子供達の城
やって来た寮母さんはすごい小柄で、こげ茶色のふわっふわの長い髪がステキな女性だと思います……少女ではないはずです。
にこにこ笑ってて、お人形さんみたいな見た目です。
大きなパッチリした目が素敵です、服も茶色と白で統一されてて可愛い。
エプロンドレスってやつなのかな、お人形さんみたいでステキです。
近くで見ると本当に小さい、シェリエちゃんと同じくらいでした!
「はじめまして、おはようございます。みんなからシュガーと呼ばれてます、よろしくお願いしますね」
見た目に反して意外と声低かった、そしてめっちゃかすれてた……ハスキーボイス?
彩萌とシェリエちゃんが驚いて何も言わなかったら、その……シュガーさんは恥ずかしそうに「飲み過ぎてしまいまして……」って呟いてた。
お酒が飲める年齢であることは間違いないようです!
と言っても、幻想世界の住民はアルコールに耐性があるから十歳から飲酒おっけーらしいよ。幼い頃から飲んでる人も居るらしい。
だから日本基準とか現実世界基準では判断できません。
「よろしくお願いします、……叶山彩萌です! 彩萌が名前です!」
「よろしくね、子鬼ちゃん……そっちのトンガリ耳ちゃんもよろしくね」
「……シェリエ・クアノーズ・ヴァニマです、よろしくお願いします」
「うん、私名前覚える気は全く無いからね」
にこにこ笑いながら寮母さんはそう言います、つ……冷たい人なのかな?
彩萌とシェリエちゃんが反応に困ってると、シュガーさんは慌てて「あ……いや! 名前覚えられない感じなの!」って言い直してた。
すごいわたわたしてて、動きが面白いです。
シュガーさんは失言しちゃうタイプなのかもしれません、とりあえずウッカリしてる人なのは間違いない!
「えーっと……彩萌ちゃんをよろしくお願いしますね」
「あ……はい、イケメンですね」
ディーテさんから荷物を受け取りながら、サラッと何の気も無さそうな感じでシュガーさんはそう言うと彩萌の荷物を受け取ってた。
本当にディーテさんをイケメンって思ってるのかな、お世辞なのかな。
よく分かんないや。
シェリエちゃんは荷物持ってきてないの? って聞いたら、鞄に全部入ってるらしい。
その小さな鞄に全部だなんて、幻想世界すごい。
「えっと、本当に名前覚える気が無いんじゃなくて……自分の名前も覚えられないくらいの記憶力だから気にしないで!」
「だからみんなからシュガーと呼ばれてます、なんて自己紹介だったんですか」
シュガーさんの発言にシェリエちゃんが納得してた、シュガーさんは大変みたいだね。
「もう年なの」って恥ずかしそうに笑ってた、……大丈夫かな?
というか荷物重いのに、シュガーさん軽々と持ち上げてます。
力持ちなんですね!
ディーテさんは用事があるらしく、ここでお別れでした。
ちょっと寂しいけど、彩萌は大丈夫です。
「じゃあ、えっとかなめちゃんとセリエちゃんだっけ?」
「かのやまあやめ……叶山彩萌です、ちょっとおしい感じです!」
「……無理に名前で呼ぼうとしなくても良いです」
「ごめんね」って本当に申し訳なさそうにシュガーさんは謝ってた。
でもしょうがないよね! 覚えられない物は覚えられないよね!
シュガーさんすごい可愛いから、彩萌はかなめちゃんでも良い気がしてきた!
大聖堂は学園と孤児院に繋がってるから、外に出なくてもここから行けるらしい。
大聖堂から孤児院と学園への通路は、あとから追加された通路なのか彩萌は見たことが無かったです。
学園と孤児院と学童院は隣接して作られてるんだって、孤児院と学童院は一応繋がってるらしい。そして孤児院のルールは、まず自分でできることはすべて自分で行うこと、部屋の掃除とか服を洗濯したりとか。
でもちゃんとシュガーさんが指導してくれるらしい。
あと孤児院の子供たちは孤児院の掃除がお仕事らしい、人件費削減だね。
中等クラス、高等クラスになると学童院の掃除もちょびっとするらしい。
廊下とか、そういうところ。
孤児院の主の目的は自立できるように指導すること、らしい。
学童院はけっこう自由だけど、孤児院はルールが厳しいらしい。
門限が学童院は八時までだけど、孤児院は六時とか。
ペットは持ち込み禁止、でも学童院は可能らしい。
それはやっぱり自費で世話ができるかどうか、の違いなのかな?
あと学童院は使用人を連れてきても良いらしい、メイドさんとか執事さんいっぱい居るのかな……。
ちなみに学童院のみんなは、絶対に孤児院の子供達を見下さない事がルールらしい。
あと自分の部屋をきれいにしておくのもだって。
自由だけど、一応孤児院と同じく監視はされてるらしいよ。
あと孤児院と学童院は十八歳までしか居られないらしい、それ以上になったらどっかに下宿しろってすたんすらしいです!
つまり、大学生になったら学童院は使えない!
「他には、異性の部屋に入らないとか夜の十時以降はなるべく部屋から出ないとか、学園の外の人物を孤児院に入れないとかだよ」
「服装とか、髪の長さとか制限は無いんですか?」
「そこまでは無いよ、昔は天使さんがアムシェシェレンシィアだった時はあったけど……レニ様はどちらかと言えば髪は結い上げて、うなじが綺麗に見える服装が好ましいって言ってましたね、ミニスカート大いに結構……だそうですよ」
「ディーテさんが言ってたことは本当だったんですね、孤児院の女の子を自分好みに育ててるって」
「そこまではしていないと思いますけど」ってシュガーさんは笑ってた。
ルールとか、いろいろ聞いてたら孤児院についたみたいです。
扉を開けたら孤児院の庭に繋がってました、大きくってきれいだね!
彩萌がそわそわしてたらシェリエちゃんに笑われちゃった、だって大聖堂と同じで真っ白できれいな建物なんだよ。
でも大聖堂と違って、魔石ではできてないと思うけどね。
大きい扉を開けば、広いエントランスです!
食堂があるのか、大きい扉のとこからざわざわ声が聞こえてくるの。
シュガーさんはその大きい扉を開けたんです、子供たちがいっぱい居ました。
大きい人も居ます、小さい人もいろいろ居ますね!
魔族さんも居ました。
「カーリー! カーリーちゃんいるー?」
「……シュガーお姉ちゃん! アタシの名前はクーリー・ウィンスピー!」
呼びかけに反応したのは、彩萌たちと同じくらいの明るい茶色の髪の可愛い女の子だった。シュガーさんはそのクーリー・ウィンスピーちゃんに手招きしてた。
クーリーちゃんは急いで朝ごはん食べると、急いで食器をカウンターに片づけてこっちに小走りで来たんですよ。
寝癖なのかちょっと髪の毛くるんくるんしてた。
「おっ……、この子たちがアタシの同室の子!? ねぇ、年下!?」
「残念ながら、同い年だよ」
「えー同い年なの、こんな小さいのに!? ……あ、こっちの金髪の子はアタシと変わんないね!」
「ねー小さいよねー、私も吃驚しちゃったもん」
……ちょっと、彩萌に失礼じゃないかな。
たしかに彩萌は小さいけど……これから成長するもん、大きくなるもん。
どんまい、ってシェリエちゃん言ってくれたけど……でも彩萌は日本ではそんなに小さくなかった……って言いたいけど小さい方でした。
でもやっぱり、幻想世界の人たちの背が高いんだもん!
だって山吹君だって背が小さいもんね!
彩萌だけがチビなわけじゃないもんねー、山吹君だって小さいしエミリちゃんだって小さいしイズマさんだってどっちかって言うと背が低いもんね!
だから彩萌は気にしてません……からね。
「なんかこの子すごーい! 角生えてる、なんか……よく分かんないけど強そう!」
「えっと……叶山彩萌です、彩萌が名前です」
「シェリエ・クアノーズ・ヴァニマ」
「アヤメとシェリエね、アタシが先輩だからな! クーリー先輩って呼ぶんだぞ!」
クーリー先輩って呼んだら、クーリー先輩はすごくニヤニヤしてて嬉しそうだった。
でも呼びにくいからクーリーちゃんって呼んでいい? って聞いたら、もう一回呼んだら良いよだって! だからもう一回クーリー先輩って呼んだらなんか叫んでた、きゅわーだかきょわーだかんにょわーだかよく分かんない悲鳴あげてた。
すごい嬉しかったみたい、今までずっと年上の人と同室だったからなんか嬉しいって本人も言ってた。
シェリエちゃんは「変人」って呟いてたけど、彩萌は何となく気持ちが分かるよ!
「クー……クーピーちゃん? お部屋に案内してあげてくれる?」
「クーリー、シュガーお姉ちゃんアタシはクーリー! じゃあ行こう、先輩について来るんだぞ!」
「はーい」って彩萌が返事をすれば、クーリーちゃんニヤニヤしてた。
シュガーさんはやることがあるから、ここまでらしい。
シュガーさんにお別れして、彩萌たちはクーリーちゃんについて行きました。
彩萌が持ってきたものとは言え、荷物重い! とか思ってたらクーリーちゃんが持ってくれた、……彩萌って非力だったのか。
彩萌がちょっと悩んでたら、クーリーちゃんが小さいからしょうがないってフォローしてくれた。そのうち大きくなって、重い物も持てるようになるからね……。
お部屋は二階の一番奥、トイレとお風呂場と洗面台とかが一番近いから朝ゆっくり寝られる場所なんだって。
中はね意外と広い! ベッドが三つあって、その横に机と棚があるの。
クーリーちゃんは一番左だった。
シェリエちゃんは端っこが良いって言うから彩萌真ん中ー。
バックの中の服とかを全部棚に入れて、文房具とかは机の引き出しにしまった!
山吹君に貰った可愛い箱……じゃなくてアクセサリーボックスは机の上に置いといた。
クーリーちゃんに可愛い、良いなって評判だったよ山吹君!
「じゃあお風呂場とトイレと洗面台の場所を教えるね! このおっきいお風呂場はみんなで使うんだよ。あ……そうだ、夕食は六時には取ること! お風呂はね、女子が六時から八時半までそれ以降は男子ね、早く食べないと焦ることになるからね!」
「うーん、十時からお部屋から出ちゃダメなんですよね? なんか男子短いです」
「なんか、よく分かんないけど男はこれくらいで十分ってシュガーお姉ちゃんが言ってた」
「ちなみに一階はアタシ達よりもっと小っちゃい子たちが住んでるよ」って教えてくれた、……孤児院だもんね!
入れなかった場合はシュガーさんに言えば、一階のお風呂場を貸してくれるらしい。
でも何度もそれをやるとめっちゃ怒られるらしい、クーリーちゃんと同室だった子はそれで怒られたらしい。その所為か一階のお風呂場は小っちゃい子たちが入り終わったあとは、幽霊があらわれるようになったらしい。
シュガーさんが呼んだとか、呼ばないとかいろいろ噂があるらしい。
クーリーちゃんはその幽霊を見たことは無いらしい。
そんなお話をしながらお風呂場とかの場所を教えてもらってると、トイレからクーリーちゃんのそっくりさんが出てきたんですよ!
「あ、クーリー! おはよう!」
「おはよう! ミギー、今日もアタシそっくりだね!」
「腕に縒りを掛けてマネしてるからね! その子たちが新しい子たち?」
なんか普通に話してるけど、えっと……ミギーちゃん? さっき男子トイレから出て来たよね。男の子なの? それとも女の子なの?
でも制服女の子のやつだし、髪の毛も明るい茶色でくるんくるんしてる。
というか、クーリーちゃんの姉妹なの?
不思議そうに彩萌が二人を見てたら、シェリエちゃんがちょっと笑ってた。
「たぶん、あれはドッペルゲンガー」
「ドッペルゲンガー……、聞いたことある!」
「スピリット系の魔物だよ、友好的感情を抱いた相手のモノマネをする種族」
じゃあ、見ても死なないんだね。良かったです。
ホッとしてそのミギー……くんを見たら彩萌の方をじーっと見てた。
なんか不思議な物を見るような目で見られてるんだけど、彩萌は角とか痣とか以外は普通だよ。
「なんか、変なの……」
「なんかよく分かんないけど、ちょっと失礼だと思います!」
「そうなんだけど、小さくて大きくて……でもやっぱり小さくって広くて狭くっていっぱい有るようで無いような感じは変でしょ?」
「……ちょっと何言ってるか分かんない」
「うーん、よく分かんないけど君の魂ってそんな感じ」
「私にはよく分かる感覚」ってシェリエちゃん言ってたけど、どういうことなの?
ミギーくんはしばらく不思議そうにしてたけど、何か納得したのかうなずいてた。
その後よろしくねって、笑顔で握手してくれた。
さっきの話はなんだったんだろうか。
ミギーくんは一人で納得しちゃったし、シェリエちゃんに聞いても何とも言えないって言うだけだし。
どういうことなのよー!
――あやめとアヤメの交換日記、三頁




