大事な話は内緒の話
授業中ずっと杖を抱いていたので、彩萌はすごい目立っていました。
でも杖を持っていると安定しているのでしょうがないです、幻聴も減ったし……。
そう言えば保健室の先生は魔力が増えてたって言ってたし、魔力が増えすぎちゃってた所為なのかも……。この杖は魔力を吸う性質あるらしいし!
魔女っ娘スティックとは言いません、間違えて魔女っ娘スティックって口に出して言っちゃったら恥ずかしいもん。
休み時間にシェリエちゃんとちょっと喋ったんだけど、なんか用事があるって教室を出て行っちゃった。
まあたまに職員室に呼ばれてるから気にしないけど、でもやっぱりなんか様子が変なんだよなぁ。
嫌われるようなことをしてしまったんだろうか、彩萌はとぼとぼ席に戻ったのです。
「……喧嘩でもしてるの?」
「うーん……、喧嘩はしてないですけど……昨日から様子が変なんです」
「怒らせたのか」
「怒らせるようなことをした記憶も無いです……」
ふーんと白仮くんは呟きながら今日も黒いのをもぐもぐしてた。
やっぱり午前中はまだ眠いらしい、なかなか昼行性になれないようです。
……もしかして白仮くんは夜眠れてないのかも、夜行性らしいし。
ちゃんと眠らないと成長できないんだよ、健康にも良くないしお肌にも悪いんだよ。
「そう言えばハクボから来てるのって白仮くんだけなの?」
「春日井華恵とかいうのが中等クラスにいると思うよ、彼女も亜人」
「ハクボには亜人さんが多いの?」
「うん、人間は日本から来た人たちしか居ないよ」
そっかぁ、元々は人間はいなかったんだね。
ハクボかぁ……、いつか行ってみたいな。
「ハクボには温泉はありますか?」
「うん、あるよ」
いつか絶対に行こう、絶対です。
飲みこみ辛そうに黒いのを飲みこんで、白仮くんはこっちを向いたの。
その視線はたぶん杖にむいてました、気になっちゃう感じですか。
「それ、何?」
「彩萌の大事な杖です、魔力を吸っちゃう性質が有るので扱いには気をつけないといけないんです」
「なんでそんなの持ってるの?」
「なんか、魔力が増えすぎちゃってるみたいで調子悪いから……?」
「なるほど……」
生まれつきの病気かなにか? って聞かれたけど、何とも言えないので曖昧に笑っといた。
そんな感じで時間を潰してたらね、教室を思いっきりガラッて開ける人がいたんです。
このクラスにしては珍しいなって思って、扉の方を見たら全力疾走してきたのかその子はぜーぜーしてた。
「……った、宝箱が廊下をずりずり歩いてた! 宝箱がぁ……はぁっ、あ……歩いてた!」
……逃げ出したのか、よく逃げ出せたね。
カルヴィン先生が調べる気満々だったのに、おもちゃ箱のミミックさんもなんか魔法とか使えるのかな。
「夢でも見てたんじゃね? お前昨日夜更かししてたじゃん」
「マジだって! マジであれは宝箱だった、蓋の隙間から手が出てて……超プルプルしてたんだって!」
「そういうのってカルヴィン先生の出番でしょ? 魔物でしょ?」
「なんかよく分かんないけど、学校に不法侵入してたチビ二匹が居てカルヴィン先生とかはそれの尋問してるらしいよ!」
なんか色々起こってるらしい、大変だね……。
それにしてもなんで、おもちゃ箱のミミックさんは逃げ出したんだろう?
というか学校に不法侵入してたチビ二匹ってなんだろう、二匹って言うことは魔物?
そのあと、カルヴィン先生の授業だったけど……やっぱりおもちゃ箱のミミックさんは逃げ出したらしい。
危険かもしれないので見かけても近づかないように、だってさ。
そしたらおもちゃ箱のミミックさんの話をしてた男子生徒が手を上げて質問したんです。
「尋問してたって言うウワサのチビはどうなったんですか? 本当にそんなチビいたんですか!」
「……いや、まあ。居たけど……」
なんだかカルヴィン先生が微妙な反応してた。
もしかしたらそのチビちゃんたちにも逃げられたのかもしれない。
頬っぺたをかいてたカルヴィン先生だけど、ため息吐いてた。
「その箱を逃がしたのもそいつらなんだよ……、もう家に帰ってると思うけど見かけたら先生達に言うように」
悪戯っ子たちなんですかね、というか入りこむの大変そうなのによく入れたね。
高い塀で囲まれてるし、正門もしっかり施錠されてるし。
忍者の素質があるんじゃないかな、よく分かんないけど。
今日のカルヴィン先生の授業は熱帯にすむ魔物の授業だった、昆虫ばっかりで……やっぱりカルヴィン先生は虫が好きなんだなぁって思いました。
学生時代にムカデっぽい魔物を飼ってたらお姉さんに泣かれたって話も少ししてた。
カルヴィン先生の家族は虫が苦手みたい、魔物とかは関係なくだって。
彼女が出来る度にきちんと説明してるのに家の中を見ると高確率で疎遠になって別れちゃうらしい。
あと、関係ないけどカルヴィン先生って授業中に私情を含む話が多いと思いました。
カルヴィン先生の家って棚とかに虫入れてる飼育箱がいっぱいありそうだもんね、って生徒に言われた時は笑ってた。
そして冷蔵庫に虫にあげるための餌がありそうです、カルヴィン先生肉食っぽい虫が好きそうな感じするし。
それで四時間目はジェジア先生の魔法の授業でした。
別に魔法を使うわけじゃなくって、色別の魔力の特徴とか歴史とか。
今日は白色の魔力と月の関係についてのお勉強だった。
白い魔力でどういうことが出来るのか、どういうことに気をつけなければならないのかって言うのをテーマに勉強してた。
実際に魔法を使っての勉強は中等クラスかららしい、選択授業とかなんとか。
ふと教室の扉の方を見たら、扉の小さい窓から中を覗きこんでるチビッ子二名が見えた。
白っぽいようなすっごい癖毛でふわふわした髪の毛の子とサラサラでつやつやの深緑色の髪の子だった。
彩萌は見なかったことにして授業に集中した。
「ジェジア先生、誰かが教室を覗いています!」
彩萌以外にも気づいた人がいたらしく、ジェジア先生にそう告げました。
そうしたらその子たちはサッと素晴らしく早い動きで逃げて行きました、ジェジア先生は外を確認しただけで追いかけなかったけどね。
皆さん気にせずに授業に集中してください、って言って続行してた。
大多数の生徒はすっごい気にしちゃってて、ジェジア先生に注意されてたよ。
それでお昼です!
シェリエちゃんと一緒に食べたかったのに、ちょっと用があるからごめんって言ってどっか行っちゃった。
……彩萌はさけられてるんだろうか、ちょっとショック。
「白仮くん……白仮くんは今日も一人ですか」
「聞き方に微かな悪意を感じる、でもまあ……そうだよ」
「一緒にご飯食べよう」
「まあ……良いよ、今日のあの子はなんだか様子が変だね」
シェリエちゃんなら昨日から様子が変だよ、彩萌がちょっとおかしくなっちゃってたから嫌いになっちゃったんだろうか。
ちょっとテンション高かっただけじゃん……許してよ。
白仮くんと一緒に購買部に向かいます、白仮くんは学食が嫌いな子なのです。
顔のこと微妙に気にしてるのかな?
「おー、……何で今日は二人だけ? いつもシェリエとかいるじゃん」
「ミギーくん……なんだかクーリーちゃんとシェリエちゃんの様子が変なんです、彩萌は嫌われたのかも……」
「えー別にそんな感じじゃなかった――……あっ、いや……何でもない。そうか、そう言うことか……」
彩萌みたいな見た目してるミギーくんは不思議そうな感じで言ってたのに、何かに気づいちゃったのかハッとしてた。
何か知ってるの? って聞くんだけど、なぜかにやにやしながら誤魔化してた。
どういうことだ、なんなんだ。
ミギーくんがにやにやすることってなんだよー、気になるじゃん!
「別に気にすることないと思うけど、すぐ元に戻ると思うけど」
「すぐ元に戻るの? なんで分かるの?」
「だってアイツらそういう話してたから、まあ言えないけどさ」
「というかミギーくんはクーリーちゃんと喧嘩中じゃなかったの?」
「隣の席だから嫌でも話声は聞こえるの! 別にアイツのことを気にしてるから聞こえたわけじゃない!」
彩萌の言葉にミギーくんはムッとした感じで怒ったんです。
ちょっとクーリーちゃんのこと気にしてるのかな、ずっと友達だったもんね。
孤児院でも一緒だったから、寂しいのかもしれないね。
「でも良かったー、すぐ元に戻るなら気にしなくっても良いんじゃん!」
「まあ、もしかしたらあと一週間は続くかもしれないけど」
「えっ……、意外と長い……!?」
なにそれ、降誕祭まで続くってことじゃないですかー!
彩萌が微妙な表情をしてたらミギーくんがにやにやしてた、白仮くんは気づいたら先に行っちゃってた!
一人でご飯は寂しいのでぜひご一緒したいんですよ! 一人にしないで白仮くん!
彩萌は一人じゃ生きていけないよわっちい生き物なんだよ!
「アヤメは微妙に白仮に懐いてるよね」
「隣の席ですし、なんか似てるような場所出身だし……彩萌もクラスの人に微妙にさけられてますし」
「そういうお前は完全に彼女に懐いてるじゃん」
もうすでに白仮くんは購買部に行ってきたみたいでパンと瓶ジュースを持ってた、早いよ白仮くん。
「同族のよしみ!」ってミギーくんは言ってた、そう言えばそうなんだよね。
スピリット系の魔物さんは珍しいんだろうね、うん……。
彩萌もこの学校にいる生徒でスピリット系の魔物さんは王子しか知らないし。
そう言えば彩萌は普通の体だから、王子と同じ感じのスピリット系なのかな?
シェミューナちゃんは悪魔と天使の間みたいな感じらしいから魔族さんだしね、だからノルマル系の魔物さんだね。
じゃあ彩萌が白仮くんに懐いているのは、これも同族のよしみ的な感じなのかな?
「今日もお前ツナサンドかよ、どんだけ魚食ってんだよ」
「この前はフライした奴だったし、魚介類の良さが分からないなんてかわいそう」
というか彩萌も購買部行くのに一緒で良いんですか、二度手間じゃないですか。
じゃあ彩萌はフルーツサンドとミックスジュースにしよう。
そう言えば彩萌は瓶ジュースをストローで飲むなんて幻想世界に来て初めてやったよ。
「お前は今日も甘いやつかよ、どんだけだしー」
「ほとんどの女子は甘味が好き、これ世界共通だから」
「一部例外ありですけど、白仮くんの言うとおりですよ!」
「だから女子は太るんだよ、うちの母上様もそうだから」
「……し、白仮くんの言うとおりですよ……」
彩萌は若いからまだ大丈夫……それに小食な方だからまだ大丈夫……。
そんなことを会話しながら彩萌たちは中庭でお昼を食べましたとさ。
早くシェリエちゃんと仲良くしたい、夕飯は一緒に食べてくれるよね!
ご飯食べ終わったら保健室行かなきゃなー……。
――あやめとアヤメの交換日記、十九頁




