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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
前略、叶山様へ
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あかねちゃん記念日

 グラーノさんに教えてもらったやり方で彩萌は元に戻ることが出来たのです。

 安定するまではお面は付けていた方が良いらしいので、しばらくは外せそうにありません。でも杖は持ってなくても平気らしい。

 そして体に戻ることが出来て愛されてハッピーエンドな感じでしたが、山吹君は彩萌の方を見てくれなくなりました。視線が合わないどころの話ではなく、山吹君は斜め上とか横を見るのです、照れすぎです。

 普段通りに振舞おうとしているのかいつもより素っ気無い、もっといつものように小言を言ってほしいです。

 少女漫画だったら女の子が照れちゃって顔見れないよーってなるところだよ、まあ彩萌はガン見しますけどね!

 あと山吹君の作ってくれた夕ご飯はとっても美味しかったです、愛情を感じます。ディーテさんにも食べさせたいくらい美味しい、でもディーテさんが帰ってきたのは次の日の朝でした。

 ディーテさんは泣きながら帰ってきたけど、ちゃっかり白仮君のお家で夕ご飯を食べてきたみたいです。

 お刺身とか食べたんだって、ディーテさん泣いてるけど意外と余裕あったんだね。

 ディーテさんはお母さんからもらったかつお節とかを山吹君にあげたのです。山吹君はちょっと困惑してたけど、とっても喜んでいました。

 そしてディーテさんにお面の話をしたら、ディーテさんが「頼仁とお揃いだね」って言うから山吹君の顔がご機嫌斜めな感じになったのです。

 だから彩萌は急いでお面を角に引っかけたよね! でも引っかけただけだと安定しないので、山吹君にちゃんと縛ってもらいました。最初はディーテさんがやろうとしてくれたけど、彩萌は山吹君にしてもらいたかったのでお断りしたのです。ちょっと落ち込んでた。

 その後、孤児院に戻るためにディーテさんと一緒に山吹君のお家を出たのです。お別れの時に山吹君はギューってしてくれなかったので、彩萌が抱き着いてやりましたよ! 引きはがされたり文句を言われたりはしなかったですけど、山吹君は言いたいことを我慢しているような顔になってました。顔がちょっと赤かったです。

 ここまではダイジェストでお送りいたしました、現在の彩萌は孤児院の前に居るのです。時刻はたぶん午後六時過ぎていると思います。

 山吹君が連絡をしてくれたけど、彩萌は少しドキドキしています。緊張です。

 ご飯は食べてきたので大丈夫ですけど、お風呂入ったりクーリーちゃんと仲直りしたりシェリエちゃんに謝ったりクーリーちゃんと仲直りしたりしたいです。

 誕生日プレゼントのお礼も言っていません……そういえば、クーリーちゃんがくれたプレゼントはどこいっちゃったんだろう……。

 クーリーちゃん居なかったからあんまり触れなかったけど、たしかミサンガだったような気がする、誘拐とかされちゃったからエミリちゃんの家の庭に落としちゃったんだ……。

 指輪とピアスはシェリエちゃんが持ってたのを見た、イズマさんがくれたワンドホルダーは山吹君の家にあった。エミリちゃんのプレゼントは服だったから、家の中に置いてきたから無くなってないはず……でもミサンガは持ってたし、腕時計も倒れる時に持ってた……。リボンと湯呑も服と一緒に置いてたから、平気だね。

 彩萌がちょっと落ち込んでいると、ディーテさんが頭を撫でてくれたのです。

 ありがとうディーテさん。


「ディーテさん、また明日ね」

「がんばって彩萌ちゃん、きっと大丈夫だよ」


 孤児院の呼び鈴をぽちっと押すと、すぐにシュガーさんが開けてくれたのです。

 シュガーさんは相変わらずで「あら! おかえりなさい、かなめちゃん!」って彩萌の名前を間違えたのです。

 彩萌が挨拶をすると、シュガーさんはハグをしてくれたのです! でもちょっとお酒臭かったです、もう飲んでいるのですね。

 シュガーさんに連れられて、彩萌は食堂に行ったのです。シュガーさんが扉を開いて「あかねちゃんが帰ってきたわ!」って言うと、みんな拍手をしてくれたのです!

 すごい、嬉しかった。うん、みんなありがとう……じーんってした。

 でもシュガーさん、彩萌はアカネでもカナメでもありません。

 あんまり話したことが無い子でも、彩萌に挨拶してくれたのです。「家族が居なくなって、お葬式会場みたいな雰囲気だったよ!」って言ってくれたのです、彩萌も家族の一員に成れたんだなって思うとうれしいです……。「シェリエが荒れてたよ、保護者なんだからなんとかしてよ」って言われたときは彩萌とシェリエちゃんがどういう関係で見られてるのか気になりましたけども。

 彩萌はみんなに食堂の中央の列の一番前に連れて行かれて、厨房のお姉さんがジュースを出してくれました。

 宴会的な雰囲気になっています……! シュガーさんと厨房のお姉さんはお酒を飲んでます、一部の子も飲んでるみたいですけども。

 彩萌がワタワタしていると、食堂の扉を開けて入ってくる金色が見えたのです! シェリエちゃんです、背が高いからよく見えます!


「彩萌、元気になったみたいで良かった……」

「シェリエちゃん、心配かけてごめんね。でも問題はぜーんぶ解決したのです、たぶん」


 シェリエちゃんは小さく笑って「たぶんか、まあ良いけどね」って呟いたのです、心配かけてごめんよ。

 そしてシェリエちゃんの後ろからクーリーちゃんの姿をしたミギー君が現れたのです、ニヤッと笑って「お先にすませたぜ!」って言うのです。

 ミギー君の後ろにはクーリーちゃんが居ました、ちょっと彩萌とは顔を合わせずらそうです。


「クーリーちゃん! 何から言ったらいいんだろう……あのね、誕生日プレゼントありがとう! 心配かけてごめんね!」

「えっと、良いんだよ……そんなこと、誕生日は祝うものだし病気は仕方ないし……」

「あとごめんね、ミサンガ無くなっちゃったかも……」

「良いの、ミサンガは役目を終えたらすぐ捨てるようなものだから! それにまたすぐに作れるから、気にしないで」


「シェリエちゃんの腕時計も……」と彩萌が言ったら、シェリエちゃんは「腕時計はすぐ見つかったよ、彩萌の箱に入れといた」って……ありがとう!

 そんな会話が終わって、ミギー君がクーリーちゃんやシェリエちゃんの椅子に座らせながら「宴会だからな、じゃんじゃんのめのめー!」って言ったのです。

 二人が座ると他の子がジュースを持ってきてくれたのです、なんだかみんなテンション高いような……本当にこれジュースなの……?

 彩萌はちょっぴり心配になったので、厨房のお姉さんが注いでくれたジュースだけを飲もうと思います。うん。

 シェリエちゃんが黄色いジュースらしきものを飲んで「あ、これアルコールだね」って呟いたので、彩萌は絶対に他の子が進めてくれたのは飲まないよ。

 クーリーちゃんもアルコールは飲まない人のようで、近くにいた女の子にあげてました。シェリエちゃんは普通に飲んでた。


「クーリーちゃん、あの時の事は本当にごめんね」

「あ……良いの、よく考えれば私だって後ろめたくなくっても他人に言いたくないものってあるもん」


「本当の体重とかね!」ってクーリーちゃんは笑ってくれたのです! 良かったです……さっきまでちょっと表情がぎこちなかったから、笑ってくれてうれしい。

 そんなクーリーちゃんを見て、ミギー君は「クーリーはデブだしな!」って言って怒られてました。それはアウトな発言です……。


「まあ、ミギーの事は放置するわ……前のは恋愛運上げるやつ勝手に作っちゃったけど、恋愛運じゃない方が良いかな?」

「えっ、クーリーちゃんがくれたの恋愛運がアップするやつだったの?」

「そうだけど、シェリエと相談して決めたんだけど……嫌だった?」

「そんなことないよ! すっごく良いことあったんだよー、クーリーちゃんのくれたミサンガのおかげかもしれない!」


「なにそれー気になるー」って言われたけど、今は内緒ですよー。本当は秘密だから、後でこっそりですよ!

 でもシェミューナちゃんには絶対秘密です、悪気は無いけどうっかり喋っちゃいそうだから言えません。

 この会話を聞いてミギー君は「女子だなー」って軽く流してた、その事にクーリーちゃんはすっごいびっくりしてた。彩萌もちょっとびっくりしたけど。


「ミギーの恋愛アレルギーが治ってる……!? どうしたの、あんた本物なの!?」

「僕は家族愛っていうのを垣間見てきたから、その前にある恋愛もまあそんなもんかーって思うことにしたんだぜ」


「クーリーよりも大人だから!」とミギー君は胸を張って言ったのです。

 そうだったのか、ミギー君に良い影響があったんだね。周りが成長してくるとそういう話題が増えるからね、ミギー君のストレスの原因が減って良かったです。


「家族愛を見てきたってどういうこと?」

「ディーテ王のお母様を見てきたんだぜ! あの人には母親が居たんだぜ!」

「えー嘘だぁ! でも、どんな感じの人なの?」

「とっても大きくて、でも小さくって、素敵な手をしてた。僕も、母親が居たら……あんな人が良いなって思った!」


 クーリーちゃんは首をかしげて「素敵な手って?」ってミギー君に聞いていました。

 大家族とか家庭に憧れがあるらしいクーリーちゃんは興味津々でした、ミギー君もなんか楽しそうです。


「大きくて包み込めそうな手、腕も長いから大人でも軽く抱きしめられる感じ!」

「それって素敵なの? でも抱きしめられるのは、良いかもしれない」


 ミギー君は家族愛とかについて語っていました、他の子も途中から聞いていたのです。

 シェリエちゃんも珍しく和やかな表情をしていました、おじいさんを思い出しているのかもしれません。

 ミギー君は現実世界に行ったことは言わないで、見てきたことをミギー君の感性で語っていました。お父さんは実は陰ながら頑張る存在、の一言で終わってしまいましたけども……彩萌のお父さんも本当はもっとすごいんだよ、立派な人だよ。ちょっと魔法に弱いだけだよ。

 それにお父さんの代表格である神様だって……陰ながら頑張ってるか、うん……表に立ってなかった。

 両親を覚えている子とかが自分の家族の思い出を語ったりネガティブな愚痴をこぼしたり、知らない子はいろいろ聞いたり夢を語ったりして家族についての語り合いになっていました。


「こういうのって珍しい、孤児院の子はみんな仲は悪くないけど……踏み入った事は言わないっていうか、みんなで語るのは珍しいわ」

「そうだなぁ、同室の子はとても仲が良いけど、“みんな”は珍しいねぇ」


 シュガーさんと厨房のお姉さんはその様子を嬉しそうに見ていました。シュガーさんが「お酒の所為かしら!」って言ったらお姉さんすっごい呆れてたけど。

 彩萌も喋ったよ、みんながお母さんとお父さんの事をいっぱい言うから、お姉ちゃんの話をしてみた。シェリエちゃんは渋々お爺さんの話をしてたけど、でもまんざらでもないってやつです!

 そして気付いたら彩萌はお風呂に入り忘れていたわけだけどね、他の子は隙を見て入ったみたいです。

 ミギー君は入る必要ないし、シェリエちゃんとクーリーちゃんは先に入っていた様子、彩萌ったらうっかりさん……。

 シェリエちゃんにその事実を指摘されて彩萌がちょっと落ち込んでいたら、誰かが言ったのです。


「俺たちは大事な事を忘れてる、とっても重要な事を忘れてる!」


 食堂はざわざわし始めました、重要な事ってなんなんでしょう……彩萌はなんだかワクワクします。

 その男の子は隣にいた男の子に肘でツンツンされてました、もったいぶらずに言えよーって感じですかね。ちなみにミギー君が教えてくれたけど、アルグとザナって名前らしい。


「家族とか両親とか、そんな事を語る前に気が付くべきだった……孤児院の悪いところだ」

「早く言えよナルシスト、自分に酔ってんじゃねー!」

「昔の思い出も大事だけど、今も大事だ。世間では母の日があるのに、孤児院にはない!」


「ブラウン・シュガーとテスカ姉さんは祝われるべきだろう!」と男の子は言ったのです……! 孤児院に母の日はなかったんだね!

 というか、厨房のお姉さんってテスカって名前だったんだ……知らなかったなって彩萌が思ってたら、どこからか「お姉さんそんな名前だったんだ……」って呟く声が聞こえたのでみんな知ってる訳じゃなさそうです。

 テスカ・ティフィカっていう名前らしいですよ。ティフィカは蛇って意味があるらしい。

 まあブラウン・シュガーって言うのも知らなかったけど……。


「じゃあ今日が記念日だ、ミギー記念日にして祝おうぜ! あかねちゃん記念日でもいいけど!」

「なんでシュガーお姉ちゃんとテスカお姉ちゃんを祝うのにミギー記念日なのよ!」


 ミギー君の発言にクーリーちゃんが突っ込んでました。あと、あかねちゃん記念日は止めてほしいです。

 みんながシュガーさんとテスカさんにいつもありがとう! って言えば、二人はちょっぴり照れていました。シュガーさんは「もう寝なさい」って言ってました。

 寝なさいって言われた人たちはぞろぞろと部屋に戻っていきます。彩萌は他にも用事があったから、食堂から人がほぼ居なくなってからシュガーさんとテスカさんに近付いて「いつもありがとう、お疲れ様です!」って言ったのです。クーリーちゃんとシェリエちゃんは一緒に残ってくれたの、ミギー君はすぐにありがとうって言って部屋に戻っていったけどね。


「あとごめんなさい、お風呂に入り忘れちゃって……一階のお風呂借りていいですか?」

「あら、そうなの? でもあやのちゃんは今日は退院したばっかりで主役だったもんね、しょうがないわね」


 一階のお風呂場の鍵を貸してもらえたのです、「食堂で飲んでるから出たら返してね」って言ってました。

 彩萌たちは一旦部屋に戻ったのです、クーリーちゃんは心配そうに「お風呂ついて行こうか? お化けが出るかもしれないし、外で待ってよっか?」って言ってくれたけど、彩萌はお化けとか幽霊は大丈夫です!

 というか、そういえばそんな噂があったね。みんなが入り終わったころに現れる一階のお風呂場の幽霊さん。

 シェリエちゃんのお墨付きももらい、クーリーちゃんが諦めてから彩萌はお風呂に向かったのです。

 そして廊下ですれ違った子に「お化けに気を付けてね!」って言われたのです、なんかそんなに言われるとちょっぴり心配になっちゃうよ。

 食堂を通り過ぎる時に、食堂の中からシュガーさんとテスカさんがひっそりと喜んでる声が聞こえて彩萌もうれしくなったよ。





 ――あやめとアヤメの交換日記、八十四頁

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