03 孤児院を出たリック
孤児院を出て、鍛冶屋に弟子として勤め始めて三ヶ月。
新しい知識を覚えるのは楽しくて、夢中になる。
まだ、未熟で下っ端で、雑用しか任されていなくても、孤児院と違って、世の中に認められたような感じがする。
「おい、リック!今日は、ここらで有名な冒険者のリーガルさんが来るぞ!凄い人だから挨拶しようぜ!」
「え、マークさん、その人ってここらじゃ有名な冒険者じゃないっすか!」
先輩のマークが俺の肩を腕に回しながら教えてくれた。
冒険者。昔から憧れていた職業だ。
――男なら一度は憧れるよな〜。
入店してきたその人は、身体が熊のように大きいと想像していたが……その逆で、細身の男性だった。
靭やかな肉食獣を思わせる雰囲気だ。
「リーガルさん、頼まれてたものは出来上がってるぜ!」
親方が、大型の剣を抱えて裏から出てきた。
「リック、庭に試し斬り用の丸太を立てて来い!」
「はい!すぐやります!」
「親方、珍しいのを雇っているな?新人か?」
リーガルさんが、俺を指差して言った。
「あぁ、孤児院育ちだが真面目で仕事の覚えも早い。お調子者で人懐こいから、まぁ上の奴らから可愛がれてますよ」
「あいつは珍しい。『天恵』を持っているぞ」
『天恵』とは本当に珍しい物で、神殿では奇跡と呼ぶ。俺自身は持っている人間に会ったことがない。
貴族でも稀に出て、有り難がられるらしいが……。
「俺のこの目。これも『天恵』でな。人の才能が見える。お前、鍛冶屋には勿体ないぞ。俺と来るか?鍛えてやってもいい」
隣にいるマークが口を押さえて俺を見ている。
そして親方が、目を丸くしてリーガルさんの話を聞いた後に大袈裟に頷いた。
「ああ、それはいい!将来有望な冒険者の誕生だ。有名になったら、俺に世話になったって言いふらしてくれよ!」
皆、祝福してくれる。いいのか?
冒険者だ。危険な職業なので死ぬかもしれない。
だが――こんなチャンスは滅多にない。
「俺についてくるか?」
「行きます!連れて行ってください!」
ここで逃げたら格好悪すぎだろ、俺!
◇◇◇
その日から、依頼をこなすリーガルさんの後ろをついて回り、時に訓練を受け、様々な知識を教えてもらったのだ。
俺が持っていた『天恵』は、『幸運』だった。
まぁ、確かに鍛冶師には必要ない。
でも正直ガッカリしたのは確かだ。
『身体強化』とか、リーガルさんみたいに『人物鑑定』とか。もっと役に立つほうが嬉しかったのは否めない。
「『幸運』の天恵なんて、凄いじゃないか。商人になれば上手くいくかもな?お前の性には合わないだろうが。冒険者だって、運が大事だ。時に命を左右する大事な要素だ」
そう言って、リーガルさんは俺に色々とアドバイスをしてくれた。
「お前の、『嫌な感じがする』『こっちには行きたくない』『こっちのほうがいい気がする』そういう自分の感覚に耳を傾けろ」
「わかりました。因みに、右の道は嫌な感じがします……けど、責任持てませんよ?」
「それでいいんだよ。冒険者なんてそんなもんだ。『天恵』で全てが上手くいくわけじゃないが、わざわざ無視するなんて馬鹿のする事だ。危険だと思ったらすぐに教えろ。外れたって構わん」
左の道に進みながら、リーガルさんはガシガシと俺の頭を撫でまくった。
――父さんみたいだな。
鍛冶屋の親方も、孤児の俺を気にかけてよく自宅で夕食をご馳走してくれる。
孤児院を出てから順調だった。
世界は広くて面白い。実力を付ければ、もう孤児だなんて馬鹿にされなくなった。
――デイジーはどうしてるかな。
あいつは苦痛をあまり顔に出さないが、情に厚くて、優しい子だ。またルイーズに絡まれて嫌な思いをしていないだろうか。
「リック、夕方までに獲物を狩って帰るぞ!」
「はい、リーガルさん!今行きます!」
俺は、急いで彼の背中を追って走っていった。




