魂に呼びかける
ご飯を食べて、急いでお風呂に入った。
お風呂はすっごい大きい、シャワーもいっぱいある。
たぶん彩萌の所為だけど、クレメニスには入浴する文化があるから浴槽があったよ。
彩萌の痣だらけの体をジロジロみてくる人もいたけど、気にしないようにする。
気にしたら負けだぞ、彩萌は負けたくないのだ。
でも湯船にじっくりと入るのは抵抗があるから、ちゃちゃっと洗って早く部屋に戻ろう……。
クーリーちゃんとシェリエちゃんも一緒だよ。
なんて言うか、クーリーちゃんは大人だね。発育が良いってやつなのかなぁ。
シェリエちゃんはすっごく細い、でも……がりがりでは無い。
それに比べてどうしたんだ彩萌の体は……、これがずんどうってやつですか……あれ? 彩萌たちって本当に同い年だっけ?
実はシェリエちゃんとクーリーちゃんって年齢偽ってるんじゃないの!?
まあ、でもシェリエちゃんは一応およそ一一〇歳か……。
ちらって、周りを見たけど……やっぱり彩萌が現実世界標準で日本仕様なんだね……。
同じ学年の子を見たけど、まあ彩萌みたいな子もいるけどーみんなちょっと大人だった。ちょっと心配になるよね、彩萌のおっぱいは成長するんでしょうか。
あとくびれも欲しいですよね……食堂のお姉さんみたいなセクシーなお姉さんになりたい。
山吹君はセクシーなのが好きなのでしょうか、それともキュートなのが好きなのでしょうか。彩萌はセクシーでもキュートでも良いです、セクシーなお姉さんもキュートなお姉さんもほわほわしたお姉さんもクールなお姉さんも好きです。
そう言えば彩萌ってキレイな女性が好きだね、なんでだろう。
あと可愛いのも好き、でもお兄さんとかは別にそんなに好きってほどでもないかも。
カッコいいなとは思うけど、やっぱり彩萌には山吹君がいるからかな。
山吹君という存在がステキすぎて、他の男性はどうでも良いのかなー。
これからも山吹君と可愛い女の子にキャーキャーしよう。
お風呂から出て、着替えてから部屋に戻って幻想文字のお勉強をしたんだよ、講師はシェリエちゃん。クーリーちゃんも教えてくれたの、あたりまえじゃない、アタシは先輩なんだからねって言ってた。
ついでにみんなで予習しました!
もう時間も遅いから、寝ることにしたんです。
「みんなお休みー」
「おやすみ」
「寝坊したら起こしてね、オヤスミ」
ベッドにはカーテンついてたから、なんとなく閉めてみた。
……ダメだ、全然眠れない。妖精さんに貰った先導ランタン……名前が長いからランタン君でいいや。ランタン君をつけたの、魔物避けとかの効果もあるけどちゃんと灯りとして使えるんだよ。
カーテンはなんか分厚いから、外に光は漏れてなかった。
眠れないから借りてきた本をちょっと呼んだ、クレメニスでは精霊さんの誕生月ごとにそれぞれのお祭りごとが有るらしい。
……ほぼ同時に生まれたのに、なんで誕生月があるのさ……。
一月はディーテさん、デミューのお祭りとか言うらしい。
まずディーテさんのお祭りは前夜祭と本祭と後夜祭があるらしい。
本祭ではダンスパーティーが行われるらしいんだけど、パートナーになってほしい人には前夜祭の日にお願いしに行かなければならないらしい。
その前からの約束は禁止だとか、そのお祭りで一緒に踊れたら末永く仲睦まじい関係がきずけるっていう感じらしい。
前夜祭はその約束を取り付けに行く以外は、家族とまったり過ごすのがルールだとか。
本祭ではパートナーと踊るだけ、踊るだけで会話をしちゃいけないらしい。
何故ですかディーテさん、ディーテさん超お喋りじゃないですか。
ダンス中だって話してそうな人なのに、どうして会話禁止なお祭りなの。
それで後夜祭に告白するんだってさ、告白方法は手紙が好ましいらしい。
期間は一月十四日から一月十六日まで、お祭り中は家族の人意外とは喋っちゃいけないらしい。
なんでだろう……そんなことを思ってたら解説があった。
頑張って解読したところ、ディーテさんの性格をあらわしたお祭りらしい。
ディーテさん基本は陽気、その陽気さは音楽とダンスで表している、そして浮ついた行動を苦手として身内とか親しい人には深い愛情をそそぐから、だって。
ふーん……あとディーテさん紙すきだもんね。
二月がユースくん、二月四日のジェユヴだって。友人と星を眺めるだけみたい。家族とか恋人じゃなくて、友人ってところがユースくんらしい。
三月がグラーノさん、三月一日の太陽が昇る前の海で行われるお祭り。
シィノグレァルフ、夜に別れを告げる歌を歌って朝日を迎え入れる祭りらしい。
このお祭りはシェリエちゃんが借りてきたフィルウェルリア聖書のグラーノさんをモチーフにしたお祭りらしい。
唯一夜の精霊ウェルサーについて書かれているのが、フィルウェルリア聖書らしい。
誰が書いたか分からない、いつ頃からあるのか分からない聖書らしい。
飛んで五月でふぇっくん、五月二十一日に昼間に行われるお花見みたいなやつみたい。ティネフールというらしい、そしてなぜか美女コンテストをするらしい。
ふぇっくん本人も来るって書いてあった、ふぇっくんは女の子が好きだね。
精霊さんがマジで祭りに参加してくれるのはティネフールだけらしい。
さすがふぇっくんです……、さすがです。
うーん……なんか眠くなっちゃった、あとのは明日読もう。
ランタンを消して、ベッドに潜り込みます。
やっと眠れるようです、なんだか気持ち良くウトウトしてきた。
明日起きられると良いんだけど……。
――目の前は真っ暗、でも風が木を揺らす音が聞こえる。
ざわざわさらさら、みーんみーんって……セミの鳴き声が聞こえます。
これはまた夢かなぁ……、クレメニスにはセミがいないから。
「どうすれば、絶縁を取り戻せると思います?」
「記憶に呼びかけて見たら良いんじゃないかしら、ルーカスさんがそういうの得意なのよ」
「――……ルーカス先生が?」
「だって彼、雨の巫だから」
目を開けば、見覚えがある神社の景色と長いつやつやの髪の女性が見えた。
ちらりと見えた赤い瞳は怪しく光っているように見えます。
彩萌の今の体は彩萌の意思とは関係なく動きます、なんだか考えてるみたい。
「貴女は、どうしていつも神社に居るんですか?」
「叶山さんそれは違うわ、貴女が私を呼んでいるのよ。私はそれに答えているだけよ、貴女は此処で私との縁が強くなる……ただそれだけ」
「貴女は何者なんです? 本当に人間ですか?」
「私の事はきっと貴女の方が良く知っているわ、私は私であり何者でもないわ」
たぶん、夢の中の彩萌は今怪しい物を見るような顔をしてるんじゃないかな。
その女性から目を逸らして、夢の中の彩萌は考えごとをしながら手遊びをしています。
この彩萌は何を考えてるのかなー、というかこれって本当に夢なのかな。
「学校に白雪ふかちという生徒がいたらしいですけど、行方不明らしいです。……この前白雪さんって言ってましたけど、白雪ふかちくんがこの前の人ですか?」
「そうよ、白雪さんは行動が早いから幻想世界に行ったんじゃないかしら、だから早くルーカスさんに会いに行かなきゃね」
顔をあげればその女の人はもう居ない、瞬間移動ですかね。それとも時間切れ?
夢の中の彩萌は溜息を吐いて、神社のお賽銭箱の前に座ってたみたいだけど立ったんです。
きっとルーカス先生に会いに行くんだね、さっきの話の流れだったらそれだよね。
「また学校に戻るのか……、まあいいや……忘れ物したし」
そう呟いて夢の中の彩萌はとぼとぼ歩く、懐かしい景色が広がってました。
彩萌も良く知ってる町です……! というか彩萌の故郷ですね!
彩萌が景色を楽しんでいたら、いつの間にか学校についたみたい。
夢の中の彩萌はさっさと教室行って忘れ物を回収してから、職員室に行くみたい。
でも職員室につく前にルーカス先生に会えた。
彩萌もルーカス先生知ってるからね、だって現実世界に居た時に会ったことあるもん。
白雪ふかちくんは知らなかったけど、ルーカス先生は英語の先生……だったような気がする。
ルーカス先生は相変わらず髪の毛が青い、群青色ってやつです。
というかルーカス先生も巫とかいうやつだったんだね。
「ルーカス先生、こんにちわ……ちょっと良いですか?」
「叶山さんこんにちわ、良いとも言えるし良くないとも言えるけど君の判断に委ねますよ」
「じゃあ良いですよね」
「まあ、構いませんよ」とルーカス先生は表情の変化に乏しい感じで言います。
いつも表情変えないからみんなに怖がられてたのを思い出します、悪い人では無いですけど良い人なのかは分からないです。
ルーカス先生は自分の意思を出さないからよく分からん。
いつも教科書を読みあげてるだけのような授業しかしないルーカス先生って有名でした。
顔がキレイだから、お母さんたちにキャーキャー言われてた気がするけど。
「ルーカス先生が雨の巫だっていうのは本当ですか?」
「正確に言うと冷淡と雨の巫ですよ、幻想世界で言うところの絶望と海の精霊のグラーノ・シアン様と同じような存在ですかね」
夢の世界の彩萌が変な顔をしてるとルーカス先生は「聞いたことがあるでしょうね」と言ってた。
たぶん、なんか引っかかってるから変な顔してるんだろうね……。
冷淡かー、絶望とどう関係があるのかな……?
たしか夢の世界の彩萌は絶縁と夕闇の巫なんでしょ?
たぶん縁と夜の精霊のウェルサーと似た感じでしょ?
……んー、そう言えばグラーノさんは始まりよりもずっと昔だと希望と海の精霊だったね。
希望と絶望を豊かな感情ととらえたら、冷淡って言うのも変じゃないかも?
「記憶に呼びかけると良いと言われたんですよね、それにルーカス先生はそれが得意だって聞いて」
「良いですけど、私は精霊じゃなくて人間ですよ。ただ同じ力を受け継いでいるだけなので失敗しても責任は取りませんからね、自己責任でお願いします」
「え、ちょっと……まって」
綺麗なハープみたいな音がしたの、ルーカス先生が夢の世界の彩萌に手をかざしてるのが見えたよ。
行動が早いね、夢の世界の彩萌がとまどってた。失敗するかもって言われたら不安だよね。
目の前が青くなって、ちょっと意識が遠のく感じ。
「あ、失敗した」ってルーカス先生の言葉が聞こえたけど、……失敗しちゃったの?
――しばらく青いままで、気づいたら彩萌はあの神社に立ってた。
……なぜか自分の意思で動けます、……どうしたのかな。
しばらく歩いていると、真っ白な肌の真っ黒なキレイな髪をした女の子が見える。
昔の彩萌だと思うんだけど、なんかちょっと違う。
まずその彩萌は、彩萌のトレードマークであるぱっちん留めをしてない。
それにまとってる雰囲気が怪しいと言うか、ミステリアス?
真っ黒な服を着てるし、彩萌はどっちかというとにぎやかな色の服とかが好きだよ。
それに、彩萌はずっとセミロングだけど……その子はメッチャ髪が長い!
腰の辺りまであるんじゃない? やっぱりこれは彩萌じゃないね。
それと違う彩萌の近くに、色白で眠そうな雰囲気の男の子がいた。
なんか男の子は見たことあるような感じ、なんか和風な雰囲気だね。
すっごいむかしの人が着てそうな服着てるの、なんていうか陰陽師とかみたい。
「私には、みんなには見えない物が見えてるらしい。きっとあなたもそうなんでしょ」
「そうかもしれないね」
「お姉ちゃんが変だって言うし、みんなも変な顔をするから……今日でお別れよ、私は普通の人になるから」
「それは大層な目標だね、でも普通ってなんだろうね」
「さぁ」ってその違う彩萌は呟きます、これはきっと夢の中の彩萌の記憶なんだろうね。
夢の中の彩萌の意思は強いらしい、その男の子とはお別れのようです。
そう感じ取ったのかその男の子はなんか頬の辺りをさすってた。
「山吹君って言う子がいるんだけど、その子は苛められてるのよ」
「へぇ」
「その子も変なのが見えるらしいよ、でも私は苛められたくないから」
「そっか、だから僕とさようならするんだね」
「そうよ」と夢の中の彩萌はハッキリ言います。
その子は表情を変えません、悲しそうなそぶりを見せませんでした。
「僕に姿を与えたのは君だから、君が僕を否定したら僕は此処に居られない」
「しらない、どこかに行けばいいじゃん」
「此処では生きていけない、この世界では生きていけない」
「じゃあ……違う世界に行けばいいじゃん! さっきからうるさいな! お前なんて最初から嫌いだ、顔が嫌い! なんでずっと同じ顔なの、気持ち悪い!」
そう言われた男の子はさすってた頬から手を離したんです。
その男の子は最後まで表情を変えなかった、なんか……消えちゃった。
その時に何か落としたみたいでかぱーんって音がしたんです、落としたのはね……なんかお祭りで売ってるお面だった。
キャラ物のお面なのかな、彩萌はそのアニメを見たことないけど。
お面のゴムがね、なんか無残に引き千切られたような感じで切れてた。
これってあれなのかな……、よく分かんないけど……これが絶縁しちゃった状態なのかな。
「私、このアニメあんまり好きじゃないから」
その夢の中の彩萌は、そのお面を蹴っ飛ばして神社から出て行った。
ちょっと酷いね、茂みに落ちたお面に彩萌は近付いたの。
なんだか汚れちゃってかわいそう、彩萌はそのお面を手に取ってゴムの辺りを触ってみた。
これくっつかないのかな、しばらく撫でてたらいつの間にかくっついてた。
お面の汚れを手で払ってあげた、現実世界で生きられないなら幻想世界に来ればいいのに。
なんか視線を感じて、ふと顔を上げると真っ白の髪の子が彩萌をじっと見てた。
青い目で、顔がむーちゃんにそっくりなの、たしか……白雪ふかちくん?
あれ? でもここは夢の中の彩萌の記憶だから、白雪ふかちくんも小さくなってないとおかしくない?
なんか……この前夢で見たときと同じ感じなんだけど。
白雪ふかちくんは彩萌に近づいてくるの、なんか……怖くてすごい心臓がどきどきする。
冷や汗がすごいです、逃げようとした時に白雪ふかちくんの呟きが聞こえた。
「みつけた」って……、なんなの! 怖すぎるじゃん!
――気づいたらベッドの中にいたよ、やっぱり夢だったんだ……。
悪夢を見たんだ、そう思って起き上がったらクレメニスの祭事って言う本の上にあのキャラ物のお面が乗ってた。
ゴムもちゃんとついてる。
「……お面、――……白仮くんに聞いてみよ」
もしかしたら、何か知ってるかもしれないし。
ちょっと雰囲気が白仮くんに似てたからね、でもあれは白仮くん本人ではないと思う。
うーん……家族とか、そんな感じ?
というか……まだ窓の外暗いじゃん……、彩萌は早く起きちゃったみたいです。
……というより、あれは夢じゃないのかな。
――……現実世界に、魔法が使える彩萌があらわれちゃったってこと?
まあそれは良いとして、どうして彩萌がその現実世界の彩萌の夢を見てるんだろう。
でもおかしいな、現実世界のもう一人の彩萌はどうやって山吹君と知り合いになれたんだろうか。
だってその時には彩萌がいたわけだし、おかしいような気がする。
そもそも彩萌が存在してるのに、もう一人の彩萌がいる時点でおかしいけど。
りっちゃんは、魔法が使える彩萌がポッと現れるって言ってたっけ?
えーっと……だから魔法が使える彩萌のさっきの記憶は、りっちゃんが普通に生きてた頃の記憶になるのかな?
リセットされる前なのかな……?
ぜんぜん分かんない!
もう良いや、もう一回寝よう。
今度はイヤな夢じゃないと良いな……。
――あやめとアヤメの交換日記、十頁