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序章

物語が進むにあたり、この作品には残酷な表現が含まれることがあります。あくまで軽度なものですが、暴力的なものや流血などが苦手な方は、お気を付けください。

 

パシャパシャとはねる水音が反響する。

 薄暗い洞窟の中、入口から差し込む月光だけを頼りに一人の少女が走っていた。


 茶色いセーラー服の上に羽織っているのは、瑠璃色の着物。黒光りする長い髪が、背中で大きく揺れている。洞窟の岩肌から染み出し、まるで浅い池のように溜まった水は、夏であるにもかかわらず身を切るような冷たさであった。

その後方に見れば、小さな夜空に無数の赤い火の粉が舞い、時折凄まじい閃光が走る。そして、微かに聞こえてくるのは、爆発音と金属がぶつかり合う鈍い音。


 しかし、少女は一切振り返ることなく、広い洞窟を奥へ奥へと走り続ける。冷たい水や足場の悪い地面に何度足を取られそうになろうとも、その歩みを止めることはなかった。ただひたすらに、何かを目指し、求めているようだった。尋常ではない状況下の後方を気にすることも出来ない程の何かが、この行き先知れぬ常闇の先にあるというのだろうか。


 一段と開けた場所に差し掛かると、突如として少女の足が止まる。


 驚愕の表情から、徐々に戸惑いのものへと変わっていく少女の表情。それもそのはず、なぜならその前方には、無情にも行く手を阻む巨大な門がそびえ立っていたのだ。

 

 両脇にある松明の炎に照らされていながら、それは全容が分からないほどの大きさだった。茶色く変色した重厚な鉄製の二枚扉は、長い年月を感じさせると共に、その先にあるものの重要性を表している。あまりの大きさに言葉を失いそうになるが、非力な少女一人の力で開けられないことは一目瞭然だった。


 門に歩み寄った少女は、自らの拳で扉を叩く。だが、それは全くといって良い程、微動だにしなかった

それでも、扉を叩き続けることをやめようとはしなかった。その白い手に何度も痛みが走り、血が滲もうとも。


「――開いてっ!」


少女の悲痛な声が暗い洞窟内にこだまする。





 人は古代より、見えぬものの力を畏れ、奉ってきた。神や霊魂などをはじめとした目に映ることのないものをたちを。

 その存在が認識されたのは、いつからなのかは分からない。おそらく自然現象を軸とした、風雨や雷、月の満ち欠けに日食など、人にはなし得ない事柄を引き起こすものとして、それらを認識し始めたのではないだろうか。それになぞらえるように、多くの神話や物語が現代にまで語り継がれている。


 だが人は面白いことに、見える者の力に対しては、従属するか、あるいは反発を見せる。その力を恐れ、それ自体の存在をも恐れるが故に。

 

 その力が人からかけ離れれば、離れるほど、それらが辿るのは哀れな末路だ。

連載始りました!温かい目で見守ってくだされば幸いです。

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