夜の闇を建物の陰が隠す
保健室に行くまでの道のりはすごい不安もあったのに、白仮くんのお面が無事なことがすっごく嬉しかったのは覚えてる。
なんだか不安な気持ちがいっぱいなのに、嬉しさがはじけそうな感じだった。
そんな嬉しくなっちゃう気持ちに危機感を感じたり、自分の中の変化を感じました。
前のテンション高い時は不安な時はちゃんと不安になってた気がする。
なんだかよく分からないけど、別に精霊化しても良いんじゃないかと思っちゃったりした。
目を覚ましたら薄暗い保健室の中でした、なんだかちょっぴり寒い。
ベッドから降りて、仕切りのカーテンをちょっと開けて保健室の中を見回します。
デスクの上のテーブルランプがついてて、トゥーニャ先生が長い椅子で仮眠とってた。
いくつかベッドがあるんだけど、一つ仕切りカーテンがされてるの。白仮くんがまだいるみたいです。
裸足だったけど、気にせずに彩萌は保健室の外に出ます。
なんだか……そんな気分なんです。
夜の学校は暗いのに、明るい。魔力がふわふわただよってるから明るいです、魔力って光るんだね!
なんだかきらきらしててキレイです、なんだかもっと楽しくなっちゃいます。
これなら暗いのが全然怖くなくなっちゃうね、うふふ。
夜の学校を散歩しながら彩萌は外に出ます、だって外に出たかったんだもん。
今日は星がすっごくきらきらしててキレイです。
裸足だからちょっと足の裏が痛かったけど、気にならない感じです!
それにけっこう寒い気がするけど、気にしないです。
お月様もおっきくって、なんだか安心した。
よく分かんないけど、なんか落ちついてきた……。
彩萌は裸足で外になんか出て何してんだろ……、ちょー寒いし。
なんかくしゃみ出るし、すごい寒いじゃん。
「“叶山彩萌”――……悪化するよ」
白仮くんの声が聞こえて振り向けば、ちゃんといつものお面をかぶってました。
それでなんか小さい肌かけ布団持ってきてくれてた、ありがとうございます。
あと杖も持ってきてくれてて、非常に助かりました。
「なんか、目が赤くなってるよ」
「えっ、充血ですか?」
「そういう意味じゃなくて、なんか動物みたいに光ってる」
「……白目はちゃんとある?」
彩萌が恐る恐る聞けば「あるけど」って白仮くんは言ってくれた。
良かった……全部真っ赤になってなくって。
彩萌今おかしかったな……なんだか怖くなるね。
「なんかありがとう、お面……取り返してくれて」
「いえいえ、どういたしまして! 友達は助け合うもんですよ、困っていたらお互い様なのです」
「すごいね、僕は誰かを助けた事なんてないし、助けられた事も無い」
「助けられたいなら誰かを助けるのです、情けは自分の為ならずですよ」
「それを実践出来るのがすごいや……、僕は、すぐに見返りを求めちゃうし、感謝されなかったり……嫌な顔されるのが怖いし……」
「誰だってそんなもんですよ」って彩萌が言えば、白仮くんはちょっとうつむいてた。
初めて白仮くんの本当が見えた気がする、今までお化けみたいに実体がなかったのに今はちゃんと見えるところにあるね。
白仮くんは自信が無いのか、怖がられるのが好きなんじゃなくて……最初から怖がられることで安心してたのかな。
「最初、君がちょっと怖かった」
「そうなんですか?」
「いつもへらへらしてるし、なんか……庇ってくれるし、裏があるんじゃないかって思った。でもそう言うことを考えるのって悪いし、普通にしようと思って」
「無理してたの?」
「そんな事は無いけど……、たまに不安になったり」
「なんかごめん」ってあやまってたけど、彩萌は気にしないよ。
そう言うことってあるよね、悪人ほど優しかったりするらしいしね!
疑うことは別に悪いことじゃないしね、疑われる彩萌にも落ち度があるってもんです。
でもあやまってくれたってことは彩萌が裏表のない百%透明人間だって分かったってことですよね!
彩萌は誰もが羨むほどに心の中が透明できれいなのです、光を反射してきらきらします、嘘です。
ジョークなのです、なんか恥ずかしくなった。
「というか、熱があるんでしょ。寝てないと駄目だよ」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ」って言いながら白仮くんは彩萌の背中を押して校内に連れて行きます。
なんだか、建物の中の暗闇が怖い。さっきまで魔力が見えてたけど、杖を持ってるからか何も見えません。
すごいね、目が光ってるよって白仮くんは言ってたけど、それってなんか見た人を怖がらせそう。
白仮くんは大丈夫なのか、彩萌の目の前で手を動かしたりして遊んでるから大丈夫そうだけど。
ちょっとくすくす笑っててなんかいつもよりご機嫌です、明るいです。
白仮くんが明るいのでちょっと安心するけど、でも精霊化が進んでいるんだなーって不安もあります。
なんだか杖を持つ手に力が入っちゃいますね。
「不安なの?」
「えっ……、そんなこと無いですよ! どうしてそう思ったんですか?」
「顔がそんな感じだったから」
む、表情に出ていたのか。
白仮くんが気にしてたけど曖昧にごまかしといた、説明が長くなりそうだし……まだそれと決まったわけじゃないから。
でもあとでちゃんと話すよ、そう言っといた。
保健室に戻ったらさすがにトゥーニャ先生に気づかれてたようでトゥーニャ先生は起きてた。
彩萌は用意されてた濡れタオルで足の裏を拭かれました、ちょっと怪我してたようで血が出てた。
トゥーニャ先生にちょっと怒られちゃった。
「先生、彼女おかしいんですよ。目が光ったりするし、目が赤くなってるし……重症です」
「えーっと彩萌は――――――んです、……じゃなくてなんか魔力が増えすぎちゃって変になってるんです」
魔法はまだ解けてなかった、これじゃあ色々伝えられないじゃん……。
その後、トゥーニャ先生に体内の魔力量を調べられました。
出た数値を見たトゥーニャ先生に、これは異常ですねってしかめっ面をしながら保健室を出て行っちゃった。
そんなに異常な数値だったのかな、精霊化してるくらいだもんね……すごそう。
「痣とは違う……、呪いがかけられてるんだ?」
「うん……、何とかなりませんかね……」
「緑色の魔法に特化してる人がそういうの得意らしいよ」
んー……助けを求めるならイズマさんかふぇっくんかー。
椅子に座ってぼーっとしてたら白仮くんが水持ってきてくれた。
「僕も何か助けになりたいけど、今は何も僕には出来ることがないね」
「でも誰かが側に居るとちょっと安心します、一人は怖いですから」
水の入ったコップはひんやりしています、もし誰にも伝わらなかったら彩萌は現実世界に行った方が良いのかな。
でも……きっと大丈夫だと信じたいです、現実世界に行かなくても治す方法や魔力を現実世界の彩萌に返す方法があるはずです。
諦めたら終わりです、みんなを信じよう。彩萌にもできることってあるのかな。
しばらくしたら、トゥーニャ先生が帰ってきたんです。
「叶山さん、本当に……この数値は異常としか言えません。魔力を減らす本格的な治療を受けないといけません」
「そんなに酷いんですか?」
「えぇ……、今ディーテ様とリーディア先生に連絡を入れました」
すぐ来るかと思います、とトゥーニャ先生は真剣な顔で言います……。
魔力がすっごい多いスピリット系の魔物さんの基準値も大幅に上回っていた数値らしい。
もうこれは通常の生き物ではありえない数値だったようです。
「……ごめん」
「これは白仮くんの所為じゃないですよ! 白仮くんが気にすることじゃないです、むしろ悪いと思うなら彩萌のために面白いことをしてください」
「……無茶ぶりだね」
白仮くんは困った雰囲気で笑います、そっちの方が彩萌は安心します。
あやまられたくはないのですよ、あやまられたいからお面を持ってきたわけじゃないからね。
とりあえず彩萌はベッドに寝かされたけど、全然眠くないのです。
むしろ狭く感じます、照明の灯りが眩しく感じるのです。
外に行きたい、夜空が見たいと思ってしまうのです。
今日はなんだか……星空がとっても近く感じます。
「……先生、暗くしてください。まぶしいです……」
彩萌が中途半端だから明るく感じたり星空を求めたりしてるのかな。
別にフレアマリーさんとかは暗いところを嫌がったりしないし……。
保健室を暗くして貰ってようやく落ち着いた、でも眠くないです。
ちょっと寒いけど……、気分の悪さはありません。
なんだかすっごく不安になってきた、涙が出そうだよ。
ベッドの近くに椅子を置いて、白仮くんが静かに覗きこんでるのが分かります。
白仮くんは夜行性だから、寝なくて平気なのかな。でも昼間の授業が大変になっちゃうよ。
彩萌も寝ないと大変になっちゃうかな、というか授業出られるのかな。
学校楽しいから、彩萌は学校に行きたいです。
――……現実世界、絶対に行きたくない。
「“叶山彩萌”……しっかり、まだ大丈夫だよ」
「……どうしてフルネームで呼ぶの?」
「言葉には魂が宿ってるって爺ちゃん言ってた、なんかよく分かんないけど……良いかなって思って」
頑張って、って白仮くんは言います。
うん……頑張る、ありがとう白仮くん。
とりあえず眠れそうにないけど、目を閉じてみました。
しばらくすれば慌ただしい足音が聞こえてきて彩萌はちょっぴり安心するの。
安心すれば涙が出ちゃった。
どうしてだろう、死なないって自信はあるのにすごい不安です。
……でも、叶山彩萌はまだ大丈夫です。
だって白仮くんがそう言ってくれたし、彩萌もまだ大丈夫だと思いたいのです。
こんなに不安になっちゃうのも全部白雪くんの所為ですね……。
現実世界の彩萌と白雪くんに一言文句を言ってやりたい気分になってきた。
なんだかムカッとするとちょっとだけ元気になった気がする。
よし……、白雪くんに文句を言う為に彩萌は頑張ろう。
白雪くんの思い通りになんて絶対にならないぞ! 彩萌を舐めるなよ!
とりあえずなんか……お腹空いて来たかも。
――あやめとアヤメの交換日記、二四頁




