変化する幻想
昨日は頭に包帯を巻いてたからシェリエちゃんとクーリーちゃんに心配されました。
でもなんだか、二人とも様子が変だったんです。
なんだか……何かを隠しているような感じで白々しいと言うかよそよそしいと言うか、怪しかったです。
シェリエちゃんとクーリーちゃんが仲良くするのは嬉しいけど、なんだか彩萌は疎外感を感じてます。
ちょっぴり寂しいです、なんだかなぁって感じ。
だから彩萌は早く起きて杖を持って、すっごく早く孤児院を出ました。
職員室に行かなきゃだからね……、それに彩萌が勝手にほんの少しだけ疎外感を感じてるから。
杖を持っているとすっごく落ち着いてる感じです、すっごい嬉しいとかが無いです。
だからかシェリエちゃんが誰と仲良くしようが勝手だし、彩萌と仲良くするのは絶対じゃないからしかたないなーって思いました。
ちょっと寂しいから……やっぱりちょっと仲良くしてほしいけど。
あとなんだか楽器みたいな音も良く聞こえないんです、耳を澄ませばちょっとは聞こえるくらいです。
やっぱり……、これを持ってると調子良いのかも。
学校に入って、三階に行くためにいつもの階段を使う。
なんだか調子悪いのは杖で解消されたし、大丈夫かなって思って。
あの場所に来たら、杖が震えてた。
耳をすませば歌声は聞こえません、階段を上れば今度はしっかり声が聞こえたんです。
……杖から声がしたんです! すごいです、この杖喋りますよ!
そんな機能なかったはずなのにどうしたんでしょう!?
「待って――……精霊様、待ってくださいませ」
「えっ、いや……彩萌は精霊じゃないですよ?」
「では……聖女様ですか? 精霊様の力を非常に強く感じております……、聖女様どうか、哀れなわたくしをお救いください」
「聖女でもないです」
「ではやはり精霊様なのですね」
……違うんですけど、というかなんか杖が喋ってるんじゃない気がしてきた。
杖から音がするのになぁー、どこから話しかけられてるんだろう。
ぶんぶん杖を振ってみたけど何にも効果ないです。
……まさか、あの壁ですかね?
でも……彩萌壁ぶっ壊したり、壁直したりできないよ?
「大昔よりこの建物は存在しておりました、教育を行う様になる前はアムシェシェレンシィアの親族が住んでいた宮でございました」
「へぇー……それで、えっとーお姉さんとどういう関係があるの?」
「この壁の向こうには子供部屋がございました、改装する際に手違いで部屋を塞いでしまったのでしょう……子供部屋にはわたくししかおりません」
「何しろわたくしは非常に大きく頑丈で、出入り口から通常の様に出すのは無理でございました」っとお姉さんの声でその人はそうおっしゃってました。
……どういう意味よ? 私は非常に大きく頑丈で出入り口から出せないってどういうことなの。
自分で歩けないの? 全然分かんないや、どうして頑丈だと部屋から出すの大変なの?
壁にそこそこ近づいてみます、どう見ても完璧に塞がれてますよね……。
こーんこーんって杖で壁を叩いてみるとすっごい良い音がしたの、キレイな感じで響く音です。
こーんこーんって壁を叩いているとね、ひびくのか誰か近づいてくる足音がしたの。
銀色が見えたから、たぶんカルヴィン先生だと思います。
「カルヴィン先生おはようございますー」
「いや、まあ挨拶は大切だけど……近所迷惑になるからやめ――……!?」
音にすると……がらがらごとんって感じ? 壁が崩れて昔は扉がついていたであろう入口が見えました。
中は埃っぽそうだし、あかりは崩れた入口からしか入ってないから暗い。
カルヴィン先生がめっちゃ驚いた顔してる、ここに部屋があるなんて知らなかったんだね。
……あれ? というかこれってイケナイことなんじゃない? だって学校壊しちゃったんだよ。
よく分かんないお姉さんに助けてって言われちゃってついやっちゃったけど、イケナイことだよね……?
やっちまったぜ、でも過ぎたことを気にしてもしょうがないんだぜ。
「お見事でございます! 素晴らしいです、久しぶりにこの部屋に外界の空気が入り込んできております! あぁ、なんとお礼を言ったらいいのでしょう! しかしこのままだと出るに出られません、もう少し部屋の中へ入って来てくださらないでしょうか?」
彩萌が部屋の中を覗きこもうとしたら、カルヴィン先生に肩を引っぱられて止められた。
見上げればちょっぴり怖い顔をしているカルヴィン先生が見えます、……やっぱり怒ってる?
「なんだかよく分からんが……中に入るのは非常に危険だ、その杖を通して話しかけてる奴が安全だとは限らないんだぞ」
「なんと失礼なことをおっしゃるのです! わたくしは非常に信仰深いのですよ、精霊様に失礼なことをする訳が無いではないですか!」
カルヴィン先生が非常に変な顔をしたので、彩萌は慌てて勘違いされてるみたいですって言い訳しといた。
そうしたらなんか部屋の方からずりずり音がしてる、なんかちょっとホラーで怖いね。
カルヴィン先生は彩萌を背中に隠して部屋を見てたけど、ちらっと見てると部屋の暗がりからすっごい大きい宝箱みたいなのがあらわれたの。
真っ黒な二本の手がちょっと空いた宝箱の隙間からびよーんと出てて、入口のとこを掴んで力んで動いてるみたい。
手がすっごいプルプルしてた、細いし……大変だよね。
しばらくしたら、ごんっ! て宝箱のはしっこが入口に引っかかっちゃって……「いったぁっ!」ってお姉さんが言ってた。
「まるで小指を角にぶつけた様な痛みでございます! 小指を角にぶつけた事などございませんが、きっとそれくらいの痛みでございます!」
そう叫ぶとしゅるんと腕を引っ込めて宝箱の中にしまっちゃった。
なんだこれ……、彩萌こんなやつゲームで見たことあるかも!
たぶんミミックとかいうやつだよ、たぶんミミックだよ。
きっと日本風に言うと……つくもがみ!
「……宝箱?」
「わたくしは玩具箱でございます、中にはぬいぐるみなどがいっぱい入っておりますよ……劣化しておりますがお一ついかがでございましょう?」
「……いや、良い。いらない」
「何をおっしゃいますか、洗ったり縫い直したりすればまだ使える物ばかりでございますよ」
カルヴィン先生はそんなおもちゃ箱を見てすっごいとまどってた。
どう反応したら良いのか分からない感じ……、カルヴィン先生はどっちかって言うと芋虫とか昆虫系が好きだもんね。
「通常ゴーストは知恵がない、だから物に憑りついた時……こんなに喋るか? そもそも知能が無いのに喋れるのか?」
「先生、たぶんあれはミミックです! ゴーストが憑りついたとかそんなんじゃないと思います!」
「ミミック?」ってちょっと不思議そうにしてたから、この世界にはたぶんミミックいないのかも。
……いや、杖を通して喋ってるんだから普通だと話を聞くことが出来ないってこと?
つまりは知能が無いって思われてただけで、本当は知能が有るかもしれないのかな?
喋る方法と意思疎通を取る方法を持ってないだけで……知能はあるのかも!
「先生、この杖が特別性だから声が聞こえてるんだと思います! だからゴーストももしかしたら知恵があるのかもしれませんよ」
「……なるほど、たしかに……その杖は普通じゃないな」
カルヴィン先生が考え込んでるとね、結構ぞろぞろと職員室から出てきたのか足音が聞こえる。
あ……ヤバイよ、彩萌怒られるんじゃね?
でも彩萌は魔物助けをしたかっただけなんです……ごめんなさい。
「どうかされましたか、非常に騒がしいですよ」
とりあえず彩萌の取った行動はカルヴィン先生に隠れる、たぶん見えてるけど。
ちょっと数人息を飲んだ感じ、だって壁にりっぱな穴が開いてるもんね。
ごめんなさい、ごめんなさい。マジでごめんなさい。
「とりあえずこの箱運び出したいから、ウィクシア先生手伝ってくれる?」
「あ……あぁ、それにしてもすごいな……これ」
カルヴィン先生がおもちゃ箱を運びだすって言うから……彩萌は隠れる場所を失った。
とりあえず叶山さん職員室に行きましょうかって、ジェジア先生にすっごい笑顔で言われた時は彩萌は死んだと思った。
彩萌めっちゃ今のところ問題児だ……。
グアリエ先生がちょっとフォローしてくれそうだけど、これは怒られるな……。
結果的に言えば彩萌はめっちゃ怒られたし、おもちゃ箱を取り出す為に入口はさらに広げられて穴はりっぱになった。
最終的にジェジア先生の魔法で直りましたとさ……めでたしめでたし。
「あまり気にする事は有りません、壁の一つや二つ壊したって良い……それが自由なのでございましょう!」
なんだかちょっぴりイラッときます、キレイな歌声の正体もこのおもちゃ箱なんだと思うとなんだかイラッときます。
パカッておもちゃ箱を開けば「突然開けないで!」って悲鳴を上げてたけど知りません。
ちょっとかび臭かったから閉めたらなんかホッとしてたからもう一回開けてみた。
しばらくそれをくり返してたらカルヴィン先生に止められた、カルヴィン先生はおもちゃ箱の中身をゴミ袋に入れてた。
捨てないでーって悲鳴を上げてたけど、捨てる気は無いらしい。
ただかび臭いから洗いたいらしい。
「あっ、それはダメです! それはわたくしの大事な物なのです!」
しゅるんって手が伸びて、カルヴィン先生が一緒に袋に入れようとしてたおもちゃの王冠みたいなのを取り返してた。
それを見ながら彩萌はシビー先生がいれてくれたお茶を飲んでました。
そう言えば改装された後の部屋はちょっぴり扉が大きくなっていたのか、おもちゃ箱はけっこうスムーズに入ったんだよ。
あと杖は悪さをしなければ、持ってて良いって言われました。
「精霊様……精霊様、実はわたくしは他にも貴女様に頼みたい事がございます」
「ダメダメ、叶山はこれから授業とかに出ないといけないんだよ。無駄話はあとにしろ」
ちょっと開きかけててひょろい腕が出てたのに、カルヴィン先生はバタンと閉めちゃったんです。
すぐにしゅるんと腕は中にひっこめてたけど……いてぇとおもちゃ箱は大騒ぎしてました。
「貴方の寝室に化けて出ますよ! 女の恨みは怖いのですよ!」
そうおもちゃ箱は叫んでたけど、カルヴィン先生に教室に行きなさいって言われて職員室を後にしました。
しばらく杖からおもちゃ箱がぶつぶつ言ってる声が聞こえてたけど……、すっごい遠くなったら聞こえなくなった。
つくもがみと呼ぶべきか、それともミミックと呼ぶべきか……悩みますね。
たぶんミミックなんだろうけど、彩萌の想像してたイメージと違う。
おもちゃ箱だからなのかなぁ……。
――あやめとアヤメの交換日記、十八頁




