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あやめとアヤメの交換日記  作者: 深光
不幸の箱の中の希望
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チェンジリング

 彩萌は休日なのに図書館に一人で居ました、シェリエちゃんもエミリちゃんもみんな用事があって彩萌は一人です。

 宿題も頑張って終わらせたの、でも図書館にはディーテさんも居ないんです。

 クーリーちゃんはよく分かんないけど、シェリエちゃんと一緒にどっか行っちゃった。

 白仮くんとは休日まで遊ぶ仲じゃないのです、ミギーくんも元気に外で遊びまわっていることでしょう。

 ぶー……、彩萌は今日は一人かぁ。さびしいなぁ。

 何もすることないよ……、うー……彩萌は一人だと寂しくて死んじゃう生き物なんですよ。

 ふらふらと彩萌は学園の敷地内を歩きます、今日は人が少ないです。

 友達と交換するシーシープドラゴンを買いに行ったり、家族とわいわいやってるようです。

 もうすぐ降誕祭だからね、準備に忙しいんだね。

 彩萌は非常にさびしく感じています、お祭りの準備中なんて楽しい雰囲気なのに寂しい。

 気づいたら大聖堂の裏口前にいました、大聖堂の聖女の体はお祭りのために公開を控えるらしい。

 だから今は大聖堂は開いてないんだよ、裏口は通れるようになってるけどね。

 中に入って大聖堂まで行けば誰も居なくって、静かでした。

 そう言えば……初日に見えていたはずの黒いふよふよがあんまり見えなくなってた。

 見えていたものが見えなくなって、聞こえないはずの音が聞こえるなんて彩萌大丈夫なのかな。

 なんだか一人ぼっちになると不安な気持ちになります。

 不安になるとなんだかいろんなものが怖くなります、一人は怖いです。

 大聖堂の聖女が入ってる大きな水晶に近づきます、安らかな顔で寝ています。

 もうあれを彩萌だと認識するのは難しいです、とっても安らかな顔で眠っていて羨ましいです。

 ぴかぴかなちょっと黒みがかった透明な水晶は、彩萌の不安そうな顔を映していました。

 じっと透明な水晶の表面に映った彩萌を見ていたら、なんだかくらくらしてきました。

 世界が回るような感じがして、背中から倒れたのが分かる。

 やばいです、今度こそ本当に頭を打ってしまうかもしれないです。

 そう思ってたら、誰かに背中を支えられたのです。


「――……ん、叶山さん……大丈夫でしょうか、どうやら失敗してしまったみたいですね。何か不調はありますか」

「くらくらします……、なんだかとっても……くらくらして――……?」


 目の前は霞んでぼんやりとしています、でもすぐにおかしいことに気づきます。

 彩萌は後ろに倒れたはずなのに、しゃがみこんでいるようなのです。

 顔をあげればぼやけた世界に青い色が見えます。


「叶山さん、しっかりしてください……大丈夫ですよ、見た限りでは何ともありません」

「あなた、は……誰ですか?」


 なんだか、喉が震えて上手く喋れなかった気がする。

 彩萌は……目の前に居る人が誰だか知っている。聞かなくっても誰だか分かってます。

 その人はすっごく……嫌そうな雰囲気を出します、空気がちくちくします。


「……しっかりしてください、大丈夫です。何ともありませんよ」

「あ……あ、違う。何ともなくないです……、何ともなく、ないです」


 彩萌はすっごく嫌な気分になって、立ち上がってその人から離れます。

 とても今……彩萌にとって信じがたい出来事が起こっています。

 倒れたはずみに夢を見ているのだと一番良いんですけど、目がよく見えないけど彩萌は逃げるようにその人から離れました。


「る……るーかす先生、あ……彩萌は帰ります。家に、かえるから」

「流石の私でもその状態で生徒を帰す訳にはいきません、お仕事が出来なくなっちゃいますから」

「あ、だ……大丈夫です! 彩萌は大丈夫ですから、お家に帰るから!」


 逃げようとすればくらくらして転んでしまいます、目が見えないからかもしれないです。

 膝がちょっと痛いくらいで軽傷です、そんなことよりも目の奥がぐるんぐるんしてて気持ち悪い……。

 明るいのが気持ち悪くって、手でまぶたをおさえます。

 少しだけ楽になった気がします。

 目の前が真っ暗になると、なんだか違う映像が見えます。

 目で見えてるわけじゃなくって……なんだか、えっと……想像とか思い浮かべるとかそんな感じに近いです。

 その暗い視界で見えたのは……大聖堂の聖女の水晶の前に座りこんでる視界です。

 フラフラと立ち上がって、水晶に映る彩萌は自分の体を眺めていました。

 手を見たり、足を見たり……まるで確かめてるみたいです。

 そんなわけわからんものを見ていると、彩萌の肩を誰かが触ります。

 ハッとしたら、視界がキレイになっちゃって。

 彩萌がいるのは大聖堂じゃないって分かっちゃう、見覚えはとってもある場所です。


「大丈夫ですか、何があったのかはわかりませんが……錯乱しているのですか」

「さ、触らないで!」


 彩萌はいますっごく混乱中なのです、ルーカス先生がいるのは現実世界のはずなのに……彩萌と同じ場所にいるのは変です。

 彩萌が現実世界にいるか、それかルーカス先生が幻想世界にいないと一緒に居るのは不可能なんです。

 それで彩萌は……とってもこの場所を知っています。

 跳ねのけたルーカス先生の手はちょっぴり赤くなってた、ごめんなさい。

 彩萌はなんだか動揺しているように見えるルーカス先生を置いて逃げ出しました。

 慌てていた所為で上履きのまま外に出てしまったようです、そういえば……彩萌の手足が白い。

 髪の毛もちょっと長いような気がする、服も黒いです。

 外は騒がしい、最近聞いていなかった騒音が世界を包んでいます。

 ここまで世界はうるさかったんですか、キレイな音が聞きたくて探したいけどここには何もないようです。

 ここには彩萌の落ち着く音がありません、夢の中の彩萌の夢を最近見てなかったけど……まさか彩萌が入りこんじゃうなんて。

 ふらふらと静かな方へと逃げれば、夢の中でも見覚えのある神社が見えました。

 この神社はすごい、静かでした。

 頭の中がグルグルです、心のどこかでは帰りたいって少しは思ってたかもしれないけど……本当に戻ってきたくないです。

 だってここには山吹君は居ないのです、あと……たぶんお母さんとかお姉ちゃんとかお父さんも彩萌の知ってるお母さんとかお姉ちゃんじゃないと思う。

 だってここには魔法が使える彩萌がいるから、魔法の使える彩萌は彩萌とは違うから。

 これはやっぱり夢ですよね、倒れた衝撃に頭を打って気絶しちゃったんだ。

 そうに違いない、それしかないよね。


「あら……迷子が紛れ込んじゃったみたい、懐かしい子供が居るわ」


 顔をあげれば前髪が長いのに、なぜか顔の造形がはっきりと分かってしまう美人なお姉さんがいました。

 なんだかその人を見ていると懐かしさを感じて、涙が出て来てしまいます。


「フェーニシア……貴女がいるべき場所は此処じゃないわ、あるべき場所に帰らなきゃ」

「どうやったら、……元に戻れますか?」

「そうね、とっても簡単だから心配しないで……そんなことよりそれは少し置いて行かなきゃいけないわね」


 そういうとお姉さんは彩萌に手を伸ばします、すっごくひんやりしてる手が彩萌の顔をぺたぺた触ります。

 ちょっと暑かったから気持ちが良いです、でもなんか心臓とかその辺がひりひりと痛痒い感じがします。

 ちょっぴりお姉さんは変な顔になった。


「ちょっと……これ以上引き剥がすのは難しそうね、フェーニシア……貴女はたしか精霊たちが作った杖を持っていたでしょう?」

「えーっと……持ってますけど、どうして知ってるの?」

「私に見えないものは無いわ、聞こえないものも無いわ、全ては繋がっているのよ。常にその杖を肌身離さず持っていて、とっても大事な事だから」


 そう言うとお姉さんは彩萌の顔から手を離した、とっても大事なんだ……。覚えとこう。

 お姉さんの赤い眼が怪しく光っているように見えます、なんだかちょっとお姉さんは神聖な感じがする。

 それにすっごく懐かしい感じ、もっと一緒にいたい感じがします。

 お姉さんの言っていることはなんだかすっごい正しいような気がしちゃう、なんでだろうね。


「そうね、貴女はもう違うから……目を閉じて、押してあげるから頑張って」


 言われた通りに目を閉じれば、お姉さんが背中をさすってくれた。

 そうすると気分が良くて、眠くなります。さっきまで混乱してて泣きそうになってたのに、全然大丈夫です。

 お姉さんは何者なんだろうか、女神様なのかな。

 彩萌はお母さんな感じがすると思う、きっとお母さんだよ。


「お姉さんは、アッチの世界には行けないの?」

「私はコッチに居ないといけないの、アッチに行けない事も無いけど……そういう約束なのよね」


 そうなんだ、なら……しかたないね。

 彩萌はウトウトしてきて、お姉さんに寄り掛かります。

 起きたら、幻想世界に戻ってるのかな……?





 ――揺さぶられている感覚を感じて、彩萌は目を覚まします。

 目の前に居るのは青でも黒でもありません、心配そうなグアリエ先生でした。


「叶山さん……どうしてこんな場所で眠っているんですか。涼しくなってきましたし、風邪をひいてしまいますよ」

「……ちょっと、いろいろあって」


 体のあちこちが痛い、起き上がって周りを見たらなぜか階段の踊り場でした。

 あの例の階段です、変な歌声が聞こえる階段です。

 なんでこんなところにいるんだろう、あれは夢じゃなかったのかな。

 頭が痛い、触ってみるとたんこぶが出来てた。


「頭を打ったのですか? 叶山さん……やはり体の調子が良くないのではないですか? 階段から転落してしまったのですか?」

「……よくわかりません」


 でもこのたんこぶは大聖堂で倒れた時に出来たやつだと思う……。

 たんこぶで済んで良かったです、良かったのかどうかわからないけど良かったです。

 なんだか寂しくてまた涙が出てきそう、一人ぼっちで寂しいって涙じゃなくってお姉さんとお別れしてしまったのが寂しい感じです。

 ぼろぼろ涙を零したら、グアリエ先生がちょっと慌ててた。


「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか……? やっぱりそんな事を言われたら不安ですよね、とりあえず打ちつけたところを手当てしないと……」


 なんだか彩萌今不安定だね、情緒不安定ってやつです。

 この間まで楽しい気分だったのに、階段の歌声を聞いてからなんだか気分の浮き沈みが激しいです……。

 この階段を使うの止めようかな、それで治ってくれるか分からないけど。


「叶山さん、何かあったらすぐに誰かに相談してくださいね。私で良かったら話を聞きますからね」

「グアリエ先生ありがとうございます……、あ、そうだ先生……彩萌杖を持ってないといけないらしいんです、すっごく大事で肌身離しちゃダメって言われたんですけど……学校に杖を持って来たらダメですか……?」

「つ、杖ですか? いったいどのような杖なのですか?」

「えーっと、グアリエ先生が魔力を見るって言った時に持ってた水晶玉みたいな感じです」


「えっ!?」ってグアリエ先生がすっごい驚いてた、そしてすっごい悩んでた。

 そしてしばらくたったら、明日の朝早く学校に来てその杖を見せてくださいって言われたの。

 大丈夫そうだったら持ってて良いのかな。

 なんだか彩萌はすっごくお家に帰りたくなっちゃった、その家が現実世界の家なのかどこなのかよく分かんないけど。

 とにかく、家に帰りたい気分……。

 シェリエちゃんとクーリーちゃんどこ行っちゃったんだろう。

 彩萌を仲間外れにしないでくださーい……。

 そう言えば、どうして彩萌は階段に居たのかなぁ。





 ――あやめとアヤメの交換日記、十七頁

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