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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
共有された心情の泡沫
55/114

縁を手繰るのは切る為か、繋ぐ為か

 幻想世界での私は……――所詮ニートである。

 やる事が皆無なのである、詰まるところ超暇なのである。

 精霊達とは少し仲良くなれたけど、山吹とはちょっと気まずい。

 そして何故か私はユーヴェリウスに懐かれた、月の精霊には嫌われたのになんでだろう?

 あれかな……、二人が居なくって寂しいから?

 そんなことをぼんやりと考えながら、小さいミミズクみたいな見た目をしたユーヴェリウスを肩に乗せながら私は街を徘徊していた。

 山吹は私が外出するのを良く思わなかったみたいだけど、ユーヴェリウスを連れて行くなら良いらしい。

 髪の毛を突っついたり引っぱったりしているユーヴェリウスを内心ウザいなと思いながら、私はウィンドウショッピングなる物を楽しんでいた訳ですよ。お金なんてリーディアがくれたお小遣い程度しか持ってないからね、ユーヴェリウスに頼み込めばすぐ用意出来そうな気がしないでもないけど。

 それにしても本当にリボンとかふりふりしたのとかドレスやらが多くて、なんだか斬新だ。

 パステルカラーな色合いの物は私には合わないけども、見ているのは好き。

 キラキラしている物とか、そういうのだって本当は好きだよ。

 お姉ちゃんと被るから、あんまり好きじゃないとか両親には言っちゃうけど本当は好き。

 私って本当に捻くれてるなって思いながら、違う店でも見ようかと考えて顔を上げれば綺麗な赤毛が見えた。

 一瞬だけその髪を見てディーテを思い出したけど、その赤毛の持ち主は少し幼さの残る女の子だった。

 サラサラとした長い髪は陽に照らされてキラキラと輝いている、宝石みたいな髪だ。

 ディーテは絵の具をぶちまけた様な色だけど、この子の髪の色は宝石とか太陽とかそういう表現が相応しいな。

 あっ、この髪好き……と珍しく素直にそう思えた。

 ジッと見詰めてしまっていたからか、同じく服を見ていたであろう少女はこちらへと視線を向けた。


「――……えっ、叶山さん? あれ、でも……ごめんなさい、人違いですよね」

「いや……不躾にもジッと見つめちゃったから謝るのは私の方ですよ。ごめんね、綺麗な髪だったからつい」

「きらきらー……眩しいねぇ~」


 私達の発言に照れたのか、少女の白い頬にパッと赤みが差した。

 赤い髪を撫で付けて、視線を伏せると少女は「自慢の髪ですから……」と呟いた。

 なにこの子、超かわいい。美少女すげぇ、同じ少女な筈の私だけど胸がキューンとするんですけど。

 さらっさらな髪を優しく指で梳きながら頭をなでなでしたいんですけど。

 そんな事を考えながらついじーっと見ちゃって、その少女はチラチラと此方を窺っていた。これは完璧に怪しまれているね。

 軽く苦笑いを浮かべて少女の横を通り過ぎようとしたら、意外な事に彼女が私に声を掛けてきた。


「お一人……なのですか? 強いペットをお連れの様ですが、子供一人では危険ですよ」

「えーっと、それを言うなら貴女も一人ですよね?」

「あ、いえ……私は大丈夫です。地元ですし……、この町での一人歩きには慣れていますから」

「なら大丈夫ですよ、私も慣れてますから」


「御心配お掛けしました」と笑って言って立ち去ろうとすれば、少女は顔を顰めて私の腕を掴んで引き止めた。

 なんて言おうか悩んでいるのか、険しい表情を浮かべて彼女は小さく呻き声を上げていた。

 この子はとっても優しい子なんだな、見ず知らずの怪しい私を気にしてくれている。

 でも、私的にはこの子の方が心配だ。美少女だし、髪綺麗だし……。


「でも、本当に危険で……危ないです。クレメニスはどちらかといえば治安は良いですけど、それでも危ない事には変わりありません!」


 まあ、ねぇ……日本と同じ感覚で居たら危ないよね。

 でもたぶん私は平気だ、一人の方が気が楽だし……でもここまで言われると私的に彼女の方が心配だ。

 私には精霊のユーヴェリウスが居るけど、彼女は本当に一人だし。


「じゃあ……一緒に行動する?」

「えっ……私とですか? さっき会ったばっかりの赤の他人ですよ? 観光客を誘拐する集団とグルかもしれません」

「もしそうだったとしても、打ちのめせば良いだけなので問題は無いです。こう見えても私は魔法が得意ですよ」

「意外と過激な考え方をお持ちなのですね、でも私だって魔術は得意ですよ?」


 私がユーヴェリウスを指差して「いざとなったらコレが何とかしてくれる」と言えば、彼女は小さく笑った。

「それは心強いですね」と彼女が笑えば、髪留めについたリボンが小さく揺れた。

 私を掴んでいた手を離して、彼女は改めて私に手を差し出した。


「私の名前はケレン・シュニクリアと申します、あなたに打ちのめされない様にもクレメニスに生きる者として聖女に恥じぬ行動をさせていただきます」

「あーえーっと私は……、えーっと……」


 考えて考えて、考えた結果「ふ……フリュージア」と名乗っていた。

 古の言語で夜の人とか邪神族の人とかそんな意味だ、さすがにこの体の持ち主の知り合いに叶山彩萌とは名乗れないしね……。

 言い澱んだ事にケレンは少し不思議そうな顔だったけど、深くは聞いてこなかった。

 というかもう言っちゃったから否定できないけど、フリュージアだと男性名だわ……女性ならフリューアとかフルーリアとかフルーアじゃないとダメだわ。

 あー……もこもこした服着ているけど、女性的な服装では無いし……男の子で通した方が良いのか?

 そんなことを悩みながら差し出された手を掴んで握手をすれば、ケレンの手は年頃の少女にしては珍しい程に荒れていて硬かった。

 うーん手荒れの方は私の母親と同じ感じだから、水を良く触ってるんだろう。

 掌とかが硬いのは……何か硬い物を持ってやるスポーツでもやってる?

 なんだか意外だ、運動できなさそうな見た目しているのに……人は見た目で判断できない。

 でもこんなに綺麗な赤色の髪をしているって事は、治す力を持っているはず。それなのに治していないって事は……治してもすぐにこの状態になるんだろうか?

 まあぐだぐだ考えても意味ないし、怪しまれない内に私はケレンの手を離した。


「えっと……ごめんなさい、あなたのこと女の子だと……」

「いや、えっと……男性名だけどちゃんと女だよ、なんか……女だけど男に負けないくらい強い子に育ってほしいっていう両親の思いが籠ってるんだよ」

「なるほど、そういう名付け方もあるのですね」


 うん……ケレンごめん、適当にそれっぽい事言っただけです。

 でも言い澱んじゃった理由とかを男性名だったからちょっと恥ずかしかったで言い訳できるわけだし、うっかりミスだけどフリュージアって名乗って良かったわ。


「ケレンはこういう可愛いドレスとか好きなんですか?」

「いえ……私の性には到底合うとは思えません、動き辛そうですから」

「へぇ、着たこと無いんだ……似合いそうなのに」


 私がそう言えばケレンは少し困ったような、悲しそうな笑顔を浮かべて小さく礼を述べた。

 その反応を私は不思議に思ったけど、詳しく聞こうとは思わなかった。

 ケレンの今の格好は動き易い物か? と疑問に思い、失礼だと分かっていながら服装を窺い見る事にした。

 少し窮屈そうなシンプルなワンピースを着ている、一見しただけでは動き易そうには見えない。

 だが良く見ればスリットが入っていて、下にショートパンツを履いているのが分かる。

 太もものあたりにベルトが付いてる……、なんか……そのベルトに小さい武器っぽい物がぶら下がってるのが一瞬見えた。

 これが幻想世界流防犯か、ナイフっぽかったけど見なかった事にしよう。

 私に色々と観察されているケレンはというと、熱心にドレスへと視線を向けていた。

 その表情はあまり楽しそうとは言えず、やはりどこか複雑そうな表情だった。


「フリュージアさんは……ドレス、華やかなものとか……好きですか」

「まあ、見るのは好きかな……」


「そうですか……」と小さくケレンは呟く、少々気まずい沈黙が私達の間には流れている。

 なんだかよく分からないけど、複雑な乙女心があるらしい。

 違う店も見てみよう、と提案をすればケレンはあんなに熱い視線を服達へと送っていたが、あっさりと頷いて歩き出した。

 店先に並べられている物に対して適当に感想を言いながら、ブラブラしていればケレンの事が少しわかった。

 叶山彩萌と同じクラスで、真面目な子だ。会話の節々から僅かに貧乏性を窺う事ができた。

 意識して使っている訳では無いのだろうが、とっても贅沢な作りですねとか生地が高価そうですねとかそういう感想が多いのでたぶんこの子は金銭面で苦労しているんだろう。

 まあ裕福なご家庭の娘さんが水場仕事をしている様な荒れた手にはならないか。


「ケレンは家から学校に通ってるの?」

「はい、ちょっと遠くて……それにお弁当を作るので朝早く起きないといけないので大変です」

「おーすごい、自分で作ってるんだ。私なんて授業でしか調理したことないよ」

「そんなことは……自分で作った方が安上がりだから、だから……すごくはないです」


 ちょっと照れたように彼女は言う、褒められるのに慣れていないみたい。

「当たり前の事です」と言うが、どことなく嬉しそうなのでなんだか可愛い。

 人と仲良くするのが苦手な私だけど、ケレンとは仲良くできそうな気がする。美少女だし、髪の毛綺麗だし。

 私の心境の変化なのかもしれないけど……、この世界の人たちがみんな魔法とか使えるからかもしれない。

 少しだけ孤独じゃない様な、そんな気がする。

 それでも私はこの体の持ち主である叶山彩萌では無いから、どちらにせよ何時かは此処から居なくなるのだけれど。

 そんなことをぼんやり考えながらとある店の前で冷やかしていれば、控え目な声でケレンが私に話し掛けてきた。


「あの、私情を挟む様で申し訳ないのですが……ここは止めませんか?」

「まあ買う気はないから別に良いけど……」


 少しだけソワソワとした様子でケレンは私を急かす様に手を引いた。

 この店で何があったのだろうか? ケレンの綺麗な赤髪を見上げていれば、彼女は何か見付けてしまったのか嫌そうな声を上げた。

 彼女の視線の先を辿れば、私と同じくらいの背丈の女の子と少々大人びた印象の女の子がいた。

 ピンクホワイトの髪をツインテールにして、小さな白い羽を生やした魔族の小さな女の子と、明るい茶色で癖が強いのかクルンクルンした髪で、背が高く発育も良いのか女性らしい体付きをしているがたぶん同年代の女の子だ。よく見れば、その後ろに死んだ魚みたいなやる気の無さそうな目をした金髪の少女もいる。

 魔族の女の子とクルンクルンした髪の子は、私を見て目を瞬かせていた。


「あれ……アヤメ?」

「えっ、でもアヤメは療養中ってやつでしょ?」


 不思議そうに呟いた二人に対して「違う、あれは彩萌じゃない」と、金髪の少女が否定した。

 なんだそっくりさんか、と二人はすぐに納得していたが……こういう事ってあっさり納得するものなのか。

 というかなんでそんな自信満々に否定できたんだ、金髪の子は何か知っているのか?

 この体の本来の持ち主の友達に接触した事が山吹にばれたら怒られるかな。


「――彼女は……フリュージアさんです。お楽しみ中気を取らせてごめんなさい、では失礼します」


 少々機嫌悪そうに、ぶっきら棒にケレンはそう言うと三人の横を通り過ぎようとした。

 仲が悪いのかな? と思ったが、そうではないのかクルンクルンした髪の子が「ねぇ」とケレンに声を掛けた。


「ケレンさんも買い物なの? というか髪留め可愛いじゃん、ケレンさんもアクセつけたりするなんてなんか意外!」

「というかあれなの、デートなの!? なんかちっこいけど、アヤメ似だけど」

「馬鹿、シェミューナだからアンタは馬鹿って呼ばれるんだよ! さっきケレンさんが彼女って言ったでしょ! フリュージアって名前だけど女の子なんだよ!」

「マジで? 超恥ずかしーじゃん、ちょっとは頭良くなったと思ったのにぃ!」

「馬鹿は死んでも治らないんだよ、というかケレンさんもオシャレするんだからシェリエも見習った方が良いって!」


 金髪の女の子、シェリエはきっぱりと「ヤだ」と拒絶した。

 ピンクホワイトなツインテールの子がシェミューナか、茶髪のクルンクルンはなんて名前なんだろうか。

 キャッキャッと女の子らしく騒ぐ二人を見て、ケレンは表情を顰めていた。

 騒がしいのが苦手なんだろうか? 私も苦手だけどさ、露骨に顰め面したら色々と大変だよ。


「それにしても謎の美少女なケレンさんでも休日は友達と服を見て回ったりするんだね!」

「……謎の美少女?」

「フリュージアさん知らないの? ケレンさんは謎多き女なんだよ!」

「もう……もう良いじゃないですか、別に私は謎が多い訳ではありません! 貴方達みたいな騒がしい人とは反りが合わないだけです!」


「行きましょうフリュージアさん」と言われて手を引っ張られたけど……ちょっとだけ気になる。

 でもケレンの機嫌を損ねたくないので、私は黙って付いて行く事にした。

 そんなケレンにむかってシェミューナが「そんなにツンツンしてたら友達出来ないんだからねー!」と大声を上げていた。

 まあ、たしかにそうだ。でも無理に仲良くなりたくない相手と仲良くしても仕方ないとも思う訳ですよ。だから、まあ良いんじゃない? でも……ケレンは学校に友達居るのかな? 学校で謎が多いなんて言われるって事は、居ないような気もするけど。

 それはちょっと寂しいんじゃない、学生なんて一日の大半を学校で過ごす訳だし。

 でも意外だな、私には優しく声を掛けてきたのに学校では友達がいないなんて、学校で友達を作れない理由でもあるのかな?


「ケレン……次どこ行く?」

「――……フリュージアさんは何処に行きたいのですか? 貴女の観光でしょう?」

「んー……暇潰しみたいな感じだから、こうやって話してるだけでも私的に十分なんだけどね」

「……私と話してて、不快な気分になりませんか?」

「ツンツンとか言われて気にしてるの? 私なんてケレンを越えるくらいツンケンしてるよ、無愛想だしね」


 それにたぶん、精神年齢的には私の方が大人だと思うよ。全然大人になれてないけど。

 ケレンと私はちょっと似てるね、と言えば彼女は困った様に、だけど少しだけ嬉しそうに笑った。だけどすぐに照れの方が勝ったのか、顰め面になっていたけど。

 やっぱりケレンと私はちょっと似てる、素直になれないところとか。


「そんなことありません、私なんてフリュージアさんの足元にも及びません」

「美少女で謙遜できてお料理も出来るケレンに勝るものが私に本当にあるのか疑問だわー……」

「でも、フリュージアさんは処世術に長けていそうですよ」

「処世術と言えば聞こえは良いけど、八方美人は嫌われるよ」


 私の発言にケレンは「そうかもしれませんね」と笑いながら肯いた。

 何か飲みながら話そうか、という事になりケレンおススメの安くて美味しいジューススタンドに行くことになった。

 表通りじゃなくて、裏通りにあるお店らしい。その店主は外国の人が苦手らしい、外の人はケバイとか高飛車だとかマナーがなってないとか信仰心が薄いとかいろいろ偏見に満ちた人らしい。でも悪い人では無いらしいよ。

 ケレン曰く、ちょっと臆病な人らしい。

 そんなジューススタンドには先客がいて、その子は幻想世界では珍しい和装の少年だった。

 白くて紅い隈取りがされている狐の面をつけててなんか妖怪っぽいというか……、和風というか……クレメニスの街並みに合っていない少年だった。


「――今日は、厄日なのかもしれません……」


 小さくケレンが呟きを零せば、その少年は気が付いたのかこちらへと視線を向けた。

 その少年は首を傾げて、ジッと私達を見詰めていた。


「委員長と……――あの子のそっくりさん?」

「私は委員長ではありません」

「知ってる、……でも君ほど委員長って言葉が似合いそうな人はたぶんあのクラスには居ないと思う」


 僅かにお面をずらして、彼は緑色の液体をストローで吸い上げていた。

 その様子を見ながらケレンは困惑した様な雰囲気で彼を睨む様に見ていた。


「あっ、そういえば……委員長、ドッペルゲンガー知らない?」

「何故それを私に聞くのですか? ミギー・カノティシアならそのうち帰って来るのではないですか?」

「うーん、委員長が何でも知ってそうだから?」


「なんかごめん」と少年は謝りながらジュルジュルとジュースを飲んでいた、その姿にぶっちゃけ反省の色は見えない。

 うーん、ケレンなんかクラスメイトとか同じ学校の人にツンツンしてるんだなぁ……。

 なんでだろうね、ほぼ毎日顔を合わせる人に警戒でもしてる?

 プライベートに知られたくない何かがありそう、私には関係ないけど。

 今日は厄日だ……、というケレンの呟きが隣から再度聞こえてきた。

 もしかしたら私の所為か? それだったらなんか……すまんね。





 ――あやめとアヤメの交換日記、五十五頁

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