表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

第1章11 夜明け

最後まで読んでくださると嬉しいです!

魔王は、僕が差し出した契約書(羊皮紙)に、自らの血を混ぜた魔力でサインした。

 これで、市ノ尾村、峠下村、そしてこの不二国ふじのくにが、僕の構築する広域経済圏「拓真連合」として統合された。


「……不二国。初代勇者が、かつて魔族と亜人と人間が共生するために築いた『理想郷』の名を、再び冠することになるとはな」

 魔王は自嘲気味に笑ったが、その瞳には失われていた覇気が戻っていた。


 僕が【知恵】で、この城の図書室にある古文書を解析した結果、驚くべき事実が判明していた。この「不二国」は、かつて世界を救った初代勇者が、戦いの果てに「争いのない国」として建国した場所だったのだ。

今の王国は、その歴史を塗り替え、ここを「魔王の巣窟」として封鎖し、不当にリソースを削り取っていたに過ぎない。

そして、知恵の勇者や他の初代勇者のことも書かれていたが、その部分は、劣化も激しく読めなかった。


「タクマ様……。ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……」

 隣でミユが、堪えきれずに大粒の涙を流していた。

 彼女の故郷は、王国の侵攻によって滅ぼされた亜人の国の跡地。生き残った彼らが、初代勇者の遺した「不二国」の理念を信じ、魔王の庇護を求めて細々と命を繋いできたのが、この国の辺境だった。


「ミユ、泣くのはまだ早い。ここは僕たちの拠点になる場所だ」

 僕は彼女の頭を優しく撫でた。あばらが浮き出るほど飢えていた彼女を拾ったあの日から、僕の目的は一貫している。彼女と、彼女の同胞が、誰にも搾取されずに胸を張って笑える「市場」を作ることだ。


「不二国連合」経営戦略:フェーズ1

 僕は【知恵】を使い、玉座の間に巨大な立体地図を投影した。

「魔王様……いや、不二国 国王様。まずやるべきは、王国の封鎖を逆手に取った『情報の非対称性』の利用です。王国はこの国が飢え死にするのを待っている。なら、僕たちは『死んだふり』をしながら、内部で爆発的に資本エネルギーを蓄える」


「具体的にどう動く、タクマよ」

「市ノ尾村の薬学、峠下村の鉱物資源、そして不二国の広大な土地と魔族・亜人の強靭な労働力。これらを『黄金の旧道』で繋ぎ、完全な自給自足体制を確立します。王国に依存しない独自の経済圏を作り、富を内部で循環させるんです」

 僕はゼクスに宛てた、次なる指示書を書き上げた。


 旧ルートを通じて、市ノ尾村の種籾と峠下村の鉄器を大量に不二国へ送り込む。代わりに、不二国の特産である「魔力を宿した果実」や「希少石」を、人間側で『奇跡の産物』として高値で売り捌く。


「タクマ様、それじゃあ……私の村の人たちも、もうお腹を空かせなくていいんですね?」

 ミユが期待に満ちた瞳で僕を見る。成長し、少しずつ女性らしいしなやかさを備えてきた彼女の笑顔は、どんな宝石よりも価値がある。

「あぁ。それどころか、一年後には王国よりも豊かな生活をさせてみせるよ。……ただし、レオンたちが黙っちゃいないだろうけどね」

 「正義」の名の下に略奪を繰り返すレオンたち。彼らにとって、魔王の国が豊かになることは「絶対悪」だ。彼らは必ず、この不二国の「成長」を摘み取りにくる。


「レオン。君たちが剣で壊すなら、僕は数字と物流で守り抜く。この不二国は、初代勇者の理想を、僕の知恵で『黒字化』させた最高傑作にするつもりだからね」

 知恵の勇者タクマによる、多国籍連合「不二国連合」の経営。


 魔王――名は「カイト」という。彼は初代勇者が掲げた「種族の垣根なき共生」の理想を、ボロボロになりながらも守り続けてきた男だった。

 僕は、国王であるカイトに実務を任せ、ミユと共に彼女の故郷である不二国辺境の集落へと向かった。


 そこに広がっていたのは、砂埃の舞う荒野だった。かつては豊かな亜人の国だった場所も、王国の魔導兵器によって大地から魔力が吸い尽くされ、今はペンペン草も生えない死の地と化している。


「ここが……私の村です。みんな、土を掘って、食べられる根っこを探して……」

 ミユが悲しげに目を伏せる。集落の亜人たちは、ガリガリに痩せ細った体で、虚ろな目で僕たちを見ていた。

「ミユ、顔を上げて。」

 僕は【知恵】で大地の構造を解析する。

 表面の魔力は枯れているが、地下深くにはまだ初代勇者が設置した「魔力の脈(龍脈)」が眠っている。


「よし。ミユ、皆を集めてくれ。今からこの土地の『価値』を書き換える」

大規模投資:言霊による土壌改良

 僕は村の中心に立ち、黒鉄の盾を地面に突き立てた。全身から魔力を引き出し、【言霊】を紡ぐ。

「【定義:この大地は飢えを拒絶し、生命の循環を受け入れる器なり。地下の脈動よ、地表へ至るバイパスを形成せよ】!」


 ゴゴゴ……と地響きが鳴り響く。

 僕の言葉に従い、地下深くに眠っていた魔力が、目に見える青い光の筋となって地表へ噴き出した。それだけではない。僕は市ノ尾村から持ち込んだ「高濃度栄養薬」をその光の中に投げ込んだ。

「【拡張:一の種は万の穂となり、一の滴は枯れぬ泉となれ!】」

 光が弾け、雨のように村全体に降り注ぐ。

 するとどうだろう。数分前まで茶色い砂漠だった地面から、みるみるうちに青々とした芽が吹き出し、あっという間に膝の高さまで緑が広がった。

「な、なんだこれは……!? 伝説に聞く『豊穣の奇跡』か!?」

 

村の長老が、震える手でその葉に触れる。

「奇跡じゃない。ただの『先行投資』だ」

 僕は汗を拭いながら、ミユに微笑んだ。

「ミユ。この村の皆に、市ノ尾村から届いた『改良種』の種を配ってくれ。今日からここは、不二国連合の『食糧生産拠点』になる」

芽生える「不二国」の誇り

 


その日の夜。

 村では、実に十年ぶりとなる「満腹の宴」が開かれた。

 タクマが持ち込んだ食料と、魔法のように生えてきた野草のスープ。亜人たちは涙を流しながら、僕とミユを囲んで感謝を捧げた。


「タクマ様……。私、自分の故郷がこんなに輝く日が来るなんて、思ってませんでした」

 ミユが焚き火の光の中で、少し大人びた表情で僕を見つめる。

「言っただろう。君を幸せにすると。……だが、これで満足してちゃダメだ。この緑を見て、王国が『奪いに』来る。次は、この豊かさを守るための『軍備セキュリティ』を整える必要がある」

 僕は手帳に次なるプロジェクトを書き込む。

 

 【拓真連合・事業計画書】

 1. 不二国全域の緑化と自給率100%達成(完了間近)

 2. 魔族・亜人による「防衛雇用」の創出

 3. 勇者レオン一行に対する「参入障壁」の構築

「長い時間かけて、世界を僕たちの『顧客』にする。……ミユ、覚悟はいいかい?」

「はい! タクマ様が作る未来なら、どこまでも!」


 不二国。初代勇者の夢が、知恵の勇者の「経営」によって、長い長い時を超えて再び動き出した。

 それは、既存の世界秩序に対する、最大にして最悪の「敵対的買収テイクオーバー」の始まりだった。

最後まで読んでくださりありがとうございました!また別の作品や次の話も読んでくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ