第2章2 ニ無勇者
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不二国の拠点を出たタクマたちは、整備を始めたばかりの旧道を歩いていた。
朝日が昇る中、旧道沿いの村々からは、かつて絶望に沈んでいたとは思えない活気ある声が響く。
「タクマ様! 行ってらっしゃいませ!」
「これ、少ないですが道中で食べてください!」
村人たちが次々と集まり、タクマたちに深々と頭を下げ、温かい見送りをする。その中には、かつてタクマを疑っていた村長もいた。村長はゼクスの肩を叩き、少し照れくさそうに笑う。
「ゼクス、あんたも……よくやってくれたな。この村が息を吹き返したのは、あんたがタクマさんの知恵を形にしてくれたおかげだ。戻ってきたら、また旨い酒を飲もうぜ」
「……へ、お言葉は嬉しいですが、村長。まだ、一応14です。酒はやめときます。」
ゼクスはぶっきらぼうに答えたが、その目元は少しだけ緩んでいた。初代従者の血を引く彼にとって、これこそが「守るべき価値」だった。
王城の謁見の間。そこには、相変わらず贅沢に身をやつした国王と、タクマを冷笑する勇者たちが並んでいた。
「……陛下。本日、私は正式に宣言する。旧道沿いの村々とその周辺土地を領土とし、独立国家『不二国』を建国した。この土地の領有権を認め、不可侵条約を結びたい」
タクマの淡々とした要求に、謁見の間は静まり返った後、爆笑に包まれた。
「ハハハ! あのゴミ溜めのような土地を国だというのか!」
「よかろう。あんな不毛な土地、くれてやるわ。その代わり、二度と王国の支援など期待するな。さっさと帰れ、不浄な者共め!」
国王は忌々しそうに手を振り、渋々ながらも割譲を承認した。彼らにとって、旧道は「捨てたはずの負債」に過ぎなかったからだ。
退出しようとするタクマたちの背中に、三武勇のレオンたちが追いすがって嫌がらせの言葉を投げつける。
「おいタクマ、まだ生きてたのか。しぶといゴミだな」
「おいおい、そこの亜人を連れ回して……。辱めるために奴隷として買ったんだろう? 趣味が悪いぜ。どうせ夜の相手でもさせてるんだろ?」
レオンたちの下卑た笑い声に、ミユの瞳が鋭く光った。
初代勇者の従者の末裔として、主君への侮辱、そして自分たちの誇りを踏みにじる言葉は許せなかった。ミユは無言で拳を固め、魔力を凝縮させる。
「……貴様ら、今の言葉を取り消せ」
ミユが拳を振り抜こうとしたその瞬間、タクマの冷たい手が彼女の腕を制した。
「ミユ、やめろ。こんな奴らに君の拳を向けるなんて、君の綺麗な手が可哀想だ。」
タクマはレオンたちを一瞥だにせず、吐き捨てるように言った。
「価値のない石ころを叩いても、自分の手が汚れるだけだ。行くぞ」
「……はい、タクマ様」
ミユは不機嫌そうに拳を収めたが、その背中からは王国の勇者たちを圧倒するオーラが漂っていた。
謁見の間を出て、薄暗い廊下を歩いていると、壁に背を預けていた宮廷魔術師ユキが姿を現した。彼女は、不気味な笑みを浮かべている。
「……相変わらずね、タクマ。ゴミを集めて国ごっこかしら?」
「ユキ。君の退屈なゲームに付き合う暇はない」
すれ違おうとするタクマに、ユキは囁くように告げた。
「いいものを見せてあげるわ。初代勇者に頭を冷やせって封印された私の恨み……まずはその『一部』をぶつけてあげる。……掃除係としてあそこで震えている『とある人』を、あなたにくれてやるわ。せいぜい、共倒れしてちょうだい」
ユキが指差した先。
そこには、ボロボロの雑巾を持ち、床に這いつくばって掃除をしている一人の少女――「漁農の勇者」の姿があった。
ボロボロの作業着、泥の跳ねた頬。背負っているのは、刃の欠けた「鍬」と、至る所が破れた「漁網」。
「……あの子が、『二無勇者』のもう一人。漁農の勇者、リンか」
タクマが呟くと、ユキは鼻で笑った。
「そうよ。一年前、勇者として召喚されたのに、持っていたのは泥臭い生活道具だけ。魔法の一つも使えない、ただの『村娘』よ。あなたたち無能同士、辺境の旧道で傷を舐め合えばいいわ」
ユキは、自分より一回り背が低く、あまりに幼く見える少女をヒールで小突いた。
タクマは、目の前の少女をまじまじと見つめる。彼女の、外見はどう見ても幼い子供のようだった。
「……ユキ。この子は僕が貰い受ける。君にとってはただのゴミだろうが、僕にとっては世界を買い叩くための『金の卵』だ」
タクマはゆっくりと歩み寄り、アヤカの前に跪いてその泥まみれの手を取った。アヤカは震える声で、消え入りそうな言葉を漏らす。
「……なにも。私は、いらない子だから……。掃除して、消えていくだけのゴミだから……」
裏切られた者の目。かつての自分と同じだ。タクマは彼女を安心させるように、だが少し無神経にこう言った。
「安心しろ。僕が拾い上げてやる。……それにしても、君、いくつなんだい? 」
「どう見ても『ロリ』にしか見えないんだけど」
その瞬間、廊下の空気が凍りついた。
それまで死んだ魚のような目をしていたアヤカの眉が、ピクリと跳ね上がる。
「……いま、なんて言ったの?」
地を這うような低い声。リンはゆっくりと顔を上げ、タクマを睨み据えた。
「『ロリ』……? 私、これでも15歳。君より、一つ上! 成長がちょっとゆっくりなだけ! ロリって言うなーーー!!」
怒りで震えるリンの周囲で、背負っていた網と鍬が共鳴するように黒い波動を放ち始める。タクマの【厨二病】が、彼女の怒りに呼応して勝手に「定義」を書き換え始めていた。
「おい、落ち着けリン! 悪かった、年上に見えないくらい可愛いって意味だ!」
「うるさーい!!」タクマの胸ぐらを掴んだ。
「……タクマくん。今の、取り消して。……謝るなら、今のうちに謝って」
「わ、わかった! すまない! 君は立派な『年上の勇者』だ!」
リンはフンッと鼻を鳴らして手をはなした。
自分を蔑んだ世界への怒りと、自分を拾い上げてくれたけど失礼な、タクマへの、強烈な対抗心と信頼。
「よし。……行こう、不二国へ。君を正当に評価できない場所なんて、こっちから捨ててやる」
15歳の少女が、14歳のタクマの隣で初めて「生きた感情」を取り戻した。
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