繋がれた
ぐっすり寝ちゃったみたいで、起きた時にはもうお昼過ぎだった。
エミリちゃんとユヴェリア王子は帰っちゃったみたい、ディーテさんはずっと様子を見ててくれた。
遅めの昼食を取っていると、保健室の先生が帰ってきたの。
お昼ご飯を食べ終わった彩萌の様子を診てくれたよ、力はだいぶはいるようになってたから授業に出ても大丈夫だって言ってくれた。
でも安静にしないと駄目だって、魔法には特に気を付けるようにって言われた。
ご飯を食べ終わってディーテさんは図書館に、彩萌は教室に戻ることにしました。
どこから帰れば早いとか、どこに階段があるのか分からない彩萌は遠回りしているような気がしつつも階段を目指します。
使われてない教室もいっぱいあるけど、生徒もいっぱいいるよ。
ちょっと頭がぼーっとします、泣きすぎって言うのもあるけどこれも病状なのかな。
あんまり使われてない階段なのか人が少なめ……もしかして彩萌は遠回りしているのか。
人気のない階段を上り終わったらすすり泣くような音が聞こえる、教室はあと一つ上の階なんだけど気になる。
ふらふらーっと教室を覗けば白っぽいピンク色の頭に背中には可愛い小さい羽……どう頑張っても見間違えられないです、シェミューナちゃんですよね。
ふらふらっと近寄れば、気付いた時にすっごいビビってた。
「……どうして泣いてるの?」
「――……私は間違ってないもん、だって……だってパパとママだってそうやってすっごく仲良くなったって聞いたもん、間違えてたら……間違えてたら私は間違って生まれたってことになっちゃうもん。……だから、私は間違ってないもん」
あ……そっか、そうだよね。
彩萌は一方のことしか見えてなかった、そうやって仲良くなった人の先が見えてなかったよ。
彩萌はすっごくシェミューナちゃんを傷つけちゃったんだね……。
そんなつもりは無かったけど、すっごく傷ついちゃったんだね……。
「パパとママはすっごい仲良しだもん、幸せそうだもん……」
「ごめんなさい……」
シェミューナちゃんには否定できない理由があったんだね、それなのに彩萌はちゃんと理由を聞いてあげられなかったんだね……。
間違って生まれちゃったなんて、嫌だよね。
彩萌も間違って生まれちゃったなんて言われたら……すっごい嫌だもん。
「でも……好きじゃない人同士を無理矢理くっつけたりするのは良くないよ、両想いの人とか……そういう人なら良いかも知れないけど、シェミューナちゃんの両親もそうだったのかもしれないよ……? 大事なのは使い方だと思うの、無差別テロは良くないよ」
「……私も、ちょっと悪かったかなって思ってる……でも私は謝らないからね」
「うん……、ごめんね」
彩萌がしょんぼり謝れば、シェミューナちゃんは教室を出て行った。
しょうがないね、彩萌の視野が狭くなってたのが悪いもんね……。
彩萌はすっごい酷いことをシェミューナちゃんに言っちゃったんだ……、ごめんね……。
――……あ、山吹君にかけた魔法について言ってなかった!
すっごい悪いことしちゃったけど、これとそれとは話が別です!
急いで彩萌も教室を出ます、魔法をといてくださいってお願いしなきゃ!
廊下に出てもシェミューナちゃんの行方は見えません、どこ行っちゃったのかな!?
教室かな……? 彩萌は廊下をちょっと走っちゃいました、ごめんなさい先生。
まだ休み時間なのでお昼を食べている人がいっぱいいます、シェミューナちゃんのクラスの上の三は扉が開いてたので中をちらっとうかがいました。
でもいない! 教室に戻ってないみたいです、まだ時間あるからね……!
あれ? さっきのアヤメじゃない? って言われてた気がするけど今急いでいるので、さらばです!
ど……どこに居るのかな?
落ち込んでるから一人になれるところかな? 一人になれるところってどこだろう……。
ぱたぱたと走っていると、後ろから襟のところを掴まれて首がしまった。
ぐぇぇって変な声が出ちゃった、襟のところを掴むのは危ないですよ……。
「こんにちは、叶山さん。確か貴女は今病気を患っていて、安静にしていないといけないのでは無かったかな? それなのにそんなに元気に廊下を走って良いのかな? それと校則では廊下ではどうするか……書いてなかったかな?」
「……ごめんなさい、でも……首がしまっちゃうのでその止め方は止めてください先生……」
「失礼、とっさに手が出てしまいました。申し訳ないです、どこか違和感があります?」
振り向けば背が小さい先生が見えます、金色の髪の毛で耳が丸くて長い先生……エルフのジェジア先生かな!
目の色はなんか黄金って感じの色でちょっと赤っぽいような感じ?
髪の毛はちょっとクセがあって薄い黄色で、目は大きくって黄金……そして肌が色白でほっぺたがちょっぴり赤く色づいてて可愛いです。
服装はピシッと……牧師さんみたいな感じの服ですね!
「ジェジア先生とってもカワイイですね」
「――……あまり嬉しくはないですが、ありがとうございます」
「私、エルフ見るの初めてです……握手してください」
「……そう言われるのはあまりありませんね、エルフと魔人はよく混同されて覚えられているので……エルフだと認識してもらえて嬉しいです。でも可愛いと言われるのは嬉しくないですね、私は男ですから」
ジェジア先生は握手してくれた、呆れたような顔だったけど。
なんだかステキな雰囲気ですね、ちょっと嫌味が激しそうだけど。
そのかわり彩萌はジェジア先生に角を触られた、やっぱり彩萌の角はお地蔵さん的な何かがあるらしい。
「もう絶対に走りません……それより先生、私は今シェミューナちゃんを探していたんです、とっても大事な用があるんです!」
「コニュデウィさん? 教室に居ないなら大聖堂に居ると思いますよ、あの子はとても信仰深いですからね、よくあそこに居ますよ」
「ありがとうございます!」
礼を言って大聖堂に行こうとしたら「次走っているのを見掛けたら保健室に縛り付けて寝かせますよ」ってジェジア先生に言われちゃった。
よし、走らない……ジェジア先生の前では絶対に走らないぞ。
でも急いでいるので早歩きで行きます、だって大聖堂ちょっと遠いんだもん。
渡り廊下を抜けて、外に出て裏口から入ります。
長い通路の先、扉を空ければ大聖堂です。
大聖堂の中には人がいっぱい居ます、でも学園の生徒はシェミューナちゃんくらいしか居ませんでした。
彩萌が近づけば嫌そうな顔をされた、当たり前だけどちょっと傷つく。
「シェミューナちゃん、彩萌はお願いがあってきたんです」
「……なによ」
「やま……リーディア先生にかけた魔法をといてあげて欲しいんです」
「あぁ……、そんなこともあったね」
そういうとシェミューナちゃんは立ち上がります、帰るみたいで裏口に向かってた。
どうしよう、ついて行ったらうっとうしがられちゃうかな?
でもちゃんと魔法といてくれるのかな……、うぅ……どうしよう。
彩萌は悩んだ結果シェミューナちゃんを追うことにした、ちょっと走っちゃった。
裏口の通路は誰も居ません、学校関係者くらいしか通らないもんね。
「っはぁ、シェミューナちゃん……まほう、本当にといてくれる?」
「知らない、自分でどうにかすれば良いじゃん。だってアナタはそういうの得意なんでしょ?」
「得意じゃないよ……、魔法は使えないの」
「嘘でしょ、赤い糸に魔法が使えない人が触れる訳無いじゃん」
なんか息あがってきちゃった、もう走るの止めよう。
……魔法といてくれないの? それは困るよ、すっごく困るよ!
彩萌は泣きそうになったよ、だってもう手をばちーんってされたくないです。
すごい、悲しかったから。
「嘘じゃないよ! 本当に使えないんです、だからお願いします……魔法といてください」
「うるさい! もうほっといてよ! 私を悪者扱いしないでよ!」
突き飛ばされて彩萌はふらふらっとしちゃう、さいわい倒れなかったです。
怒られちゃった、悪者扱いはしてないと思うけど……でも魔法をかけたのはシェミューナちゃんじゃん。
たしかに彩萌はシェミューナちゃんに酷いことを言っちゃったけど、山吹君は関係ないじゃん!
「気になるなら、気にならなくなれば良いじゃん! 同じ魔法をかけてあげるよ、これでお揃いだねおめでとう!」
「ちょ、っと……まって」
シェミューナちゃんは頭に血が上っちゃったみたい、彩萌にあの時の弓を向けるの。
ヤバイ……、魔法はダメなんだよシェミューナちゃん。
なんか変なことになっちゃうかもって思うと怖くなっちゃって、うまく言葉に出来ない。
シェミューナちゃんって激情家なんだね……。
彩萌にはその魔法を避けたり、消したりすることは出来ません。
魔法の矢が胸に刺さった、すごい衝撃だったけど痛くはなかったですよ。
魔法の矢の所為か、彩萌の魔力の所為かどこかで鐘みたいな低い音が聞こえた気がした。
なんていうか……とっても衝撃が走ったの、なんだか無理矢理に押しこまれたみたいな……。
そんな衝撃にたえられないで座りこんでました、頭がぼーっとする。
「な、何それ怖い……、わ、私もう授業あるから……じゃあね!」
怖い? よく分かんなかったからすごいだるかったけど辺りを見回してみたの。
彩萌の魔力とやらが出ちゃったのか、床には魔法陣みたいなのが出てた。
底から黒いうねうねしたのが出てたの、なにこれ。
しばらくその黒いうねうねを見てたんだけど、消えちゃったんです。
その黒いうねうねが無くなったら、魔法陣は小さくなるんですよ。なんだか彩萌に戻って来るみたいな感じで。
そうしたらなんか……体がすごい痛いの!
体の中がいっぱいいっぱいになっちゃって、張り裂けそうな感じなの!
「あ……うぐっ……」
彩萌のうめき声が静かな通路にしばらくひびいてました。
痛くて痛くて時間なんてよく分かんないけど、すっごい長い時間痛い思いをしてたような気がする。
特に心臓の部分が痛い、ドクドクすごいしてた。
苦しくってなんにも出来ないの、彩萌このまま死んじゃうかも。
死んじゃうかもって思ってたけど、しばらくしたら痛くなくなったんです!
すごい汗出てたけど、というか今何時だろう……。
彩萌はふらふら立ち上がりました、足にあんまり力入ってない気がする。
すごい頭がぼーっとしてる、なんかとってもふらふらしてるから幽霊みたいじゃない?
裏口の扉を開けようとしたら誰かが開けるの、外開きの扉だったから彩萌は前のめりに倒れそうになっちゃった。
扉開けてくれた人がささえてくれたけど、危なかったね……。
「五時間目の授業に出ていないと聞きまして、コニュデウィさんの居場所を聞いていたのを思い出したのでここかなと思いまして――……? 叶山さん? どうかしたのですか?」
「あ、せんせ……ごめんなさい」
なんか力が抜けちゃって、立っていられなくなったので……たぶんジェジア先生に寄りかかりました。
もうダメだ……、なんかすごいねむい。
ジェジア先生にささえられて、彩萌はゆかにねかされて顔をみられるの。
「酷い顔色ですよ、まるで死人です。――……誰に呪いをかけられたのですか?」
胸の上の辺りに手をかざして先生は彩萌にそう聞きます、ぶつぶつなんかいってたからまほうをといてくれたんだと思う。
シェミューナちゃんだけど、本当のこと言ったらなんか重い処罰をされちゃうのかなぁ……。
シェミューナちゃんもわるいけど、彩萌だってわるいし……。
だってシェミューナちゃんにちゃんと病気だからやめてって言えなかったんだもん。
「う……、せんせー……りーでぃあ先生も同じまほうかけられてるんです……といてあげてほしいです」
「他人の心配よりも今は自分の心配をしなさい、保健室に連れて行きますからしっかり意識を持ってなさい」
冷たくジェジア先生は言います、ジェジア先生はすっごいちいさいからか彩萌をおんぶしてくれました。
ねむいよ、でも意識をもってなさいっていわれたから寝ちゃダメだよね……。
「あやめがわるいんです……、あやめが酷いことをいっちゃったから、だからわたしがわるいんです」
「誰が悪いのかは今は関係ありません、酷い事を言われてしまったからと言ってその相手に魔法を容易に掛ける事が問題なのです。相手の体を害する魔法ではないからと言って一切危険が無い訳では無いのです、その証拠に今の貴女は命の危機に曝されている」
「たとえそれが守る魔法であっても、魔力に耐性が無い生き物には凶器と同じですよ」とジェジア先生は続けて言った。
扱いに長けた者でも非常に難しい物です、ってジェジア先生は言ってた。
そっかぁ、そうなんだ……。
ぼんやりしてたら保健室についた、保健室の先生は彩萌をみてひじょうに変なかおをした。
「……魔力の乱れは感じられません、むしろ今朝より安定しているように見えます」
「そうだとおもいます、だっていまはいたくないです」
「今は? 痛かった時があったのですか?」
保健室の先生の質問にせいかくな感じで答えました。
しぬほどいたかったとか、はりさけそうだったとか、まほうじんがでてたとか。
ジェジア先生はすぐにどこかいっちゃったけど。
「……もっと精密な検査が必要かもしれませんね、魔力の剥離ではない可能性があります」
「なんですか?」
「まだ分かりません、特殊な身体ですから一般的な病と同視してはいけないかもしれませんね」
とりあえず検査するじゅんびをするのは時間がかかるから、休んでいてくださいっていわれた。
彩萌はまた保健室のベッドにぎゃくもどりしちゃいました。
シェミューナちゃん怒られてたらかわいそう……、彩萌にも責任の一端というのがあると思うの。
保健室の先生にそういったら、伝えておきますって言ってくれた。
はあ……ほけんしつのべっとふあふあだなぁ。
彩萌はりっぱな保健室の住民だね……。
――あやめとアヤメの交換日記、十三頁