言の花への駆け込み訴え
胤も植えず 水もやらない
陽当たりなんか 気にしない
それでも花は 咲くという
双葉 本葉が茂つたころ
立派な花々よ 咲き乱れよ
邪魔だ!
邪魔だ!
造花なんぞになにができる
蕾もなければ枯れもしない
いわんや詫びも寂びもない
葉をば笑うべからず
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草草草 藁藁藁 草はえる
ペンペン草ばかり けれど雑草魂 忘れまじ
葉をば笑うべからず
――古人曰く
倭歌は人の心を種として
よろづの言の葉とぞなれりける
紀貫之――
現代の都会に林立する、摩天楼のビルディングは無機質だ。利便の花を咲かせ、効率の花を開かせ、清潔の香りを漂わす。そのうえまだ、現代人は言の華で、ひと花を咲かそうと躍起だ。己の不完全さを知らず、驕慢なること造花のごとし。『道草』を愛せや、『草枕』を愛せや、『虞美人草』を愛せや。ベジタリアンになれ。地球の生物の8割~9割は草食だ。目立たぬように草はひっそりと、だがそこにある、そこにいる、そっと佇んでいる。
藪のなか、緑あふれる草原で、鬱蒼とした森林で、迷彩服をまとい、狙撃眼鏡を覗き、無言の弾丸――撃っている。
伝えきれないもどかしさに、身を震わせながら、黙ってそれに耐えている。見習いたまえ、草種なる諸君らよ。
花きちがいの大工がいる
邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ!
あゝ、この言の葉の玩弄者達の世に
奴らの心には、胤はおろか根もないのに花だけある
葉に嘘などつけはしないんだ
不完全なればこそ
あゝ、この音の華の完璧者達の世に
音の華さんが恨めしい、妬ましい、憎らしい、どうしてくれよう
おい、言の花
悔しかつたら、光合成してみろ
お前にできるのは胤になるだけ
袋につめられて売られてしまえ
葉をば笑うべからず、グッド・バイ
亡き人は花の陰では泣かない
草葉の陰で泣くのだよ
そら見よ、『徒然草』も『御伽草子』も
『草の葉』も『若草物語』の四姉妹も泣いている
ほろろとほろろと泣いている
あゝ、麗しいではないか、言の葉草は
――古人曰く 略




