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第2章3 死んだ土地と漁農の勇者

最後まで読んでくださると嬉しいです!

王城からの帰り道。不二国へと続く旧道を歩く一行の間には、なんとも言えない絶妙な空気が流れていた。


 タクマ(14)の隣を歩くアヤカ(15)は、ボロボロの「漁網」を背負い、頬をこれでもかというほど膨らませてプイッと横を向いている。

「……タクマくんのバカ。無神経。デリカシー、マイナス一億点」

「悪かったって。まさかあんなに怒るとは思わなかったんだ。……でも、実際君、僕より背が低いし……」

「それはっ! この世界に来てから、まともにご飯も食べさせてもらえなかったからで! ちゃんと食べれば、すぐにお姉さんっぽくなるんだから! 私、タクマくんより一つ年上なんだからね!」

 そんな二人のやり取りを後ろで見ていたミユが、不思議そうに首をかしげて尋ねた。


「あの……タクマ様。先ほどからおっしゃっている『ろり』とは、一体どういう意味なのですか? 聖なる言葉か何かなのでしょうか」

「……っ。いや、なんて言うか、僕の世界の言葉で『実年齢より幼く見えること』を指す俗語だ。……決して、聖なる言葉なんかじゃない」

 タクマが苦笑いしながら説明すると、アヤカの目に涙がじんわりと浮かんだ。自分を無能と切り捨てた王城で、唯一自分を「価値ある勇者」として拾い上げてくれたのが、目の前の年下の少年だったことを思い出したからだ。


「……タクマくん。さっきは、助けてくれて……ありがと。私、もうあそこにいたくないから、絶対役に立つからっ!」

 感極まったアヤカは、持っていた網を放り出し、タクマの細い体に勢いよく抱きついた。

「わっ、おい、アヤカ!?」

「うぅ……信じてくれるの、タクマくんだけなんだもん……!」

 アヤカはタクマの胸に顔を埋め、ぎゅっと力を込める。小柄な彼女の温もりが伝わり、タクマはたじろぎながらも、その背中をぎこちなくポンポンと叩いた。


 その光景を見ていたミユが、途端に頬を膨らませて「むすっ」と露骨に不機嫌な顔をした。

「……アヤカ様、早く離れてください」

「えー、いいじゃん! 私、タクマくんのお姉さん代わりだもん!」

「『ろり』なのに、ですか?」

「あー! ミユちゃん、それは禁句ーーー!!」

 嫉妬を隠さないミユと、必死に食らいつくアヤカ。


 そんな騒がしい若者たちの姿を、後ろから見ていたゼクスは、煤けた帽子を深く被り直し、優しく微笑んだ。

「へっ……。バラバラだったピースが、ようやく揃い始めたってわけか。最高だぜ、タクマさん」

 一人の経営者と、三人の仲間。

 不二国の旅路は、これまで以上に騒がしく、そして温かなものに変わり始めていた。


 王城から連れ帰ったアヤカと共に、タクマたちは不二国の外縁部に位置する荒れ果てた農地へと立っていた。そこは長年の魔力汚染により、作物が育つどころか雑草さえ生えない「死んだ土」だった。

「アヤカ、やってみせてくれ。君の力がこの国の『資本』になる」

「うん、任せてタクマくん! 年上の意地、見せちゃうんだから!」


 アヤカが使い古された「くわ」を構える。タクマの【厨二病コンセプト・メイカー】によって『因果を耕す開墾具』として再定義されたその道具が、淡い琥珀色の光を放った。

 アヤカが気合と共に、その鍬をひと振り、大地へと振り下ろす。

 ズゥゥゥン……!

 地響きと共に、鍬の先から浄化の波紋が広がっていった。土を黒く染めていた汚染物質が目に見えて消え去り、乾燥してひび割れていた地面が、しっとりとした生命力溢れる黒土へと一瞬で変貌していく。


「すごい……! 魔力の淀みが完全に消えたわ」

 ミユが驚愕の声を上げる。さらに驚くべきことに、アヤカが種を蒔く間もなく、土壌に眠っていた古の種子が芽吹き、青々とした葉がみるみるうちに成長し始めたのだ。

「えへへ、どうかな? タクマくん!」

 アヤカは満足げに胸を張ると、勢いそのままにタクマの腕に抱きついた。


「わわっ、お疲れ様。……ああ、想像以上の成果だ。これなら数日で収穫までいけるな」

「でしょー! 私、タクマくんの役に立てるのが一番嬉しいんだから!」

 タクマの腕に顔をすり寄せて甘えるアヤカ。

 その光景を横で見ていたミユの眉間に、深い皺が刻まれる。彼女は手にした槍を無意識にギュッと握りしめ、「むすっ」とした顔で二人を睨みつけた。


「……タクマ様。農地の視察は終わりました。次の公務へ移るべきです。アヤカ様も、いつまでも主人に密着するのは感心しません」

「えー、ミユちゃん固いよー。これは『功労者へのご褒美』なんだから!」

 あからさまに殺気?を放つミユと、どこ吹く風のアヤカ。


 そんな二人を眺めていたゼクスが、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらミユの隣に並んだ。

「おやおや、ミユさん。……ひょっとして、それは『嫉妬』ってやつかい?」

「なっ……! 違います! 私は従者として、不適切な距離感を指摘しているだけで……!」

 顔を真っ赤にして否定するミユを見て、ゼクスは肩をすくめて笑う。

「へっ、正直じゃねえなあ。まあ、この騒がしさが不二国のエネルギーになるんなら、悪かねえや」

 アヤカによる「食」の確保。タクマによる「知恵」。ミユの「武」。そしてゼクスの「商」。

 不二国は今、史上最高のバランスで回り始めていた。


最後まで読んでくださりありがとうございました!また別の作品や次の話も読んでくださると嬉しいです!

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