プロローグ ぼくの手元の10枚の金貨
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一年前、僕の兄・一条拓海は、この世界の入り口ですべてを投げ出した。
兄さんは「死に戻り」の魔方陣でもてあそばれていた。好きな女の子を救うため、彼は何回も時間を巻き戻し、そのたびに彼女が残酷に殺される光景を見せつけられた。
知恵も、勇気も、時間さえも。そのすべてを使い果たしてもなお、運命を変えられなかった兄さんは、ある日、絶望のあまり精神を病んだ。
「拓真……もう、無理なんだ。どうやったって、彼女は救えない。この世界は、壊れているんだよ」
それが最後だった。兄さんは異世界への本格的な召喚が始まる直前、現実世界でみずから幕を引いた。
王室直属の魔法使い、ユキにとって、それは「クリア不能なゲームに飽きて投げ出されたカセット」のようなものだったらしい。
「期待外れね。君の兄さんは、もっとマシな絶望を見せてくれると思ったのに。勝手に壊れちゃうんだもの」
それから一年。
魔女は兄という獲物を失った代わりに、公立中学2年生で生徒会副会長を務めていた僕を、この地に引きずり出した。
「適性検査、一条拓真。――ランク:測定不能。固有スキル:なし」
神官の冷徹な声が宮廷に響き、周囲の「勇者」たちから嘲笑が沸き起こる。
「聖剣の勇者、レオン。権能、断罪。」
「聖盾の勇者、カイル。権能、絶対防御。」
「聖弓の勇者、トオル。権能、必中追跡。」
そう呼ばれていくたびに、他の勇者たちの顔が、明るくなっていき、希望に満ちていた。
「よくぞ。来てくれた三武勇者たちよ。だがしかし、残念なことがある。どうやら無能なならず者が、紛れているようだ。」そう王様が言い嘲笑うような顔で周りが、こちらを見た。
「タクマ。貴様のような無能なならずもの追放だ。
だが、哀れみとして金貨10枚をくれてやろう。」
「良かったな。タクマ」そうレオンが嘲笑うように言った。
、僕に与えられたのは、14歳の子供の体と、薄汚れた革袋だけだった。
「追放よ。王からの餞別は、金貨10枚。せいぜい、兄さんと同じように絶望して、無様に投げ出す姿を見せてちょうだい」
あの魔法使いにも、王にも、冷たく突き放され、僕は豪雨の王都へと放り出された。
金貨10枚。
宿に泊まり、まともな食事をすれば数日で消える、死へのカウントダウン。
「……ふざけるな」
僕は泥を噛み、立ち上がった。
兄さんは「やり直し」という無限の時間を持っていた。けれど、僕は持っていない。僕にあるのは、副会長として培った、限られたリソースで最高の結果を出すための「戦略」と「知識」だけだ。
「兄さんが救えなかったのは、この世界に真正面からぶつかったからだ。……僕は経営してやる。この不条理な世界を、根底から買い叩いてやるんだ」
雨の冷たさが、僕の思考を鋭く研ぎ澄ます。
剣は持たない。魔法もいらない。
僕は僕の知恵を刃にして、兄さんが諦めたこの世界の先を、平和へと変えてみせる。
金貨10枚。
ここから僕の、異世界生存戦略が始まる。
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