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奇跡のコバルト・リヴァー  作者: バーラト・ニラ・インダストリーズ
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第1部:青き神託と黄金の盾 1-4. 科学の敗北

リシケシュの安宿が立ち並ぶ路地の奥、カビ臭い湿気と古びたスパイスの香りが染み付いた狭い集会所に、若手環境学者のアルジュンは立っていた。彼の周囲には、コバルトブルーに染まった川から命懸けで採取した数本の試験管と、分析結果が印字された数枚の感熱紙が、まるで戦場に残された遺言のように散乱している。アルジュンの髪は数日間不眠不休で調査を続けたせいで脂ぎり、レンズの曇った眼鏡の奥にある瞳は、絶望と使命感の入り混じった激しい充血を見せていた。


彼は、安物のマイクから発せられる不快なハウリング音を気にする素振りも見せず、集まったわずか数名の記者たちに向かって、枯れ果てた声を絞り出した。


「検査の結果は明白だ。この川には、致死量を遥かに超える重金属が凝縮されている。これは断じて、空から降ってきた神の奇跡などではない。BNI社の工場が、深夜の闇に紛れて垂れ流した、紛れもない工業排水だ。この水を一口でも飲めば、あるいは肌に触れれば、神経系に回復不能な損傷を受けることになる。奇跡と呼んで喜んでいる場合ではないのだ」


アルジュンが、その震える指で化学分析チャートの急激な上昇曲線を指し示そうとしたその時、集会所の腐りかけた木製の扉が、蝶番を引きちぎらんばかりの猛烈な勢いで蹴破られた。なだれ込んできたのは、BNI社のロゴが眩しく刺繍された最新の制服に身を包んだ警官隊であった。彼らの腰には、ラジェシュが多額の寄付と引き換えに提供した、黒光りする真新しい警棒が下げられている。


その先頭に立つ警視正は、アルジュンの言葉を力任せに遮ると、使い古され黄ばんだ令状を、まるで汚物を払うかのような動作で彼の顔に叩きつけた。


「アルジュン。貴様を、民衆の尊い信仰を不当に侮辱し、社会の安寧を乱す暴動を扇動した罪で逮捕する。我々の誇りである神聖なるガンガーの奇跡を、貴様のような者が持ち出した根拠のない数字で汚すことは、この国が、そして神が決して許さない」


警視正の言葉は、正義の執行というよりは、台本を読み上げる三流役者のような空々しさに満ちていたが、その威圧感だけは本物であった。


アルジュンは抗議の声を上げようとしたが、屈強な警官たちの鉄のような腕によって、瞬時に背後から組み伏せられた。彼の頬は埃っぽいコンクリートの床に乱暴に押し付けられ、使い古された眼鏡が弾け飛んで床を滑っていく。その衝撃で、机の上に並んでいた試験管が無残に転がり落ち、中で揺れていた不気味な青い液体が、彼の清潔だった白いシャツを毒々しいコバルト色に染め上げていった。それはまるで、真実を語ろうとした者への冷酷な刻印のようであった。


「真実を見ろ。川が、母なる大河が殺されているんだ。数字は嘘をつかない」


アルジュンは必死に抵抗し、床に顔を擦り付けながら叫び続けたが、その悲痛な叫びは、警官たちの重いタクティカルブーツが床を鳴らす無機質な足音にかき消された。さらに、遠くの寺院から聞こえてくる、平穏と奇跡を祝福する鐘の音が、重苦しい集会所の中まで無慈悲に響き渡る。彼は、かつて自分が救おうと誓った民衆の信仰が、今や自分の首を絞める鎖となっている皮肉を噛み締めながら、引きずり出されていった。


彼が泥のようにパトカーへと放り込まれていくすぐ横では、まばゆいフラッシュの光が激しく明滅し、別のグループが華やかな記者会見の準備を着々と進めていた。そこに現れたのは、BNI社が「国際的な権威」として巨額の謝礼で招き寄せた、仕立ての良い防護服に身を包んだ偽の科学者たちである。彼らの防護服には一切の汚れがなく、まるで舞台衣装のような不自然な輝きを放っている。


リーダー格の男は、テレビカメラの赤い録画ランプが点灯したのを熟練の俳優のように確認すると、レンズの向こう側にいる数千万人の視聴者に向けて、この世の全ての慈愛を凝縮したような温和な笑みを浮かべた。彼は、高級なインクの香りが漂うマイクの前に立ち、ゆっくりと、しかし確信に満ちた口調で語り始めた。その背後では、連行されるアルジュンのパトカーのドアが閉まる鈍い音が響いたが、彼は眉ひとつ動かさなかった。


偽の科学者のリーダーは、自らの顎に蓄えた知的な印象を与えるための白髪混じりの髭を、芝居がかった手つきで撫でた。彼は、背後でアルジュンがパトカーの硬い座席に押し込まれ、絶望の叫びを上げている様子など最初から視界に入っていないかのように、カメラのレンズを見つめて朗々と語り続けた。


「我々の精密かつ多角的な調査によれば、この美しい青い成分は、工場などの矮小な存在から生じたものではないことが科学的に証明されました。これは地球の深部、恐らくは地殻を突き抜けたさらにその先、聖なる地層から数千年の時を経て湧き出した未知のミネラルであることが判明したのです。これは現代科学の未熟な物差しでは到底測り得ない、いわば科学を超越した存在なのです。我々人類に今できることは、分析ではなく、地球そのものが与えてくれたこの癒やしの成分を、畏敬の念を持って受け入れることだけなのです」


男は、まるで高級化粧品のコマーシャルの主役を演じているかのように、白く輝く歯を見せて完璧な角度で微笑んだ。その背後に設置された巨大なモニターには、BNI社の株価が垂直に近い角度で急上昇していることを示す、鮮やかな青い折れ線グラフが誇らしげに映し出されている。


その中継映像を、特注の革椅子にふんぞり返って眺めていたラジェシュは、満足感のあまり大きく突き出した腹を揺らして笑った。彼は手元にある金の鈴を鳴らし、新しいマサラチャイを運んでこさせた。


「見ろ、李さん。本物の科学者は牢獄に消え、偽の科学者が英雄として喝采を浴びる。これが現代の錬金術だ。毒を金に変え、悲鳴を祈りに変える。シヴァ神も、この見事な演出にはさぞかし驚かれていることだろう」


ラジェシュは、窓の外で青い川に顔を浸し、熱狂的に祈りを捧げる民衆の姿を、まるで盤上の駒を眺めるチェスプレイヤーのような冷徹な目で見下ろした。聖なるガンジスは、今やBNI社という名の巨大な魔物が吐き出した青い血によって、その本来の姿を無惨に塗りつぶされていた。


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