新人冒険者、デイジー
ご好評だったので、冒険者物を書いてみました。
軽い感じで緩く読んでくださいませ……。
難しいジャンルだと実感しました。
「デイジー、じゃなかった、マーガレット!大分動けるようになってきたな!」
「リック!私疲れたんだけどーー!」
四カ月前からパーティーを組んだリチャード。面倒だから、愛称のリックと呼んでいる彼に褒められた。
マーガレットの愛称もデイジーなんだから、大して変わらないのに、バカなんだから。
しかし、私の冒険者ギルドのランクを上げる事に熱を上げている彼には聞こえていないのか。
ホーンラビットの群れに囲まれ延々と攻撃をさせられる。いや、もう無理だわ……!疲れる……。
このお馬鹿な、体育会系め!
「よっ……!っと」
私が危ない時は手助けしてくれるから命の危険は感じないけれど。
筋肉痛が辛いのよ。あんた、その筋肉を無料で寄越しなさいよ。
そして私が肩で息をし始めた時――。
「じゃあ、今日はここまでな。お疲れ、マーガレット」
そういって、抱きかかえてモンスターの群れから走って脱出する。
軽々しく、私を抱えながら森を走り抜ける彼。
(もう、デイジーでいいってば)
リックにデイジーと呼んでほしいけれど。
彼は何故か『特別だから』と夜にしか呼んでくれない。
――何のこだわりなのかしら。
疲れて汗だくなのに。きっと酷い顔もしてる。
でも、彼は嬉しそうに私の事を褒めて撫でてくる。
疲れ果てて、やり過ぎだって怒りたいのに。
本当は怒りたいのに、何故か許してしまう。
これがリックの狡くて凄い所だ。
(まぁ、いいか。うん、なんだか楽しいし)
リックの走るスピードと振動が何故か心を動かして、少しワクワクしてしまう。
目まぐるしい景色を私に見せてくれる彼。
この私がね、こんなに心を揺さぶられるなんて――。
「やばい!追ってきてるから、もっとスピード上げるな!」
――体は揺さぶられなくていいのよ、リック。……つらっ。
その酷い揺れに、船酔いならぬリック酔いを起こした私はそれでもギルドでレベルを確認した。
――DからCに上がっている。
「凄いな、マーガレット!女性でここまでのスピードは珍しい!才能あるんじゃないか?」
ギルド職員のダリスさんから褒められたが――。
順調だと周りから褒められて嬉しいけど、今日のお祝いの晩餐は日を改めてもらった。
疲れちゃったもの。少しゆっくりしたい。
リックのスパルタが酷いからね。効率よく放り込まれるからレベルの上がりは早いのかもしれない。
それに、夜は二人きりで過ごしたいしね。
◇◇◇
「デイジー、痛い所はないか?大丈夫か?」
疲れ果てた私を、宿の湯船で洗ってくれる。
――実は、コイツ。
『天恵』持ちだと持て囃されて、今やA級に届きそうな男なのだ。
それを、ほぼ私につぎ込んでくれるから、疲れた時はお風呂付きの高級な宿に泊まれている。
「大丈夫だけどさ。今日は疲れてるからすぐに寝るからね?」
「……うん。もちろん、最初からそのつもりだ」
――本当かどうかは知らないけれど、こうして気遣ってくれる。
(そろそろ、あの返事もしなきゃね……)
先日、リックのA級昇格が決まりそうだとギルド職員から話を聞いた。
もっと相応しいパーティーに入ったり、特別な依頼を受けたほうがいいらしい。
私が彼を独占していると、周りで言われ始めていると。暗に身を引け、と言われている。
――私が、彼の足を止めるのは勿体ない。
もう誰も、彼を馬鹿にしない。
みんな彼に憧れている。
彼の邪魔はしたくないしね。夜は一緒に居るからいいかもしれない。
お風呂から出て、髪を乾かしている時に話題にしてみた。
「ねぇリック。あなた、そろそろA級に昇格しそうなんだって。もっと強い人とパーティー組んだりしたほうが良いってよ?」
リックの天恵は『幸運』。なので、彼の反対を押し切る人は居ない。彼の直感が一番信頼できるからだ。
だから、周囲は私に説得を試みてくる。
「嫌だね。デイジーと一緒じゃないと意味がない。お前の命を誰かに預けるなんてあり得ない。そんな事絶対に出来ない」
――そう。こうやっていつも突っぱねてしまう。
ずっとずっと、馬鹿で貧乏くじ引かされてるんじゃないの?もっと上に行けるかも知れないのに。
私と逃げ出す前には、有名な師匠にも付けていたんでしょう?
「じゃあ、リックから断っておいてね。周りが煩くて私じゃ無理だわ」
「ああ、わかった。デイジーは心配しなくていいよ」
そう言って、私を抱きかかえてベッドに運ぶ彼。
本当にわかっているのかどうか。でも一番大好きで一番信頼している人だ。全部任せよう。
(だってリックが笑顔で言ってくれるから)
ちゃんと彼に伝えた事、あったかしら。
リックの笑顔が大好きだってことを――。
◇◇◇
「マーガレット、今日の依頼は俺に指名が入っている。あんまり断れないみたいだ」
そういう事も稀にある。彼ほどになるとクラス分けで依頼が入るだけではなく、個人に指名が来るらしい。
「じゃあ、私は宿で待っていようかな?」
珍しい事にリックは暫く考え込んでいる。
(何かあるのかしら?)
彼の予感は無視しない方がいい。
「どうしたの?何かある?」
「何でかデイジーと離れたらいけない気がする。無理を通すかもしれないけれど一緒に行こう」
――リックの言葉にゾクリと鳥肌が立った。
「わ、わかった。付いていくね」
最近は彼に依存している気がする。でも、彼以上に信頼できる人なんて居ない。
「うん。俺から絶対に離れるなよ」
――依頼内容は『森狼』の駆除。
彼らは基本的に群れで狩りをして生活するので、こちらも集団で挑まないと危ない。
「おい、リチャード。またその女連れかよ?何だ?昼間でもヤッてないと落ち着かないってか?」
いつも絡んでくる下品な奴だ。名前なんて覚えてもいない。
「うるせぇ、えーと……、クソ野郎!お前こそいつも、その女連れて絡んでくるじゃねーか!」
あ、リックも名前覚えてないんだ……。なんか雰囲気が似てるね。悪いやつでは無いけど、口が悪すぎる。
その彼女が私にヒラヒラと手を振る。小悪魔セクシー系ね。
性格はわからないけれど、私に好意的ではある。
「ローランだ、この野郎!頭悪すぎだろう!何だか、今回の依頼はきな臭いじゃないか。指名で俺とお前に入ってるってな」
親指で前を歩く彼を指さす。
「あいつ、知っているか?どこぞの貴族の没落騎士様だとよ。依頼主は、あいつの関係者だ」
元騎士の冒険者も珍しくはないけれど……。
彼を見るリックの目が――珍しくギラギラと鋭く光っている。
「ああ。ヤバいな。ローラン、お前も気をつけろ。そこの彼女を死なせたくなかったらな。お前、その子を連れてきて正解だったかもな」
「お前に言われるとな……。わかった。この際、依頼なんて後回しにするわ。やっぱり俺達、パーティー組まないか?他の野郎の女に手を出さないって約束するしな」
「――考えておく」
依頼のあった集合場所に集まった私達。
リック、ローラン、そして彼。
私達には名乗りもしない。
一応、回復薬を有りったけ持ち運び邪魔にならないように援護に回ろう。
冒険者になってから、魔力がある事は分かったがまだ本職になれる程の実力は持っていない。
『お荷物仲間よね。よろしく』
『ローランが信頼してる、リチャードの彼女さんでしょ?一応回復職よ。よろしくね』
あそこは意外と仲がいいのか。
『今回、リチャードがローランに忠告してくれたんだって。とにかく、大事な人から目を離すなって』
嬉しそうに微笑む彼女。『大切な人』という言葉が嬉しいのだろう。気持ちはわかる。
『私はリジーよ。よろしくね、マーガレット』
『ええ、よろしく。リックがわざわざ忠告したんだから、きっと何か起きるんだわ。気をつけましょう』
◇◇◇
――その頃街では、冒険者達が噂をしていた。
『そういえば、リチャードが指名された依頼に女連れて行ったって』
『ああ、聞いた。ローランの奴も指名されたらしいが。彼女を連れて行ったらしいぞ』
もうすぐA級に上がる二人を同時に指名する依頼。
そして、二人とも名のあるパーティーに入っていない。
誰もが思う事だろう。これはそういう事だと。生意気な奴には痛い目をみせて、操ろうとする――。
――それに気づかない奴は生き残れない。
この空気を読めない奴は。ただ利用されるだけだ。
『さぁ、生き残るか死ぬかどっちに賭ける?――だが、俺達の信頼を失った奴は既に負けが決定だ』
視線が集まる先にはギルドの職員。
明日は我が身の冒険者だ。彼等の信頼を失うことは命を失うも同然だ。どちらが天秤に掛けられているのか。
『まぁ、俺はリチャードに賭けるね』
◇◇◇
「森狼じゃねーーのかよー!!」
「煩い、ローラン!とにかく攻撃を防げ!一撃でも食らうとヤバいぞ!」
森狼じゃなくヘルハウンドが一体、俺達を待ち受けていた。
俺達は、片手で剣を振りながら大切な人を抱いて走った。
最初から嫌な予感がしていた。
デイジーに忠告する周囲の人間、ギルド職員、更には指名の依頼。
ここで俺達を消すつもりか、生きて帰っても彼女達を人質にでもするつもりだったか。
(絶対にやり返してやる!)
――でも。デイジーを街に置いてくる選択肢は無かった。
今でも後悔はない。
大丈夫だ。絶対に大丈夫だ!
「ローラン!左だ!左に行けば何とかなる!」
ローランも彼女を抱え俺についてくる。
――いつの間にか、リーダーを名乗っていた奴はいないじゃないかクソ野郎が!
最初から罠だったが、大丈夫だ!
飛び掛かってくるヘルハウンドの足に剣を振りかざす。
しかし大きい。その巨体では致命傷を負わせられない。
「ちくしょう!絶対に死なせないからな!リジー!」
ローランが叫んでいる。
森の中を駆け抜け、何度も飛び掛かってくる奴を剣で刺し。俺達は左の崖に向かって走る。
「リック、リック。あなたの直感ではどう?ずっと練習していた私の魔法は一発くらいは効果ある?」
腕の中でデイジーが聞いてきた。
絶対的に信じてくれている瞳。恐怖も浮かんでいるが、それでも俺を信じてくれている。
――そう。自分を、デイジーを信じろ。
「ああ!絶対に効果がある!タイミングは俺が伝えるから準備してくれ!」
ローランも信じられる。あいつは大丈夫だ。
「ローラン!そこの彼女と一緒に崖から飛び降りろ!俺たちが奴を倒すから!絶対的に死なないから信じろ!」
やつは俺を見て、数秒後に覚悟を決めた瞳で睨んできた。口元だけは無理矢理笑顔を作る下手な表情だ。
「お前、死んだら化けて出るからな!生きてたら!責任取れよ!」
――なんの責任だよ。プロポーズか。
「やってやらぁーーー!!!」
「いっ、いやーーーー!!」
二人が崖から飛び降りるのを確認してから、デイジーに語りかける。
「デイジー。いける?ちょっと無茶させちゃうけど……」
彼女は俺が話し終わる前に、沢山練習していたという魔法を行使した。
「滅せよ!――炎の槍!」
ヘルハウンドの脳天を直撃する炎の一撃。
敵が倒れ込んだ所で心臓を狙って突き刺した。
身体が大きいので効いているか不安だ。
頭と心臓を何度も突き刺す。
ヘルハウンドが動かなくなり、漸く人心地付いて笑いが込み上げてきた。
「毎回思うけど、デイジーの攻撃する掛け声何なの?面白すぎる。………カッコいいからやってる?」
「あーー!あれは、イメージしやすいのよ!私は断じて厨二病ではないわ!でも、しっくりくるのよ、何故か!」
お互いに、生きていることにホッとしてくだらないことで笑い合う。
良かった。馬鹿みたいにまた笑えている。
「おい!リチャード!!早くこっちも助けろーー!!」
川に飛び降りたと思った二人は、途中の木に捕まって叫んでいた。
片手では厳しいだろうに。
――そうだな。好きな女の手を離すくらいなら一緒に落ちるよな。
「待ってろ。今助ける!……ちょっと見直したよ」
俺はローランに向かって手を伸ばした。
「うるせぇ!俺は最初からお前を見返してやりたかったんだよ!今回も助けられちまったじゃねーか」
「そんなの些細なことだろ?お互いに大事な物を守れたんだから」
向こうで、泣いている女の子を慰めているデイジーがいる。それでいい。
それが一番だ。
「あぁ、それと。パーティーの件。考えといてやるよ。お前の事気に入ったからな!」
◇◇◇
その後、リックと私達は生きて帰り、ヘルハウンドの核と素材のある場所をギルドに伝えたが。
リックの怒りは治まっていなかった。
この依頼を出した人間をギルドに公表する事を求め、途中で消えた冒険者の所在を追求した。
街中の飲み屋では、私達の生死が賭けられていたらしく、勝った人に奢られたりもした。
嬉しくないけれど。
この街のギルドは冒険者達からの信用を失ってしまった。
次々と移動していく冒険者達。
それを引き止めるギルド職員達だが、これからどうなるかは私達には関係がない。
「俺たちも先に進もうか、デイジー!」
「ええ、新しい物が見たいわね」
私達は笑顔で手を繋いて歩き出し――。
「ほらほら、パーティーの歓迎会も兼ねなきゃな!リジーも張り切ってたぞ!」
「だって、デイジーちゃん可愛いからもっとお洒落させてみたいしぃ。セクシーなの?キュートなの?」
後ろから付いてくる、ローランとリジー。
とても賑やかになった。
あの一件で私は二人とも好きになった。
だって、どうしても憎めない、素敵なカップルじゃない。
「責任取れってこういう事ーー!?」
「いや、パーティーの件は考えとくって言ったじゃんか、お前!それは肯定なの!」
言い合う男二人の後ろで、リジーと私は笑い合った。
『いい男に惚れたよね、私達』
『そうね、私はリックの笑顔が好きだったけど、やっぱり色々な人に囲まれてる彼の笑顔も好きだわ』
リジーと二人で小声で笑い合った。
誤字脱字、間違った表現などご指摘下さればありがたいです。
いつもありがとうございます。




