第1章7 旅の始まり
最後まで読んでくださると嬉しいです!
「本当に、行ってしまうのですか」
村長が、名残惜しそうに僕らの背中を見つめていた。一週間前とは違い、その目には深い敬意と感謝が宿っている。
「あぁ。名残惜しいが、魔王のところになんとしてでも行かなくては行けないからな。この村のことを頼みます。あと、あの貸してくれた小屋は、そのままにしておいてくれると助かる」
僕にとっては、ここがこの世界での「創業の地」だ。いつか戻ってくる時のための拠点は残しておきたい。
「わかりました。この村から知恵の勇者様一行の無事と成功を祈っております」
「ありがとう! ではまた」
僕は短く応え、前を向いた。
「村の皆さん、ありがとうございました!」
続けてミユが元気よく、けれど少し声を震わせて叫び、僕たちは市ノ尾村を後にした。
村外れまで歩き、周囲に誰もいなくなったところで、僕は隣を歩くパートナーに声をかけた。
「じゃあ。ミユ、これからもよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします! タクマ様、どんなことがあっても、どこまでもついていきますからね」
ミユの言葉には、迷いがなかった。栄養状態が改善され、艶やかになった彼女の瞳が、真っ直ぐに僕を射抜く。
「ふっ……置いてはいかないよ」
(ミユが、幸せに暮らせるようになるまでは)
僕は心の中でそう付け加えた。それは経営者としての責任感か、あるいはそれ以上の何かか。自分でもまだ、その答えを定義できずにいた。
僕たちが目指すのは、隣の「峠下村」。
だが、その道のりは平坦ではない。市ノ尾村はかつて西への玄関口として栄えたが、新しく整備された本街道にその座を奪われた。僕たちが選んだのは、今や「旧ルート」と呼ばれる、地図からも消えかかっている険しい峠道だ。
「……本当にこんな道を通っていくんですか」
ミユが、崖の下を覗き込んで顔を強張らせた。
「うん。それしかない。前進あるのみだ」
平静を装って答えたが、実際は僕だって心臓がバクバク言っている。
道は、切り立った断崖の縁をなぞるように続いている。二人並べば精一杯。三人並ぶのは物理的に不可能だ。足を踏み外せば、眼下に広がる鋭利な岩肌が剥き出しの渓谷へ真っ逆さまである。
(……足、ガクガクしてる。これ、ステータスに『高所恐怖症』とか追加されないだろうな)
僕は**【知恵】**を使い、足場の強度を常にスキャンし続けた。
> 【解析結果】
> 路肩の崩落危険度:15%
> 最適な踏破ポイント:壁面から30cm内側
>
「ミユ、僕が踏んだところだけを歩くんだ。一歩ずつ、重心を壁側に寄せて」
「は、はい……!」
ミユは僕の服の裾をぎゅっと掴み、慎重に足を運ぶ。
時折、パラパラと小石が谷底へ落ちていく音が、僕たちの緊張感を跳ね上げた。
この旧ルートは、王国の追っ手やレオンたちの目を欺くには最適だ。だが、その代償は「自然という名の暴力」との戦いだった。
「タクマ様、あそこ……何かいます!」
ミユの鋭い耳が、風の音に混じる異質な「羽音」を捉えた。
断崖の影から、この険しい地形を根城にする魔物の気配が漂い始める。
「本当に、行ってしまうのですか」
村長が、名残惜しそうに僕らの背中を見つめていた。一週間前とは違い、その目には深い敬意と感謝が宿っている。
「あぁ。名残惜しいが、魔王のところになんとしてでも行かなくては行けないからな。この村のことを頼みます。あと、あの貸してくれた小屋は、そのままにしておいてくれると助かる」
僕にとっては、ここがこの世界での「初の拠点」だ。いつか戻ってくる時のための拠点は残しておきたい。
「わかりました。この村から知恵の勇者様一行の無事と成功を祈っております」
「ありがとう! ではまた」
僕は短く応え、前を向いた。
「村の皆さん、ありがとうございました!」
続けてミユが元気よく、けれど少し声を震わせて叫び、僕たちは市ノ尾村を後にした。
村外れまで歩き、周囲に誰もいなくなったところで、僕は隣を歩くパートナーに声をかけた。
「じゃあ。ミユ、これからもよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします! タクマ様、どんなことがあっても、どこまでもついていきますからね」
ミユの言葉には、迷いがなかった。栄養状態が改善され、艶やかになった彼女の瞳が、真っ直ぐに僕を射抜く。
「ふっ……置いてはいかないよ」
(ミユが、幸せに暮らせるようになるまでは)
僕は心の中でそう付け加えた。それは経営者としての責任感か、あるいはそれ以上の何かか。自分でもまだ、その答えを定義できずにいた。
僕たちが目指すのは、隣の「峠下村」。
だが、その道のりは平坦ではない。市ノ尾村はかつて西への玄関口として栄えたが、新しく整備された本街道にその座を奪われた。僕たちが選んだのは、今や「旧ルート」と呼ばれる、地図からも消えかかっている険しい峠道だ。
「……本当にこんな道を通っていくんですか」
ミユが、崖の下を覗き込んで顔を強張らせた。
「うん。それしかない。前進あるのみだ」
平静を装って答えたが、実際は僕だって心臓がバクバク言っている。
道は、切り立った断崖の縁をなぞるように続いている。二人並べば精一杯。三人並ぶのは物理的に不可能だ。足を踏み外せば、眼下に広がる鋭利な岩肌が剥き出しの渓谷へ真っ逆さまである。
(……足、ガクガクしてる。これ、ステータスに『高所恐怖症』とか追加されないだろうな)
僕は【知恵】を使い、足場の強度を常にスキャンし続けた。
> 【解析結果】
> 路肩の崩落危険度:15%
> 最適な踏破ポイント:壁面から30cm内側
>
「ミユ、僕が踏んだところだけを歩くんだ。一歩ずつ、重心を壁側に寄せて」
「は、はい……!」
ミユは僕の服の裾をぎゅっと掴み、慎重に足を運ぶ。
時折、パラパラと小石が谷底へ落ちていく音が、僕たちの緊張感を跳ね上げた。
この旧ルートは、王国の追っ手やレオンたちの目を欺くには最適だ。だが、その代償は「自然という名の暴力」との戦いだった。
「タクマ様、あそこ……何かいます!」
ミユの鋭い耳が、風の音に混じる異質な「羽音」を捉えた。
断崖の影から、この険しい地形を根城にする魔物の気配が漂い始める。
「タクマ様。あれ…」そう指を指して、顔を青ざめながら言った。
「あ。あれは、なんだ。詰みだな!」
思わず口を突いて出たその言葉に、自分自身で心臓が跳ね上がるのを感じた。
「タクマ様?!」
ミユが驚いて僕の顔を覗き込む。
「……っ、しまった。二重の意味で今ヤバイ。僕が『知恵の勇者』で、【言霊】の権能を持ってるのを一瞬忘れてた」
僕は青ざめながら、冷や汗が背中を伝うのを感じた。僕が発する言葉は、世界の理を確定させる力。この絶壁の上で「詰み(=敗北・死)」を確定させてしまったら、因果が捻じ曲がって、今すぐこの足場が崩落してもおかしくない。
「あ……」
ミユの顔も、僕の言葉の意味を理解してどんどん青ざめていく。
「よし、訂正だ。……戦おう。一週間前の僕らならできなかった、でき得なかっただろう。でも、森で死線を越えて、レベルを上げた今の僕らには――勝ち筋があふれている!」
無理やりにでも言葉を上書きした瞬間、【言霊】の権能が微かに反応し、重苦しかった空気がわずかに「勝利の可能性」へと揺らいだ。
視線の先、渓谷の向こう側から現れたのは、巨大な翼を広げた「ロック・バードズ」の群れだった。この切り立った崖をテリトリーにする、空の捕食者。
地の利は完全に向こうにある。僕たちは一歩踏み外せば終わりの一本道、向こうは三次元を自由自在に動ける。
「ミユ、僕が盾で突進を防ぐ。その反動を利用して、君が跳べ。……崖側に落とされるな、常に外側から翼を狙え!」
「了解です! ……タクマ様、怖くないんですか?」
ミユが僕の足の震えに気づいて、少しだけ茶化すように、けれど励ますように微笑んだ。
「……怖いさ! 経営者は常に臆病であるべきなんだ。でも、リスクを恐れて利益(勝利)を逃すのは、もっと怖い!」
僕は鍛冶屋から授かった木製の盾を構え、重心を低くした。崖下からの突風が吹き上げる。
「来るぞ! ――【定義:僕の足場は鉄より硬く、不動なり】!」
言霊で自分の足場を強制固定する。
直後、空から矢のような速度で巨鳥が急降下してきた。鉄の剣を引き抜き、盾を食いしばるように構える。
ここが、旧ルート最大の難所。
そして、僕たちの「実戦レベリング」の真価が問われる最初の商談だ。
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