勝手に紡がれる物語
スラム街から出るまで、ケレンのお兄さんは私の近くに居た。
ニコニコ笑ってスラム街のこと少し教えてくれたけど、何か企んでいるとしか思えない。
表道りはめっちゃ閑散としてるけど、路地を抜けて裏通りに入るとなかなか人がいっぱい居るらしい。
表道りの近くに住んでいる人はだいたいそこそこ普通の貧乏人らしい、裏通りには娼婦とか大手を振って歩けない人とかが屯っているらしい。
そしてケレンのお兄さんは裏通りの住人らしい、つまりは(堂々としているけど)大手を振って歩けない人って訳ですね。
お金はあるけど、普通に町では暮らせない人って訳ですか。
そんな人の妹なのにケレンはよく学校に行けてるなって、失礼かもしれないけど少し思った。
イクシィールとかジェジアとか、見抜ける人がいると思うんだけどどうなんだろう?
逆に知ってて学校側が受け入れている可能性もあるのかな。
意外と時間が経っていた様で、町に戻って来る頃には日が少し傾いていた。
「ケレンはその子を学童院まで送ってってあげなよ~、お兄ちゃんはこの子送ってってあげるから」
「それは……でも、兄さんは信用に欠けるところがあります」
「だってお兄ちゃんは学校まで行けないし? それに同類をイジメても得にもお金にもなんないしねえ」
「――……そうですね」
えっ、納得しちゃうの? ケレン納得しちゃうの?
たしかにペット的存在かもねって言っちゃったけどさ、どう見てもお兄さんなんか企んでるじゃないか。
私って地味に信用がないのか? それともお兄さんの事を信用しているの?
でも何か企んでそうだからお兄さんに送られたくない、とか言うのも失礼な気がしてしまう。
そんなもやもやした感じで送ってもらう事に付いて何も言えずにいれば、ケレンは白仮を送る為に学園の方へと行ってしまった。
「二人っきりだねえ」とお兄さんがニヤニヤして言うから、私はドキドキしているよ。悪い意味での緊張感だよ。
やんわりと肩に手を置いて、お兄さんは歩き出した。
もちろん肩を掴まれている訳だから私も自然と足が動く、たぶん逃げない様にされてるよ……これ。
背が高かったら腰とかに手を回されていたかもしれないなぁ、なんて考えながら現実逃避をしてみた。もちろんすぐに現実に帰ってきたんだけどね。だって帰る方向と逆に歩いているし、そもそも私は住所を教えていない。
「ど……何処に行く気なんですか?」
「まだ少し明るいから、あそこに居たら目立っちゃうでしょー? 俺って地味に有名人だからさあ、捕まったらお金になっちゃうんだよ」
「えっと、それは賞金首……って訳ですか?」
「意外と高いよおー?」とお兄さんはニヤッと笑って言うけど、私からすれば笑えない話だ。
というか何処行くんだよ、はぐらかさないでちゃんと答えてくれよ。
「嘘吐きは俺……嫌いなんだよなあ、曖昧にして終わらせようとしてもダーメー、少なくとも君は普通のペットじゃないだろ?」
小さく「中身は違っても、外見が同じだと同じ様なセンスを持ってるのかなあ」と呟いているけど、お兄さんはどうやら叶山彩萌について知っているらしい。
嫌いって言ってる割りになんだかご機嫌な笑顔なのは何故でしょう、きっとお兄さんがいじめっ子体質だからですよね。
嫌い嫌いって笑顔で言いながら酷いことをしそうだよね、……まあ私の想像でしかないんだけどね。
「前の君はフルーリアだったかなぁ? まあそれも偽名なんだろうけど、今回はフリュージアだっけえ? 君ってフルーに関係した生き物なのかなあ?」
「――……分かっているみたいなので訂正しますけど、私にはこの体の持ち主の記憶は無いですよ」
「へーぇ、でもそんな事は関係無いのよアヤメちゃん、それともフリュージア? 俺ってばそんな感じの魔力が無いから分かんないなあ」
ニヤニヤ笑うお兄さんに「……お好きな方でどうぞ」と答えた。思ったよりも苦々しい声が出ていた。
この体の持ち主ってどんだけ友好関係広いのよ、こんな人とも知り合いだなんて思わなかったぞ。
そんな事を考えていれば、通りから死角になりそうな建物の陰に連れられて来ていた。
「勘違いしてるかもしれないけど、俺とアヤメちゃんは対面した事は無いからねえ」
「……それじゃあ、お兄さんが一方的に知っているという事で?」
「そうだねえ、君が本物のアヤメちゃんだったらこんな事できないと思うよ~? 俺は殺されたくないからねえ」
「ずいぶん物騒な話ですね、大げさすぎる様な気がしますけど」
「精霊様は聖女様の為なら国の一つや二つくらいなら簡単に消しちゃうかーもーよー?」
お兄さんの口調は軽かったが表情はとても真面目で、この世界に来た日を思い出した私はそれを否定する事ができなかった。
スラム街に行ったのは精霊達の機嫌を損ねるかもしれない行動だった、そう思うと背筋にゾワリと悪寒が走った。
表情筋がヒクリと震えたのを見たのか、ユーヴェリウスが「僕は何もしないよぉ」と言う。
“僕は”と強調するあたり、他の精霊が知ったら何かする可能性もあると言っている様な気がして何とも言えない気分になった。
私の肩の上に止まっていた梟が突然喋っても、お兄さんは驚いた様子は無い。ユーヴェリウスの事も知っているらしい。
詳し過ぎるだろ……、何でそんな詳しいの? 情報屋だったとしても精霊とかに付いて詳しいのは変でしょ……。
怪訝そうな顔をしていたからか、クスクスとお兄さんは笑うと私の頬を爪で突いた。
これが地味に痛い、絶対にわざと突き刺す様に突いてるでしょ。
痕が残ったら、後が怖いぞ。
「俺の知り合いがアヤメちゃんの友達だって言ったら、どうするー?」
「やっぱりこの子は友好関係が広いんだなって思います」
「確実に君よりは友達が多いだろうねーえ」
細い路地を行くので、一瞬スラム街に戻ってるのかと思ったがそんな事は無く、メインストリートから隠れる様に存在している店に用があったらしい。
雑貨……、それともアクセサリーショップ? ひっそりと静まり返っているが、窓から中の様子を窺えば質の良い品が並んでいた。
隠れ家的な店っぽい、店の名前はトゥアレイニィアか……。トゥアが祝福で、レイニィが守護。それでアが子供とか女性だから……つまりお守りとか魔除けとか売っているお店ですか。“子供に祝福を、ご加護を!”って感じか? 分かりやすいネーミングだな。
もしかしたら、もっとストレートに“祝福された少女の守護”というそのまんまな名前かもしれないけど。
それだったらなんか、クレメニスっぽい名前かも知れない。
お兄さんが店の扉を開けると何か小さい緑色の……虫? 小動物? っぽいのが飛んできてお兄さんの顔面に体当たりしていた。だけどすぐに捕まえられて、開いていた扉から店の外に放り投げられていた。
すぐにお兄さんは扉を閉めてしまったので、私はその小さい緑色の生き物の正体を知る事が出来なかった。
何処からか子供の様な声が聞こえた気がして、お兄さんに「子供の声がしませんでしたか?」と聞いたが「君の声じゃなあい?」と返されたので気の所為かもしれない。いや、でも子供の声が今も聞こえる様な気がする。
ズルズルとお兄さんに引き摺られて店の奥に行けば、カウンターに店の店主っぽい青年がいた。
深緑色の髪の毛に色黒な肌、黄色人種っぽい。眼鏡が似合っていて、着ている物がベトナムの民族衣装のアオザイっぽい。
少々悪い目付きでじっとりと私達を観察した後、眼鏡の店主は怪訝そうな眼をお兄さんに向けた。
「君の友人の肉体を人質にしたのでえ、今すぐに金を用意しろー」
プニプニと私の頬を爪で突きながら、ケレンのお兄さんはそんな事を言う。
そんな事を言われた眼鏡の店主は呆れ返った様な顔でお兄さんを見詰めていた、まあねぇ……そんな事言われたら呆れるよね。
「そんな事を言っている暇があったら巣に帰って内職でもしてろクズ」
「んじゃあーなんかあ、仕事用意してほしいなあ」
「その馬鹿みたいに気持ち悪い喋り方を止めるっていうのなら、考えてやってもいい」
小さく溜息を吐くと、眼鏡の店主は宝石の様な物を磨いていた。たぶん魔石。
慣れた様子で店の隅っこにあった椅子を持ってくると、お兄さんはカウンターの前に腰掛けた。一応私の分も持ってきてくれた。
そしてニヤニヤしながらこっそり魔石をくすねようとしてたけど、眼鏡の店主に手の甲を根性焼きされそうになっていた。
「帰れ」と冷やかに言われてもお兄さんは気にした様子は無く、食べかけだったお菓子を勝手に食べていた。そして勝手に飲みかけだったお茶も飲んで、その所為で店主の眉間にめっちゃ皺が寄ったのを私は見た。
「ねーえ伯父さぁーん、お小遣いちょーだいよお、俺さあ今めっちゃ車欲しいの」
「お前の伯父になった記憶は無い、車も必要とは思えんな……高額な癖に耐久性は無いし燃費も悪い、それに走らせる場所も無ければ見目も悪い、少しは現実世界の物に近付ける努力を見せて欲しいところだ」
「別にいーじゃーん、ステータスってやつでしょお? 俺超金持ちーって満足する為の道具でしょー、それか人を殺す為の道具でしょお?」
「なら自分の稼ぎで買え、それとそのチビは連れて帰るなよ」
「やだなあ、人質だよお? 何も貰わないまま解放する訳無いでしょー?」
「持ち帰りしちゃうかもー?」とムカつく笑顔を浮かべてお兄さんが延べれば、店主は小さく舌打ちをした。
というかお兄さんと店主は同い年くらいの見た目なのに、おじさん呼ばわりするのか……また年齢詐欺系の人なの?
二人の会話に口を挟んで良いのか分からないので、その所為で何も言えないから私ったら空気だよ。まあ空気になるのは慣れてるけど。
そう思ってぼんやりと眺めていれば、店主の眼が私へと向いた。
その眼は猛禽類の様だ。鋭いだけじゃなく、見破ろうとしているかの様な、全てを見ようとしているかの様な眼だ。
嫌だな、小さな挙動ですら監視されているみたいで居心地が悪い。頭の中すらも覗かれそうで、……少し怖い。
ケレンのお兄さんの眼も、作り物の様に生気を感じられない眼だから怖いけど、私は店主の眼の方が苦手かもしれない。
そんな考えが表情に出ていたのか、店主は僅かに苦笑い……をした様な気がした。
「あれと違ってこれは拾ってきた猫みたいだな、外見が同じでも中身が違うだけで随分と変わる物だな」
「……えーっと、申し訳ないです」
「どうしてお前が俺に謝るんだ、山吹が許容しているのなら謝る必要は無いだろうに」
そう言いながら店主はカウンターの下からポットの様な……いや、電気ポットを取り出していた。
……あれ、でも幻想世界って電気ポットないよね?
だがどう見ても彼が取り出したのは電気ポットだ、コンセントも一応付いてる。どこにも刺さっていないけど。それでもちゃんと機能してるらしく、店主がボタンを押せば注ぎ口から湯気の立つ透明な液体がティーポットに落ちた。
いつの間にかカウンターの上に出現していたカップにお茶を淹れると、それを店主は私の前へと置いた。お兄さんの分は無かった。
ゲーム機があるのだから、電気ポットがあっても不思議じゃないのか?
でもゲーム機は現実世界の人がこちらに飛ばされてきた時に持っていた物だろうから違和感はないけど、電気ポットは少しだけ違和感がある様な……。
なにかお茶を淹れていたとか、掃除の為に触ってたとか……でも、やっぱりなんか……シュール過ぎる。
気が付くと見知らぬ場所に居た、そして傍らには電気ポットがあった……ヤバい、想像したらちょっと面白い。
笑い出したら変な目で見られそうなので、私は平常心を取り戻す為にカウンターにあった焦げた跡を見詰める事にした。
笑っちゃいけないと思えば思うほど笑いたくなるという悪循環に陥りそうだ。
「あっ、そういえばーアレ無いの? 俺アレ好きなの、味が濃くて」
「インスタントラーメンは幻想世界では貴重品だ、あったとして何故お前に分け与えてやらないといけないんだ」
カップラーメン……! カップラーメンもあるのか!
私は耐えられずに「幻想世界なのにカップ麺……!」と呟き、カウンターに突っ伏して震えた。呼吸が上手くできそうにない。
気が付いたら見知らぬ場所で、困っている人の腕の中にカップラーメンと電気ポットがある様を想像したら、何ていうかトドメを刺された。
我慢してたのに酷い、酷いぞカップラーメン。
「ツボっちゃったみたい」というお兄さんの言葉が聞こえたが、今は何も喋れないです。
すっげぇ嫌だなぁ、幻想世界に来たのに持って来ちゃった物が電気ポットとカップラーメンだったら嫌過ぎる。
一食分しか……いやっ、その前に湯が冷めてしまう! でも飲み水が確保できているっていう事は素晴らしい……と思う。
いやっ待て待て待て、冷静になって考えるんだ私。カップラーメンと電気ポットが一緒に幻想世界に来たとは限らないじゃないか! ラーメンは買い物帰りの人と一緒に来た可能性のほうが高いじゃないか、電気ポットは知らないけど。
そんな事を考えていれば、落ち着いて来たのか呼吸が楽になった。
「なんだかシュールだったもので、すみません」
「何を想像したのか知らんが、たぶんお前が考えている様な方法で持ち込まれたものでは無い」
「それは……残念です、カップ麺の戦士は居なかったんですね」
「若いって良いねえ、すぐに笑えてさあ?」
ニヤニヤして言うお兄さんを無視して、私は店主の淹れてくれたお茶で喉を潤した。
というか店主はカップラーメン食べるんだね、電気ポットもあるなんて……実は現実世界フリークなのか?
そう考えている途中に店主をじっと見てしまったのか、彼はチラリと私に視線を遣り「粗悪な食べ物が好きなだけだ」と一言。
なるほど……ジャンクフードとかが好きな口か、B級グルメとかも好きそうだ。
あぁなんか焼きそばとか食べたくなってきた、こっちに居る間はたぶん食べられないからなぁ……。
「カップ焼きそばは無いんですか?」と私が聞けば、店主は「有料だ」と答えた。
マジか、カップ焼きそばあるのか。
とりあえずこんど山吹に焼きそば食べたいとごねてみようかな……ってそうだ、山吹! もう外暗いじゃん、早く帰らないと怒られる。
私がその事について発言しようと口を開けば、狙ったかの様なタイミングで店の扉が開いた様でカランと鐘の音がした。
カウンターの前に居たので、邪魔になるのでは? と思い扉の方へと視線を向ければ、ぼさぼさの黒髪をお下げにした綺麗な顔立ちの女性が見えた。
「ずっちんヤバいっす、洗濯機壊しちゃったんすよ! 今月ピンチなんすよー、どうにかし――……」
彼女はケレンのお兄さんを視野に入れると、歯切れ悪く発言を切ってしまった。
見惚れていると言った様子では無かったので、チラリとお兄さんを窺えば一瞬だけ眉を顰めていたが、すぐに胡散臭い笑顔に変わった。
「やあ、相変わらず元気そうだねえフィルオリーネ、それともジェリって呼んだ方が良いのかなあ?」
「ひっ……ひぃいッふぁふぁふっ……ファフッ、ルゼア! なんっ、なんで此処に居るんすか!? 悪魔が、悪魔が二人!」
「俺の名前はふぁふぁふっファフッルゼアなんて名前じゃなくてファフルゼアだったと思うよお?」
知り合いなのか、フィルオリーネ、またはジェリと呼ばれた女性はお兄さんを指差して叫んだ。
というかファフルゼアって名前だったのか……、どっちにしろ名前とは思えないけどね。
だってファフルゼアって焼死体って意味だからね、悪趣味すぎる。
「イズマさんなんでこんな奴を店に上げちゃったんすか! 骨の髄まで集られるッすよ!」
「やだあ面白くないよそれぇー、オリーネの方が俺よりもよっぽど金食い虫だよねえ?」
「大同小異だな……、それよりもお前ずっちんって呼んだよな」
「えっ、イズマさん何言ってんすか? ボケちゃったんすか? ボケちゃったんすね、これだから年寄りは嫌なんすよねー」
「やれやれっすよ」とジェリが呟けば、カウンターの奥から掌大の物体が飛んだ。
それは見事にジェリの額に直撃して、フローリングの床に硬そうな音を立てて転がった。
ぐおあぐうぅ、と可愛らしさの欠片も無い呻き声を上げながら、ジェリは額を押さえて蹲っていた……自業自得な様な気がしないでもないが、投げられた物が魔石だったので私は彼女の額が心配になった。
生身の人間に石を投げるという正に悪魔の様な所業を成し遂げた店主のイズマは、そんなジェリを見下げて鼻で笑った。
「ありがたく受け取れ貧乏人、換金でも何でも好きにしろ」
「あぁ……あぐぅ、ありがたき幸せっす……私の頭が割れてたら治療費を請求して良いんすよね? 慰謝料も請求して良いんすよね?」
「心配しなくてもコイツか、俺が治してやる」
イズマの発言を聞いて、ジェリは「くっ……やっぱり悪魔だわー!」と嘆いていた。
彼女は地味にタフらしい、心配しなくても大丈夫そうだ。
……ん、フィルオリーネ? なんか何処かで聞いたことがある様な気が……、フィルオリーネ?
あれ、フィルオリーネってティネオリーネのお姉さんか? 酒場でそんな話を教師達がしていた様な気がする。
じゃあファフルゼアは教師とも知り合いの可能性があるのか、だからケレンは学校に行けてる?
でも賞金首なんだよね、色々と複雑だな……。
よく見ればティネオリーネと顔立ちが似ているな。
「ってなんでこんな悪魔集会に子供が……ってあれ、アヤメちゃん……あれ、違う?」
「俺とオリーネの隠し子だよぉー、黒髪とか超ソックリー」
「えぇッマジで!? 私って母親だったんすか知らなかったっす!」
真顔で驚いているジェリに、ファフルゼアは「ウソダヨー」とニヤニヤした笑顔で教えた。
というか知らない間に子供は産めないと思うんだけど……彼女は天然なのかな?
否定の言葉を聞いて「良かったー!」とジェリは安心していた。
……もし彼女が子供を産んでたとしたら、すごいクビレだよね。どうやってダイエットしたのか気になっちゃうレベルだよ。
ローライズのパンツで、しかも上着も短いから惜し気も無く美しいクビレを露出させている。
絶対冷えるよ、お腹壊しそう。
「こんなのが父親なんて……大変っすね、同情しちゃうっすよ」
「いや、違いますけど」
「えっ……じゃあ、イズマさんの隠し子……!?」
ジェリはすごく驚いていたが、もちろんちゃんと否定をしておいた。
隠し子じゃないと知ってふざけているのか、それとも本気でそう思っているのか「でもイズマさんなら五人くらい隠し子がいても不思議じゃないっす」とジェリは言っていた。女性にモテるのか、それとも気が多い人物なのか、私は彼を良く知らないので判断に悩んだ。
それにしても今日はタイミング良く何かが起こっている様な気がする。
今日中に何事もなく屋敷に戻れるのか、ちょっと心配になってきたんだけど。
――あやめとアヤメの交換日記、五十八頁
出ない可能性のほうが高いって言ってたくせに、ジェリさんとイズマさんを登場させました。その時は出さない積もりだったのです。
でも、よくよく考えればティネオリーネのお姉さんな時点で出る可能性のほうが高かった様です。




