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第1章4 死の病と泥の中の救世主

最後まで読んでくださると嬉しいです!

「……タクマ様、これ、本当に薬になるんですか?」

ミユが不安そうに、バケツの中のドロドロとした植物の混合物を見つめる。

「ああ。この村の連中が『不吉な草』と呼んで忌み嫌っていたこの魔吸い草は、実は空気中の余剰魔力を吸収する性質がある。そして、君が見つけたこの野草は、強力な殺菌作用を持っているんだ」


僕は「知恵」で解析した最適解に基づき、すり鉢で丁寧にそれらを調合していく。

この村を襲っているのは、王国が「呪い」と呼んで放置した流行病——その正体は、過剰な魔力が肺に蓄積して炎症を起こす「魔力肺線維症」だ。

「よし、完成だ。名付けて『タクマ式・魔力中和軟膏』。……ミユ、これを持って村長の家に行くぞ」


「でも、村の人たちは私を怖がって……」

「大丈夫だ。ミユ、君は僕の『最高資産』であり、この商売の『広告塔』なんだ。堂々としていろ」

村長の家へ向かうと、そこには熱にうなされ、肌をどす黒く変色させた村の子供たちが横たわっていた。村長は絶望した表情で、僕たちを追い払おうとする。

「帰れ! 亜人のガキを連れた無能勇者などに、何の用だ!」

「村長、経営者の視点で話をしましょう。このままでは、この村の次世代の労働力は全滅します。……それはこの村の『倒産』を意味する。……それを僕が、この一瓶で救ってあげようと言っているんです」

僕は冷徹に言い放ち、嫌がる村長を押し切って、一番重症の子供の胸元に軟膏を塗布した。


一分後。

子供の肌から黒い霧のような魔力が吸い出され、苦しげだった呼吸が劇的に改善した。

「……あ……呼吸が、楽に……」

「な、なんだと!? 王国の神官様でも治せなかった呪いが……!」

村人たちがどよめく。僕はすかさず、彼らに向かって「言葉」を紡いだ。

「皆さん、これは奇跡ではありません。正しい『知識』に基づいた処置です。……そして、この薬の材料は、この村の周囲にいくらでも生えている。……わかりますか? 今日からこの村は、王都の貴族すら欲しがる『特効薬』の生産拠点に変わるんです」

差別と恐怖に満ちていた村人の目が、「希望」と「欲」に変わる。

僕はその光景を、副会長時代の会議を見守るような冷めた目で見つめていた。


(王よ、見てるかい。世界を救うのは勇気じゃない。……圧倒的な『付加価値』なんだ)

この日、僕の手元には報酬として金貨5枚が転がり込み、ミユを見る村人の目は「不吉な化け物」から「福を運ぶたぬき娘」へと上書きされた。

「……タクマ様。私、初めて……『ありがとう』って、言われました」

ミユが涙を浮かべて笑う。

「当然だ。君の鼻がなければ、この配合は見つからなかった。」


 王都から逃れるように辿り着いた西の果ての村。かつては賑わっていたはずのメインストリートは、今や勇者レオン一行に踏み荒らされ、絶望の泥濘に沈んでいた。


「……タクマ殿、本当に、こんな廃れた村で……」

 村長が震える声で問う。彼は昨日、僕とミユに石を投げようとしたことを深く悔い、何度も頭を下げていた。

「謝罪はもういいと言いました。村長、ここは『廃れた村』じゃない。僕が買い叩いた、最高の『投資先』です」

 僕は、村長からこの村の実態を聞いた。

 この村には、初代勇者が遺したというボロボロの写本——算数や理科の基礎が記された「教科書」が眠っていた。村長らはそれを「魔法の経典」として盲信し、形だけを教えていたが、本質は死んでいた。

「これを『アップデート』します。読み書きは単なる儀式じゃない。豊かになるための『手段』だ」

 僕は【言霊】を乗せ、村の壁を黒板に変えて授業を始めた。子供たちの濁っていた瞳に、理解という名の光が宿る。


 同時に、ミユが嗅ぎ分けた薬草を「魔力中和薬」へと加工し、村を製薬拠点へと変貌させた。教育、インフラ、産業。僕の「経営」によって、死んでいた通りに活気が戻り始めた。

 そんな中、ふと自分自身の内側に意識を向けた。王国の鑑定士が「無能」と断じた、僕の真実。


「……ステータス、オープン」

 浮かび上がったのは、王国の鑑定器では表示不可能な神域の記録だった。

【職業】知恵の勇者

【固有権能】

知恵ロゴス: 万象解析。最適解の導出。

言霊エグゼキュート: 確定。全生物との対話と、言葉による事象の強制実行。

ロールバック: 死に戻り特化。※代償あり。


 鑑定士は「魔力ゼロ」と笑った。だが違う。僕は魔力を持つ必要がない。この世界そのものをリソースとして書き換える「管理者権限」こそが、僕の力だったのだ。

「……なるほど。兄さんはこのシステムの『バグ』に殺されたんだな」


 その時、広場の魔導水晶が「英雄レオンの戦果」を映し出す。元の世界で言うテレビ放送のようなものか。派手な魔法や攻撃で魔物を散らし、民に手を振るレオン。だが、彼が踏みつぶした畑や、見捨てた病人のことには一言も触れない。


「タクマ様……あちらの勇者様は、やっぱり凄いのですね……」

 不安げなミユの頭を、僕は優しく撫でた。

「いいかい、ミユ。あいつらは『正義』を浪費して、世界を赤字にしているだけだ。僕はそんな非効率なことはしない。知恵を刃に、言霊を法にして、この不条理な世界を根底から買い叩く」

 村人たちから「タクマ殿」「勇者様」と万雷の拍手を受けながら、僕は新調した外套を羽織った。


 金貨10枚から始まった物語は、一つの村を救うことができた。

最後まで読んでくださりありがとうございました!また別の作品や次の話も読んでくださると嬉しいです!

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