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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
不幸の箱の中の希望
31/114

準備はできた?

 ――あ、そう言えば明日は彩萌の誕生日で降誕祭じゃん。

 なんか色々あってすっかり忘れてたけど、シーシープドラゴンみんなの用意してない!

 山吹君にあげられるやつしかないや、うぅ……用意したかった。

 当日に買えるって言ってたけど、彩萌は明日も外出禁止かも知れない。

 だって、なんかよく分かんないけど……今日の朝からむーちゃんとディーテさんの様子が変なんです。

 ずっと監視してくるんですよ、トイレの外までついてくるんですよ。

 何かあったの? って聞いても、何でもないよって言うんですよ!

 絶対なんかあったのに! 絶対なんかあったのに!

 彩萌本人にも言えないことなんですね……彩萌はちょっぴり悲しいです。

 ディーテさんが用意してくれた朝ごはんは、やっぱりなんか一味違うような気がする。

 食材が悪いって言ってたけど、昔も同じようなこと言ってたけど……ディーテさんって意外と料理は苦手なのかな。

 でもここまで作れたらすごいよね、でもどうしてスパイシーな感じになっちゃうんだろう。

 美味しいんだけど、なんか違う。でもクセになりそうな味なのかもしれない、ディーテさんもつまみ食いして「なんか違う」って呟いてたけど。

 むーちゃんが味見してたんだけど、やっぱり「違う」って言われてた。


「調味料間違えてんじゃないの?」

「えー、覚えてなーい」

「味見とか、レシピとか見て作ってんの? 記憶に頼ってんじゃないの?」

「……それと、いつも勘で作ってる」

「味見くらいしろよ、だからディーテ・カーマインは無能って言われてんじゃないの?」


 そうだったのか、それの所為だったのか。

 後……むーちゃんなんかよく分かんないけど、苛々してるみたいだけど暴言はダメだよ。

 記憶に頼りながら勘でこれだけ作れたらすごいよ、天才的ですよ!

 だからディーテさん部屋の隅っこで落ち込みながら空気を重くしないで! 超美味しいから、これがディーテさんなりのアレンジなんだなって思うから!

 もう……なんかちょっと違うね、って絶対に言わないから!


「ディーテさん大丈夫だよ、美味しいよ! とっても美味しいですよ、普通とは違うけどそれが良いアクセントって感じですよ!」

「つまりー毎日食べるにはちょっとキツイかなって味だよね!」

「……たしかにそうかもしれないけど、特別な日とかに食べたらいい感じだよ!」

「それって遠回しに年に数回しか食べたくないって発言にも取れるよね!」

「あ……彩萌は毎日食べても良いくらいだよ!」

「無理してんじゃない? ディーテ・カーマインすっごい落ち込んでるもんね! そう言わざるおえないよね!」

「うぎぃあぁこのやろー! パン口に詰め込むぞ!」


 彩萌は怒ってるよ! どうしてそんなにひどいのかね君は!

 やってみなよーってニヤニヤしてるけどね、彩萌がむーちゃんの口にパンを入れるなんて無理に決まってるでしょ!

 出来たら賞金百万円だったとしても彩萌にはできないよ、当たり前でしょ!

 ユースくんが喧嘩はダメだよーっておさえようとしてくれるけど……今回の彩萌はむーちゃんが謝ってくれるまで許さないぞ。

 とりあえずディーテさんにごめんねって言わなきゃ彩萌はヤダ。

 でも、彩萌にもごめんってしてほしい。心情的な問題です。

 とりあえずディーテさんが作ってくれた朝ごはんを完食して、部屋の隅っこに椅子を持って行って本を読んでいました。


「彩萌ちゃんお兄さんならもう大丈夫だから……機嫌直して?」

「別に機嫌悪くないです、彩萌は機嫌悪くないです、怒ってるんです」

「それって機嫌が悪いってことだと思うんだけどなぁ……、でもお兄さんの為に怒ってくれてありがとうね。でもでもやっぱりお兄さん的にはー楽しいほうが好きなのでールニャのこと許してあげてよ、ルニャはお子様なんだよ」


 もー、なんだよー。彩萌が悪いみたいじゃんかー。

 絶対ヤダー、絶対許さーん。


「彩萌より長生きしてるじゃん、だから彩萌は今回は折れないもん。ごめんってできたら仲良くしても良いよ」

「別にぼくはそこまでしてまで彩萌ちゃんと仲良くしたくないしー」

「ほら、本人だってそう言ってるじゃん。だから彩萌もそれで良いです!」


 ばーか、むーちゃんのばーか。もう知らん!

 ばかやろー、もー知らんー。

 もー……知らんー、なんか涙出てきたけど知らんー。

 彩萌は悪くないもん、悪いのはむーちゃんだもん。

 むーちゃんが全面的に悪いんだもん。あまのじゃくで素直にできないのが悪いんだ。

 ばかー……もー、ばかー彩萌は仲良くしたいけど、仲良くできない原因作ってるのはむーちゃんだもん。


「ねー……ルニャ悪いもんねー、……ねー、彩萌ちゃん連れて外行っちゃダメ~?」

「えっ、ダメだよ……何があるか分かんないし」

「良いじゃーん……、だって明日は降誕祭なんだよ~……誕生日なんだよ~……」


 ユースくん……君はなんて良い子なんだ。

 彩萌はすっごく感動した、なんて言うか……優しいね。

 ボクとかが見ててあげれば大丈夫だよ、って言ってくれたんです。

 そう言ってくれたことも嬉しいけど、誕生日だって知っててくれて覚えててくれたことも嬉しい。

 明日は人いっぱいで危ないから、行くなら今日じゃない? ってユースくんは言います。

 今日はまだ降誕祭じゃないけど、観光客はいっぱい居るからちょっとした出店とか降誕祭用のアイテムは充実してるらしい。


「少しくらい息抜きしたって……良いでしょ? だってぇ……ずっと不安なのは、大変でしょ……」

「いやっ、でも危なくない?」

「ディーさんとルニャは守れる自信ないってぇ……、甲斐性無しだって~……フレアとグラーノに来てもらおっかぁ」

「ちょっと待ってよ、……それってなに? お兄さんがグラーノよりも頼りにならないって言うわけ? フレアよりも武術の腕が立たないって思ってるわけ? お兄さんだって剣得意だもん、お兄さんだって魔法得意だもん! 魔法剣士だもん!」


 ディーテさんはユースくんの言葉にムッとしてたけど、むーちゃんは「ぼくはその手には乗らないから」って呟いてた。

 というかディーテさんは剣使えるんだ、すごいね……剣士だったんだね。

 フレンジアさんとどっちが強いの? でも剣聖って名前がついてるから、一番強いのはむーちゃんなの?

 フレアマリーさんは斧だから……ちょっとジャンルが違う感じ?

 あ……でも、むーちゃんはちょっと短い(時と場合によってサイズが変わる)剣二つで戦うからこれもちょっとジャンル違うのかな。

 フレンジアさんの剣は長めでなんか厚い感じだったなぁ……、嫌な記憶がよみがえるよ……。

 ディーテさんの剣はどんな感じなのかな。


「みんなで行こうよー、シーシープドラゴン交換しよー。彩萌はケット・シーの時に貯めたお金取っといてあるからー安いのなら買えると思う、たぶん」

「ごめんって言わない限り許さないんじゃなかったのー? もう忘れたの? 鳥頭だね!」

「――っは……!? そうでした……、もう話しかけないです」

「ルニャもそう言わないでさ、素直に行くって言えば良いでしょー……もう、なんで喧嘩吹っ掛けるのかな」


 むーちゃんの発言にディーテさんは呆れていました。

 そうだよ、むーちゃんがそんなこと言わなかったら彩萌はすっかり忘れてたんだよ。

 このままうやむやにしちゃえば良かったのに、正直者過ぎですよ。

 でもここは彩萌が折れてやるしかないのか、むーちゃんは意地っぱりだからね。

 彩萌がすんなり謝れるように導いてやろう、彩萌の方が精神的にお姉さんなのだ。


「でもやっぱり、彩萌はむーちゃんともシーシープドラゴンを交換したいですよ、だからちょびっとごめんって言って欲しいだけです」

「ぼくがそんなこと言う訳無いじゃん、何で謝らなきゃいけないのさ」

「えー……そりゃあ仲良くする為に必要だからですよ」

「誰が仲良くしてくれって頼んだの? ぼくは頼んでないよ」

「じゃあ彩萌が今から頼むから、仲良くしてくれる?」

「えっ……ヤだ……」


 今一瞬だけ心が揺れたね、動揺だね。

 ムキーッて怒ると思ったんだな。残念だったな、彩萌は精神的お姉さんになったのだよ! だから怒らないぞ。

 ちょっとイラッてしたけど、彩萌は我慢できるもん。


「仲良くしようよ、あと猫ちゃんになった時はふさふささせてよ」

「ルニャここで折れなかったら……、本当のお子様になっちゃうよ~……ルニャお子様~」

「うっ……うるさいな! わかったよ、ぼくが悪かったんでしょ! もうお前らうるさい!」


 ユースくんの一押しでむーちゃんは折れてくれた、さすがユースくんです。

 ユースくんは口数が少ないけど、的確に敵の急所を突いてくるからね。味方にいると安心できますね。「もう嫌だ」ってなんかむーちゃんは呟いてたけど、一応は運命共同体じゃないですか。仲良くしようぜ~。

 そんなこんなで外に出て良いってなったわけです。うふふ。

 でも調子が悪くなったらすぐにお部屋に連れ戻されるようです、まあ当然ですよね。

 そう言えば今日は色々と大聖堂とかもだけど、いろんな人が準備があるから学校はお休みらしいよ。

 お店とか、いろいろね。祖国に帰って祝う人も居るらしいし。

 四連休だったらしいですよ、彩萌は全然知らなかったけど。

 みんなどうしてるんだろうね……元気かな。

 精霊さんの見た目って意外と周知してるらしいから、みんな変装してた。

 特にムールレーニャ・ミストとユーヴェリウス・モーブは見つかるとちょっとした混乱になるらしい。

 むーちゃんは剣聖として有名だけど、一部地域では悪の化身らしい。ユースくんもなぜかむーちゃんと同じような人だと考えられてるしね。

 まあ確かにむーちゃんは悪い子だ、ユースくんは否定しないしむーちゃんに付きまとってるからね。でも悪の化身では無いのですよ。

 でも……そう言えば最近気づいたけど、ユースくんって意外に計算高いよね。

 というか……! 人が少なめって聞いてたけど、超多いじゃん!

 明日にはどうなっちゃうんだろうね、すごいね。

 彩萌は今ディーテさんと手を繋いでます、ディーテさんは赤い髪をちょっと黒くしてメガネかけてます。

 フレアマリーさんを男の人にしちゃったバージョンに見えます。

 ユースくんは小鳥化して彩萌の角に器用に止まってます。

 むーちゃんはネコミミと尻尾がなくって、ちょっと背が高くなってた。

 なんて言うか、山吹君と同じくらいな感じかな。

 顔はあんまり変わってなくって良かったって思う。

 そんで死ぬ、死ぬって呟いてるのが聞こえた、心なしかむーちゃんの顔色がとっても悪かったです。

 かわいそうだったから彩萌はむーちゃんと手を繋いであげたよ、手は振り解かれなかったですよ。

 ディーテさんはちょっと残念そうだったけど、むーちゃんが死にそうだったから……。


「あー気持ち悪い……、みんな潰したら駄目かな。いっぱい、人が集まってて……きもちわるい」

「じゅ……重症ですね、……なんか人が少ない裏通りってないの?」


 彩萌も想像以上に人がいっぱいでびっくりしたよ、なんかごめん。

 裏通りに入れば、だいぶ人が少なくってむーちゃんは少しホッとしてたよ。


「祭り事は、嫌い」

「ごめんね~……でも彩萌ちゃんの誕生日だしぃ、良いじゃーん……」

「そうだよルニャ、みんな祝う気持ちでここに居るんだからさ……大丈夫だよ」

「大通りはもう行かない、どうしても行かなきゃいけないんなら降誕祭を血祭りに変える」

「じゃあイズマさんのとこ行こー、裏通りから行けるしー静かだよー」


 密集してるのも嫌かなーって思ったからむーちゃんの手を離そうとしたら、逆にむーちゃんが離してくれなくなった。

 むしろ痛い、力入り過ぎてるよ……まあしょうがないか。

 すっごい殺気立ってて……かなり重症のようです。ごめんよ、こんなに人がいるなんて知らなかったんだ。

 だってまだ降誕祭始まってないんだよ、おかしいよね。すごいよね。


「そういえば~……今年は聖女様が復活して死んだりぃ、聖樹が突然現れたりしてー……聖女の奇跡があったから去年よりも賑わってるんだねぇ」

「あぁー確かにそうだね、客観的に考えればそうだねー、お兄さん全然気づかなかったよ」

「むーちゃんもしかして……人がいっぱいクレメニスに来てたからイライラしてたの?」


 彩萌の質問にむーちゃんは答えませんでした。

 図星か、言ってくれればいいのにぃ。お詫びにむーちゃんの大好きなトカゲ買ってあげるから許してよー。

 新鮮なトカゲともう既に調理されてるトカゲどっちが良い?

 彩萌はもう既に調理されてるやつが良いと思うよ。

 イズマさんの店は相変わらず、賑わっていませんでした。

 でもイズマさんいわくこれは副業だからほどほどで良いらしいから、良いのかな。

 忙しくなり過ぎると本業が出来なくなるって言ってたし。


「イズマさーん……、ずっちーんお客さーん! お客さんが来てますよー!」


 ばしばしカウンターを叩いてれば、のそのそイズマさんはでてきた。

 非常に面倒臭そうです、もしかして居留守する気だったのかな。

 ちょっと彩萌はショックですよ……。そしてユースくんとディーテさんはアクセサリー型の魔具を見ています。


「お久しぶりです、ユースくんの魔石のアクセサリーは売れた?」

「ぼちぼちだな、だがなかなか悪くない」


 シュボってタバコに火をつけて吸い始めるけど、彩萌達は一応お客さんです。

 まあ……良いけどさ、吸うなって言っても止めなさそうだし。

「冷やかしなら帰れよ」って面倒臭そうに言うけど、冷やかしではありません。


「イズマさんのお店では降誕祭用のアイテム置いてあるの?」

「無いことは無い」

「イズマさんは誰かと降誕祭祝ったりしないの?」

「誘われれば祝う事もある」

「ビジネスお祝い?」


 そう聞けばちょっと呆れたような感じの笑いをして「まあな」と呟いてました。

 むーちゃんは彩萌の手から離れて、今は壁によりかかってぼーっとしてた。

 とりあえずディーテさんは知り合いだったよね、挨拶はしないのか。


「ビジネス以外でも、祝う時はある」

「へーそうなんだ、イズマさんってフレンジアさん以外に友達居たんだね」

「俺とお前は客観的に見れば友好関係にあると言える」

「おぉー! じゃあ彩萌は大々的にイズマさんとは友達ですって言って良いんだね!」


「好きにしろ」って言ってイズマさんはなんか、新聞読み始めた。

 なんだろう……、適当にあしらわれてるような気がする。

 とりあえずあしらわれてるなら商品でも見ようかな、うん。

 ディーテさんとユースくんに近づけば、これ良い感じだよーってすっごくおすすめされた。

 君たちはここの店員さんかい、すっごい良い感じーお似合いだよーって言われた。

 でも彩萌が欲しいのはアクセサリーじゃなくて、降誕祭に使えるやつ!

 お金の無駄遣いは出来ないもん。

 とりあえずシェリエちゃんと、クーリーちゃんにあげられるようなシーシープドラゴンをモチーフにしたネックレスを買うことにした。それとシーシープドラゴン人形をデコレーション出来そうなやつ。

 意外とお買い得な値段、でもあんまりお金ないからあとは貯金しておきなよーってディーテさんに言われたからそうすることにした。

 むーちゃんにトカゲはあげたい、なんか悪いことしちゃったみたいだし……。

 お会計して、ちょびっと世間話して帰ろうとしたらね。なぜかシースさん(妖精さん)が混ざってたんですよ。

 イズマさんはそいつは連れてって良い、むしろ帰ってこないでくれって言ってて、シースさんも連れてけーって言うんだけど……置いて行きました。

 お店から出るときすごいシースさんの泣き声が聞こえました……。


「いやじゃあ! いやじゃあああ、妖精しゃんもあやっちが良いのぉ。あやっちと降誕祭お祝いしたいですぞぉ! 降誕祭お祝いしたいにゃああああ! お祝いしたいにゃあああああああ! ずっちんひっきーしちぇちぇおもろーない!」


 ちらっと見たら、カウンターの上でばったんばったん音を立てながらだだをこねてました。

 すごい勢いでした、いつもあの調子なんだろうか……。

 でも律儀に置いて行かれたらついて行かないところが妖精さんらしいです。

 彩萌たちはトカゲの黒焼きを買って学校に帰ったよ、学校ではグアリエ先生に会ったりしたよ。

 ちゃんと治して一緒に勉強しましょうね、待ってますねって言ってくれました。

 お部屋に戻ってからむーちゃんはトカゲの黒焼きを食べてました。

 ディーテさんとかユースくんは興味を示さなかったです。

 彩萌はちょびっとだけ興味があるけど、食べたいってほどではないです。

 明日になったらちゃんと精霊さんたちが彩萌の誕生日を祝ってくれるって!

 嬉しいです……、覚えててくれてありがとうです!

 うふふ、山吹君は覚えてるかな……。





 ――あやめとアヤメの交換日記、三十一頁

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