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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
共有された心情の泡沫
54/114

垣間見た真実の色

 上悪土さんは彩萌と会話する白雪さんを見て、ルーカス先生に八つ当たりをしてたんですよ。

 ルーカス先生が何も言い返さないからすぐにどっか行っちゃったけど、さわらぬ神にたたりなしってやつだね。

 まあ、すっごい不満そうな顔はしてたけどね。


「ルーカス先生、初喜さんがいつもすみません。今日は貴方の好きな物を作りますから、許してあげてほしいのですけど」


 そう言ってにこにこ笑った白雪さんを見て、ルーカス先生はなんかばつが悪いって感じの顔をしてました。

 それを見たむーちゃんがニヤニヤしてた。


「彩萌ちゃん、これが籠絡ってやつ。この劣化魚野郎は雌犬に籠絡されてるんだよ」

「劣化魚野郎……、なんで魚? あと、ろうらくってなに?」

「ほら、あの劣化魚野郎、グラーノに似てんじゃん? 籠絡は人を手懐けて巧いこと操るって意味だよ」

「えー、グラーノさんに似て……る! でもグラーノさんの方がキレイだし、かわいいよ!」

「だから劣化野郎って言ってるじゃん」


 そんな会話を聞いたルーカス先生は、やっぱりばつの悪い顔でした。白雪さんはにこにこ笑ってたけどね!

 ちなみにふて腐れた上悪土さんはミギーくんとなんかゲームしてた、この家ゲームあったんだね。

 ちょっと古いゲームだった、ルーカス先生の持ち物なの? って聞いたら、ちゃんと上悪土さんの持ち物らしい。

 白雪様に貰ったらしい、いつも家に居るから暇でしょ? ってくれたらしい。

 なんか白雪様優しい人なんだね、花瓶の中に勝手に住んでた上悪土さんを気にしてプレゼントしてくれるなんて……すごい人だ。

 でも狛犬な白雪さんをペットにする時点ですごいのか……、白雪様何者なんだろう?


「ルーカス先生は白雪様知ってるの?」

「……彼に対して良い思い出が全くありません、残念ながら一切無いんですよね」


 えー、白雪さんの話を聞いてる限りだと良い人なのに?

 というか知り合いなんだね、だから白雪さんと上悪土さんはルーカス先生の家にいるのかな?

 白雪様とルーカス先生は仲が良かったのかな。


「あの人は距離感を測るのが下手な人でした、良く言えば気さく……悪く言えば馴れ馴れしい」


「ちなみに前代の雪の巫ですよ」って続けて言った白雪さんは何を考えているのかよく分からない笑顔だった。

 なんとなくだけど、この笑顔はたぶん……ちょっとだけ嫌な気分になってる笑顔なんじゃないかなって彩萌は思った。

 ちょっとオロオロしてたからなのか、白雪さんは気が付いたような感じでにっこりと優しい感じで彩萌に笑い掛けてくれました。


「あの人の話をするのは嫌いではありませんよ、ただ……少しだけ複雑な思いがあるのは事実です。巫の力は死を以って継承されるものですから」

「えっと……、なんで死なないとダメなの?」

「そうですね……本来なら、巫と言うのは自然に代替わりするものだからだと思います」


「自分の意思で、自分の選んだ者に力を譲る為に死を選んだのですよ」と白雪さんは言った。

 そっか……、死なないと力が継承できないと言うより、死んだ時に初めて力を移動させる事が可能になるって言ったほうが正しいのか……。

 大きな力だから正しく使える者に継承させる為のえいだん、って言ったほうが白雪様のためにも良いのかな。

 ほぼ永遠と生き続けるのと、誰かの為に自分の意思で死を選ぶのはどっちが大変なんだろうか。

 難し過ぎて彩萌には分かんないけど、たぶんどっちも大変なのかなって思った。

 なんていうか、だから白雪さんはその遺志に答えるために頑張ってるというか、責任を負ってるというか。誘拐とかしちゃったんだなぁ……と彩萌は思いました。


「雪の巫に相応しくない性格で感情移入しやすくて……、困っている人を見ると放って置けないというか」

「――……まあ、その所為で私は非常に迷惑被っていた訳ですけどね」

「でも、力に翻弄されて同一性がなかった貴方を普通の人にしたのは……白雪様ですよ?」

「実害は無く、他者に気が付かれない程度の同一性の差異なんて別段どうこう言う程でも無いと思われますが?」

「朝の自己認識作業が減ったのは良いことだと思いますよ?」


「ぐだぐだ言ったって変わってしまったものは戻りませんよ、先生」って白雪さんはにこにこ笑いながら言った。

 なんかこの二人は良いコンビなのかもしれない、上悪土さんが入ると親子って感じがしちゃうけど。


「そういえば、ルーカス先生は気が付いたら巫になってたの? 上悪土さんも?」

「物心つく頃にはそうでしたね、気が付いたら髪が変色してて気味が悪いと言われていましたし」


 ルーカス先生は髪の毛を弄りながら「元はブロンドだったらしいです」って呟いてた。

 白雪さんいわく上悪土さんは気が付いたらなってたじゃなくて、前の巫さんの死期を勝手に見て、勝手に力を譲り受けたらしい。

 スピリット系の魔物さんだったからか、魔力とかそういうのと相性が良いから簡単にいただいちゃったらしい。

 巫の力は美味しかった、とテレビから目を離さずに呟いてた。


「そういえば白雪さんは他の巫さんについて何か知ってる?」

「把握する力を持っている訳では無いので、全ては分かりませんが少しならお教えできるかと思いますよ」


 フレアマリーさんと対になる旱魃の巫さんはもうすっごい長いこと変わっていないらしいです、でも人間らしいです。

 怪我とかを治しちゃう力だから、体を若いままで保てるってことなのかな?

 レジーナさんという女性で、魔女だとか……。

 魔道書とか、宗教の本にたまーに登場するからちょっと有名人らしい。でもどこに居るかは知らないらしい。

 ふぇっくんと対になる嵐の巫さんは代替わりしたのは最近らしいです。

 ちょっと特別な変わり方をしたのは分かってるけど、それ以外は何にも分かんないらしい。


「そっか、それで特別な変わり方ってどんな?」

「どうも彼は夕闇の巫になれる素質も持っていたみたいで、自分から縁を繋いで巫になったみたいですね」

「自分から……えにしをつなぐ?」

「運命の糸を手繰り寄せたと言うべきか……それとも他人の糸を解き、自らの指に結んだと言うべきでしょうか」


「まあ、言うなれば彼は運命を変えたのですよ」って言ったけど……、実は白雪さん嵐の巫さんのこと知ってるんじゃない?

 だってさ、なんか詳しくない!? 本当は知ってるんじゃないんですか!?

 彩萌がじーっと見れば、白雪さんはくすくす笑ったのです。


「どうやって力を得たのかしか僕には分かりませんよ」

「本当ですか? ちょっとだけもったいぶってないですか?」

「えぇ、はい……でも、運命を見る事ができて物事を把握する能力に長けているなんて、大変な人生を送っていそうですよね」

「うーん……、未来とか見えちゃったりして?」

「悲惨な未来を回避する為に、自らを贄に差し出した彼の気分は計り知れませんね」


 やっぱり白雪さんは嵐の巫さんと知り合いなんでしょ? って聞いたけど、白雪さんは笑うだけで答えてくれませんでした。

 そしてルーカス先生はまったく知らないらしいです、というか知ってたらびっくりする。


「僕の個人的な意見ですけど、青色の魔力と緑色の魔力と黒色の魔力は人ひとりの手には余る力だと思います」


 運命(みらい)を見るのも、物事(かこ)を把握するのも、隠された真実(こころ)を暴くのも、耐えられるとは思いません、って白雪さんは呟いて紅茶を飲んでた。

 そういうものかな? もし、その三つの力を持ってたら分からないことなんてなくなっちゃうね。

 でもグラーノさんは自分の力を怖がってるし、やっぱり大変なのか……。

 ふぇっくんは自分の力をどう思ってるんだろう?

 あのコンビニであったお兄さんもやっぱり大変なのかな?


「――どの力も窮めれば生物の手に余るし、同じになるし。だからこそ、巫は互いを監視してその力と向き合わなければならない」

「ムールレーニャ様の仰る通りです、生物には行き過ぎた力ですから……」

「なんか暗いよ、……彩萌はもっと明るく考えても良いと思うんですよ! ぎゃっきょうってやつをみんなで乗り越えて仲良くなるチャンスって考えれば平和的だと思う!」


「ピンチをチャンスに変えていこうって誰かが言ってた!」って彩萌が言えば、ゲームをしてた上悪土さんに「お気楽思考ウケるー」って言われちゃった。

 でもお気楽と言えばルーカス先生だってお気楽思考ですよ!

 だって、私は関係ありませーんとでも言いたげに彩萌が買ってきたプリン食べてるもん!

 しかも二個目食べてるし! その二個目は白雪さんのために持ってきたやつだし!

 というかプリンにコーヒーのミルクかけて食べてるけど、それって美味しいの? 味に変化つけるためなの?

 この中で一番お気楽なのはルーカス先生に違いないです、二番はたぶん上悪土さんだよ。


「てゆうか……ちょっとー、さっきからマジムカつくんですけど! 何そのセコイ戦法、ちょっとズルいんじゃないの!」

「勝てば官軍、負ければ賊軍って昔から言われてるじゃん」

「だから手段は選ばないって!? こッの野郎、絶対許さないんだからね!」

「そもそも最初に説明もしてくれないで、一方的な暴力で勝ちに浸ってた性悪には言われたくないしー」

「いつもふかちくんに負けちゃうからたまには勝ちたいんだもん!」

「それ僕とは超関係ないじゃん」


 ミギーくんと上悪土さんは仲良くなったらしい、ゲームの力ってすごいね。

 気になったので彩萌はミギーくんの隣に座ってゲーム観戦してたんですよ、上悪土さんめっちゃ弱かった。

「絶対勝つー!」って燃えてて、彩萌もやらされたのです。でも上悪土さんめっちゃ弱かった。

 色んなゲームをしたけど、やっぱりミギーくんはとっても上手でした。

 ミギーくんは「ここの出来が違うのだよ!」って自分の頭を指さして、上悪土さんを挑発したり煽ったりしてた。

 お昼ご飯の準備するって白雪さんがキッチンに行っちゃったけど、彩萌は上悪土さんに引き止められて料理教えてもらうことができませんでした……。

 むーちゃんは料理が趣味っぽいので気になったのか、それとも粗探しに行ったのか白雪さんの後について行ってびっくりでした。

 ちょっと彩萌にたいしてむーちゃんって過保護っぽいから気になっちゃう感じだったのかも。

 ……ぜったいに粗探しが一番だと思うけど。

 後でむーちゃんに料理教えてもらえばいいかぁ……。

 キッチンからむーちゃんのねちねちした嫌味が聞こえてきて、やっぱりむーちゃんは性格が悪いなぁって思った。

 でもめっちゃ性格悪いのに、彩萌はむーちゃんと仲良しなのがなんだか不思議だなぁって思った。

 性格は悪いけど、意外と面倒見が良いからかな?

 でも本当は優しいからね、嫌なこと言ってるけど実は白雪さんを心配してたら面白いよね。

 そしてルーカス先生は机にベターって伸びてました、スプーンくわえながら彩萌たちを見てました。

 授業参観とかでルーカス先生をカッコいいって言ってたお母さんたちがこんな姿を見たらどう思うんだろう……。

 彩萌の中ではもうルーカス先生はダメな大人です。


「先生は恥ずかしいとか、かっこよくありたいとかそういうのないの?」

「面子とか面目をどうこうとか……面倒臭いです」

「なんで教師になったの? 学校の先生とか面倒臭そうだなーって彩萌は思ったんですけど」

「子供は嫌いではないです」


 それを聞いて彩萌が「本当にロリコンだったの?」って聞いたら「違います」ってすぐに否定されました。

 ロリコン呼ばわりされたくなかったのか、ルーカス先生は訳を詳しく話してくれたのです。

 ルーカス先生は幼い頃から力に翻弄されてて子供らしくない子供時代を過ごしたから、子供達の心を読んだり追体験したりして楽しんでいるらしいです。

「勝手に心を覗き見ちゃうのは、ちょっと悪趣味ですよ!」って言ったら、何とも言えない顔をしてました。

 ちなみに勝手に見られたくないプライベートというのがそれ関連らしいです。


「叶山さんの心を覗き見るのが楽しみだったんですけどねー……」

「えぇー、それはちょっと……ひきます」

「後ろめたい事もなく、明るくカラッとしてて軽やかで……前に向かっていく感じが好きだったんですけど」

「褒められてるのにぜんぜん嬉しくないです!」


「それに比べると、本当の巫の叶山さんはドロドロしてて嫌ですね」と文句を言ってたけど、知りませんよ……。

 ちなみにお昼はオムライスとオニオンスープとサラダだった。

 ルーカス先生オムライスが好きなの? って思ったけど、どうやらオニオンスープが大好物なんだとか。

 でもたまごも好きなんだって、プリンとか茶碗蒸しとかオムレツとか。

 食べないって言った癖に、むーちゃんも食べてた。というかオムライス作ったのはむーちゃんだったようです。

 オムライスが食べたかったのはむーちゃんだったのか……。

 サラダとスープは白雪さんが作ったようで、かたくなにむーちゃんはその二つを食べませんでした。

 むーちゃんは頑固です……。猫はネギ食べないとか言ってたけどオムライスにもタマネギ入ってるから、というか作ったのむーちゃんだからタマネギ入ってるの知ってるでしょ。それは理由になってないよ、というかなんでそんな断り文句言ったの。

 地味に気を使ったの? もしかして白雪さんのことちょびっと見直したのかな……。

 上悪土さんとミギーくんはご飯食べない人たちなので、あきもせずにゲームをしていたのですよ。

 ご飯食べた後は白雪さんも混ざってもらってゲームをしました。

 ちなみにむーちゃんもやったよ、めっちゃお願いしたらやってくれたよ。

 そして言うまでもなく、大人気ないプレイで上悪土さんをボコボコにしたむーちゃんはやっぱり性格が悪いと思う。

 まあその所為で上悪土さんがめっちゃ怒って、むーちゃんが嫌そうな顔で「うるさい」って呟いてたけど自業自得だと思った。

 ルーカス先生は家に持ち込んだお仕事を眼鏡をかけてやってて……眼鏡似合ってたよ。

 お部屋に引きこもったりしないの? って聞いたら、子供だけで遊ばせるのは室内とは言え聊か不安ですからって教師っぽいこと言ってた。

 しばらくルーカス先生の家で遊んで、夕方ごろに彩萌たちはシホちゃんのおばあちゃんの家に帰りました。

 またお世話になりますごめんなさいって頭を下げたら、かまわないよっておばあちゃんは言ってくれたのです。

 優しさが胸にしみます……!

 ただで泊まるのは良くないと思ったので、彩萌はお掃除とかお手伝いとか頑張ってしました。

 まあ一番役に立ってたのはミギーくんだと思うけどね……、だって魔法の使い方を教えてたし……。

 むーちゃんはわがもの顔でごろんごろんくつろいでたからね。

 ありがとうミギーくん、彩萌はミギーくんのおかげで生きていけてるよ……。

 そんな事を考えてたらむーちゃんにニヤニヤされたのです。


「そんなにアレに頼ってるとまーた旦那が嫉妬するんじゃねー?」


 むぅ……、でもしょうがないのですよ……。

 そんなことを言われると無性に山吹君に会いたくなっちゃうよね!

 山吹君元気かなぁ、はぁ……山吹君に会いたい。





 ――あやめとアヤメの交換日記、五十四頁

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