第5話【今日は疲れた。】
殺した、怪物は確信する。
細く、小さな猿。その体に喰らわせた必殺の一撃。
豪快に木の根に激突し、項垂れる様子を見れば死んだのは一目瞭然だった。
怪物は大きな足音を立てて己が殺した肉に近づく。
ちょろちょろと攻撃を避けられた苛立ち、
肩を散々刺された恨みも忘れて。
だが、その肉は
___________痛ってぇ
確かに、そう呟いた。
肉はゆっくりと立ち上がり、笑う。
「驚いた?絶対殺したって、思ってたろ」
「甘ぇわ」
「こっちは!電車に轢かれた事あんだよ!!!!」
そう叫び、ハルトは走り出す。
怪物の生存本能はかつてないほどの警笛を鳴らし、己の奥の手を選択させる。
口を開け、直線軌道にウツボの連続発射。
発射されたウツボ達は、通常じゃ捉えられない速度で獲物の心臓を穿ち、即死させる。
しかし、この日の獲物は
「あっぶねぇなあ!」
生まれてからの超人、己と同じ怪物。
ハルトは発射されたウツボを捉えて軌道を察知し、心臓を腕でガード。そのまま腕に噛みつくウツボを掴むと、もう1匹のウツボを木の棒で突き刺し、掴んだウツボを引っこ抜く。
刺した木の棒を斜めに突き立てて、走り出す。
最初のウツボの肉が抉れ、次のウツボへ、また次へ、
次へを繰り返し
ブチチチチチチチチチチチチチチチチチィ
と音を立てながら接近するハルトを怪物は潰そうとするが、ハルトは引っこ抜いたウツボを振り回し、怪物の顔面にぶつける。ちょうど牙のある部分が当たって、怯んでいる隙に、ウツボを掴みながら木を駆け上がり、怪物の方へジャンプ。
「死っっっねぇ!!」
木の棒を両の手で握り、脳天に突き刺した。
怪物は動かなくなり、後方に倒れる。
そのまま血がダラダラと流れ、絶命した。
ハルトは怪物の胸辺りに座って息をつく。そして、
「しゃ〜〜....」
生き残った事への、歓喜の喜びを漏らした。
「あ、そうだ」
今回大活躍だった木の棒。使用したのは短時間だったが愛着が湧き、引っこ抜こうとする。
しかし
「我ながらかなり深く刺したな、全然抜けねえ。勇者の剣みたくなっちまった。」
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「今日は疲れたな、マジで。」
ハルトは、川の中に全裸で浸かっていた。こんな異世界でもやはり清潔は大事にしたいから、服も適当に干しておいた。
魚の怪物っぽいのも見つからないので、安心して足を伸ばせる。しばらくして、干しておいた服を適当にぶん回して乾かす。その服を着て、ピンクの果実を何個か腹に入れ、川の水でうがいをした。
木の上に登り、なるべく葉が集まっている所で寝転がると、突然眠気がやってくる。当たり前だろう、今日は激動の一日だった。
「この世界来て、擬態野郎殺して、ウツボマンも殺して............はぁ〜、よくよく考えれば、別に戦わなくても。いやダメだな.......」
「......................」
独り言を呟いているうちに段々と瞳が閉じていき、やがて、眠ってしまった。