祭の歴史について何でもいいから調べてきて、まとめた物を来週の授業で発表してね、って言うことをグアリエ先生が言ってたよ。
もっとかしこまった言い方でしたけど。
レポートってやつですね、グアリエ先生はむずかしく考えないで自由で良いって言ってたけど。
彩萌は絶対に聖女について調べたくないから、降誕祭について調べようかな……。
箒で掃いたり、棚とか窓とか拭くんだけど全員でやってるからすぐに終わりそう。
なんて言うか、掃除はなんか共同で作業することが大事ってことでやってるらしいからね。
魔法のプロフェッショナル(教師)が居るから別に手作業で完全にキレイにしなくても先生たちがキレイにしてくれるから良いのです。
孤児院の子たちが自分で孤児院を掃除するのは、やっぱり自立をうながす為らしい。それに掃除とかが出来れば、メイドさんとか執事さんとかそういうお仕事が出来るわけだから一つの勉強だよね。
たとえシスターさんとかが魔法を使えてもそれに頼ったらいけないのです。
みんながみんな学校卒業したら神に仕えるお仕事をするわけでも無いからね、そして魔法が上手に使えるわけでも無い。
中等クラス、高等クラスになった孤児院の子が学童院のお掃除をするのは何でだろうね、使用人いっぱい居るらしいけど……。やっぱり社会に出ると富裕層も中間層も貧困層も居るし……予行練習的な?
そんなことを考えていればやっぱり掃除はすぐに終わった、今三時くらいかー……。
帰るべきか、それとも図書館に行って降誕祭の歴史について調べるべきか悩みます。
ちょっと鞄を持って机にべったりしてたけど、顔をあげたら何故かシェリエちゃんと白仮くんとミギーくんが彩萌を観察してた。
ちょっとどころかかなりビビったんですけど。
「なんか、彩萌落ちこんでんの?」
「五時間目から彼女はずっと落ち込んでるよ」
「……授業に遅れたから? や……リーディア、先生だって分かってくれてると思う」
シェリエちゃん山吹って呼ぼうとしたよね、そして先生つけるの一瞬戸惑ったね……。
彩萌はもう落ち込んでないよ……たぶん。
「……クーリーちゃんは居ないの?」
「知らなーい、アイツなんかシェミューナとこそこそ話してたし? どーせクダラナイ話してんだよ」
仲直りは出来てないみたい、ミギーくんは不機嫌そうな雰囲気でした。
今は白仮くんと同じ見た目してるから、お面装備してる所為で顔が見えないね。
ミギーくんって本当の顔ってどんな顔なんだろう。
「そういえばミギーくんって本当はどんな見た目してるの? 本当の姿ってあるの?」
「私も気になる、ドッペルゲンガーの実態ってどんな感じ?」
そう聞いたら、ミギーくんはムッとした雰囲気になって「見たら死ぬから」って一言つぶやいて終わった。
聞かれたくないことなのかな、本当の姿は隠さなきゃいけないのかな。
人魚姫みたいに、約束が守れないと泡になったりするのかな。
まあどうでもいいや、とりあえず帰ろうかなぁ。
ディーテさんの様子見に行ってみようかなぁ、落ちこんでそうだし。
「シェリエちゃん、彩萌は図書館に行きたい」
「……それだけ? 普通もっと聞いてくるものだと思ってた」
「えっ? だって聞かれたくないことなんでしょ? それに彩萌そこまでミギーくんの本当の姿には興味ないです」
「なんかさぁ、彩萌って冷たい」
「彩萌は冷たくないですよ! だってミギーくんはミギーくんだし、別人になってもミギーくんじゃん? 姿形なんて全然問題じゃないですよ、相手を認識するのに大切な要素だけど……ミギーくんだって分かるならどんな姿でも友達やっていけるなら良いかなって思った」
彩萌がそう言えばミギーくんは「ふーん……」って小さく呟いてなんか一人で帰ろうとしてた。
なんか帰ろうとしてたんだけど、すぐに戻って来て窓に近づいて外の景色見てた。
そんな不思議行動に首をかしげていると、教室の扉が開いたんです。
「私は認めないわ! アナタは冷たい人間だわ、だって良縁を容赦なく切ったじゃない!」
入ってきたのはシェミューナちゃんだった、なんかちょっと泣きそうになってるみたい。
その後ろにクーリーちゃんも居たけど、なんかやれやれって言うか、あきれてるような顔だったよ。
「さっきミギーの心が揺れ動いたわ、ちょっと心に響いたみたいだけどそんなどこにでもあるような安っぽい言葉に騙されちゃダメよ!」
よく分からないけど、それも赤い糸の効果なのかな。
なんだかストーカーみたいだねシェミューナちゃん、若気の至りってやつなのかな。
ミギーくんはすっごい嫌そうな雰囲気でした。
「彼女は悪魔のような女性なの……! 惑わして良縁を引き千切る魔女だったの、ちょっとカッコいいじゃんなんて私は思ってないからね!」
「シェミューナちゃん……赤い糸千切っちゃったこと怒ってるの?」
「アナタは愛の僕であるクピアーの敵だわ! 私の存在意義とアイデンティティーに関わる問題なのだよ、お嬢さん!」
「なんか三文芝居見てるみたい」ってシェリエちゃん呟いてたけど、そんなこと言っちゃダメだよ。
シェミューナちゃんにとってはすっごい大事なことなんだよ。
でも存在意義とあいでんてぃてぃーとかいうのが関わる問題だったとしても、呪いとか洗脳とかストーカーはダメだよ。道徳的に良くないですよ、だからダメだよ。
「えーっと、でもなんて言うか……えーっと」
でも白仮くんとかシェリエちゃんとかミギーくんとか、他の人がいる前でそれは指摘しづらいなぁ……。
だってシェミューナちゃんにとって、ちょっぴりマイナス要素になっちゃうかもだし。
大好きなミギーくんにこれ以上嫌われたら、傷ついちゃうかも。
「彼女は魔女じゃなくて、鬼女だよ」
「とりあえず、面倒だからそういう男女間のドロドロに私達を巻き込まないでくれない……ミギーと話し合って解決したら? 彩萌、行こう」
「えー!? これと話し合う事なんて無いから! 僕はお前のこと嫌いなの、だからもう付き纏うの止めて!」
シェミューナちゃんは……すごい泣きそう、ちょっとかわいそう……。
彩萌の所為……だとは全く思わないけど、でもなんか……うーん。
シェミューナちゃんは若いから、きっと若気の至りってやつなんだよ。
これから改善していけるよ、シェミューナちゃんは根は良い子だと彩萌は思います。
ちょっと独善的だし、思いこみ激しいし……調子乗っちゃう感じかも知れないけど、年取ったら落ち着くんじゃないかな。
だって最初は彩萌の恋を応援してくれようとしたんだよ、やり方は完璧に間違ってたけど。
落ち込んでるシェミューナちゃんに近付いてみた、すっごいしょぼーんってしてる。
「あのね、シェミューナちゃん……シェミューナちゃんはあそこからすぐに逃げちゃったから知らないかもしれないけど、王子……あの紫色の人はね、赤い糸で繋がれた人に言い寄られて嫌な思いしちゃったんだよ、怖い思いしちゃったんだよ」
「だから何よ……、最初はダメでもそのうち良い感じになったかもしれないじゃない」
とりあえず、小声で話しかけてみた。
分かってくれると良いんだけど……分かってくれるかな。
「最初はダメでもそのうち良い感じになるなら、赤い糸なんてなくても大丈夫なんだよ。シェミューナちゃんはもし魔法でミギー君以外の誰かを無理矢理に好きにされたら嫌じゃないの? その人も本当は違う誰かが好きだったのかもしれないんだよ、シェミューナちゃんがしたことってそう言うことだよ」
シェミューナちゃんは何も言わなかった、分かってくれることを祈ってます。
クピアーとか言ってたから、なんかそういう種族なのかもしれないけどね。
「その力はきっと他にも使い道があると思うから、ぜひ違う使い方で恋する人を応援してあげて欲しいな……彩萌はシェミューナちゃんを応援してるよ」
何にも反応しないし、……というか早くしないと時間無くなっちゃう!
門限は六時だから……あと二時間半じゃん!
図書館覗いてから帰らないといけないから……本当に時間がないじゃん!
だって夕ご飯は五時四十五分頃からで、そのあとお風呂入ったりしなきゃだから……!
あわわ、忙しい!
だってだって、彩萌は幻想文字の予習もしなきゃいけないからね!
ディーテさんが泣くから、図書館には絶対に顔見せなきゃ。
「……シェリエちゃん! 時間無いから、急いで図書館行かなきゃ!」
「そうだね」
彩萌はじゃーねーって白仮くんたちに手を振って、急いで図書館に向かいました。
ミギーくんもついて来たけど、学校出たところでバイバイした。
急いで彩萌はね、図書館に行ったんだよ。
ディーテさんにすごく謝られたんだよ、土下座する勢いだった。
とりあえず彩萌は、クレメニスの祭事って言う本を借りてディーテさんとちょっと話してから帰りました。
シェリエちゃんはなんか、フィルウェルリア聖書の謎と聖女とかいう本とその問題のフィルウェルリア聖書を借りてた。
ちょっと恥ずかしいです……。
でも、まあ……いっか。
――あやめとアヤメの交換日記、九頁