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ゴールを揺らすのは、後悔以外で  作者: ひねみずうみ


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11.過去(4)

「道花って、舷くんと付き合ってんの?」


 部室で結衣にそう聞かれたのは、高校二年になって少し経った頃だった。


「え」


 予想もしていなかった質問に、一瞬ぽかんとなる。それから慌てて首を振った。


「付き合ってない」

「は?」


(は!?)


 険しい顔で投げ返された反応は乱暴だ。ほかのメンバーもぴたりと話すのを止めていて、部室はしーんとなっている。


「そういうのしらけるからやめてくれない?」

「え、いや、ほんとに、そういうんじゃないんだけど」


 結衣の攻撃的な追い打ちは止まらず、戸惑って俯く。そこで、菜々美が助け舟を出してくれた。


「結衣、どうどう」


 冗談めかしてぽんぽんと結衣の肩を叩く。


「菜々美! だって二人、めっちゃ一緒に帰ってない?」

「え~? そうだっけ」

「あれはこう、偶然タイミングが一緒になるというか……ていうか、ほんとに、バスケの話しかしてないよ」

「は? 口実でしょ?」


 吐き捨てるようなその反応には、さすがにかちんときた。


「口実なんかじゃない。こないだのウィンターカップの白羽(しらは)高校の外川(とがわ)選手がすごかった話とか、最近ディフェンス抜く時これを試してみてるとか、アメリカ行ってた東中(ひがしなか)選手がリーグに戻ってきたねとか、そういう話だよ」


 早口で並び立てたら、結衣も気圧されたように黙り込んだ。

 沈黙から救ってくれたのは、また菜々美だ。


「結衣さぁ、水上くん狙いだったら、もっと真剣にバスケやりなよ」

「やってるじゃん! てか、別に狙ってないし!」


 結衣はむくれたが、さっきまでの怖い雰囲気ではない。菜々美のおかげで少しぴりぴりしていた部室内の空気が変わり、笑いが起こる。


「ちょっと、みんな笑わないでよ!」


 結衣が周りを見渡して言うが、その声も本気で怒っているという感じではない。

 助かった、と思った。ちらりと菜々美をみると、こちらを気遣うみたいに、眉を下げて頷いてくれる。


 結衣の目はこちらに向くことはなかったが、道花は小さく決意した。

 こんな面倒くさいことになるなら、舷と帰るのをやめよう。



 一年の間、タイミングが合えば少しの時間試合に出るくらいだった道花は、二年では正式にレギュラーになった。

 三年の先輩たちの代の成績はインターハイ初戦敗退。その次の天音の代は、初戦を勝ち抜き、全員でハイタッチして喜んだ。

 自分の意見も取り入れてくれる温かい先輩に囲まれて、試合で勝ちぬけば「道花のおかげだよ」と褒めてもらえる。当初心配していた強豪校の辛さみたいなものは、ほとんど味わうことはなかった。

 充実した二年が終わって、「来年は頼んだよ」と天音が声をかけてくれた。その時ようやく、道花をどっと心細さが襲った。

 あまり考えすぎても、仕方ない。

 道花はそう自分に言い聞かせた。

 そうして、先輩に頼りっぱなしだったツケを払うことになる。




 キャプテンが誰になるのか。


 それは、誰もが触れにくい話題だった。チームメイトの推薦にも効果はあるが、本人がやりたいかどうかは分からない。勝手に誰かの名前を挙げたとしても、最終的には顧問の早森がコーチと相談して決めることだから、そうならなかったら気まずい。

 だから、部室にいる時も遠征の時も、みんなさりげなくその話題を避けていた。

 声が大きく、普段からみんなの注目を集めるのは結衣だ。でも道花は、結衣だけはキャプテンになってくれるな、と内心で祈っていた。あれからも結衣は明らかに道花にだけ冷たく、キャプテンになればどう圧をかけられるか分からなかったから。

 同時に、チームを悲劇が襲った。

 菜々美が、怪我をしたのだ。

 試合中に崩れ落ちて動けなくなった菜々美は、膝を抑えていた。顧問の早森は詳しい話はしなかったが、なんとなく漏れ聞こえる話から、治すには手術が必要で、ただ、手術をしたとしても、必ず元に戻るわけではない。そして、高校の間にバスケのプレーヤーとして復帰をするのは難しいという、残酷な事実だった。

 誰の気持ちも覚悟も整わないまま、上の代の引退がバタバタと行われた。


 そうして、道花は顧問の早森から、正式に打診を受けることになる。


「キャプテンはお前がいいっていう声が圧倒的だ」


 そう伝えられて、嬉しいという気持ちももちろんあったが、抵抗感と恐怖も大きかった。

 試合経験はある。でも、自分には圧倒的にコミュニケーション能力が足りない。


「結衣……尾澤さんじゃなくていいんですか?」

「えー? ああ……」


 顧問の早森は、ことなかれ主義だ。よく先輩たちもそう不満を溢していた。何か起こるまで、動いてはくれない。ある程度はこっちでなんとかしないと、と。その言葉の通り、道花の前で、面倒くさそうな雰囲気を隠そうともしない。


「あいつだけはやめてくれっていう声もいくつかある。そうなると、お前くらいしかあいつを抑えられないだろ」

「私も無理だと思いますけど……菜々美は、やっぱり、復帰は難しいんですか?」

「うーん、まぁ個人情報だからアレだが……たぶん、残りの期間は、マネージャーをやることになる」

「そうです……か」


 怪我をした菜々美は明るく振る舞ってはいたけれど、その心の中の悔しさがどれほどのものか、道花には分からない。


(私は、楽しくバスケがしたい。できれば、チームのメンバーがそれぞれのよさを発揮できれば、もっと……)


「尾澤は、副キャプテンに推薦しようと思ってる」


 その言葉に、一瞬迷った。

 絶対にやりにくい。副キャプテンになれば、常に結衣に意見を求めることになる。でも、道花だけがそのしんどさだけ我慢すれば、変に知らないところで動かれるよりいいのかもしれない。チームとして、一番うまく回る形をとるべきだ。


「……分かりました」


 道花はそうして、承諾した。



「キャプテンは道花だ」


 パチパチという拍手と笑顔。思ったよりも温かい反応に、道花はほっとした。結衣の顔は、怖くて見られなかった。

 部室に帰ってからも、誰からも特にキャプテンに関する言及はなくて、それが逆に怖かった。

 でも、バスケがやれればそれでいい。

 そう、思っていた。

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