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第1章12 王国の動き

最後まで読んでくださると嬉しいです!

タクマとミユが不二国で農業革命を推し進めている頃、彼らが通り過ぎた「旧道」の村々では、かつてない変化が起きていた。

 峠下村の広場では、今や「街道の責任者」としての風格を漂わせる14歳の少年、ゼクスが忙しく指示を飛ばしていた。


「おい、そこ! 市ノ尾村から届いた『薬用酒』を丁寧に扱え! これは不二国連合(タクマ様)のブランド商品だぞ!」

 かつて勇者レオンたちに略奪され、飢えを待つだけだった村は、今や活気に溢れていた。

 タクマが敷いた「黄金の旧道」により、市ノ尾村の加工品と峠下村の鉱石が活発に流通し、村人たちの顔には肉付きが戻り、瞳には希望が宿っている。


「……タクマ様、見ていますか。俺たち、もう負けません」

 ゼクスは、村の入り口に誇らしげに掲げられた「不二国 拓真連合」の看板を見上げた。そこには、王国の兵士が来ても追い返せるだけの、タクマ直伝の「法論破マニュアル」と、言霊による強力な防壁がある。彼らにとってタクマは、空虚な正義を語る勇者ではなく、「腹を満たし、誇りを取り戻させてくれた本物の王」だった。


一方、華やかな王都の一角。

 豪華絢爛な会議室では、王国の内務卿と、拓真と一緒に召喚された勇者パーティーの勇者レオン一行が不機嫌そうに円卓を囲んでいた。


「……報告しろ。西の封鎖地帯、不二国の様子はどうだ」

 内務卿の問いに、先日、峠下村でタクマに追い返された徴収官の代理人が、震える声で答える。

「は、はい……。不二国周辺の村々が、突如として納税を拒否し始めました。それどころか、旧ルートに足を踏み入れようとした調査隊が、目に見えない『壁』に阻まれ、さらには……」

「さらには、なんだ!」

「……『不当な略奪に対する損害賠償請求書』なる書面を突きつけられました。差出人は……【知恵の勇者・一条拓真】と」


 その名が出た瞬間、レオンが机を叩いて立ち上がった。

「拓真だと!? あいつ、あの崖で死んだんじゃなかったのか!? しかもなにも能力がないのに、勇者を名乗りやがって。勇者は1人でいいんだ!!」

「生きていたようですな。しかも、あろうことか魔王軍の残党と手を組み、独自の経済圏を構築しているとの噂です。西から届くはずの『飢餓による降伏』の報告が途絶え、逆に不二国方面から『異常なほど豊かな魔力の波動』が観測されています」


 内務卿は苦々しく顔を歪めた。王国にとって不二国は、リソースを吸い取るための「搾りかす」であるべきだった。そこが豊かになることは、王国の支配構造そのものを揺るがすスキャンダルだ。


「ふざけるな!!拓真のやろう。勇者パーティからも王都からも追い出したはずだろ?そんな落武者が、しかも亜人の少女の奴隷を買ったあいつが?!信じられない!! 亜人の少女も自分の欲を満たし、そして鬱憤を晴らすために違いない。魔族ともてを組むとは難とも卑劣な最低野郎だ。今度会ったら正義の鉄槌を下してやる。」


「レオン、落ち着きたまえ。君の『正義』に傷がつくぞ。ゴミ捨て場だと思っていた場所で、追放したはずの男が王座を築こうとしている」


「……黙れ。あんな戦闘能力ゼロの男、僕がこの聖剣で今度こそ叩き斬ってやる」

 レオンの瞳に、嫉妬と怒りの炎が宿る。


 王都の会議室は、かつてない険悪な空気に包まれていた。

 円卓の端で、長い銀髪を揺らしながら冷めた瞳で事態を眺めている女がいた。勇者パーティーの宮廷魔導師、魔女ユキだ。


 彼女は、レオンが「正義」や「裏切り」といった感情的な言葉を吐き捨てるたびに、薄く笑みを浮かべていた。彼女にとって、この世界は高度な魔力式と効率で構成されるべき盤面であり、感情は何の役にも立たないノイズでしかない。


「レオン、あまり喚かないで。あなたの声の周波数で、私の思考が乱れるわ」

「……なんだと、ユキ! お前だってあいつを追い出すのに賛成しただろ!」

「ええ。当時のタクマの『期待値』は限りなくゼロに近かった。戦闘能力がなく、魔力測定も下位。パーティーの生存率を上げるためには、リソースの無駄である彼を切り捨てるのが『論理的』だった。……けれど」

 ユキは手元の水晶球を指先でなぞる。そこには、不二国周辺で観測された、王国の魔導ネットワークを書き換えるほどの巨大な「定義魔法」の残滓が映し出されていた。


「今の彼は、私の計算を大幅に狂わせている。……あんな崖から生還し、あろうことか『言霊』という失われた上位権能を使いこなしているなんて。今のタクマの『価値』は、聖剣一本分を優に超えているわね」

内政卿の焦燥と魔女の提案

 内政卿が額の汗を拭いながら口を開く。

「ユキ殿、分析はいい。問題はどう対処するかだ。不二国が豊かになれば、我が国の『経済封鎖による魔族根絶計画』が水の泡となる。王の権威は失墜し、民は豊かな西へと流れてしまう!」

「簡単なことよ。彼が『システム』を作り変えたのなら、そのシステムごと『強制終了シャットダウン』すればいい」

 ユキの瞳に、残酷なまでの知的好奇心が宿る。

「彼が物流と経済で戦うつもりなら、私はその『法則』を魔術で汚染してあげる。レオン、あなたは聖剣を持って、その少女……ミユと言ったかしら? 彼女を奪いに行きなさい。タクマにとって、彼女は唯一の『計算外の弱点』であり、最大の『資産』。それを失えば、彼の精緻な論理は必ず崩壊する」


「……ふん、最初からそう言え。あの亜人の娘を組み敷いて、タクマの泣き顔を拝んでやるさ」

 レオンは下卑た笑いを浮かべ、聖剣の柄を握りしめた。

(知恵の勇者ね。あの勇者のせいで私は…)


 王国は、公式には不二国を「魔王軍に占拠された危険地帯」と再定義し、大規模な「奪還遠征軍」の編制を開始した。

 しかし、その裏でユキは、独自に動いていた。

(一条拓真……。あなたは、どうやって『無』から『有』を生み出したのかしら。あなたの脳にあるその『数式』、私がすべて暴いてあげる)

 ユキの影から、幾つもの使い魔が飛び立ち、西の空へと消えていく。


 王国最強の武力と、冷酷な魔女の知略。

 かつての仲間たちが、今やタクマの作り上げた「平和」を食い破るための猛毒となって、不二国へと牙を剥こうとしていた。


 しかし、彼らはまだ気づいていない。タクマが仕掛けているのは、武力による反乱ではなく、王国そのものを「経済的に無価値にする」という、勇者には理解不能な次元の戦争であることに。


最後まで読んでくださりありがとうございました!また別の作品や次の話も読んでくださると嬉しいです!

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