第1部:青き神託と黄金の盾 1-2. サドゥー買収と青い予言
リシケシュの切り立った山肌が、沈みゆく太陽によって不気味なほど鮮やかな紫色に染まる頃、BNI社のロゴが隠された黒塗りの高級SUVが、未舗装の険しい山道を悲鳴のようなエンジン音を上げて登っていた。後部座席のラジェシュは、揺れる車内で脂ぎった額から噴き出す汗を、高級なシルクのハンカチで何度も拭い去っていた。彼の膝の上には、重厚なアタッシュケースが鎮座している。その中身は、解脱を目指す者が目にするにはあまりに世俗的な、最新型マッサージチェアの極彩色カタログ、イタリア製の大理石をふんだんに使用する予定の豪華アシュラムの設計図、そして束ねられた多額の小切手であった。
車がようやく辿り着いたのは、地域で最も神聖視され、一言で数万の民を動かすと言われる最高位の修行僧、スワミ・ヴィシュヌが瞑想を行っているとされる古びた洞窟の前であった。洞窟の入り口には、俗世の汚れを拒むような静寂が漂っている。ヴィシュヌは、聖なる灰を全身に塗りたくった痩身の体を、石像のように微動だにさせず座っていた。しかし、ラジェシュが卑屈な笑みを浮かべながら差し出した「寄付金」という名の分厚い封筒がその指先に触れた瞬間、修行僧の白濁した瞳の奥に、悟りとは程遠いぎらついた世俗の光が灯ったのを、ラジェシュは見逃さなかった。
ラジェシュは、ボリウッド映画の悲劇の主人公のような大仰な動作で地面に膝をつくと、芝居がかった手つきで修行僧の埃っぽい足元に触れ、深い敬意を示すポーズを取った。
「おお、偉大なるスワミよ。シヴァ神は我々のような卑小な商人に、新しい時代の道場を建立せよとの啓示を授けられました。そこには、修行のお疲れを癒やす最新の浄水システムはもちろん、信者たちが迷うことなく、かつ迅速に寄付を完了できる最新の電子決済端末まで完備される予定です。すべては、あなたのあまりに高潔で、かつ我々には計り知れないほど貴重な魂をお守りするためなのです」
ヴィシュヌは、長く不潔に伸びた爪で白く縮れた顎髭をゆっくりと撫で回した。年間数億円相当という、神ですら驚くような維持費が約束された契約書を差し出されると、彼は聖なる印を刻む代わりに、高級万年筆をひったくるようにして、世俗的な欲望が透けて見える無造作な署名を記した。
数日後の満月の夜、河川敷は人間の肉体と熱気で埋め尽くされていた。足の踏み場もないほどに集結した数万人の信者たちは、誰一人として沈黙を守る術を知らず、湿った重苦しい空気に彼らの吐息と野太い祈祷の唱和が混ざり合う。夜風が運ぶ線香の濃厚な香りは、密集した群衆の酸っぱい体臭と不協和音を奏で、ガンジス川の静かな流音さえもかき消さんばかりだ。暗闇の中で無数に揺らめく松明の火が、信者たちの陶酔した瞳をオレンジ色にぎらつかせ、まるで巨大な生き物がうねっているかのような錯覚を呼び起こす。
その熱狂の頂点、闇を切り裂くサーチライトに照らされた特設の黄金壇上に、純白の極上絹衣に身を包んだスワミ・ヴィシュヌが、スローモーションのような足取りで姿を現した。彼はかつての洞窟での隠遁生活を微塵も感じさせないほど堂々と、しかし計算され尽くした神々しさを纏っている。ヴィシュヌは細長い指先で、首元に固定された最新型の目立たないワイヤレスマイクの位置を微調整した。スピーカーから響き渡る彼の低く重厚な声は、最新の音響機材によって不自然なほど増幅され、飢えた獣のように神の言葉を待ちわびる群衆の鼓膜を直接震わせる。
「聴くがよい。我々の不信心と飽くなき欲望により、聖なる母なるガンガーは今、かつてない危機に瀕している。母なる川は今や枯れ果て、我々の罪という名の泥にまみれて喘いでいるのだ。お前たちの不浄な心が、この清らかな流れを濁らせたのだ」
ヴィシュヌが悲痛な表情でそう告げると、集まった信者たちの間に、地鳴りのようなすすり泣きと激しい祈りの叫びが波紋のように広がっていった。人々は自らの罪を悔い改めるかのように胸を叩き、あるいは額を泥土に擦りつける。ヴィシュヌはその光景を、慈悲深い聖者の仮面を被ったまま見下ろした。彼は一度、壇上の巨大なスピーカーの影に潜み、冷や汗を拭いながら戦況を見守るラジェシュへと鋭い視線を送った。二人の間には、信仰を金で売買した者同士にしか分からぬ、暗く不敵な笑みが一瞬だけ交わされた。
「だが、絶望に沈む必要はない。破壊の神シヴァは、この暗黒の時代にあっても、我々に最後の慈悲を与えられたのだ」
ヴィシュヌはそう叫ぶと、ボリウッド映画の絶頂シーンを彷彿とさせる鮮やかな手つきで、両腕を大きく天に向かって突き上げた。満月の白い光が彼の白い衣を透かし、まるで彼自身が発光しているかのような劇的な演出が、群衆の狂信をさらに煽り立てていく。
ヴィシュヌは天を仰ぎ、まるでシヴァ神の雷をその身に受けているかのように体を激しく震わせた。壇上の照明が彼の純白の衣を青白く照らし出し、数万人の群衆はその一挙手一投足に己の救済を賭けて、固唾を呑んで見守っている。彼は一呼吸の間を置き、劇場的な沈黙で聴衆の心を限界まで引き絞った後、肺の底から絞り出すような力強い声で予言を放った。
「見よ。今に神の喉の色、すなわち聖なる『ニーラ』が、この母なる川を鮮やかに染め上げるだろう。それは人間の業が作り出した濁りを一掃し、魂の深淵までを洗い流すシヴァ神の奇跡だ。その青き輝きが現れる時、我々の罪は赦され、この地は神の浄土へと生まれ変わるのだ。近々、母なる川は劇的な変貌を遂げるであろう。青き神託を疑うことなく信じ、その奇跡の瞬間を待つがよい」
この宣言が響き渡った瞬間、河川敷には爆発的な狂信の渦が巻き起こった。信者たちは名前を絶叫し、ある者は涙を流しながら大地に接吻し、またある者は隣人と抱き合って歓喜の舞を踊り始めた。数万人の熱狂が大地を揺らし、その振動は舞台裏で金の勘定に余念がないラジェシュの足元にまで伝わっていった。ヴィシュヌは、目の前で繰り広げられる地獄絵図のような熱狂を、まつ毛ひとつ動かさずに冷めた目で見つめていた。
彼の脳裏にあるのは、救済を求める民衆の姿ではなく、BNI社のカタログに載っていた特注のエルゴノミクス瞑想ベッドのことだった。最高級の低反発素材が使われ、背骨のラインを完璧にサポートするというそのベッドの寝心地が、これまでの硬い岩肌での睡眠をどれほど快適に変えてくれるか。彼は聖者としての威厳を保ちながら、心の中で新しいアシュラムに運び込まれる予定のイタリア製家具の配置を完璧にシミュレートしていた。
狂信的な叫び声が夜空に吸い込まれていく中、ヴィシュヌはゆっくりと、しかし確かな満足感を抱いて壇を下りた。彼の手には、シヴァ神の代理人としての権威と、世俗の快楽を極めるための鍵が握られていた。聖なる河川敷は、もはや信仰の場ではなく、巧妙に仕組まれた壮大な詐欺の舞台へと変貌を遂げていた。




