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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
共有された心情の泡沫
49/114

鬼の居ぬ間に洗濯だ!

 山吹の屋敷に戻ったら、めっちゃ賑やかになっていたのですが。

 色取り取りだった、白い奴いないけど。

 ひそひそと素早く部屋に戻ろうとしたら引き止められちゃって、居間に長居する事に……チクショウ。

 風呂に入りたい、着替えたい。疲れたんで寝たいんですけど。

 私を引き止めた緑色は泣いていた、妖精に関わると面倒なので部屋に帰りたい、切に願っています。


「フラれたー! むーちゃんだけで良いって、むーちゃんだけで良いって言ったんだけど! 酷い暴言だ、酷過ぎるよね! 僕という存在がありながらルニャを選ぶ彩萌ちゃんは浮気性に違いない! 酷いよね、酷いよね! そう思うでしょ!」

「酷いよね~……ボクだってー、夜には必要不可欠なのにぃ……ルニャだけで良いってぇ、酷いよね~」


 ソファーに座らされて、緑色の少女に扮した風の精霊のフェクタ・カクタスに私は泣き付かれていた。

 この体の本当の持ち主である彩萌ちゃんの代わり、らしい。

 何故か右隣りには星の精霊のユーヴェリウスが座っている、精霊にサンドイッチされている私を部屋の隅でリーディアは何とも言えない表情で眺めていた。

 小さな丸テーブルと背凭れの付いた椅子もこの部屋にはあるんだけど……丸テーブルを肘掛けにして、片方の椅子を足置きにして二つの椅子を占領しているオレンジ色の精霊が居るもんだから青色の精霊がそのそばでオロオロしてた。様子を見る限り、彼は座りたかったらしい。

 もう一つ、ソファーがあったんだけど……それはディーテが寝そべって占領していた。

 どっちか譲ってやれよ、って私は思った訳だ。


「彩萌ちゃんのバカ! もう知らない、でもそんな残酷なところが好きだ!」

「蔑ろにされて喜ぶなんてぇ、フェクってば変態だねぇ……」

「攻略済みの幼馴染よりも難攻不落なクラスメイトが良い、ユース……常識だぜ?」

「それっ、ど……どこの常識なの? ……あと、わっ私も……椅子に、すわ、りたいです」


 青色こと海の精霊であるグラーノの勇気を出した発言は黙殺された。

 グラーノは泣いていた、マジで可愛そうだから誰か譲ってやれよって思ってたらディーテが隣に招いてあげてた。

 ディーテ良い奴だなって思ったんだけど、グラーノがそれを拒絶してた。

「絶対に嫌」と、グラーノは泣きながらはっきりと言った、ディーテがちょっと落ち込んでた。

 そう言えば、私が知っている聖書でも海の精霊は始めのお友達(リィドフェニア)を嫌ってたな……。

 お姉ちゃんを取るなーって感じで嫌ってたな、太陽の精霊も始めのお友達(リィドフェニア)を気に入ってたからな。

 太陽の精霊であるフレアマリーはウェルサーと始めのお友達(リィドフェニア)を気に入っていたから、二人が死んだ後にそれを人々に忘れさせない様にディーテと同じ姿を取って武器を手にし、戦争を齎したって聖書には書いてあったね。

 それに賛同したのが月の精霊で……純白だった体は戦争の所為で灰色になってしまった、らしい。

 人間側についたのが風の精霊だけだった、らしいよ。あとの精霊は傍観に徹したり引き籠ったりしてたらしいよ。

 まあ、でもフェクタが人間側についた理由が世界が穢れたり壊れたりしたらウェルサーが悲しむから、止めないといけないから、だったからどっちにしろみんなウェルサーの為だった訳だけど。

 本当にこの世界よりも昔にそんな事があったんだとしたら、今のこの光景ってすっごい平和的じゃない?

 そんな事を考えながらリーディアの方へと視線を向けたら目が合った、けどすぐに逸らされた。


「――……そんなことよりもマリー、席を二つも独占するなんて行儀悪いぞ、下着が見える……もう見えてるな」

「減るもんでもねーし、見せとけば良いんだよ」


 ゆったりとした動きで部屋の中に入ってきた大地の精霊、黄色い女性の姿であるテスタトはフレアマリーに注意をする。

 というかこの屋敷どんだけ精霊居るんだよ、精霊屋敷じゃん。

 この屋敷の中に漂ってる魔力多分とんでもない事になってるだろ、魔術師だったら歓喜だな。


「フレア……! 今日の下着可愛いじゃん、もしかして勝負下着!?」

「おう、良いだろ。服屋のねーちゃんにプレゼントしてもらったんだわ」

「えっフレア、精霊なのに本当に下着はいてるの? お兄さん生まれてから一度も服着たこと無いんですけど」

「そう言えば僕もちゃんと服着たこと無いや、フレアマジで下着はいてるの?」

「はいてるぜぇ、なんなら確認するか?」


 ニヤニヤしながら問い掛けるフレアマリーに「いや、そこまでしなくていい」と、ディーテとフェクタは断っていた。

 結局グラーノは諦めて、ユーヴェリウスを自身の膝に座らせてソファーに腰掛けた。テスタトはディーテの隣に腰掛けてた。

 部屋を見回して、精霊がほぼ全員集合しているこの空間を宗教家が見たら卒倒しそうだな、と私は思った。

 もしかしたら宗教家じゃなくてもこの世界の住人が見たら、普通なら卒倒するかもしれない。

 だって一応はこいつら神だもんな……、こんな屋敷に集まってワイワイぺちゃくちゃ話してる様な存在じゃないもん。


「それにしても彩萌ちゃんが無事で良かったね、ルニャが一緒なら安心だしねー、まあお兄さんが一緒の方がもっと安全だと思いますけど!」

「良く言うわ、近くにいたのに見す見す誘拐されたじゃねーか」

「みんな近くにいたでしょ! お兄さんだけの所為じゃないもん、あの場に精霊全員居たでしょ!」

「うむ、プロの犯行に違いないな。私は全く気が付かなかったよ」

「テス、犯人はもう特定されてるからね。その言い方だと誰だか分かってないみたいだよ!」


「そうか」とテスタトは淡々と言ったけど、彼女は本当に分かっているのだろうか。

 それにしても、リーディアは本当に仲間外れ感がパネェと思いました。


「叶山ちゃん、なんだかちょっぴり顔色良くないね! 黒いのなんかお茶持ってきて!」

「じゃあ精霊のリーディア、ついでにお兄さんのお菓子持ってきて!」

「なら、私も手伝おう」

「あっ、テスは座ってて良いよ。食べ物に関する事は破滅的だからね、テスは何もしないで!」


 リーディアに命令していたフェクタだったけど、テスタトが立ち上がろうとしたら素早く動いてキッチンの方へと向かって行った。

 そんな動きに驚いて、私はつい隣に居たグラーノとユーヴェリウスを見てしまった。


「……彼女はお茶くみも無理なんですか?」

「えへへ……あのねぇー、これくらいならできるかなぁ~? が通用しないのがテスなんだよぉ~」

「ぜ、善意でっ……お茶に、お、お砂糖を袋ごと……入れようとしたりする……よ」


 急須とかポットとか、カップには袋ごと入らないと思うんですけど、どうやって入れようとするの……?

 もしかして鍋でお茶を入れるのか? 鍋で大量生産しようとするのか?

 それにしても意外だ、グラーノも返答してくれるとは思わなかった。

 そんな感じで、わいわいしていた訳です。と言っても私はほぼ話を聞いていただけですけど。

 なんだかよく分からないけど途中からフェクタに介護されて、ぜんぜん大丈夫なんですけどって言ったんだけど、顔色悪いからってソファーに寝かされて濡れタオル頭に被せられた。私は風邪を引いている訳では無い。

 何処から持ってきたのかよく分からない布団とか掛けてくれた、絶対に山吹が怒る……とか思った。

 飲み物飲ませようとしてくれたりするんだけど、お前看病ごっこしたいだけだろとか密かに思ったりしていました。

 しばらくしたら飽きたのか、フェクタは立ち上がって時計を眺めていた。


「それにしても若旦那帰って来るの遅いね、どこほっつき歩いてるんだか!」

「そういえばそうだね……リーディアがすぐに帰ってこないなんておかしいですよ、これは怪しいね……事件の香りがしますよ!」

「ドルガー家次期当主殺害事件か……、おい貧民、富豪様にお前の隠し持ってる菓子を全て寄越すんだ」

「えっ、これってそういうゲームだっけ? あとお兄さんはお菓子なんて隠し持っていません!」


 フェクタの発言に、小さな丸テーブルをソファーの方へと引き寄せて暇潰しにトランプゲームに興じていたディーテとフレアマリーが反応する。

 部屋の中にはブラックロン毛は居ない、山吹もまだ帰って来ていない。

 それにしても布団が重い、何枚掛けられてるんだろう。


「じゃあ貧民なら服を一枚脱げ、大貧民は二枚な。最初に素っ裸になった奴は罰ゲームだからな」

「これってそういうゲームじゃなかったはずですけど!」

「待った、そうなると私が不利じゃないか。だって私はドレスなんだぞ? グラーノとユースとマリーが有利じゃないか」

「真面目に考えたらお兄さん達最初から服着てないからね!? 魔力の塊なんだよ!?」

「俺等ってあれだよな、現実世界だったら公然わいせつ罪とかで捕まりそうな奴らだな」

「でもマリー、犬が服を着ていなくても捕まらないだろう?」

「つまり、俺達は犬以下だったんだな」


「わんわーん」と呟きながらユーヴェリウスがトランプを混ぜていた、こいつら楽しそうだな……。

 というか布団が重すぎて動けない、暑くなってきたんですけど。

 脱出しようともがいていれば、フェクタの声が聞こえた来た。


「もしかして……浮気じゃない!? 鬼の居ぬ間に洗濯してるんだよ!」

「お前じゃあるまいし、山吹にそんな度胸ある訳ねぇよ」

「男はみんな狼なのよー!」

「でもぉ、彩萌ちゃんは邪鬼だけどぉ、本物の鬼じゃないよー……?」

「でっ、でも……もし旦那さんが浮気してたら、あ、彩萌ちゃん……山吹君のこと、きっ……嫌いになるかなっ」


 グラーノの発言を聞いて、室内が静寂に包まれた。

 すっごい静かで怖いんですけど、なんだこの空気は。何かタブーに触れた?


「そ、それは……彩萌がかわいそうだ、考えるべき事じゃない」

「うーん……でもぉ、彩萌ちゃんが山吹君嫌いになったらぁ……此処に居る意味、ないよね~」

「そっそんな恐ろしいこと考えるなんてダメですよ! 彩萌ちゃんの幸せを一番に考えるべきですよ、お兄さんは断固反対!」

「別に山吹を嫌いになろうがなるまいが俺はどうでも良いけど、ちょっと面白そうだなとは思った」

「僕もちょっと面白そうだなって思ったけど、それよりも彩萌ちゃんが怒るから無理」

「そ、だね……うん、おっ、怒られるの、やだ……」


 やっと布団から出られて、床に足を着けることが出来た。

 私が起き上がった音を聞いて、一部の精霊はびくっと肩を震わせていた。

 アイツを嫌いになったら私達の元に帰って来るかも、と一瞬考えたんだろうな。それで罪悪感的な物が芽生えているんだろうな。

 ディーテとグラーノとテスタトが少々気まずそうな顔をしていた。


「でもさー、黒いのは女好きじゃん? もしかしたら若旦那だって好色かもしれなくない?」

「でもアイツは会えるか分からない相手を四年も想い続けられるような粘着気質だぜ?」

「フレアったら……、もう彩萌ちゃんは手元に居るんだよ? 状況が違うじゃない、状況が」

「つまり、もう手に入れたも同然だから目移りしてしまうかもしれないと言いたいのか」

「そーそーフレアが言った通り……攻略済みの幼馴染よりも難攻不落なクラスメイト、だよ!」


 その話を聞きながら「男の人って怖いねぇ~」とユーヴェリウスが呟くと隣でグラーノがコクコクと頷いていた。

 その話に対してディーテが、リーディアはそんな事する様な子じゃないと強く否定していた。

 浮気しているかもしれない、絶対にしていない、なんてそんないたちごっこの様な会話をフェクタとディーテは繰り返していた。

 他の四人はそれを眺めている、ぜんぜん話が進みそうにないので私は溜息を吐いた。


「……そんな事を言い合ってるくらいなら、確かめに行けばいいじゃないですか」

「それもそうだね、絶対にリーディアは浮気なんてしないの!」

「それはどうかなあ? 男はみんな狼だもーん」


 フェクタとディーテが確認している間に、私は布団でも片付けて置こうかなと思い、布団に手を伸ばしたのですが……。

 何故かガシッとフェクタに腕を掴まれて引き摺られて行く、……私関係なくね?

「女性の意見も必要だ!」との事です、まあ確かにテスタトとフレアマリーを見ている限りでは参考にはならなそうだったけど。

 布団とかはテスタトが片付けてくれるそう、そして私達の後をフレアマリーが面白そうな物を見る様な表情で付いて来ていた。

 よく見たらグラーノとユーヴェリウスも付いて来ていた。

 気になっていたんだなぁ、と思っていると「浮気してると良いねぇ」なんて呟く声が聞こえてきた。

 浮気してたら修羅場に突入しそうだから、私的には何も無い方が良い。

 ちなみに浮気してると良いねぇ、なんて言っていたユーヴェリウスを見て、グラーノが困った顔をしていたのは言うまでもない。





 ――あやめとアヤメの交換日記、四十九頁

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