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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
神は無償の愛を謡う
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神を落して褪める夢幻

 夕闇の巫の彩萌(長いから次からは夕闇の巫さんって呼ぶ)はまだまだ残暑的な感じでちょっと暑いのに、冬用のセーラー服をクールに着こなしていました。

 黒いタイツを着ているから、全体的に真っ黒です。

「どうも皆さん、お揃いで」って夕闇の巫さんが言うから、彩萌はハッとしたのです。


「えーッ、なんで夕闇の巫の彩萌が居るの!?」

「えっ、夕闇の巫だったの!? あれっ、でも夕闇の巫の肉体はこのウェルちゃんが使ってるので……いやっそもそも叶山の妹は小学生じゃ?」

「落ち付けよシホちゃん、あれ僕と同じ感じじゃん? 幽霊みたいな状態なんじゃね?」


「魂だけ帰還したの!?」と彩萌が聞けば「そう」って、夕闇の巫さんはうなずいたのです。

 夕闇の巫さんは室内に入ってくると彩萌に「座って」と言ったので、その通りに正座しました。

 彩萌の前に夕闇の巫さんは正座すると、邪魔そうに長い髪の毛を後ろにはらったのです。


「ウェルサー、貴女には大分迷惑を掛けたね。まず先に謝罪させて欲しい、本当に申し訳ないと思っています」


 そう言って夕闇の巫さんは深々と頭を下げたのです。

 彩萌が慌てて気にしてないよって言って、頭を上げてくださいって言えば夕闇の巫さんは頭を上げてくれた。

 なんていうか、夕闇の巫さんはすました顔? ってやつで、あんまり反省していなさそうに見えます。でも、たぶん夕闇の巫さんは感情が表情に出ないタイプなのだと思います。彩萌もそうです、感情が表情に出ないのです。

 まあ、そうだったら面白いなーって話なので、実際には彩萌は考えてる事が表情に出まくりなタイプです。


「――私は、世界の歪みを直そうと思っています。その為に貴女の力をお借りしたいのですが」

「夕闇の巫さんが現実世界に戻ったら直るんじゃないの?」

「そうですね、それも歪みを直す為の行動と言えましょう。でも私がしたいのはもっと根本的な話かな」


 困った様な表情を浮かべて夕闇の巫さんは頬をかいていました、なんだかとっても大人な感じがする。めっちゃ長生きしてるからかな?

 そんな夕闇の巫さんをむーちゃんはムスッとした顔で睨み付けていました、もっと仲良くしようよ。


「まず幻想世界に関すること、ディーテ・カーマインの力をリィドナジアに移譲し人間に戻ってもらいたい、貴女の体に残った僅かな力を現在の夜の精霊に全て譲渡して欲しい。ただ……それをすると貴女は完全に魔術や魔法とは縁が切れる、魔法薬や魔術が効かないかもしれないしそう言う類の物を作れない体になる。可能性の話だけど、魔力に弱い体……つまり病弱にもなってしまうかもしれない」


 えーっと……彩萌の力をりっちゃんに移すの? というか彩萌にもちょっと力があったんだね。

 というかディーテさんって人間に戻れるの? ディーテさんが人間に戻ったら色々と大変そうだなって思った。

 そんな事を考えているとね、彩萌の近くに居たむーちゃんがいつの間にか大きめな白い剣を持ってたんです! それを夕闇の巫さんに向けてるの、物騒だし……銃刀法違反だし、なんか危ないからダメだと思うよ!

 さっきまでムスッとした顔だったのに、いつの間にかむーちゃんは真顔になってました。目が怖いです。

 夕闇の巫さんはそんなむーちゃんを冷めた目で見ています、一発即発な空気ってやつですか!?


「お前等は本当にぼくを苛立たせる天才だね、笑えないんだけど? お前等には自殺願望でもあるの? 被虐趣味なの? 穢らわしい血筋が、今すぐにその歴史に終止符を打ってやる。大人しく首を差し出せば楽に殺してやるよ、非常に不快だけどお前のおかげでウェルは生き返った様なものだしね」

「歪みを直さないでいた場合、その負担が掛かるのはウェルサーだよ。最初に歪みの被害を食らうのはウェルサーだろうね」

「だからなんだって言うの、そんな些細な事でぼくからウェルを奪うの」


 なんだかとってもシリアスな話です! 彩萌が入れる隙がありません、彩萌の話っぽいんだけど。

 というか彩萌が被害に遭うんだったら些細な事じゃないよね?

 魔法とかと縁が切れるだけで死ぬわけじゃないっぽいから、奪われるって言うのは違う様な気がするんですけど。

 彩萌やミギーくん、シホちゃんにも分かる様に話してほしいです。シホちゃんがぽかーんとしてるよ。


「ウェルサーに死ねって言ってる訳じゃない。私の力も原因だったけど、体に残っている精霊の力でウェルサーは苦しんでる」

「痛みも苦しみもぼく達なら取り除いてあげられる! 今の彩萌ちゃんの話じゃない、ぼくが言ってるのは次のウェルの話! 寿命のある生き物になっちゃったのは仕方ない、諦めてあげる。でも完全に魔法と縁が切れたら次のウェルがウェルじゃなくなるかもしれない、魂が消滅したらどうするの! 何処かぼく達と縁のない世界に行っちゃうかもしれない、そうしたら……もう見つけてあげられない」


 そうかぁ……むーちゃんは永遠に生きるから、来世の心配をしてるんだね。

 むーちゃんは彩萌とずっと一緒に居たいんだね、なんか本当に色々とごめんね。彩萌もむーちゃん達とはずっと一緒に居たいよ。でも彩萌は我儘さんなので、山吹君と結婚したいので人間のままで居たいです。

 前世の彩萌ことウェルサーは色々と絶望して友人と共に死ぬことを選んだけど、今世では愛に生きて愛に死にたいです。


「――まあ……ウェルサーの件は世界に直接的に影響を与えるものでは無いから、精霊達と相談して決めればいいと思う」

「寿命が極端に短くなっちゃうって言うんじゃないなら私はこのままで大丈夫です、来世でもむーちゃんたちに会いたいです」

「……精霊の価値観って歪んでるよね、貴女はとても優しい子ではあるけど良い子では無いんだね」

「そもそもこれは神様が私に下した罰だもん、苦しいのは当たり前の事だと思ってます」


 いろいろと山吹君には悪いなぁとは思うけど、これが彩萌なのです……。

 山吹君がこんな彩萌が嫌だって言うなら、彩萌はきっぱりと身を引く覚悟はあります。でも心の底から愛しているのですよ。

 性格は変えられるけど、むーちゃんたちは捨てられないのです。だって家族だもん。

 ディーテさんはどうなの? ってむーちゃんに聞いたら、元に戻すだけだから問題無いって、良かったねディーテさん。


「今を大事にしたいって言うのは人間の価値観なんですかね、彼は貴女が早死にしても良いって言ってるもんなんだけどね……」

「絶対に早死にはしません! 何か延命方法があると思うので、それを探そうと思います」


 彩萌はむーちゃんたちにも償いってやつをしなきゃいけないのです、きっとそれがこれだと思うのです。

 そんなこんなでむーちゃんは落ち着いたのか、剣を消してくれました。少し物騒な空気になったけど、平和的に終わって良かったです。

 まあシホちゃんとミギーくんはちょっと訳分かんないって感じでしたけどね!


「元はと言えば全部お前等の所為でしょ、お前等さえ居なければ世界が歪む事だって無かったしウェルが死ぬ事も無かった」

「自分がした事の責任は取る積もりで居るけど、先祖がした事の責任までは取る積もりはありません」

「他の精霊(やつら)が許しても、お前の血を許さない。子を生せるとは思うなよ」


「呪いですか?」と夕闇の巫さんが言えば「そう」とむーちゃんは冷たい声で返します。

 なんか……めっちゃ仲が悪い! というか呪いってどういうことなんですか……?

 これは聞いて良い事なの? 聞かない方が良い? たぶん前世の話だよね?

 夕闇の巫さんは呪われたらしいけど、そんな事はどうでも良いと言わんばかりの顔をしていました。


「別に構いませんよ、お好きなだけ呪ってくださって結構です。ただ……、殺すのは問題が解決してからにしてくれるとありがたいのですけど」


「――……ほんっとーに、お前ってムカつく」と言うと、むーちゃんは機嫌を損ねてしまったのか跡形も無く消えちゃいました。

 むーちゃんが消えたところをじーっと見てから、夕闇の巫さんは彩萌たちの方を見たんです。


「現実世界の方は非常に簡単ですが、少々面倒臭くもあります。まず巫全員に自身が使っている力が神より借りた物であると理解させること、定期的に魔術を使用させること、次世代の巫を育てさせること、それとリィドナジアを見付ける事ですかね?」


「巫の問題については、軋轢と霞の巫はそれをクリアしている様ですけどね」と夕闇の巫さんが言えば、シホちゃんは「おぉ……」と気の抜けた様な返事をしていました。

 そして小声で「やっぱり俺が継ぐのって決定してん?」と彩萌たちに聞いてきましたが、彩萌は知らんですよ?

 そんなシホちゃんを見て、夕闇の巫さんはくすくす笑ったんです。


「心配しなくても大丈夫ですよ、嫌になるほど幻想世界にいた私がこちらの世界では知る事ができない様な魔術を教えてあげますから……人外にしてあげますよ」

「全力でお断りしたいです、せめて人間のままで居させてくださいお願いします」

「とりあえず鉱物等に力を籠められる様になってもらいますから、疑似魔石生成とそれを利用した(まじな)いは紫の魔術の醍醐味ですよね」


 そういえばそうかー……って事は王子やユースくんがきらきらいっぱい持ってるのって魔法とか魔術を使う為なのかな!?

 ……いや、二人は純粋に貴金属が好きなだけか。星も好きだもんね、うん。

 紫の魔術をちゃんと覚えたら、シホちゃんもきらきらしたものを身に着ける様になるのかな?

 きらきらになっちゃうのは紫色の人の宿命なんだね、ミギーくんはきらきらしてないけど。


「鉱物なんてそんなもの家にはありません! 買う金もねーぞ!」

「そう言うと思ったよ、でも力が籠められれば何でも良いからビー玉とかアクリル玉……百均で売ってる様なビーズでも良いよ、力がどれほど入ったか視認出来るように透明なのが好ましいけど」


 夕闇の巫さんの発言にシホちゃんは反論できず! 百均の言葉が出ちゃったらもう何も言えないよね!

 でもビーズって小さすぎない? って彩萌が聞けば夕闇の巫さんは、世の中にはビーズアクセサリーという物があるじゃないって言ったのです。

 やっぱりシホちゃんもじゃらじゃらきらきらになる運命だったようです、逃げられません。


「紫の魔術は見た目の華やかさと無限の可能性があるから幻想世界では人気なんだよ、それに一度は宝石爆弾やってみたいじゃない?」

「金持ちがやる魔術だってーのは分かった、貧乏人には辛すぎやん」

「実際はそこら辺の小石でも出来るから貧乏人でも辛くない、でも金をドブに捨てる様な行為って憧れるわ」

「分かるー、なんか金持ちって感じするもんなー。僕も将来は紫の魔術を専攻して魔石を馬鹿みたいに消費したい」


 ミギーくんが将来の事を言うので、彩萌は「私は魔法薬学ー」と主張しておきました。

 それもめっちゃ金掛かるよなー、とミギーくんは笑って言ったけど、決してそれが理由ではありませんよ!

 そしてどの魔術が一番お金が掛からないかって言う話になって、話し合いの結果、黄の魔術が一番お金が掛からないという結論に落ち着いたのです。

 黄の魔術は基本、無から有を生み出したり他の魔術の補助的な魔術だったりするのでお安いらしいです。

 ふと気づいたけど、りっちゃんが使う魔術は魔石から力を引き出す奴だから、紫の魔術なのかな?

 夕闇の巫さんにコソッと聞いてみたらね、りっちゃんが使ってる魔術は紫の魔術の原型となった魔術らしい。

 紫の魔術は石自体に術を刻んで使うから、力を引き出して術を組むりっちゃんの魔術とは似て非なる物らしいです。

 そもそも石から力を引き出さないと魔術が使えないって言う時点で魔術をやろうとする人間が今の幻想世界には存在しないだろう、だそうです。

 りっちゃんって……実はすごい人なんだね。





 ――あやめとアヤメの交換日記、六十三頁

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