第3部:聖なる変異と青き檻 3-4. 青の神話
最後の祈りの歌が、ドロドロとした重金属の脂を浮かべた青い川面を震わせながら、大気の中へと重苦しく響き渡る。その熱狂的な合唱の合間を縫うように、BNI社のロゴを刻印した一台の最新鋭ドローンが、信者たちの頭上を低く、獲物を狙う鷹のような鋭さで飛び交い、その光景を克明に記録していた。ドローンのレンズが群衆の波をかき分け、一人の若者の姿を鮮明に捉える。彼はまだ二十歳前後、この青き支配が完成した後に生を受けた「新人類」であった。
彼の肌は、かつての人間が持っていた温かみのある色彩を一切排除し、深海の底に沈む宝石のように透き通るようなコバルトブルーに変色している。この肌の色は、BNI社が聖なる色を定着させるために廃液に混入させた、高濃度銀コロイドによる銀皮症の極致であった。さらに、その目尻には化学反応の副産物か、あるいは遺伝子の悲鳴か、金色の斑点が美しい刺繍のように浮かび上がっていた。彼の瞳は、もはや正常な思考を司る者のそれではなく、底知れぬ狂気と、しかし同時に何者にも侵されない純粋なまでの幸福感に満ち溢れている。
青年は、粘土質の青い泥が厚くへばりついた川岸に、恭しく跪いた。彼は、まるで千年の歴史を持つ聖なる儀式を執り行う司祭のような、慎重かつ洗練された手つきで、足元の青い水を両手で掬い上げた。手のひらの上で、死を孕んだ青い水が夕陽を浴びてキラキラと不吉な輝きを放ち、周囲には鼻を突く金属質の異臭が立ち込める。しかし、青年はその異臭を、愛する者の吐息であるかのように一度深く吸い込んだのである。
彼は陶酔しきった表情で静かに目を閉じると、掬い上げたその青い水を一口、慈しむように喉の奥へと流し込んだ。喉仏が小刻みに上下し、彼が作り出すその嚥下の音は、ドローンの高性能マイクが冷酷に拾い上げ、中継画面の向こう側へ生々しく響き渡る。彼の口元からは、飲みきれなかった青い水が滴り落ち、唇の端にこびり付いた泥は、まるでこの世ならざる神への捧げ物として施された、壮麗な化粧のように見えた。
青年は、まるで長い瞑想から目覚めたかのように、ゆっくりと重い瞼を持ち上げた。その瞳に映っているのは、もはや現実の荒廃した風景ではなく、彼自身の脳内で構築された神聖なる極楽浄土の幻影であった。彼は、毒液によって青く染まり、感覚の麻痺し始めた唇をわずかに震わせて、言葉を紡ぎ出した。その声は、重金属に侵された肺から絞り出されたため、ひどくかすれてはいたものの、この世の何物にも代えがたい喜びと、深い感謝の念に満ち溢れていた。
「神の味がする」
その一言は、周囲で踊り狂う群衆の咆哮さえも一瞬だけかき消すような、不思議な静寂を伴って響いた。青年は、自分を凝視しているドローンの冷徹なカメラレンズに向かって、汚れ一つない、あまりにも純粋な笑顔を見せた。その表情には、自らの肉体が内側から崩壊していく恐怖や、かつての美しい大地が失われたことへの悲嘆など微塵も存在しない。
その笑顔は、この二十数年の間にこの地で起こったすべての悲惨な公害、数えきれない死、そして未来永劫続くであろうさらなる悲劇を、巨大な愛の如き「絶対的な肯定」で包み込んでしまうような、神々しくも空恐ろしい輝きを放っていた。カメラは、恍惚とした表情で青い水を飲み干した青年の、その歪んだ幸福の絶頂を数秒間にわたって映し出し続けた。
やがて、画面は青年の笑顔を中央に据えたまま、周囲の青い霧と溶け合うように、ゆっくりと、そして確実に深いコバルトブルーの闇へとフェードアウトしていく。映像の最後には、もはや人間の呻きか、あるいは神を讃える歌か判別のつかない、不気味で美しい旋律だけが余韻として残されていた。
数十年後、この地は地球上のどの地図にも正しく分類されない、奇妙で壮麗な場所として、外部の探検家や命知らずの旅行者たちの間で伝説のように語り継がれることになった。かつてここが強欲な企業の放流した環境汚染によって滅びかけた、薄汚れた工業地帯であったことなど、もはや誰一人として知り得ない。科学的な記録や告発の言葉はすべて焚き火の灰となり、青い泥に飲み込まれて久しいからである。
新世代の旅人たちは、古びた電子地図の片隅に、半分は冗談、半分は畏怖を込めて記された「奇跡のコバルト・リヴァー」という名前だけを頼りに、その青き異界を目指すことになる。彼らがようやく辿り着いたその場所で目にするのは、有毒な蒸気が作り出す虹色の空と、静脈まで青く染まった人々が踊る、悪夢のような楽園だ。そこでは、青い肌をした人々が、不自然なほど鮮やかな青い水を飲み、青い廃液の滴る神殿で、青い神々を崇めながら、永遠に続く青い信仰の中で生きていた。
彼らはもはや被害者でも、病に侵された者でもなかった。自分たちをこの世界の正統な後継者であると信じ、その特異な肉体を誇りとしていた。かつての悲劇は、今や美しい旋律を伴う叙事詩へと昇華され、住民たちは自らの「聖なる変容」を讃える歌を、青い川面に向かって高らかに響かせている。
世界は、一つのかけがえのない真実、すなわち「かつての清らかな流れ」を永遠に失った。しかしその代わりに、一人の詐欺師と冷徹な資本が作り上げた、あまりにも美しくもグロテスクな「永遠の神話」を、自らの血肉として手に入れたのである。コバルトブルーの霧がすべてを包み込み、そこにはただ、神話の完成を祝福するような、異様な静寂だけが横たわっていた。




