忍び寄るは好奇心の猫
シェミューナちゃんの魔法な事件から一週間はたったと思う、でも今のところ何にもありません。
とっても平和です……、休み時間にシェミューナちゃんのところに行ったり保健室行ったり。
勉強も頑張ってるよ、降誕祭についての発表はへいぼんぼんな出来でしたけど……。
そして何よりも、あの日からすっごく彩萌は絶好調!
彩萌の中で何があったのか分からないけど、とにかくご機嫌で体調が良いんです!
音も相変わらず聞こえるの、にぎやかで楽しくなっちゃいます。
最近気づいたんだけど、この音って魔力の音かもしれないって思う。
先生が魔法を使うとすっごいきれいで大きい音がする、それが同じような音なの。
シェリエちゃんとかにこの音が聞こえるかどうか聞いたんだけど、聞こえないらしい。
でもミギーくんはちょっと違うけど小さく音は聞こえるらしい。
ミギーくんの場合魔力によって音が違うってことはないけど、確かに何か音はするって言ってた。
病気の症状ってことじゃないみたい、でも彩萌は前までそんな風に聞こえなかったのになんでそうなっちゃったんだろうね。
不思議です、とっても……でもあんまり気にならないかも。
そう言えば最近山吹君見てない、ちょっぴりさびしい。
あと夢の中の彩萌の夢も見てないです。
そんな彩萌は今保健室の帰りです、相変わらずあんまり使われてない階段を使ってるよ。
なんかね……この階段好きなの、よく分かんないけど。
階段の段数を数えながら魔力のキレイな音を聞きながら登ってると、いつもと違う音が聞こえたんです。
音というか、歌声かな……?
どこから聞こえるのかなー、すっごいきれいな歌声なの。
ふらふらその出所を探してたらね、壁の向こう側だったの。
その壁に耳をぴったりくっつけてみるんだけど、よく聞こえないや。
というか壁の中から歌声がするなんて……ホラーだね! やっぱり学校だもんね!
壁をとんとんってノックをしたらね、歌声が止んじゃったの。
残念です……、でも壁をノックして止めちゃうんだから……壁の向こう側に誰か居るのかなぁ。
「……叶山? 壁に耳を当てて何をしてるんだ、何か聞こえるのか?」
「あ……、カルヴィンせんせー! あのね、なんか歌が聞こえるんですよ」
「歌? 俺には全然何も聞こえないな……お前あの日から変だぞ、頭でも打ったんじゃないか?」
「今は歌ってないです! 彩萌がノックしたら歌うの止めちゃったんですよ……」
「悪い悪い」って苦笑いしてカルヴィン先生は、なんだか恒例の行事になっちゃった感じで彩萌の角を触るんです。
そんで頭を撫でたの、……やっぱり彩萌は他の生徒よりも子供扱いされてる気がする。
不貞腐れながら彩萌はカルヴィン先生の靴を睨んでいました。
「でも、何かあったら大変だから頭はもう一度見てもらった方が良いぞ」
じゃあな、ってカルヴィン先生はどっか行っちゃった。
……でも本当に誰か歌を歌ってた気がするのになぁ。
もう一回壁をノックしてみた、でも音は何も聞こえないです。
「……誰かいないの?」
彩萌の気の所為だったのかなぁ、本当に歌が聞こえた気がしたんだけど……。
うーん、やっぱり頭の検査してもらった方が良いのかなぁ。
頭が変なことになってたらやだなぁ。
ぺたぺた歩きながら教室に戻ればいつものように白仮くんが机に突っ伏して寝てた、なぜかミギーくんが彩萌の席に座って寝てるし。
そう言えばミギーくんとクーリーちゃんの仲は相変わらず微妙です、喧嘩はしてないけど変な感じ。
シェミューナちゃんはなぜかミギーくん熱から冷めてた、やっぱりぃあんな子供っぽいのは無いかもー! って言ってた。
今は他に気になっている人がいるらしい、シェミューナちゃんは切り替えが早いね。
ミギーくんと白仮くんはあんまり仲良くなさそうなのに、なぜか近くにいることが多い。
ライバル的な感じなのかな、ミギーくんに聞いたら彩萌の近くにアイツが居るだけだしって言ってたけど。
「彩萌おかえりー」
「そこは彩萌の席ですよ。彩萌が座るべき席なんですよ」
「細かいことは気にするなー、僕が彩萌になれば何の問題もないな」
にゅっと角が生えて、白仮くんの見た目だったミギーくんの見た目が彩萌と同じになった。
あーもう、彩萌の席が占領された……。
シェリエちゃんは最近……というか初日から何だけど、なぜかよく職員室に呼ばれてる。
たぶん今教室にいないってことは職員室なのかなぁ……。
ミギーくんが彩萌と同じってことは、けっこう小さくなったってことで……押せば彩萌も一緒に座れるんじゃない?
ちょっと押せば、やっぱり座れたよ!
「もー、彩萌は強引なんだからー! ミギーが安眠できないじゃないですか!」
「知らんですよ、彩萌はまだお昼食べてないんだもん。座って食べないと行儀悪いもん」
「今日はメロンパンですか……彩萌は甘い物ばっかりだね、虫歯ってやつになりますよ!」
彩萌は虫歯になったことないから大丈夫だもん、そんなことより彩萌は栄養バランスが心配です。
保健室先に行くと学食に間に合わないことに最近気づいたのです、次からはご飯食べてから保健室行こうかな。
シェリエちゃんとか白仮くんには感謝しないといけないのです……、だって二人がついでに買ってきてくれるから。
今度パンを買うならサンドイッチとかハンバーガーとかそういう系にしようかな。
メロンパンにかじりついたらね、なんか中から白い何かが出てきたんですけど!
「んうっ……、これホイップメロンパンです……! ホイップがインしてるんですけど!」
「――……あ、驚いた? 今の感想をどうぞ」
「美味しいです」
「良かったです」
寝てると思ってたら微妙に起きてたみたいで白仮くんが聞いて来たけど、ホイップがインしてるメロンパンが美味しくないわけがないですよ!
彩萌は甘いの好きだからね、嬉しいサプライズですね……えへへ。
黄色いふあふあに包まれた甘くて白いやつを堪能してたらね、なんかこつんかつんって音がしてるのに気づいた。
なんかハイヒールで歩いてるみたいな音だなーって思ってたら、ミギーくんが廊下のほう見てた。
彩萌も廊下のほうを見たらハイヒールはいてる女の子が見えた、幻聴じゃなかったみたいです。
ちょっぴり大人に見える……いや、ちょっぴり大人なんだと思うけど。
ちょっと顔に幼さが残ってる感じだから、たぶん彩萌たちよりほんのちょっとお姉さんなだけなんだと思うけど。
というか……えっと、中等クラスの人なのかな?
なんかすごいアクセサリーとかじゃらじゃらつけてる、灰色の髪の毛も巻いてる。
あれって校則的にアウトじゃないの? 大丈夫なのかなぁ。
胸元もけっこう開いてるし、なんかお姉さんな格好のギャルだね。
そんなお姉さんが、なぜか彩萌たちのクラスを覗くんです。
みんなざわざわしてるね……お姉さんの目はなんか猫みたいな感じです。
真っ黒な黒目ですね、胸も大きいね。
そんなお姉さんの前にケレンさんが近寄るわけです、警戒してる感じだね。
「あの、このクラスに何か御用ですか?」
「ん、赤毛ストレート……君には興味ないよ、ボクが探してるのはウワサの子鬼ちゃんと魔人ちゃんとーあとドッペルゲンガーと仮面くんだよ」
ケレンさんを赤毛ストレート呼ばわりですと!?
というか彩萌たちを探されているようです、なぜですかね。
ケレンさんから視線を外して、その後ろにいた彩萌たちに気付いたみたいでそのお姉さんの黒目が細くなったの。
「やあ……、あはッ本当に黒いんだね。真っ黒だね、醜い姿だね」
「……し、失礼じゃないですか?」
「んふふ、そうかな? 本当のことでしょ? 嘘は言ってないよ、醜い子鬼ちゃんだね」
近づいてきたお姉さんは本当に失礼なことを彩萌に言います!
隣にいたミギーくんも嫌そうな雰囲気です、白仮くんもちょっとだけ警戒してました。
「ボク……珍しい物が好きなんだ、収集癖があるんだ。子鬼ちゃんとドッペルゲンガーは孤児院の子なんでしょ? いくらで家の使用人になってくれるの?」
「は、……はぁ? 使用人? なに、アンタ……マジで言ってんの?」
「マジに決まってるでしょ、本気じゃなかったらこんな鬼のように怖い校則に厳しいチビ教師が居るところに来ないよ」
校則に厳しいって……ジェジア先生のことかな。
それにしてもこのお姉さんマジで失礼な人です! いくらつまれたって使用人になんかならないもん。
エミリちゃんの家なら良いけど、それ以外はダメです。
「ボクの名前はティネオリーネ・ティアーズ、ティネお嬢様って呼んでね」
「呼ばねーし、自分の棲み処に帰れよ!」
「……ティアーズ?」
「ん……? ティアーズだよ、聞き覚えある? そうだろうね、ボクには偉大なフィルオリーネって言う有名な学者様のお姉様が居たからね」
「血は繋がって無いけど」ってお姉さんはニッと笑います。
えっ、マジで? ジェリさんって妹さん居たの?
「ボクの家に来たら、楽しいコトいっぱいできるよ……美味しい物もいっぱいあるし、孤児院より広いし自由にできるよ」
「今でもミギーは十分自由なので必要ないです、食べ物には興味ないもん」
「彩萌も……イヤです」
「そうなんだ、残念だね……そろそろ時間だしまた勧誘に来るね」
また来る気ですか……、このお姉さんすっごいゆうずうがきかなそうです!
背を向けたから帰るかと思いきや、言い忘れたことがあったのかもう一度振り向いた。
「そうだ……、仮面くんはクレメニスの大事なお客様らしいから収集は出来ないけど……でも仲良くは出来るよね? いつでも良いから遊びにおいでよ、君なら大歓迎だよ」
白仮くんの方を見たら、腕に顔を乗せて寝てた。
どうやら無視することに決めたらしく、何も返答しないで寝てた。
そんな姿を見てお姉さんは目を細めると「またね」って言って教室を去って行きました。
あだるとな雰囲気なお姉さんでした、そしてとっても迷惑な考えのお姉さんです。
「なにアイツ、化粧臭いしケバイじゃん、マジキモーい」
「彩萌は醜いって言われちゃいましたよ……酷いですよ、人が気にしてることなのに……」
ケレンさんが窓を開けて換気してました、そこまで酷い臭いってわけじゃないけど心情的な問題なんだろうね。
でも彩萌はケレンさんの赤くてサラサラできれいな髪が好きですよ。
「彩萌はそこまで醜くないし、なんか香水の臭いもキツイしサイアクだよねー」
「校則やぶりまくってましたね……、先生に怒られないのかな?」
「ティアーズと言えば……クレメニスを代表する名家の一つ、ドルガー、テニアスフィール、ティアーズ、ジェフィルリジア……これだけは憶えて帰って来いって母上様に言われた」
「お前自分の母親のこと母上様って呼んでんの?」
「そう呼ばないと父上様にしばかれるからね、しょうがない」
「虐待だ」って白仮くんはべったり机に寄りかかったまま呟いた。
ふーんってミギーくんは言ってた、ミギーくんは魔力から生まれたからお母さんとお父さんが本当に居ないんだね。
彩萌のお母さんも、お母さんって呼ばなかったら怒ってたよ。
しばかれたことは無いけど……、厳しいお父さんなのかな。
「ティアーズ家はなんか、学者を輩出しまくってる家なんだってさ。学園にも多額の寄付をしてるし、最近はあんまり目立ってなかったけど……フィルオリーネ女史が世に出した属性付加の魔術って言うのが高く評価されたって聞いた」
「そうなの? そんなにすごいの?」
ジェリさんがすごいのは聞いたことあったけど、そこまですごいっていうのは知らなかったですよ。
そう言えばイズマさんは学者様は癖が強すぎてあんまり好きじゃないって言ってた気がする、それってジェリさんとかのことだったのかなぁ。
っは……! それってたぶん山吹君のことも入ってるんじゃない!?
「よく分かんないけど、腐らないようにする魔法とか汚れを弾く魔法とか……そういう魔法は全部属性付加だってことに気づいて、ちゃんとそのジャンルに分けてそれを誰でも使えるような簡略化した使い方を発案したって聞いたよ、魔法が上手く使えない人のための魔術とかの研究もしてたって聞いた」
「――……昔、属性付加って部類は生き物にかける魔法限定だった。今は物に掛ける魔法も属性付加になった、これはなかなかスゴイことだよ……白い魔力が生き物以外にも影響する力だって判明したってことだからね」
シェリエちゃんが職員室から帰ってきたみたいで、白仮くんの説明につけくわえてた。
「あと行方不明になっちゃったのは学者にとってすごい事件みたいだよ」って白仮くんに教えてもらった。
……そうだったんだ、ジェリさんめっちゃすごい人じゃん。
まあジェリさん記憶喪失になっちゃったから……その知識がまだ頭の中にあるか分かんないけど……。
「フィルオリーネ女史は魔法が上手く使えない落ちこぼれだったし、美人だったから学者意外にも有名だったらしいよ」
「ふーん……、学者は知らないけどジェフィルリジアとテニアスフィールとドルガーは知ってるよ、リーディア先生とホテルとグアリエ先生じゃん?」
「えっ、グアリエ先生もすごい人だったの?」
「ジェフィルリジアは大聖堂を管理してる一族らしいよ、他の三つと比べて露出が少ないのは彼等がすっごい聖女を信仰してる聖者だかららしいよ。聖者の鏡の様な人達ですっごい控えめで大人しいって聞いた、グアリエ先生は末っ子」
へぇー、すごいや。勉強になったかも。
彩萌が感心してたら、白仮くんは何かを思い出したのか顔を上げたの。
「あー、そういえば……可能そうならイズマって言う人ともお近づきになった方が良いって母上様言ってた」
「……なんでイズマさん?」
「すごい優秀なスカウトマンらしいよ、彼なら探し出せない人材はいないって噂があるよ……ハクボの発展のためにも人材確保は必要不可欠だね」
そう言えば本業はスカウトらしいね……、彩萌は最近それをすっかり忘れていました。
だってイズマさん最近は店に引きこもっておまじないをかけたアクセサリーばっかり作ってるんだもん。
まあ、……彩萌の所為なんだけどね。
彩萌が借金返済の為にユースくんに土下座して魔石作ってもらって、それで返済したからね。
純度が高すぎて素人が触ると危険なレベルの魔石は換金できなかったらしいです。
一部の純度が高い魔石は学者さんに売ったって聞いた。
売れなかったのは自分のお店で消化するために小物にしてるの、でも売れるからイズマさんは楽しそうに小物作ってるよ。
借金返済に精霊さんを使うのはすっごくあれだけど……、でも魔石が世の中に出回れば出回るほど技術の発展とやらがあるんですよ!
彩萌一人だと絶対返済できないもん……、ユースくんも嬉しそうにおっけーしてくれたしモーマンタイってやつですよ……。
自分のお金にしてないだけ……マシですよ……。
それにしても、彩萌ウワサになってるのかな。
ちょっぴり心配なんですけど……。
――あやめとアヤメの交換日記、十五頁