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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
神は無償の愛を謡う
81/114

なき獣は愛を謡うものを喰う

 ――そして、待っても待ってもディーテさんは来ません……彩萌は暇すぎてリゴールさんの頭を触って待っていたのですが、全然来ないのです! ちなみにリゴールさんの水風船みたいな頭はぷにょぷにょしててひんやりしてて触り心地が抜群だったのです! 癖になりますね、このぷにょぷにょ感。

 ディーテさん迷子になっちゃったのかな、寝の国に来るのって大変なんだね。

 彩萌はウェルサーの暮らしていた家に行かなければいけないので、ディーテさんを待つのは止めます。だって暇なんだもん。


「リゴールさん、国はどこにありますか?」


 彩萌がそう聞けば、リゴールさんは「あちらです」と指差したのです。

 リゴールさんが歩き出したので、彩萌はそれについて行くのです。本当は知らない人について行くのは良くないんだけど、彩萌は何となくリゴールさんは信用できる気がするのです。なんか……神様に似てる気がする、夕闇の巫さんじゃなくて世界を作ったナレンシアの方です。まあ、直感的な感じですけどね!

 霧の中を歩いていると、人の声が聞こえてきたのです。声の聞こえる方へと歩いていると森を抜けたのです、そして門が見えて……その先に街が見えたのです!

 えっ……彩萌の想像よりも立派な街です、ロンドン的な感じの街です! 街は魔物除けの結界が張られているらしいです、あとリゴールさんの背より少し高い塀で囲まれていました。

 街は森の中と違って霧が薄いです。彩萌とリゴールさんが街の中に入ると、門番さんっぽい人がこっちを見て笑顔になったのです。


「お帰りなさいウェルサー、元気そうで何よりです」


 ……やばい、彩萌……超有名人だ! というかなんでみんなは彩萌がウェルサーだって分かるの?

 彩萌は不思議に思いつつ、門番さんに挨拶を返すのです。

 リゴールさんに視線を戻すと、リゴールさんは光る球をくるくる回していたのです。不思議です、なんで分かっちゃうんだろう。

 彩萌は待ち行く人に挨拶をされながら、大通りを歩いて行くのです。そうすると、広場に出たのです。噴水とかがあって、なんか街の人の憩いの場って感じです!

 噴水に近付いて水面を覗いて彩萌は気付いたのです、彩萌の見た目がちょっぴり変わっていたのです。というか……黒いうねうねした尻尾が何本か生えてて、目が真っ赤です。あー、これ……たぶんウェルサーが寿命のある生き物になった時の姿だ、彩萌は今生霊状態だから……魂だけだからそんな見た目になってるのかな?

 じゃあみんな彩萌がウェルサーだってわかるか、だってウェルサーの姿してるんだもん。


「リゴールさん、ウェルサーの家ってどこにあるんですか?」


 彩萌が聞けば、リゴールさんは広場に面していた細い建物を指さしたのです。

 ウェルサーはその細い建物の二階の窓から広場を見下ろして、死者たちの生活を眺めるのが好きだったそうです。

 ウェルサーの家に彩萌が近付くと、家の扉がガチャンって音を立てて勝手に開いたのです!

 驚いてリゴールさんを見上げると、リゴールさんは小さく笑っていました。リゴールさんは彩萌の背を押して「どうぞごゆっくり」と言ったのです、お言葉に甘えることにします。

 家の中は綺麗でした、さっきまで誰かが暮らしてたのかな? って思うくらいです。

 なんだか、家が生きてるみたいです。呼吸をしているような気がします、そんな雰囲気でした。

 家は奥に細長くて、中に入ってすぐのところに細い階段があるのです。細い階段を上ると部屋が四つありました。広場が見えそうな部屋に入ると、その部屋はキラキラしたお星さまがいっぱい天井や壁に描かれたお部屋でした。星が光ってるよ。

 部屋には明かりがないです、カーテンを開くと部屋の中がよく見えるようになったのです。

 ベッドがあって、本棚と小さめのテーブルと椅子があります。テーブルの上になんか紙が乗ってるのが見えました。

 近付けば手紙でした、古言語で Furûrufuenia Amûsye って書かれていたのです……あぁ、これ中身全部古言語だよ……読むの大変な奴だ……。

 手紙の封を開けて、中の紙を取り出すとやっぱり古言語で書かれていました。


 Bîa furûrufuenia mênî a kûsyuno mwi, gwâru a furedeîru mwi, sîno mwi

 Furû rideî a menisu...... furedeîru! furûrufuenia deigga

 Deîte deigunomu a erubuia feden, teniâsyu a furûrufuenia feden mwi!

 Bia kûsyuno mwi! kûsyuno mwi! bia furûrufuenia deigga Amûsye!


 何とか解析したけど、読むのに時間がかかりました……。

 とりあえず手紙の一部にディーテさんが心から望むなら喋ってもいいけど、精霊さんたちにはフルールフェニアのことは喋るなよ! って書いてありますね。

 でも……白雪さんが言ってたこととあんまり変わらないな-読む必要あったのかなーって考えているとね、手紙が黒く変色したのです! 驚いている隙に手紙は溶けるように消えてしまったのです……なんかおまじないとか魔法が掛けられてたっぽいですね。彩萌はよく分からないけど、読む必要はあったようです。

 一通り部屋を眺めてね、窓の外を見るとリゴールさんが手を振っているのが見えました。この家にもう用がないと思うので出ます。

 広場には人が少し集まっていました。女の人たちが手を振ってくれたので、彩萌も手を振り返しておきましたよ!


「お待たせしました……ところでリゴールさん、ディーテさんはまだ来ないのかな?」

「うーん……まだ来ていないようですね」


 そっかぁ、残念だなぁ……って思ってたらね、近くにいたお婆ちゃんが飴をくれたのです。寝の国にも飴があるんだね。

 それにしても寝の国ってずっと明るいのかな……彩萌は手紙読むのにめっちゃ時間かけたはずなのに、明るさが全然変わっていません。まあ、カーテンしめれば暗いから良いのかな。

 リゴールさんと一緒に広場のベンチに座るのです、そして彩萌はリゴールさんの頭をぷにょぷにょするの。ぷにょぷにょ良いよ、ぷにょぷにょひんやりだよ。でもリゴールさんのぷにょぷにょの頭部はちょっと怖いね、お化けみたいだね。彩萌は幻想世界(ファンタジー)で慣れたから大丈夫だったけど、慣れてなかったらすっごくビビったと思うの。

 そしてお婆ちゃんがくれた飴はレモン味でした、美味しい。

 リゴールさんの頭部をぷにょぷにょしていると、大通りを歩く二人組が見えたのです。

 彩萌は何となくその人たちに見覚えがあるような気がしましたけど、彩萌の記憶には会った記憶はありません。

 その二人は周りの死者さんたちと違って生気があるというか……はっきりしているというか、穏やかな感じではありませんでした。

 一人は先を歩いている気難しそうな顔をした男性で、もう一人の男性は魔女とか魔法使いが着ていそうなフード付きのローブを羽織っています。

 気難しそうな顔をした男性はディーテさんと同じくらい若く見えます、マントを羽織っていて貴金属とかアクセサリーとかつけてて貴族っぽいです。後ろを歩いている男性はフードを深くかぶってて、すごく怪しい。

 その二人は彩萌を見ていました、というか彩萌のほうに歩いてきています。

 リゴールさんは二人組を見ていました……たぶん。


「健勝であったか、終焉の女神よ」


 彩萌の前まで来た気難しそうな顔の男性は忌々しそうな雰囲気で言ったのです、彩萌はこの人が誰なのか……なぜか分かってしまったのです。

 この人はクレガルニの王様であり、ウェルサーを討伐するように指示したイレンス王だと思ったのです。彩萌の魂がそう言っているのです。

 そしてイレンス王の後ろにいるフードをかぶった怪しい男は、ドルジアという名前の魔法使いさんだと思います。

 二人の外見は、イレンス王が日に焼けた小麦色の肌で黒目が赤黒くて、髪の毛も赤黒いです。ドルジアさんは青白くて目が金色で、髪の色が紫っぽい暗い色をしていました。

 彩萌はイレンス王を見ると、悲しくなります。前世で殺されちゃったからかな……?


「イレンス王も寝の国に居たんですね」

「少しは覚えていたか、光栄な事だな。ならば話は早い――私は全てを諦めた訳では無い、故に肝に銘じて置け。神を喰らうのはこの私、イレンス・トア・ガルニであると」


 イレンス王は「永久に閉じ込めておけるとは思わない方が良い」と彩萌に宣言してから去っていきました。

 そんなイレンス王の姿を見て、ドルジアさんは口元を手で隠しながら「くひっくひひっ」って笑っていました。なんかよく分かんないけど、喜んでるっぽいです。というか……イレンス王について行かないのですね。


「女神よ、我が王は世界を手中に収めるのが夢である。故に神々の存在は邪魔でしかない」

「はぁ……そうなんですか、だからと言って殺されるのは嫌なんですけど」

「殺すなんてもったいない。神々を封じ、その力を引き出す術を私は編み出したのだよ。しかし、それが我らが偉大な父は気に食わないらしい」


 ……封印されたり勝手に力を使用されたりするのは誰だって嫌だと彩萌は思いました。

 というか、この二人の言葉を聞いていると……どうも最初からウェルサーが精霊だと知ってたって感じの口ぶりですよね。


「噂によると、新たな夜の神は我が秘術を使う男だとか」

「えっ……魔石から力を引き出して使う魔術はドルジアさんが作ったんですか?」

「石に力を封じ、それを好きなように引き出して使う……女神が肉を持つ魔物にさえならなければ、女神が拒絶しなければ! 私の魔術は素晴らしいと実証されたというのに!」


「酷い話だ、あんまりだ」とドルジアさんが言ったけど、それは彩萌の所為じゃないからね、自業自得だからね。

 やっぱりこの人たちはウェルサーが悪魔じゃないって知ってたんだ、フルールフェニアもディーテさんも悪魔の手先でも悪魔を信仰してたわけじゃないって知ってたんだね……。

 国の人たちも巻き込まれて現実世界に隔離されたのに、二人はぜんぜん気にしていなさそうです。


「だが殺すつもりはなかった、ディーテが抵抗しなければ神々を石に封じるだけで済んだことだ」

「死ぬのはすっごく嫌だけど、封じられるのも彩萌は嫌ですよ……ディーテさんはそのことを知ってたの?」

「いや、知らないことだ。ウェルサーは悪魔であると言う民の噂に便乗した作戦だった、王宮でも一部の者に……概要しか知らされていない」


「もしもソレが彼に知られていれば、きっと彼は神子らしく民意を動かし、奇蹟を味方につけて我々を処しただろうな」とドルジアさんはにやにやしながら言いました。

 彩萌はすっごく嫌な気分です、悲しいです。ドルジアさんの素晴らしさを実証したいって希望やイレンス王の世界を手中に収めたいって願望も……それ自体は悪ではないのです。でも、二人の行動によって犠牲になった人たちとか動物とかいろいろ苦痛を背負う人たちがいたのは事実なのでその行動には罪があって、罰を負わないといけないし……反省だってしないといけないことだと思うのです。

 だから彩萌は二人がちょっと苦手です。平和が好きなので、人を傷付けても後悔も反省も悲しみもしない人は嫌いです……。

 でもなぜか彩萌はイレンス王が嫌いになれない、ドルジアさんは嫌だなって思ってしまうのですけども……。


「だが所詮は失われた過去の出来事さ……何れ我々は此処から旅立ち、世界へと舞い戻る。そしてイレンスはクレガルニの王として再び君臨する」

「もしここから出られたとしても、それは転生じゃないんですか? 記憶は消滅しちゃうんじゃないの?」

「イレンスは……ガルニはウェルシェだ。転生しても前世の記録が魂に残る、魂の本質もよほどのことが無い限りは変わらない……死んでも死なないのさ」


 ウェルシェ? ウェルシェって……えっ、シェは信者とか聖者とかの意味だから、ウェルサーの信者? えっ、もしかしてあの人にウェルサーの加護が付いているんですか?

 渡田先輩が上手く転生できなかったのも、もしかしてこれが関係してるのかな?

 というかウェルサーって友達いないんじゃなかったの? あー……でも、たしか精霊の存在自体はその当時あった聖書にも書かれているんだよね。ウェルサーが知らなくても、ウェルサーを信仰している人たちが居ても可笑しくはないのか……。無意識に加護でも与えていたんですかね。

 ……でもちょっと待って、イレンス王は自分が信仰していたウェルサーを悪魔呼ばわりしたのですか?

 まあ、見た目的には一番悪魔っぽいですけど酷いじゃないですか、あんまりですよ。


「しかしガルニでも自身がウェルシェだということは王しか知らない、王子や姫は知らずにウェルサーを悪魔だと思っていたわけだ」


「王は恐ろしい男だよ」とドルジアさんは意味深に笑うのです。何か企んでいるのでしょうか……。

 それにしてもドルジアさんはお喋りです、こんなにペラペラと喋っちゃっていいんですか? イレンス王に怒られるんじゃない?

 彩萌が怪しい人を見るような目でドルジアさんを見れば、ドルジアさんは彩萌を小ばかにしたような笑顔を浮かべたのです。


「Tenyuku fuitoka riarensîa, werusî a amudeitino furusû」


 古言語でドルジアさんは何かを呟くと、イレンス王が去った方向へと歩いて行ったのです。

 彩萌はよく聞こえなかったけど、たぶん良い意味の言葉ではないと思います。

 彩萌はまだ嫌な気分ですよ……ディーテさん早く来てよー、ゆううつになっちゃうー。


「ディーテさーん……」

「縁が繋がったとしても、寝の国に来るのは難しいですからね……でも幻想世界からなら結構簡単に来れるみたいですよ」


 彩萌が驚いて「えっ?」って言ったらね、リゴールさんは「ん?」って不思議そうな声を出したのです。

 不思議そうにしたいのは彩萌の方だよ、だって寝の国に行けないどうしようって話をしてたのに、幻想世界からなら簡単に行き来できるなんて知ったら彩萌たちの努力は何だったのかって話ですよ!


「行き来できるんですか……?」

「簡単に行き来できる人が居るのです、その人に手を引いてもらえば幻想世界に行く事が可能な人ならできると思います」


 そんなすごいことが出来るなんて誰だよ!? 精霊さんですら寝の国に入れないのに、どうしてその人は行き来できるの!?

 彩萌が驚きすぎてリゴールさんを見詰めてたらね、リゴールさんはくすくす笑ったのです。


「その人は絶縁と夕闇の巫に作られた魔物で、一度はこの寝の国に落ちたのです。しかし、彼にはこの国という守りは必要なかったのです」

「夕闇の巫さんに作られた、魔物ですか……」

「はい、仮面を被ることで身を守る亜人です。とっても変わった面を身に着けているのです」


 ……ま、まさか、それって……白仮君のおじいちゃん疑惑が出ている、夢に出てきたあのお面の少年のことではないでしょうか……。もしくは白仮一族ですよね。

 ヤバいじゃん、白仮君と彩萌って実は親戚みたいな感じなんじゃない!? だって夕闇の巫さんが生み出したんですよ?

 どうやって来るの? ってリゴールさんに聞いたら、その少年はもう使われてない古い井戸の底からやってくるらしいです。

 やっぱり白仮一族はホラー要素が強いです、彩萌は暇なのでその井戸を見に行くことにしました。

 だってディーテさんったら全然来ないんだもん。





 ――あやめとアヤメの交換日記、八十頁

 Furûrufuenia Amûsye

(フルールフェニア アムーシェ)

《最期の友達に関して大事なこと》


 Bîa furûrufuenia mênî a kûsyuno mwi, gwâru a furedeîru mwi, sîno mwi

 Furû rideî a menisu...... furedeîru! furûrufuenia deigga

 Deîte deigunomu a erubuia feden, teniâsyu a furûrufuenia feden mwi!

 Bia kûsyuno mwi! kûsyuno mwi! bia furûrufuenia deigga Amûsye!

(ビィア フルールフェニア メーニィ ァ クーシュノ ムィ、グァール ァ フレディール ムィ、シィノ ムィ

 フルー リディ ァ メニス……フレディール! フルールフェニア ディッガ

ディーテ ディグノム ァ エルヴィア フェデン、テニアーシュ ァ フルールフェニア フェデン ムィ!

 ビィア クーシュノ ムィ! クーシュノ ムィ! ビィア フルールフェニア ディッガ アムーシェ!)

《私が最期の友達に出来ることは祈らないこと、永遠に会えないわけじゃない、悲しみは必要ないよ

 死んで新しく生まれ変わった時……出会うことが出来る! だから最期の友達のことを覚えておいてね

 ディーテが心の奥底から望むなら喋ってもいいけど、家族に最期の友達のことを喋るのはダメだよ!

 私は祈っちゃダメ! 祈るのはダメだからね! 私が最期の友達のことを覚えておくのは大事なことだからね!》


 Tenyuku fuitoka riarensîa, werusî a amudeitino furusû

(テニュク フィトカ リアレンシィア、ウェルシィ ァ アムディチノ フルスー)

《長い耳を持つ王子は、ウェルサーの愛に殺されるだろう》

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