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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
共有された心情の泡沫
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幻想の中で現実を求めている

 ――いつもよりも、深い眠りについていた。

 気が付けば、とても清潔そうな部屋にいた。シンプルだけど、その一つ一つに味わいがあると言うか、気品があると言うか。

 完全に私の部屋では無い、そもそもこんな豪華な部屋で寝たことなんてない。

 起き上がればブランケットが膝からするりと落ちていく。

 どうやらソファーで眠っていたらしい、というか土足なんですけど、これ完全に日本仕様じゃないんですけど。

 いつから私は海外仕様になったんですか? そもそもここどこですか?

 そんなことをグルグルと考えていれば、部屋の中に人がいることにようやく気が付いた。

 それはとっても白くって、一瞬白雪ふかちを思い出したけどすぐに違うと気が付いた。

 私を見る目がすごいんですけど、なんか視線だけで人を殺せそうな目をしてんですけど。


「――……おまえ、誰?」


 誰と言われましても、叶山彩萌と申しますが。

 でもたぶん、この白いネコミミチビが聞きたいことはそんなことでは無いような気がする訳よ。

 私に求めているのは名前なんかじゃなくて、もっと本質的なことだと思う訳よ。

 まあ、その本質的なことがなんなのかなんてさ、私には分かんない訳だ。

 つまり、えーっと、ストレス社会で生きる私が選ぶ最善な解決策はだね。ストレスから逃げることだと思うんだよね。

 だってバカみたいじゃん、そんな答えられない答えなんて問われてもさ、答えられる訳無いじゃん?

 でも私の感性は何となく感じ取っている訳だ、こいつ超強いよ! 逃げられないよ! ってね。

 詰まるところ、今の私に出来ることははぐらかすことだけだね。

 にっこり笑って誤魔化す、ダメな日本人の基本ですよ。


「ははっ何言ってるか分かんない」

「ふーん、そう……言葉を理解できない? この前さ、フレアマリー・バーミリオンに教えてもらったんだけどさ、言葉が通じなくてもあることをすれば意思疎通は可能らしいね」


 そいつはニターって笑った訳だ、嫌な笑みですよ。

 何も無い空間で何かをガシッと掴む動作をして、勢い良く引き抜くように腕を振ったらさ……白いネコミミチビは豪く鋭そうな凶器を持っていた訳です。

 なにそれー、なんかー私の頭と体を一瞬で離れ離れにできそうなくらい鋭い感じー。

 剣とか詳しくないけどきっとグラディウスとかそんな感じだよねー、なのにメッチャ鋭そうなんですけどー。

 西洋の剣ってなんかー、撲殺できそうなイメージがありましたー。


「ぼ、暴力なんて良いと思ってるの? あなたも理性ある生き物なら言葉で解決するべきだと思わないの?」

「何言ってんの? 理性ある生き物だから一番最初におまえに誰か確認したんだよ? 最初から襲ってないだけまだマシなんだよ?」


 ですよね、私が間違っていましたよね。

 アナタはとても理知的で素敵な人ですよね、私が失礼な言動を取ったから癪に障ったんですよね。


「彩萌ちゃん……いや、ウェルはそんなこと言わない、それでおまえは誰?」

「叶山彩萌」

「それで、おまえはどうしてここに居るの?」

「知るかよ、そんなこと私が聞きたいくらいだわ、だいたいここ何処だよクソがっ」


 なんかよく分からない内に悪者のように扱われて、ついイライラしちゃって口が悪くなってしまった。

 ダメだね、子供だからと言って感情はコントロールできなきゃダメだ。

 クールにならないと、恥ずかしいわ。


「ぼくと同じ顔をした白いやつ、知ってる?」

「知ってるけどそれとこれ、何の関係がある?」


 私がそう質問したけど、彼は何かを考えているのか返答は無かった。

 ……くそっ、なんてことだ。今の私と彼は同じ立場に立っていないという訳か、私の方が下なんだな。

 まあ良いよ、私はどうせダメな奴だもの、取り換えが効くような代用品ですよ。

 自分の誕生日だって自己申告しなくちゃ家族に忘れられるような廉価な存在なんですよ。

 なんかよく分かんないけど、私が居なくなったってどうせ深刻には捉えんだろうな。

 むしろ清々してるかもしれない。

 でもそんなの常識的に考えたらよくないことだという事は理解してるだろうから、表面では悲しんでてくれ。

 あぁ、なんかすごい派手な衣装を着てるな。いつの間に着替えたんだろう。


「それで、私はどうなるの。殺すのか、ばらすのか、売り飛ばすのか、今まで大きな病気になったことは無いからたぶん健康体だよ」

「何言ってんの、大した金にもならないから、そもそもソレお前の体じゃないから」

「何言ってんのか、分かんない」


 自分の体じゃないなんて言われてすぐに納得できる人間が居たらびっくりだよ、尊敬しますね。

 たしかに腕とか足がなんか黒いけどさ、なんかよく分からんがしっくり来るんだよね。なんでだろうね、肌と足が墨ぶちまけたみたいな黒さなのにさ……痣っぽいところもあるから痛そうな感じだしね。

 不安でイライラします、孤独っていうのを感じてるわ。

 どこに居ても感じてるけどさ。


「頭が切れるわけじゃないし弁が立つわけじゃない、そつなく物事がこなせるわけでもない、私って何の為に存在してるんだろう」

「なに落ち込んでんの」

「乱暴されるのはすごく嫌だけど、低い価値しかつかないと評価されるのはそれはそれで傷付くわ」

「重傷だね、……ま、その体はおまえのじゃないから変な事するなよ」


 だんっ、とすごい音をさせて、床に剣を衝き立てて彼は部屋から出て行った。

 脅しなのかな、よく分からない。幻想(ファンタジー)を本当は否定したいけど、剣には不思議な何かでもあんのかな。

 私はすることがなくなってしまったから、ソファーに座る。

 すごいフワフワ、それでいてしっかりしててなんか高そう。


「なんていうか……招かれざる客ってことね、私って」


 いつでもそう、どこに居てもそう。困ったね、まいっちゃうね。

 どうしたら良いんだろうね、分からないよね。

 グジグジ悩んでも解決策なんてみつからないことなんて、当の昔に知っちゃってるのにいつまでも悩んでるのよね。

 だからオンリーワンになれば良いなんて自分の心を誤魔化そうとしちゃうのよね。

 それって根本的な解決にならないんだよね、だって私はオンリーワンじゃなくってナンバーワンになりたいんだもん。

 みんなに認められなくても、誰かに認めて貰いたいのよね。

 “絶縁”を取り戻せとか、黒いお姉さんとか白雪ふかちに言われたけど私の求めてる物と違うね。

 そんなことを考えてればなんかすごい衝撃を受けた訳ですよ。

 殴られた……訳では無いけど、投げられたのか。頭と肩とかが微妙に痛い。

 首絞められたり投げられたり、最近私運悪いんじゃないの。

 しかも投げたの白いネコミミのチビだし、首絞めたのは白雪ふかちとかいう白いチビだし。

 投げられたのにあんまり痛くなかったのは、何かかがクッションになってくれたみたいですね。


「何してんの、おまえ。変な事するなって言ったじゃん」

「ちょっと、中身は別人かも知れないけど体は彩萌ちゃんなんだよ! そもそもなんか傷付いてるっぽい人に乱暴したらダメですよ!」


 誰かが私を庇ってくれたけど、友達の体に別の何かが入りこんでたら気持ち悪いよなぁ……。

 同姓同名なのかな、この体の持ち主はさ。

 床から起き上がろうとしたらさ、なんかいつもと感覚が違ってうまくバランスが取れずに転んでしまった。

 腕がさ……ずるってした。なんか、腕がぐにゃぐにゃなんだよ。

 骨折!? って一瞬びっくりしたけど、腕を見たら違った。

 というより、なんだか……もっと、ヤバイって言うか。キモい感じだった。

 私の腕、溶けてない? なんか、ドロッとしていた訳です。

 あとなんか……体の黒い部分が増えてる気がする、足もちょっと……溶けかけてる。

 びっくりして声も出ない、目の前の光景が信じられなくて固まってたら、誰かが私の前まで来て目の前にカラフルな石で出来てる重そうな杖っぽいのを落とした。すごいきらきらしてる、ちょっと可愛い系なデザインなのが残念だなってぼんやり思った。

 顔をあげたらさ、綺麗なオレンジ色の髪の毛を三つ編みにしたお姉さんが仁王立ちしてました。

 ニヤニヤしてるね、何でニヤニヤしてるんだ。


「死にたくなかったらそれ持ってな、その体は容量そんなにでかくねぇし魔力で出来てるから直ぐ壊れるぜ」


 とりあえず今すごいヤバイのかなって思ったから、疑うことはせずに杖に手を伸ばした。

 持てなかったけど、手が上に乗ってれば大丈夫かもしれない。分かんないけど。

 死ぬのはイヤだからね、こいつらが誰かとか、今どういう状況にいるのかとか、ここ何処なのかとかそんな事よりも死ぬのは嫌だ、怖い。

 そんなことを考えながらニヤニヤしながら私を見下ろしてるオレンジ色を見てたらね、オレンジの後ろに隠れるようにして青い色が顔を出した。


「……えっと、情緒不安定だと、……あの、えっと……魔力が安定しないから……えっと……えっと、スピリット系の魔物さんは魔力で構築されてて……えっと、……安定させるために魔力を溜め込みやすくっなるから、崩壊しやすい……よ」


 ルーカス先生に少しだけ似てるなって思ったけど、まったくもって口を開けば別人だった。

 似てるのは顔の雰囲気だけだった、背丈も違うし。

 その二人の後ろですごい不機嫌そうな顔の白いネコミミチビとオレンジ色にそっくりな赤毛の奴が居た。

 部屋を見回せばちょっと見覚えがあるような気がする黒いやつとか、黄色いのとか紫色とか緑色とか居て……完全にアウェーだこれ。

 なんか居た堪れないな、人生辛い。

 微妙な空気に……もう既に泣いてたけど、さらに泣きそうになっていたら扉を開く音が聞こえて目を向けた。

 真っ黒くって角が生えてて、フードを被ってるみたいな猫みたいな、赤いランプの様に光る一つ目がキモいマスコット人形みたいな小さい生き物がいた。

 なんだか、懐かしい感じがしたんだよね。うん……。


「何故二世には声を掛けてくださらなかったのか! 何故二世には声を掛けてくださらなかったのか!」


 二足歩行で飛ぶように近づいてきたそれは、私に飛び付いた。

 ……何だコイツ、コイツもこいつらの仲間か。


「何と懐かしき感覚! まるで失った体の一部を得た様な感覚、正しく我ら(邪神族)の神様!」


 なんだかよく分からなくって、クラクラする。

 理解もしたくないけど、受け入れがたい出来事が起こり過ぎている気がする。

 私って本当に、何なんだろう。


「二世が来ましたから、大丈夫です、崩壊させないですぞ」


 なんだか涙もろくなっているみたいで、その言葉にちょっとジーンときた。

 少し、腕がドロッとしているのも治っていた。

 少しだけ私がなんなのか分かった気がして、本質に触れた様な気がして吐き気がした。


「ここはっ……、幻想世界(ファンタジー)……なの」


 答えが聞きたい訳じゃないから、意識を落とす。

 何か聞こえた気がしたけど、今は何も聞きたくない。

 私は巫じゃないし、神様でもない。ただの普通の人間だって、言いたい。





 ――あやめとアヤメの交換日記、四十頁

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