面と杖による治療
今日学校に登校すると白仮くんの様子が変だった、何が変って……いつもは狐のお面をかぶってるのに今日は朝からお猿さんのお面だった。
お猿さんのお面は体育の授業の時にしかつけないのに、どうしたのかな。
いつものように眠気覚ましの黒いやつをちょびっとお面をずらして食べてた。
「白仮くん……狐のお面はどうしたの?」
「なんか……朝は記憶がほとんどないんだけど、たぶん登校中に無くした」
「落としたの?」
「転んだみたい、全然覚えてないけど」
なんていうか、さらっと言ってるけど気にしてないのかな……?
でもいつもつけてたわけだし、狐のお面が白仮くんの顔って言っても過言じゃないし。
すこし教室を見回すような仕草をしてたんだけど、しばらくしたら窓の外に顔をむけてた。
「……なんか、存在を感じられないから壊れちゃったのかも」
「そうなの? ……でも、魔法とかでくっつけられない? 休み時間に探してみようよ、彩萌も手伝うよ」
「別に良いよ、普通の魔法じゃ治せないから」
「でも……、よく分かんないけど……必要な物なんじゃないの?」
「良い、別にどうでも良い。代わりはいくつか持ってるから、あれが無くなったからって困るって事は無いから」
……本当にどうでも良いのかな、彩萌はなぜかそうじゃないような気しかしないです。
けっこうお面大事にしてるのちらっと見たことあるから、結構ショックなんじゃないだろうか。
そう言えば今日の白仮くんはなんだか変、雰囲気というか何かがちょっと違う。
お面がなんか白仮くんに合ってない気がする、いつもはぴったり当てはまってる感じするのに。
なんかお猿さんのお面が浮いてる感じ、いつもはお面が顔って感じなのに今日はお面がタダのお面って感じ。
……狐のお面が無いからかな、それとも不機嫌だからかな。
「……今日は調子悪い、早退する」
小さく呟いて白仮くんはバッグを持って席から立ったんです。
たしかにちょっとふらふらしてるような気がする、……本当に大丈夫なのかな?
心配だなぁ、大丈夫なのかな。
狐のお面……意味無いかも知れないけど探してみようかな、迷惑になっちゃうかな。
そんなことを考えながら彩萌は授業を受けたのです。
そして休み時間になって早足で教室から出ようとしたらシェリエちゃんに呼び止められた。
「どこ行くの? なんか急いでるみたいだけど」
「あ……うん、シェリエちゃんは今日は用事ないの?」
「ないよ」
「そうなんだ……あのね、白仮くんが仮面なくしちゃってなんか大変そうだから探してみようかなぁって……」
「ふーん」ってシェリエちゃんは気にした様子もなく言います。
でもシェリエちゃんは優しくって、じゃあ一緒に探してあげるよって言ってくれたの。
「白仮くんは学童院に住んでるから、登下校の道は彩萌たちとほぼ同じだね!」
「本当に登校中に落としたの?」
「……分かんない、朝は記憶がほとんどないんだって」
「つけ忘れたとかじゃない?」
「でもいつもつけてるよ? 習慣だし……やっぱり無くしちゃったんじゃないかな……」
学校から学童院までの道のりはあんまり長くないです、でも意外と緑がいっぱいなんだよね。
お花とか木を傷付けないようにしなきゃ!
「じゃああっち探してくる」ってシェリエちゃんが言って、二人で手分けして探すことになりました。
がさがさ茂みをかきわけてみたり、ベンチの下を見てみたり。
うーん……ない、すっごいない。
ゴミも見当たらないぞ、すごいじゃん。
そんなことを考えてたらなんか、どさって木からなんか落ちてきて茂みに落ちたの。
お面では無さそう、でもなんだろう?
がさがさ茂みをかきわけて覗けば、白っぽい小さいワンコがいたんですよ。
その小さいワンコは彩萌をじーっと見てたんだけど、シェリエちゃんが近づいてくるのに気づいて逃げ出しちゃった。
なんだったんだろう、最近学校の中になんか変な生き物いっぱいじゃない?
「全然ないよ、ここにはないんじゃない?」
「じゃあ学校の中とかなのかなぁ」
「さあね、まあもうすぐ休み時間終わっちゃうし教室に戻ろうよ」
……そうだね、……白仮くんのお面はどこ行っちゃったんだろうね。
「彩萌が気にする事じゃないよ」ってシェリエちゃんは言ったけど、でも白仮くんの調子の悪そうな姿を見て彩萌も何かしてあげたいなって思うんです。
だって友達だもん、友達は助け合うものです!
休み時間は保健室に行かなきゃだから……、放課後ちょっと学校の中探してみようかな。
シェリエちゃんが嫌って言うなら先に帰っててもらおう。
そう心に決めて彩萌は教室に戻ったのでした。
三時間目四時間目も華麗な動きでそつなくこなし、彩萌はシェリエちゃんとお昼を食べてから保健室に向かいました。
今日は保健室の様子もちょっと違った、ノックをして先生の返事を聞いてから室内に入ったの。
……ベッドのところに仕切りカーテンがしてあったから、誰かいるみたい。
「誰か居るんですか……?」
「あぁ、白仮さんが眠ってますよ」
「えっ……、白仮くんそんなに調子悪いんですか?」
「えぇ、まあ」と先生はうなずきました。
彩萌はすっごく白仮くんが気になったけど、とりあえず彩萌の具合を診てもらいました。
彩萌は今日も元気でした、全然大丈夫そうです!
でもやっぱり白仮くんがめっちゃ気になる、大丈夫なのかな……お面が無くなっちゃった所為で体調悪くなっちゃったの?
「先生、白仮くんは面会拒絶中なんですか……?」
「ちょっと、聞いてみます」
先生は仕切りカーテンに近づいて、声をかけてからちょびっとカーテンを開けたの。
ちょっとしたら戻ってきたんです。
少しなら大丈夫だって、……白仮くんは大丈夫なのかな。
「白仮くーん……、具合どう……?」
先生が開けっ放しにしたカーテンのとこに近づいて声をかけてみたんです。
白仮くんは起きてた、起き上がってた……顔色はちょっと悪い。
あれー……? でもなんか、ちょっと変なような気がする?
朝見たときとちょっと違うような、違わないような……。
首をかしげて白仮くんを見てると、彩萌はようやく違いに気づいたのです。
「し……白仮くん! か、顔……顔があるよ! どうしたの……そういう病気なの!?」
お面を着けてないのに顔があるんです!
目がちゃんとあって、口もあるんですけど!?
えっ……この人白仮頼仁君ですか? 彩萌の隣の席の白仮くんなの?
「病気と言えば、病気なのかもしれない」
「えぇ……顔が浮き出る病気なの!? 重症なの? 大丈夫なの?」
「……お面、無くなったんじゃないみたい。誰かが持ってるのかも……」
白仮くんはそう呟きながらね、すっごい不快そうな顔をしたの。
おぉ……すごいや、ちゃんと表情がある。
すごい分かりやすいね、でも顔がある状態だと大変な状態なんだ……。
「なんだか、勝手に魔力を使われてる感じ……」
「えっ……それって結構大変なことなんじゃないですか?」
「うん、あのお面は僕と繋がってるから……壊れちゃってたほうが良かったかも」
白仮くんは弱い種族なんだって言ったの、お面に魔法をかけることで他の種族と同じようにしているらしい。
お面とその魔法が無いと長く生きられないんだって。
壊れるのは大丈夫だけど、お面を通じて悪さされちゃうと抵抗する術がないらしい。
例えるなら、お面は防寒具とか防護服みたいな物らしい。
「じゃあ、今は白仮くんは魔力不足で顔が出ちゃってるの?」
「うん」
魔力分けてあげれば、白仮くんちょっとは元気出るのかな。
この杖の魔力分けてあげれば元気でるのかな、強く念じるのが大事らしい!
とりあえず杖の頭の部分を白仮くんの目の前に差し出しました。
「ここ掴んで、絶対大丈夫だから、ぜーったい大丈夫だから!」
白仮くんはすっごい迷ってたんだけど、杖の頭を掴んでくれた。
しばらくしたら白仮くんは手を離したんだけど、杖の白いところの色がちょっとだけ薄くなってました。
白仮くんの顔も何もなくなってのっぺらぼうに戻ってました、良かったです。
ちょっと驚いてたけど、笑ってくれたようでパカッて口が裂けてあらわれたんだよ。
「ちょっとだけ、白仮くんに貸してあげます」
「でも大事な物なんでしょ、それが無いと君も調子悪くなっちゃうんじゃないの」
「幻聴が聞こえるだけだし、ちょっと気分が良くなっちゃうだけだもん!」
「先生怒るよ」って言われて、振り返ったら微妙そうな表情をしてました。
一日だけお願いしますってお願いしたら、すっごい深いため息吐いてた。
気分悪くなったらすぐ保健室に来ることを約束させられたけど、すこしだけ貸してて良いって!
白仮くんの命がかかってるもんね、先生ありがとう!
白仮くんと先生にバイバイしてから保健室を出ます、そうしたらすっごいいっぱい音が聞こえた。
久しぶりに聞いたらちょっとうるさい、すっごいオーケストラです!
とりあえず、教室から玄関まで歩いてみよかなー。
いつも通りに階段を上ってるとね、カルヴィン先生と体育のウィクシア先生が話してた。
なんかちょっと真面目な雰囲気。
「またあの箱に逃げられたのか、お前の管理はどうなってるんだ」
「……すみません、ウィクシア先生」
「学生時代からお前はだらしがないな、だからキュレシィは虫嫌いになったんだぞ」
「俺のムカデちゃんが死んだときの話はもうしないでくれ」
カルヴィン先生よりもウィクシア先生の方が教員歴が長いんだね。
それにしてもカルヴィン先生はまたおもちゃ箱のミミックさんに逃げられちゃったの?
あんなに動くのが遅いのに、夜中に逃げちゃったのかな。
「とにかく見かけ次第、蓋に鍵でもつけておけよな」
「まあ……そうするよ」
あっ、ヤバイ……カルヴィン先生こっち来る。
ウィクシア先生は職員室に戻ったけど……、どうしよう。
彩萌今杖持ってないからなんか言われちゃうかも、健康のために持ってたのに怒られちゃうかも。
……っは!? というか彩萌は五時間目どうするつもりだったのさ!
先生に説明しなきゃいけないんだ……、どうしよう。
白仮くんの具合がすっごくすっごく彩萌より悪そうだったから、貸してあげました。って言ったら怒られないかな?
セーフかな? でもちょっと怒られちゃうかな!?
「……叶山? 何してんだよ、……というかお前、杖どうした?」
「ひぃっ、あ……あのっ、白仮くんの具合がすさまじく悪かったからっ……学校が終わるまで貸してあげようかなって!」
「――……あのな、たしかに白仮はすごい具合が悪いかも知れないけどな、お前だって同じく悪いんだろ? 他人の心配が出来るなんて美徳かも知れないけどさ……もっと自分の身を大事にしないと駄目だからな」
「友達と仲良くな」ってカルヴィン先生はちょっと呆れた感じで笑いながら、もはや習慣になってるのか彩萌の角を触ってました。
あんまり怒られなかったです……、良かったです。
カルヴィン先生がおもちゃ箱のミミックさんを探しに行ったのを見送って、彩萌は教室にいったん戻ります。
白仮くんが来るときにどんな道を通ったか分からないから、何度か往復しなきゃダメかも。
お昼休みじゃあダメかも、放課後にやった方が良いかも……?
とりあえず教室に戻った時の時間で決めよう。
それにしてもうるさいなぁ……、まるで彩萌が一瞬現実世界に行っちゃった時みたいにうるさいかも。
それに今はなんだかあんまり気分が良くないや……。
なんだかすっごく、胸騒ぎがします……。
――あやめとアヤメの交換日記、二十一頁




